Metalnova   作:アグナ

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ACT17 人の雷霆

『──世界は広いが、世界は存外に狭いのじゃよ』

 

 それはまだカルキが人であった頃の記憶。

 まだ幸せだった頃に村一番の知恵者がカルキに語り聞かせた話だ。

 

「例えば──天空(デウス)。我々が仰ぎ見る威容は地域によって(ゼウス)やら父祖(ユピテル)やら勝利(テュール)やら天帝やらと変化するものの、遡っていくとただ一つの言葉(いみ)に収束していくという」

 

『天空だけではない。火、風、水、土──あらゆる概念には源流というものが存在している。続く意味など、全てはそこから派生したものでしかない。その地域の人種、その地域の価値観、その時代、その見識、言葉が流浪する合間に変化し、変貌したとしても、その底流のあるのは常に一つの窮極なのじゃ』

 

『窮極?』

 

 幼い少年(カルキ)に老爺の言葉は難しすぎた。

 眉間に皺を寄せ、首を傾げる少年(カルキ)にほっほと老爺は笑った。

 

『そう、窮極──意味を突き詰めた先にあるただ一つ。他にどのような表現のしようもないたった一つ、『それ』としか意味を持たない概念。単一の意義。これを『窮極』という。……人間は多くのことを学び、これを解き明かそうと知恵を重ねたが、それゆえに雑念が混じり過ぎた。我々の旅はそもそも『窮極(ひとつ)』に至るためだったというのにな』

 

 それが嘆かわしいと老爺は苦笑する。

 あらゆる理、あらゆる概念。その源流ともいえる『窮極(ひとつ)』に至るために、人は多くを学び、探訪の旅を繰り返していったというのに、その進化(たび)を重ねれば重ねるほど『窮極』からは遠ざかっていく。

 

『一つが良いの?』

 

『然り。その一つを明かしたかったのじゃよ。知りたがりである魔術師(われわれ)のような連中はな。じゃが──うむ。儂は些か余分が多すぎた。仏心に気づくのがもうちっとばかしはやければ或いは……くく、外れ者も所詮は人類じゃったか』

 

 自らの一生に人類そのものの足跡を見て老爺は嗤う。

 若かれし頃は特権階級らしく一般的な魔術師(有象無象)よろしく典型的な振る舞いをしてきたが、結局、生まれついての聖者でもない限り、どれほど人が知恵の巨人を積み上げようとも、個人に経験が反映されぬ限り業は繰り返されるものなのだろう。

 全ては流転し、転輪する。

 繰り返し、繰り返し、回り続けるのが人の世界。

 

 時計の歯車のように回り続け、いつか秒針が止まるその瞬間まで今をひたすらに積み重ねる。そうと思えば存外世界というのは広く在っても簡単なのだろう。

 世は常に、たった一つの理で回っている。

 

少年(カルキ)、夢はあるかね?』

 

『夢?』

 

『うむ、夢。その一生における目的、自らが描きたい「美しい絵図(アートグラフ)」、そのために駆け出したいという無垢な衝動。航海(たび)における指針──それを君は持っているかね?』

 

『うーん、お爺ちゃんの話は難しくてよくわからない……』

 

『ほっほっほ、いやさ何せこの身は老いさらばえた老人じゃからのう。純粋(きみ)さからは離れすぎた。余分な言葉が多くなるのは許してくれおくれ』

 

『けど夢ならあるよ!』

 

『ほう? それは?』

 

『えっとね! 僕は──■■■■■■■■』

 

 ノイズが奔る。少年の言葉に意味は無い。意義も無い。価値もない。

 それは既に燃え尽きたもの。灰に帰したもの。

 人だった彼が思い描いていたものであり、今には何の関わりもないもの。

 

 ……地獄の中で、今は生まれた。

 

 だとすれば『それ』は地獄の中で燃え尽きてしまったのだ。

 だが──。

 

『善い夢じゃな』

 

 続く老爺の言葉だけは覚えていた。

 

『それを大切にするとよい少年──(それ)こそが人の持つ窮極の原理。それを忘れぬ限り、君はこの広い世界でも迷うことも惑うことも無く、一筋の道を歩み切れることだろう。それを大切にするのじゃぞ』

 

 そういって老爺は少年の頭を撫でた。

 迷うな、と無垢な背中を後押しする暖かな言葉。

 もう後戻りできない無垢であった頃の記憶。

 

 カルキはそれを覚えていた。覚えている。

 あの地獄の中でも──その箴言だけは忘れなかった。

 

 ……多くを無くし、取りこぼしてきた一生。

 だが、まだ持っているものがある。

 手放していないものがある。

 

 それは他ならぬ俺自身。

 あの地獄から発生したものとして、世界に返ってきたモノとして。

 その意義を果たす。

 

 多くは要らない。積み重ねることもしない。

 一心不乱にただ一つ、俺は、俺で在るだけでいい。

 必要なのはただそれだけ。

 故に迷わず惑わず、粛々と。

 

 俺は、世界にその窮極(いぎ)を示す。

 斯くして──抑止(救世)()が廻る。

 

 

 

×  ×  ×

 

 

 

「Ether acceleration drive──起動。天昇せよ、我が宿星。我が身に星の理を」

 

 唱えられた魔導の理。自らを変質させる詠唱(ランゲージ)をカルキが唱えたその直後。まるで太陽のように目を焼く様な、凄絶な光がカルキの身体から溢れ出した。

 

「く、くく、これはまた──」

 

 嘲りとも感嘆とも受け取れる声でアーチャー──英雄王は端正な顔を歪ませる。眼下の光景は彼をして無感ではいられない。有象無象などと切ってはしてられない。

 全てを視て来た裁定者であるが故、紛うことなき『窮極』に目を引かれる。

 

 ──迸るは天雷。

 まるでそこだけが世界から切り取られたかのような白光は、世界そのものを傅かせるような傲慢さに満ち溢れていた。そこに通用するのはただ一つの窮極(ルール)。森羅万象なぞ知ったことかと不遜にも君臨していた。

 

 科学者たちに曰く──光速を突破したものはこの世界の物理法則(ルール)から外れるという。

 

 アレは正にそれだ。迸る電荷エネルギー。摂氏数兆度を優に上回る熱量。銀河の在り方をその存在荷重だけで歪ませる太陽が如く、ただ一人を起点として独自の重力圏すら発生している。

 光速の突破──それに伴う因果律の崩壊。

 つまるところ彼は既に世界に在って、世界に無い。

 唯一天頂にて輝ける頂点(わくせい)──。

 

「──『我、星を凌駕する人の雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)』」

 

 天の理は我に在り──ゆえ、全ての法則を凌駕せんと傲岸不遜にただ一人、天頂の英雄は宣言した。

 

「ハハハハハハハハハ! それが貴様の本性か雑種──! このような時代に──否、このような時代だからこそ求められたか! よもやこのような場所で遭いまみえることになろうとはな! くく、答えるがいい。貴様が最期の英雄か?」

 

「それは俺の知ったことではない。俺の意義はただ一つ──全ての不義と不条理を切り裂く英雄(けん)であること。ただそれのみ。善意も善行も我は知らず。我はただ、不正を糺す光であるだけだ」

 

「ハッ──! 吠えたな小僧! ならば示して見せるが良い! 貴様の語る正義とやらの存在意義をッ!!」

 

「言われるまでもない。我が勝利で以て示してやる」

 

 開門(ゲートオープン)──もはや千や億では数え切れない満天の星を思わせる王の財宝が起動する。

 対するはただ一人、地上にて輝く一等星。

 孤独に輝くそれはただ自らの輝きのみで世界を照らさんと煌めき輝く。

 

「──来るがいい」

 

「──征く」

 

 地を蹴る──初速でそれは第三宇宙速度に至る。

 天を目指して駆け抜ける流星。落下する無数の星々。

 時間にしては一分にも満たない──文字通りの戦争が幕開ける。

 

 『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』──それこそ人の世が限りに続く限りの『無限』を治める宝物庫である。

 平時のアーチャーであれば獲物の器に合わせてぞんざいに品々を取りだして投げつけるばかりだが、今回ばかりは選りすぐりだ。

 全て一級宝具。それも敵の特性に合わせて放たれる弱点ものばかり。

 

 光を切り裂く剣に、星を穿つ大槍、神殺しの矢。

 いずれもカルキの纏う概念に対して至上を誇る武具である。もはや下手な英雄よりも速く駆け抜け追いすがり、肉薄するそれらは一つとて受ければ致命傷。あっという間にカルキの命を刈り取る死神の鎌だ。

 それが星の数だけ迫ってくる。

 その恐怖、その絶望。

 例え英雄と呼ばれる人種ですらも怖気づく死の淵にしかしカルキは一切の恐れなく相対する……どころか、その死の海に自らの身を投げ打った。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 煌めく二刀。虚空を奔る流星よりも尚速い光跡。

 もはや個人の武がどうこうという領域に無い天災を前に、あろうことかカルキは個人の武で以て対応する。

 本来、一度に押し寄せる幾千幾万幾億の攻撃にただ二刀の技が通用するはずも無し。手数という暴力を前にカルキはただ圧倒的な敗走をするのみ。

 だというのに──いまだ健在なのはどういう原理か。

 

「愚かしさも一周回って関心に値するぞ小僧! 手数を回転率で補おうなどと、そんな発想は流石の(オレ)でも一考すらもしなかったぞッ!」

 

「そうか、存外狭い世界に住んでいるのだな。自称・この世全てを治めたという王様とやらは」

 

 ……カルキが生死の際で行っている防御は単純にして無謀な暴挙。

 武術の冴えでもなければ曲芸の類ですらない。

 自らが振るう刀の速度──これをただひたすら限界まで引き上げる。

 アーチャーが……英雄王ギルガメッシュが思わず戦に愉悦するほどのシンプルな力業でカルキは宝具の運河を泳いで見せる。

 

 速く、速く、速く──念ずる限りにカルキの剣速は無限に上昇し続ける。際限は無い、限界は無い。何故ならば今のカルキは世界の理を踏み越えた者。

 畢竟──カルキがそう在れと想う限り、法則は限りなくその結果を更新し続ける。

 

 最初の接触で遠坂邸の庭は疎か、付近の街区は焦土と化した。

 幸いなことにカルキの光速突破に伴い、付近が一時的に事象収納のような独自の重力圏が伴っているため、世界そのものへの損傷は発生しないが──膨大な魔力のうねりはこの戦いを監視しない全ての魔術師とサーヴァントが直観的に感知するほど圧倒的であった。

 

 その凄絶さはバーサーカーが初撃の影響で一瞬にして蒸発したのが示している。仮にサーヴァントであってもこの戦いに割って入れるものなど片手の数だろう。それこそ世界最強の大英雄でも連れてこない限りは、戦いの舞台にすら上がれない。

 その上で──。

 

「数だけが自慢か? サーヴァント。それだけが武器ならば、お前の死は後十歩だ」

 

 一歩前進。膨大な数の暴力にさらされ続けている筈のカルキの足があろうことか前に進む。それは即ちアーチャーの手数をカルキの速度が追い抜きつつある証明であり──。

 

「急くなよ小僧。千差万別の変化──それこそが貴様にはないこの(オレ)手数(ぶき)であると知れ」

 

「!」

 

 刹那、打ち出された槍。それを見た瞬間、カルキは理由無くして己が死んだことを自覚した。物理的には槍はまだ穿たれてはいない。だが死んだ(・・・)

 それはあの槍にとっては結果が先で過程など存在しえない、魔槍であることの証明。仮にカルキがあの槍を刀で払った所で槍はカルキに突き刺さることだろう。

 

「因果逆転の呪いの槍か」

 

「それだけではないぞ?」

 

 そこに更なる変化が加わる。……結果を帳消しにする後手必勝の剣。……生じた結果を最初に巻き戻す魔導書。因果を司る概念武装とも呼べる数々の武器は力業での突破を不可能とする変化に富んだ宝具である。

 

「これにはどう対応する?」

 

「……無論、正面から切って抜けるのみ」

 

「ハッ──!!」

 

 ならばやってみせろと放たれる宝具群。次いでと言わんばかりにカルキを物理的にも押しつぶす威力重視の宝具まで追加で放り投げられる。

 こうなれば手を休ませることは出来ない。一瞬でも何かの概念破りの魔術を行使すれば今度は今まで凌いできた物量に押しつぶされることだろう。

 

 故にカルキは迫りくる魔槍を観察し、考察し、分析し、そして。

 自らに迫る魔槍の因果そのものを斬って捨てた。

 自身の心臓を指し示していた朱い呪いの、根源を斬り落としたのである。

 

 途端、輝きを失う朱槍の宝具。それを刀で簡単に弾き飛ばしてしまえばそれで終わり。魔槍は独りでに対象を狙うことも無く、ただそれきりで沈黙する。

 さらに後手から先手を上回る剣をさらに速い先手の剣で斬って捨て、生じた結果を最初に戻す魔導書の呪いをただ失せよと念じて焚書した。

 

「猪口才な、この程度の小技が貴様のいう変化とやらか? 下らん。俺を仕留めたくば王道で来い」

 

 因果の外に身を置く今のカルキにとって概念武装など物理的に干渉可能な法則に過ぎない。古い神秘にはより古い神秘で当たれと言うが、そんな原理に頼らなくてもルールの押し付け合いであれば局所的に森羅万象を上回るカルキ以上は無い。

 その手の勝負ならば、それこそ空想具現化を成す真祖で対等。たかだか神話や民話に語られる遺物が持つ程度の概念など通用しないのだ。

 

 物量(チカラ)も概念も強行突破するカルキの在り様を見て、ますますアーチャーは口元を歪ませる。文字通り、最も古い時代より最も多くの人を視て来た彼であるが、ここまでのは見たことがない。

 こんな──『正義は必ず勝つ』などと幼子が無垢に信じる妄想を形取ったような存在は見たことがない。正に末世に現れるといわれる最後の英雄。

 《救世》の理を担うそれそのもののように。

 

 平時であれば激情で以て返していただろう愚弄など耳にも届かず、アーチャーはその様を眺めながら感心を呟いた。

 

「単なる忍耐もそこまで至れば神域よな。痛みに強いとて限度があろう。よくもまあその様で(オレ)の前に立つ気力があるものよ」

 

 カルキのその力──アーチャーは概ね理解しきっていた。

 

 かの力はカルキが魔力の根源とする『神の体液』を運用した発電式。つまりは体内に巡るナノマシンの運動速度を光の領域まで到達させることでカルキ自身を膨大な魔力炉と成すことで因果の突破を図る代物。

 同種の試みで語るところ、かつて衛宮の魔術師が目指した『根源』到達のメカニズムに似通った代物である。

 

 人の世の法則とは、特殊相対性理論の敷いた一秒の定義に基づくもの。いわゆる、この世を統べるあらゆる法則は時間の下に成立した代物である。

 それゆえかの理論を発見した偉大なる科学者はこの世で最も早い時の流れ、光速に近づくほどに世界の時間流(ルール)から外れていくと唱えてみせた。

 

 カルキの魔術はその理論の正当性を訴えるもの。

 光速という領域に立つことであらゆる概念を突破するというシンプルな魔術である。

 

 当然、一歩間違えれば魔法の領域であるが、それを成している基幹の部分が神の遺物に依存しているため、カルキは魔法使いならぬ魔術師に留まっているのだろう。

 或いはカルキ自身が徹底して魔導の資質を持たないため、根源の門を潜る資格を有さないためか。ともあれ、カルキの魔術は魔法一歩手前の単純な加速術式(・・・・)である。

 

 そのため同じ手法、同じ手段を用いれば誰であっても再現可能な代物だが、一点。これを実現するためには問題がある。

 それはこの理論を成すための器の問題。光速を突破して尚、発生するエネルギーをどう治めるかというものである。

 

 人の内界に限った光速突破の加速術式──などと言えば聞こえはいいがやっていることは人体を舞台にしたデーモンコアの実験のようなものだ。

 そんなものに人体が耐えられるはずがない。

 行使した瞬間に光体化に伴う熱エネルギーで人体融解(メルトダウン)は避けられない。よくて自滅、最悪は周辺物ごと巻き込んだ大崩壊である。

 

 では何故カルキは自壊を引き起こさずしてその状態を維持できるのか。それはカルキの源となる力が持ったナノマシンのお陰だ。

 『神の体液』とは元より星間を越えて地球へと降り立ったギリシャ神を語る宇宙由来の存在、彼らが有する流体金属(オリハルコン)。万能を誇る極小の権能である。

 

 これには大気中の魔力を取り込んで活用する以外にも被験者の身体能力向上や老化の鈍化、自己治癒能力など様々な特性があるため、カルキは光体化と同時にこれの加護を最大出力で起動させている。

 元より光体化するほどの莫大なエネルギーである。カルキはこれを利用して金属由来の特性を最大化し、自らの自壊を防ぎきっている。

 

 だが、如何な神々の流体金属(オリハルコン)とはいえ、元よりこれほどのエネルギー規模での運用は想定されていない。

 そもそもをして身体を蝕む原因が流体金属(オリハルコン)に端を発する熱エネルギーであるがゆえ、権能を最大化しようとも(リスク)の完治など出来ようはずもない。

 

 よってカルキの状態は膨大な熱エネルギーで人体を成すたんぱく質が溶けるのと同時に回復するという状態を反復横跳びするような有様であり、光体化中にはその身に拷問など生温いほどの激痛が走っている状態になっている。

 

 内から生じる熱により溶けては蘇り、蘇ってはまた溶ける。

 これを瞬間瞬間に繰り返す。

 さらに光体化中のカルキの一秒は現実の一秒よりも遥かに経過が遅い。それこそ体感する激痛は永遠に引き延ばされる刹那にも等しく。

 

 その灼熱地獄の責め苦。常人であれば一秒と耐えられず壊人となる最中に、正気を保つことなど人類に出来ようはずもなく──だというのに。

 

 

「大した痛み(もの)ではない。こんなもの、地獄で受けた喪失(痛み)に比べれば些細なものだ。覚えておけサーヴァント。歯を食いしばり、意志を強く持つ──気合と根性を振り絞れば、大概の事象は何とかなるものだ」

 

 

 さして誇るでも自慢するでもなく。まるで世間一般の常識を説くかのような言い分に、遂に耐えきれなくなってアーチャーは腹を抱えて爆笑した。

 

「────ク。ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハ!! やはり貴様には道化の才能があるぞ!! よもや、この(オレ)を笑い死にさせるほどの馬鹿者がこのような時代にいるとはなッ!!」

 

 笑う、笑う──笑いながらアーチャーは眼前の相手を認め、そして虚空に手を翳した。

 

「良いだろう──ならば出し惜しみは無しだ。貴様は(オレ)が本気となるだけの価値がある勇者であると認めよう、救世主(小僧)

 

「!」

 

 あと三歩。迫る確信の勝利を前にしてカルキは歩を止める。

 万物を取りだして見せたアーチャー。

 その無限を誇る宝物庫から、ただ一振りの『剣』が取りだされる。

 

 カルキは一目見て確信した。

 アレが、あのサーヴァントの『窮極』であると。

 

「成程、それが貴様の得物か」

 

「よもや、こやつの相手にたる敵がサーヴァントではなくそのマスターとはな。光栄に思えよ小僧。人の身でありながら我が至宝たるエアを刮目することとなったその栄誉を」

 

 削岩機(ドリル)のような奇形な形をした『剣』が動き出す。回転し始めた其れは周囲の大気を渦巻かせ、捻じり、やがては空間そのものまで歪みださせる。

 発動する膨大な魔力の波動。カルキの光体化に匹敵するエネルギーの創出の前に、カルキは直感的にそれが自身と同じ世界と対するほどの規格外の宝具であることを看破する。

 

「その一撃が、貴様にとっての最強(・・)か?」

 

「然り──怖気づいたか、小僧?」

 

「否──それを出したということは、もう貴様に後は無いということだろう。勝ちが見えて来た。それだけだ」

 

「ハッ──」

 

 笑う──やはり人の世は面白い。どれ程までに劣化と醜態の歴史を積み重ねようとも、かような人を生み出す可能性を常に秘めているのだから。

 その愚かさにしか生み出せない、輝きがある。

 

「ならば越えて見るがいい! エアよ。不遜な若輩者に最古の威厳を見せてやると良い──!」

 

 斯くして抜き放たれるは乖離剣。原初、天と地を分かたんがため振るわれたという権能。最初に人の世を統べた人の王、英雄王ギルガメッシュが誇る最強の宝具。

 それを前にしながらカルキは尚も泰然と構える。

 崩壊していく空の有様にも、崩れていく地の様すらも気に留めない。

 

 揺るがぬ勝ちを確信したように、カルキはアーチャーを睨みつける。

 

「対界宝具──数多の宝具の果てにそれすらも収めているというならば、確かに。貴様こそが最強の英霊だろうなアーチャー。……真っ当な英霊同士の戦いに終始していたのならば最後に勝ち残っていたのは貴様だろう」

 

 まずもってカルキのような例外でもない限り、『王の財宝』という物量を越えられる英雄は多くないだろうし、最後に取りだして見せたあの宝具もまた、打ち合いにおいて他の追随を許さぬほどの代物。

 仮に騎士王と目されるあのセイバーが振るる『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』であってもあの宝具には叶うまい。

 アレは、そういった次元にある宝具だ。

 

 となれば当然、カルキであってもアレは防ぎようがない代物だ。

 限界まで気力と肉体を行使すれば或いは比肩することも叶うかもしれないが、それをすれば余力はない。アーチャー戦を以てして、カルキは持ちうる全てを使い果たすことになるだろう。アーチャーに勝利したとて、聖杯戦争からは脱落する。

 

 ──だからこそ。勝利の式は簡単に。

 確実かつ最良に。

 

「『天地乖離す(エヌマ)──』」

 

「故に、貴様の敗因は──」

 

 振るわれる最強の一撃、防ぎようのない敗北を前に、カルキはアーチャーを睨みつけながら、壮大な戦いの幕切れには呆れるほど興ざめな結末を口にする。

 

「聖杯戦争──サーヴァントとマスターの戦いという儀式方式を軽んじたことだ」

 

「『開闢の──(エリ)』!」

 

 乖離剣が振り下ろされる。

 ──その、刹那に。

 

 

 

『令呪を三つ重ねて命ずる。自害せよ、アーチャー』

 

 

 

 ──戦いは終わった。

 自身を貫く乖離剣と無数の王の財宝。

 最強の武器がカルキに振るわれることは無く。

 

 英雄王ギルガメッシュは何が起こったかを把握するよりも先に、自らの宝具で以て消滅に至った。




Q.主人公は結局どういう能力なの?

A.スニーカー文庫のラスト・エンブリオ、またはミリオン・クラウンを読め。



Q.なんでこんなのが自然発生したん?

A.シルヴァリオ・ヴェンデッタを閣下の出自を読め。
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