私とナオで練習メニューをこなしていると、長崎から帰って来たキャプテンとハルさんの会話が耳に入った。
「南雲原の……キャプテン笹波雲明」
南雲原……ハルさんから発せられたその言葉にハッとしてしまい。ナオからのボールを受け止められなかった。
「どうしたの茉莉〜。急に驚いた顔して」
ナオから声をかけられるが、それどころではない。
キャプテンとハルさんに話しかける。
「今南雲原って言いましたか?」
「え……あ……そうですけど……」
ハルさんが答えてくれた。やっぱり南雲原だった……対戦相手にでもならない限り2人の口から出るはずがない…… それほどまでにサッカーとは無縁の学校だから……
「もしかしてキャプテンたちの相手って南雲原中だったんですか?」
「そうだけど……。赤袖、それがどうかしたのか。もしかして前に言っていた、長崎にいる知り合いが南雲原にいるのか?」
光……サッカー部できてるなら教えてくれてもいいのに……
少ししょんぼりする。
「南雲原……南雲原……あっ! あぁー!! 南雲原って光君がいるところじゃん!!」
ナオも会話に入ってきた。ナオも南雲原を思い出したみたい。いくら雷門の2人がいたとはいえ、南雲原には勝っていてほしい。光がいるなら……やっぱり決勝大会で戦いたい。
「キャプテンたちは勝ったんですか? 南雲原に……」
「いや、負けたよ……。出し抜かれてしまった……」
南雲原が勝ったみたいだ。キャプテンとハルさんをどう抑え込んで勝ったんだろう…… 私が光と戦う機会はまだ残っている……
「でも選手は雷門を脅かすほどの実力じゃなかったですよ……」
「……」
ハルさんはそう言うが、そんなはずはない……。キャプテンは何か言おうとしたが止めたようだ。ハルさんが最初に口にしていた笹波雲明は脅威になりそう。だけど、決してその人だけではない。私は何度も隣で見てきた……。光のプレイを……。光は去年、雷門を軽く飛び越えると言った……。そんな体たらくでいてもらってはむしろ困る……。
「ねぇねぇハル君。南雲原のチームに暁光君いなかった?」
ナオが光がいたか聞いた。
「いやすみません。笹波雲明以外正直覚えていないです……」
彼の目には笹波雲明しか映らなかったみたいだ。ハルさんは別に強い人に出会いたいわけじゃないって言っていたし、その強い人にあたるべき光は眼中にはないみたいだ。それか本当にサッカー部にいないか……
「そっかぁ。ハル君は笹波君って子に興味が湧いたんだぁ!」
ナオはハルさんの言った子に興味を示す。
「南雲原はそもそもサッカーに人権がなかったはず……だから光は去年サッカー部創部させることができなかった……」
彼が成せなかったサッカー部創部をどうやって漕ぎつけたのか。まあ、光は入学式当日に部活創部から手を引いて、個人練習にシフトチェンジさせてたけど……。去年から創部できていれば、間違いなく去年からフットボールフロンティアで名を轟かす存在……。たぶん今年できたばかり……。
「えっ!? 嘘ッ⁉︎初めて聞いたっ‼︎茉莉には教えていたのに、どうして私には教えてくれなかったんだろう」
そういえば光、ナオには言わないでおくって言っていたな……
「それは……ナオにはなんの心配もなく雷門中ライフを送ってほしいって……ナオきっと雷門に入ることができて最高潮に幸せになってるだろうからって光が……」
「そうだったんだ……」
ナオは恥ずかしそうになる。なぜ光は恥ずかしくなるようなことを臆面もなく言ってのけるのか……。南雲原でもこんなこと言って、女の子を落としていなければいいんだけど……。不安だ……。
「どうして今になって南雲原にサッカー部ができたのか分からない。でも、サッカー部ができた以上、私たちとの約束を果たすために光は絶対に入るはず……1年間サッカーに人権がない中でサッカーを辞めずに1人隠れて特訓続けてたくらいだから……」
サッカー部がないってなって当初の約束の解釈を捻じ曲げることになったけど……。サッカー部ができたなら、本来の約束を果たせるはずだ……。
「だよねぇ。光君はなんてったて……」
ナオが言いかけたところで、思い出したかのようにキャプテンが口を挟む。
「そういえばハル。今日は乙女監督には呼ばれてるんじゃなかったのか?」
「あ! そうでした‼︎じゃあいってきます‼︎」
「あぁハル君行っちゃったぁ」
ハルさんを推しているナオはハルさんが行ってしまい落胆する。
「さっきハルは知らないと言っていたが、DFに暁光がいた。俺は彼1人にずっとマークされ続けて何もできなかったよ」
え……ディフェンダー……? キャプテンからの言葉に驚く。
「やっぱりいたんだ‼︎でも……フォワードじゃなくてディフェンダーなんだ!」
ナオも驚いている。光のプレイを見れば誰だってフォワードに置きたくなる……。というか、キャプテンを封じ込めるとは、やっぱり衰えていないようだ。
「ということは、元々フォワードなのか?」
「そうです。稲妻KFCではフォワードでしたよ」
「光君、世代最強FWなんて言われてた時期もあったっけ」
ここで1つ大事なことを思い出した。
「待って……光は試合の始まる数日前からキャプテンとハルさんが西ノ宮に来ることは知っていた。っていうことは分かっていてFWに入らなかった」
例えば、どんな試合だったか分からないけど、ハルさんとキャプテンを抑えなければいけなくて、攻める間がない……とか。
「普段の光君なら、強い相手を前にしたら『燃えるな』って言ってすごく積極的に攻めるよね。ことサッカーの実力においては絶対的な自信を持っているからねぇ」
でも、ナオの言う通りなのだ。むしろ攻めるはず……。
「真相がどうであれ練習メニュー終わったんで、今から南雲原対西ノ宮観てきます。なんでDFだったのか分かるような気もするので」
「あ、私も見る〜」
私たちはロッカールームに戻る。
「暁光……俺も直で感じたし、2人も高く評価しているからな……やはり気をつけるべきか……」
キャプテンは2人が去った後、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
試合を見た……見たのだが……前半、キャプテンとハルさんが南雲原を蹂躙していた……というか光、不自然なくらいに……
「南雲原の人たち、わざと点を取られている気がする……」
ナオもそう思ったみたいだ……。本当に光はDFだったし……それに笹波雲明はスタメンにいなかった……。しかも、ジークいるし。
「2人がしてやられたって言っていたし、2人を下げさせるためとか……。2人がいる間は点を取りに行くのは難しいと思うから……」
2人はあくまで助っ人。助っ人が暴れすぎたら、西ノ宮の選手も不満だろう。だから、覆すのが難しい点差が付いて下げた……。
前半終盤……。ハルさんが4点目を入れようとしたとき、キーパーが反応できなかったボールを、特に目立ったことは今の所何もしていない光が右足で蹴ってカットした……。ようやく動いたってことは4点目を入れられるのは不味かったのかもしれない。後半下げさせたとして、南雲原が入れられる限界の点差が3点なのだろう……。
「光君、今まで誰も止められなかったハル君のシュート止めちゃったよ‼︎しかも右足で‼︎」
「やっぱり、光全然衰えてないね」
光は右足でパスやシュートするときは力をセーブしている。力を解放しているときは左足を使う……。ハルさんのシュートももう3点入っているということもあって、そこまで力が入ってなかったので、右足で十分だと判断したのかな……。
むしろ、ハルさんも本気じゃなかったとはいえシュートを止められているのに、印象に残らなかったんだ……。
後半が始まる。予想した通り、ハルさんはベンチに下げられた。すると、南雲原の猛攻が始まった。
「キャプテンの言う通り、ずっとキャプテンをマークしてるじゃん‼︎」
光はずっとマークしていて、攻撃にも守備にも参加しない。
同点に追いつき、西ノ宮の選手から再会。時間がないと焦ったのか、西ノ宮が勝つべく速攻を仕掛ける。ここで、光はキャプテンのマークを外した。
『パーフェクトコース』
『ゴウマショウハザン』
光君がシュートブロックしたと同時に、西ノ宮のゴールネットにボールが入っていた。そして試合終了のホイッスルが鳴る。
「何が起こったの⁉︎」
ナオも理解できず驚く。
「たぶんゴウマショウハザンをしてボールを取った瞬間にハジャイッセンノヤイバを使ったんだと思う……でないと一瞬で自陣ペナルティエリアから相手のゴールまで届かない…… 」
光は舞って必殺技を放つ。ゴウマショウハザンかヤミウガツクロキハゴロモを起点として切れ目なく滑らかに技を出し、シュートまで繋げる。普通の選手なら連続して技を使うときに僅かな奪う隙が生じるけど、1つの舞として使うことで、光はその隙すら与えない。
光が強い理由はそれだけど、それだけだと円堂ハルクラスとは言えない。分かっていれば構えることができるし、1失点で済む。だから、光はブラフを張る。そもそも別々の技だからタイミングをズラすことは当然できるし、舞うときの技の順番は決まってない。先に強烈な舞を印象付ける。キーパーは1本目と同じタイミングで力むだろう。これだけで2点は取れる。3点目以降は相手を惑わせて心理的有利を取れる。
円堂ハルにパワー、センスなどは劣っているが、相手を狂わせる必殺技1つ1つの戦術の幅、必殺技の選択肢の数が光の最強たる所以だ。
「あっ! みんながブロック技使ってるなぁーって認識したときにはもうシュート打ってるもんね。それに、ディフェンスラインにいたのは、ゴールから離れていればいるほど、ハジャイッセンノヤイバが速くなるからか! 光君って、もしかしてFWじゃなくて、DFにいる方がもっとやばいんじゃ……」
光がDFにいれば、ハジャイッセンノヤイバの特性もあって簡単にカウンターできる。ハジャイッセンノヤイバはサッカーコート1面分ぐらいの距離は減速せずに加速していくように計算して編み出されている。必殺技の特訓へのこだわりがすごい……。
「それにしても、ハルさんのシュート止めたり、あの4点目入れたりしていたのに。あれが印象に残らないってハルさんの目、節穴過ぎない?」
「おぉ〜結構辛辣なこと言うね〜。途中から南雲原の勝ちを確信して、ハル君の言ってた笹波君をずっと見てたんじゃない?」
「ベンチから指示出していたし、2人を下げさせる作戦を考えたのも彼だよね多分……ハルさんが興味を持った笹波雲明にはあって、光にはないものってなんだろう……」
やっぱりサッカーは楽しくないのだろうか。それが分かれば、ハルさんがひとりぼっちなことに雷門のみんなが向き合うことができるのかな……。
「2人が目をつけた笹波君も、私たちが知っている光君もいる南雲原、雷門にとって最大の脅威になるね。ジークもいたし」
「間違いなく全国大会に来る……!」
ジークはKFCの九州遠征のときに戦った相手だ。強烈なキャラと実力すぎて忘れようがないタイプだ……。私たちももっと特訓しよう。南雲原に負けないように。それはそうと、サッカー部ができたことを教えてくれなかった光には少しお話しなきゃ……。
「光、今の時間放課後だろうし、電話かける」
「いいねぇ、私も久々に声聞きたい!」
赤袖茉莉
光のプレイにやっぱりすごいと思っていた。茉莉の光への評価は若干過大評価である。
星村ナオ
突然の間接的に光の話を聞いて恥ずかしくなってしまった。推しのハルの言う笹波雲明にも興味が湧く。
暁光
これから怒られることにまだ気付いていない人