Metalnova   作:アグナ

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ACT-19 待降節

 サーヴァントが一夜に二騎も脱落した遠坂邸での激突。戦いを制した側のキャスターのマスター、カルキは虚空に消えていくアーチャーの残影を見送りながら臨戦態勢を解き、その間隙を狙って飛んできた短刀(ダーク)を無造作に掴み取りながら茂みの奥へと言葉を投げかける。

 

「──まだ戦うつもりがあるなら来るがいい。命が惜しければ去れ」

 

『…………』

 

 猛禽類のような鋭い視線でカルキが睨みつけると暗がりに潜むアサシンたちの殺意が揺らぐ。

 ……サーヴァント対マスター。

 しかも如何なる能力か、事構えるアサシンの側は数十を超える軍団である。常識的に考えれば数的にも能力的にも後者に劣る通りなど無し。されど圧倒されるのはあろうことか常識的には勝るはずのサーヴァントの側である。

 

 だがそれも致し方のないことであろう。先ほどまでこのマスターは人の身にありながら、半ば半神に片足を突っ込んでいた聖杯戦争における最有力候補であるアーチャーと真正面から事構えていた男である。

 単純な戦いにおける能力値はそれこそ最優の英霊(セイバー)に匹敵している。それ即ち暗殺者の英霊(アサシン)程度は簡単に凌ぐほどの実力を秘めていることを意味している。現に……。

 

「答えるがいい」

 

 ──そう言って再度の問いかけと共に、今度は無造作に光刃が暗がりを照らす。轟音を上げて捲れ上がる岩盤と消滅していく草木。

 それに巻き込まれて好戦的であった『人格』の幾らかが一瞬で消し飛ばされる。ただ一撃を以てして総数のうちの一割が今の殺意の薄い牽制で殺された。

 

「くっ……!」

 

 アサシン──彼らの首魁にして主人格たる細身の女が歯噛みする。

 勝てるわけがない──。

 それはアサシンたちの総意でもあったらしく、言葉にならない敗北感を匂わせながら一騎、また一騎と虚空へと影を落として消えていく。

 

 ……どうやら遠坂の協力者は自らを懸けてまで遠坂に義理立てするつもりはないらしい。

 

「引いたか……とはいえ逃がすつもりはないぞ。中立公平の身分でありながらあろうことか市井を脅かす聖杯戦争の経過に一役買ったその罪過は支払ってもらう」

 

 今度こそ刃を収めながら影の消えた方を睨みつつ、カルキは言葉を投げかける。『御三家』を始め、聖杯戦争の開催に関わった者を逃がす気はない。

 あくまでただ乗りしてきたような外来の者たちはともかく、『聖杯戦争』というものを終わらせると断言した以上、それに関わるものは悉く粛清対象である。

 

 全てを焚書できない以上は、『聖杯戦争』という形式はいずれ誰かに再現されてしまうだろうが、元を絶てば期間は幾分か稼げるだろう。

 少なくともこの術式を構築した者たちと現物を葬り去れば、向こう数十年は儀式が執り行われる危険性は取り払われよう。

 

 カルキが間桐、遠坂と引き続いて『御三家』を狙うのはそういう事情もある。否、寧ろ情報的な優位より、そちらが動機としては強いと言える。キャスターには情報的な有利を解いたが、そんなものは理由付けの一つに過ぎない。

 そのため、次に狙うべき相手も決まっている。

 恐らく──市井を守らんとするカルキにとって最も早くに脱落させなければならない危険極まりない男、衛宮切嗣有するアインツベルン。

 

 次の戦で、アレを殺す。

 

「……人気の少ない夜間とはいえホテル一棟を爆破する輩だ。来歴を考えれば戦闘ヘリの一機や二機持ち込んできても不思議ではない。魔術師である以上にあのようなテロリストと紙一重の者など生かす道理など無し」

 

 ……元々、カルキは衛宮切嗣という男を嫌悪している。

 そもそもテロリストなどという万死に値する輩が一考の余地も無く粛清対象というのもあるが、あの男の功績(スタイル)はとかく気に喰わない。

 

 市民が居ようが無関係の人間が居ようがターゲットを殺すためなら巻き添えは厭わない。それを生かすことでより多くの犠牲、多くの損害が出ると判断した途端に少を斬り捨て、大を守る公共正義(パブリック・ヒーロー)──などと言えば聞こえがいいのだろうが、カルキからすれば迷惑千万な殺し屋である。

 

 例えば──表向きは赤十字に属するカルキの活動地域は主に中東やアフリカである。魔術協会からの依頼などで欧州で活動することもあるカルキだが、その身は基本、紛争地帯の最中にある。

 その中で時たま、魔術と科学兵器を巧みに併用する魔術使いと交戦することがあった。それらを撃滅後、何処からそのような外法戦術が編み出されたのかを辿っていくとあの男に辿り着くことがあるのだ。

 どうやら衛宮切嗣という男は雇われた傭兵組織で指導を行うこともあるらしい。

 

 それだけで端的に万死に値する外道である。加え、ターゲットのみを殺すそのせいで、殺された側の組織の末端が暴走し、より手に負えない事態になったこともままある。

 衛宮切嗣という男は『その時』の戦いを鎮めるにはよく効く猛毒だが、『その後』を考えていないため、事態がより混沌化していくのだ。

 

 介入したからには完全無欠に救い切るカルキとは正反対の中途半端な劇物。まるで戦争というモノをズタズタに切り裂いたあと、継ぎ接ぎだらけの結果を作ってそれを『平和』だと宣うような、ともすれば下手な悪人よりも悪辣な輩。

 

 ……彼はきっと知らないのだろう。

 正義というモノは中途半端に振りかざせば、下手な悪意よりも度し難い代物であるということを。平和を追うのは結構だが、その過程で多少の犠牲を払っても問題ないと考えているのならば尚度し難い。

 初めから平和的解決策を模索しない対話無き正義に善は宿らない。

 理想論は所詮理想論だが、大義名分を振りかざすならそれを捨てることは決してあってはならない。理想を諦めた瞬間、正義はただの暴力に成り下がる。

 

 そんなことは決してあってはならない。

 

「……などと、英雄に成り下がった俺に言えた道理でもないか」

 

 所詮は同族嫌悪の類。ならばただ殺す。

 改めて心にそう決めるとカルキは半壊した遠坂邸に歩き出した。

 

 

 

 ──決着の現場は凄惨だった。

 まず目に入るのは己がサーヴァントであるキャスターの姿。アゾット剣を片手に立ち尽くすその姿は無傷のまま。カルキに気づくと彼は徐に黙礼しながら従者のように身を引いた。

 次いで、その正面。敵対する形で構える遠坂時臣の姿。

 彼は片手を欠いており足元には血だまりが出来ている。状況から察するにキャスターの手際だろう。片足を突いて疲労困憊な辺り、魔術戦でも行ったか。

 尤もキャスターの状態からして勝負にならなかったのだろう。もはや交戦する余裕はなさそうだ。

 

 そうして──彼らから少し離れたところに転がっている焼死体。壮絶な死相を浮かべているのは間桐雁夜その人。既に息は無く、完全に焼死している。

 その末路にカルキは若干の憐憫を覚えるが、同時に当然であるとも思った。彼は既に妄執に囚われていた。始まりは善意であったのかもしれないが、少女の救済と仇敵の殺害を混合してしまった時点で先が短いのは察していた。

 

 弔いは──例の少女の面倒を見ることで晴らさせてもらうとする。

 それを踏まえて、この場に上がったのだから。

 

「こうして顔を見えるのは初か。自己紹介はいるか、遠坂時臣」

 

「……不要だ。自分を負かした相手を知らないほど、私は無能ではないのでね」

 

「そうか、ならば話を回そう。キャスター」

 

「御意」

 

 苦々し気にカルキを見る時臣に、カルキは淡々と頷くと自らの英霊に呼びかける。警戒していた時臣の意識を縫って時臣に近づくキャスター。

 間隙を打たれた時臣は思わず死を覚悟したが、キャスターの行動は予想していたものとはかけ離れていた。

 

「……先ほどは失礼いたしました。これはお返しいたします」

 

 そういってキャスターは斬り飛ばされた時臣の片腕、その断面を時臣に合わせると、恐らくは治癒魔術か何かと思われる詠唱を挟んで一瞬のうちに接合してしまう。

 驚き反射的に握りこんでみれば、動く。

 骨や肉の接着は勿論のこと、神経伝達すらも完全に元通り。

 如何なる名医をも凌ぐ神業めいた治療であった。

 

「……どういうつもりかな。てっきり止めを刺すつもりで現れたと確信していたが」

 

 感謝よりも先に警戒心からカルキを睨む時臣。

 ……サーヴァントを失ってもマスターの令呪(あかし)があるのならば再契約という道が参加者には残されている。故に、聖杯戦争においてサーヴァントを失ったマスターを生かす道理はない。

 わざわざ聖堂教会の監督役などという身分が存在するのは、儀式の監視に加え、このような事情から敗走したマスターが自らの命を守るための安全装置としての役割からである。

 

 だからこそ止めを刺すどころか助ける行為に出るカルキの行動が時臣にはわからない。慈悲深い性格にも思えないこの相手が、一体何を考えているのかが。

 猜疑の視線に、カルキは構わず答えを返す。

 

「それがセオリーだとは知っている。が、俺は忙しい。聖杯戦争脱落者を深追いするつもりはない。ここには交渉に現れただけだ」

 

「交渉だと?」

 

「ああ。幾らかの条件次第でお前を含め、一門の存続は見逃そう。代わりに、幾つかのものを差し出してもらうが」

 

「……成程。私の命よりもより価値のあるものを獲りに来たわけか」

 

「そういうことだ。端的に言うのであれば脅しつけに来たと言い換えてもいいが。どうする? 死よりも尊厳(プライド)を選ぶというならば時間の無駄ゆえ決着をつけるが」

 

 キンと鯉口を切りながら言い切るカルキ。

 脅しつけると言い換えた通り、交渉破談の瞬間に居合抜きがこの場を一閃するだろう。あのアーチャー相手に正面から戦い、生き残って見せた人物である。

 魔術の技量はともかく、純粋な戦闘能力で時臣に勝ち目など無いだろう。

 

 ……諦観しながら息を吐く。

 改めて己は負けたのだと自覚しながら時臣は感情論を置いた。

 

「──いいだろう。君の言う交渉の台に私も上がろう。だが尊厳が勝つような交渉であるならば決死の覚悟で挑む用意が、私にあることは伝えさせてもらうが」

 

「理解している。……別にそちらの魔術刻印を差し出せなどといった難しい話でもない。情か利か。魔術師らしい判断を求めに来ただけだ。事によっては──或いはお前にとっても都合のいいことやもしれないしな」

 

「私にとっても都合のいい──ああ、成程」

 

 敵の求める所を察して時臣は冷たく微笑する。……倒した相手に無関心なほど聖杯戦争の決着を急ぐ敵手。恐らく彼はもう既に次に着手しているのだろう。

 だとすれば敵が何を求めてやってきたかなど簡単すぎる。

 

 ──遠坂時臣は貴族が如き振る舞いをする魔術師であるが、そも貴族にしても魔術師にしても優先すべきは尊厳でも義理でもなく、先祖代々の家を守る事。

 そのためならば何処までも泥を啜り、冷酷に成れる。

 

 情か利か、どちらを取るべきかなど考えるまでも無かった。

 

 

×  ×  ×

 

 

「何ということか……」

 

 教会の長椅子(チャペルチェア)に項垂れているのは父、言峰瑠正。言峰綺礼はアサシンの『目』を通して遠坂邸での出来事を報告し終えた後、その姿を無感動に見下ろした。別に久しく見たというわけでもないのに、なんとなく老いたなと感じた。

 

 ──遠坂と言峰は父祖以来の付き合いらしい。

 その縁あってこそ今回の聖杯戦争において遠坂時臣と言峰綺礼は手を組んでいた。いや厳密に言うのであれば遠坂時臣と言峰瑠正が、であるが。

 

 元より教会の人間である父にとって勝手知らぬ輩に聖杯を使われる可能性は容認できず、知己であり、目的も『根源』到達で固定されている時臣氏の存在は安牌だったのだろう。知らぬ輩に語れるよりは、彼のような分かり易い人物に戦いを制してもらった方が父としても都合がよいということで、たまたま令呪が宿ってしまった綺礼はこの戦いに巻き込まれた。

 

 綺礼がアサシンの情報網で以て情報収集、場合によっては敵対者を裏で殺害していき、時臣がその情報を元手に戦いを優位に進めていく。

 そのような戦略の下、始まったアーチャー・アサシン陣営の聖杯戦争だが、その計画は早くも既に頓挫した。

 

 キャスターのマスター──カルキ・H・ピースマン。

 時計塔のロードが贔屓にする一線級の傭兵であり、聖堂教会の縁も強い難敵とは聞いていたがまさかこれ程早晩に優勝候補を地に落として見せるとは、正直、戦いに関心の薄い綺礼ですら舌を巻く手際である。

 

 サーヴァントと互角以上に渡り合える戦闘能力もそうだが、それ以上に恐るべきはその果断即決振り。欠片も迷わず前進し続けるその進軍速度は綺礼には些か羨ましい。

 迷走だらけの己が人生。元より、それを終わらせるきっかけを求めて参じた聖杯戦争であるが、道は未だに霧がかり先は見えてなどいない。

 

 或いは──この後の次第によってはその機会さえ失われようが。

 

「……それで時臣氏──遠坂はどうなったか分かるか? 綺礼」

 

「いえ。先にアサシンでは叶わぬと判断して撤退を命じました。去り際、キャスターのマスターが遠坂邸に侵入する姿を見たとのことなので恐らく」

 

「そうか……」

 

 綺礼の報告に更なる落胆に項垂れる父の姿。

 しかしそんな父とは対照的に綺礼は相変わらずのままである。

 仮にも此度の計画を発足してからは綺礼と時臣は仮初の師弟関係の育んだ間柄だというのに哀悼の意も失意の情も、怒りの義心さえ湧き上がらない。

 

 どころか──勝利を確信していた両者の失望する姿に綺礼は──。

 

 

『理想も悲願も無いならば、ただ愉悦を望めばいいではないか』

 

 

 無表情の鉄面皮──筋肉が不思議と緩むようなむず痒さを嫌うように、綺礼は無感動に口を開いた。

 

「それで、父よ。私は一体どうすれば……」

 

「……うむ。アサシンが残っている以上、綺礼。お前は未だ聖杯戦争の参加者だ。本来であればアーチャーを欠いたとはいえ遠坂殿に協力し続けるのが義理であるがしかし」

 

 此度の掟破りにおける最大の動機は遠坂を勝たせるためであった。しかしその遠坂が根本的に脱落してしまった可能性がある以上、これ以上聖堂教会が聖杯戦争の内側に固執する理由はない。

 聖堂教会は公正中立。儀式そのものにはあくまでそのようなスタンスで向き合う以上、これに代わる大義名分はもはやない。

 

 ならばこそ、案の定予想通りの発言を聞いて綺礼は当然のように納得した。

 

「もはや教会側がこれ以上深く関与する道理は無いな。綺礼……巻き込んでしまってすまなかったな。どうやら我々の戦いは此処までのようだ」

 

「────」

 

 ──だが、納得する理性とは異なり、その時去来した感情はとても納得などではなかった。

 

「このままの流れが続くならば聖杯戦争の勝者は恐らくキャスターのマスターになろう。無念はあるもののこれはこれで分かり易い」

 

 キャスターのマスターの目的が宣言通り『聖杯戦争の終結』であるならば街への被害も最小で済むだろうし、聖杯そのものが魔術協会の手に渡るならば組織人としてはともかく言峰瑠正個人としては安心材料だ。

 魔術協会そのものが聖杯を握るなら罷り間違っても取り扱いを間違えることはないだろうし、総本山たる英国に聖杯が輸送されれば少なくともこの国で無用な犠牲は発生しなくなる。

 聖杯戦争は無事、第四次を経て完全集束することになるだろう。

 

「深入りをし無用な勘気を買ってまで我々がリスクを支払う必要もあるまい。遠坂氏には申し訳ないが──綺礼よ、アサシンたちに自害を命ずるのだ。それで、我々の聖杯戦争はお終いだ」

 

「……──終わり……?」

 

 自らの手に宿る令呪を見下ろしながら綺礼は反芻する。

 終わり──そう、終わりだろう。

 遠坂時臣が敗れた以上、言峰綺礼が聖杯戦争に参ずる大義名分は何一つとしてありはしない。元々、己は虚無の人間だ。

 我が身を懸けて果たしたい望みは無く、我が身を懸けた信念すらない。

 

 何もない。初めから何もない欠陥品が言峰綺礼という己である。

 

 どのような願いをも叶えるという聖杯に託す望みすら無いような己が、聖杯戦争に関わる道理など何一つとして──いいや違う。

 何一つとして持ち合わせていないからこそ、何か一つを探してこの戦いに参戦したのではなかったか?

 

 己の中にあるかもしれない何か。それを探す価値を、この聖杯戦争に見出したからこそ己は消極的ながらも戦ってきたのではないのか。

 その答え──得るまでも無く自ら幕引くなど──納得できるはずがない。

 

 戦う理由は無いのだとしても、戦う動機は残っている。

 

「衛宮、切嗣──」

 

「む? どうした綺礼よ」

 

「……父上。申し訳ありませんが、私はまだ戦いを降りるわけにはいきません」

 

「なに? どういうことだ綺礼」

 

 戦の継続を望む進言は予想だにしていなかったのだろう。綺礼の反論に、驚く瑠正。それに構うことなく綺礼は饒舌に言葉を紡ぐ。

 ……言えば、瑠正が納得するだろう薄い道理を。

 

「父上の読み通り、キャスターのマスターがこの戦いを制するならば良いでしょう。しかしこの聖杯戦争にはまだアインツベルンが残っています。勝つために、ランサー陣営をホテルごと強襲したと考えられるセイバーの陣営が」

 

「例のホテルの一件か。確かに神秘秘匿の原則は守られていたものの、聖杯戦争の道義を揺るがすような行為であったことは間違いないな」

 

「はい──勝つためならば手段を問わず。魔術使いらしい割り切りですが、あのような行為をする輩が万が一にでも聖杯戦争に勝利してしまった場合、どんな行いをするかわからない。万能の杯を目の当たりにして──果たしてアインツベルンとの約定とやらを何処まで守れるものか」

 

「私欲に憑かれて悪用しかねない──そう言いたいのだな? 綺礼よ」

 

「私の私見に過ぎませんが……」

 

「いや、お前のいうことも尤もだ──うむ。アインツベルンならばとも考えたが、かの家が裏切りの目に合う可能性もあるか」

 

 ──予想通り、綺礼の言葉に納得して考え込む父の姿を見て思わず表情が緩みそうになる。たった今、己は本音ならざる私情を元にした虚言を口にしたというのに、何故が胸には不思議な清々しさがあった。

 虚言を口にする──それは敬虔な信徒に有るまじき背信行為だというのに、罪悪感よりも枷から解放されるような開放感が勝る。

 

 これでようやく──誰に言われるまでも無く目的を達せられると。

 やや間をおいて瑠正が口を開く。

 

 綺礼の枷を外す、その言葉を──。

 

「分かった、綺礼よ。勝利を求める必要はないがお前はこのまま聖杯戦争の参加者として──」

 

『主よ!』

 

 紡ぎ終える、その刹那に。

 綺礼の思考を貫くアサシンの警鐘。

 だが、その警鐘に応答するよりも先に膨れ上がった殺意と魔力が彼らを差しきる。

 

 気づいた時には何もかもが遅すぎた。

 

 

 

元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)

 

我、星を凌駕する人の雷霆(ワールドディシプリン・ケラウノス)

 

 

 

 神の館に振るわれる宝具とそれに匹敵する大魔術。

 それは明けの明星の輝きさえも掻き消す二つの魔光となり、夜明けを謳いあげるようにして迸る。

 斯くして二つの極光は聖堂教会に潜むサーヴァントとそのマスターごと、教会を灰燼と帰したのだった。

 

 残る者は瓦礫の山。何を成すことも無く。

 アサシン陣営は凄絶な光に飲まれて消えていった。

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