Metalnova   作:アグナ

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ACT-22 晴天の霹靂

 ──ウェイバー・ベルベットは天才である。

 少なくともウェイバー自身はそれが真実と疑ったことは非ず、今日に至るまで自分こそが時代を変える時計塔の風雲児だと信じてきた。

 それが認められないのは血統の古さにばかり鼻にかける優等生と、それに媚び諂う取り巻きの凡愚どもが、時計塔という環境そのものがウェイバーの才能を畏怖し、嫉妬し、恐れたからに他ならない──そう考えている。

 

 ……つまるところ彼は若かった(・・・)

 そして若さゆえの勢いで彼は聖杯戦争に参戦したのだ。

 

 曰く──彼が疎む血統も歴史も関係ない、完全実力勝負の殺し合い。万能の杯を懸けた命がけの生き残り競争(サバイバルゲーム)

 それは自らの優等性を証明したいウェイバーにとって最高の舞台であり、ここで証を立てることこそ時計塔の連中を見返す最大のチャンスだと参戦した。

 

 自らが召喚した英霊を完璧な戦術で差配し、他の参加者を悉く倒し、ついにはあのにっくきロード・エルメロイにすら土を付ける己の姿。そんな未来を信じて疑わず、勢い任せで走り出した彼は今まさに──。

 

(なんで、どうして……こうなったんだ!)

 

 己が召喚した英霊、イスカンダル大王の──大柄なライダーの影に隠れながら、殺気立ってこちらを睨みつけてくるセイバーを前に壮絶な後悔をしていた。

 

 

 ここまで至る話の経緯は数時間前──遠坂邸での死闘頃にまで巻き戻る。

 ねぐら(・・・)とするマッケンジー宅でライダー陣営はかの戦いを使い魔ごしに観察していた。

 港湾区での戦いなど遊びに過ぎなかったとばかりに恐るべき数の宝具を振るうアーチャーの英雄に戦慄し、それと真っ向切ってやりあう常識外の魔術使いに驚愕し、最後はなんと不自然なまでのアーチャーの自害で終幕したかの戦い。

 

 死闘の相手たるキャスターのマスターと思わしき男、カルキに驚きが無かった辺り、アーチャーの自害含めて戦略の内だったのだろう。

 同じ人間とは思えない恐るべき戦闘能力と卓越した戦略構築を殆ど生で目の当たりにしたウェイバーはその自らの強みである若さと勢いにすっかり冷や水を懸けられ縮こまってしまっていた。

 

 アレは勝てない。勝ち筋が一切見えない。

 仮に魔術師としてあの戦いの勝者たるカルキの前に立ちふさがったとしても秒と掛らず一瞬で敗走する未来しかウェイバーは見えなかった。

 

 あれが聖杯戦争、これが聖杯戦争。

 ウェイバーをして間違いなく聖杯戦争優勝の最有力候補だと見込んでいたアーチャーの英霊が脱落者として序盤に、それもよりにもよって魔術師の活躍で敗走する──。

 

 何が起こるかわからない──殺し合い。

 

 そこでようやくウェイバーは自らがどんな環境に身を投じたのか自覚し、命を懸ける戦いとはどういうものなのかを認識し、初めて心の底からの恐怖を覚えた。

 

 この時点でウェイバーの戦意は半ば折れていたと言ってもいい。

 が、しかし。

 そんなものはマスターのみの一方的な事情。

 

 ウェイバーのパートナー、あの凄惨な戦いを共に見ていた筈の相棒であるライダーの方はと言えば絶句するウェイバーとはあまりにも対照的だった。

 

「素晴らしいッッッ!!」

 

 深夜の時間帯。寝静まったマッケンジー夫妻をも叩き起こすのではないかと言わんばかりの大声が轟く。それはさながらスポーツ観戦の最中に名勝負を観たかのような湧き上がり振り。手を叩きながらライダーはその結末に拍手を送る。

 

「いや天晴! 実に天晴!! 見事である!! よもや人の身でアレほどの英霊に真っ向切って挑みかかり、打ち破るとは!! 武力(ちから)も、知略も、何より勇気も! 何もかもが素晴らしい!! 当代にもアレほどの勇者が存在するとは! 傍から見ていただけの余も血沸くような素晴らしい戦いであったわ!」

 

 Tシャツをパツパツにするほどの胸板の前に腕を組み、髭を撫でつけながらこれ以上都内上機嫌で獰猛な笑みを浮かべるライダー。

 すっかり委縮しきったマスターとは対照的に、かつて世界征服にまで手を掛けた偉大なる大王は恐れるどころか戦意に満ち満ちていた。

 

「うむ! アレほどの勇者が存在していると分かったならば我らもただジッと座視しているわけにはいかんわな! よし坊主! 行くぞ!」

 

「…………う? は? え? 何が? 何処へ?」

 

 呼びかける英霊の声に、数瞬の間をおいてようやく反応らしい反応を見せるウェイバー。しかし衝撃的な戦いに頭が全く回っていないのか、完全にしどろもどろな反応であった。

 だがライダーは構わない。いや頭が真っ白となっているマスターの様子にそもそも気づきすらしない。

 思い立ったが吉日。ライダーにマスターほどの若さはないが、勢いに関して言うならば誰よりもずば抜けているのだ。

 

 カルキという大敵を見込んだ時点でライダーの脳内に在るのはアレを打倒するための方針と征服への道程のみ。文句と弱音と小言が五月蠅い未熟者の挫折なぞ、取るに足らない些事である。

 第一、戦場に引っ張り出せば残る者は勝つか負けるか、生きるか死ぬかの単純二択。なんだかんだと言って、この未熟者はライダーの戦場に同乗する度胸ぐらいは持ち合わせるのだ。下手に迷わせるより働かせるほうが何より活きる(・・・)と多くの人間を見て来た大王の直感は確信していた。

 

 故に、明らかに要領得ない状態のままであるマスターをライダーは遮二無二言わず担ぎ上げ、窓の外へと飛んだ。

 一瞬の浮遊感、次いで落下に状況を理解できぬままウェイバーは悲鳴を上げた。

 

「うわああああああああああ!!!?」

 

「はっはっは、それだけ叫べる元気があるなら十二分。よし行くぞ!」

 

 間違いなくウェイバーが平時の精神状態だったならば怒号が飛んできただろう状況だが、構うものかとライダーは愛刀キュプロスを振るい、自らの戦車を召喚。

 自らを示す名の通り、騎乗兵として空を駆け抜け、街の端──以前、偵察がてら目を付けていた街外れの城に勢いそのまま突撃する。

 

 

 そして時間を戻して現在。

 ライダーが突撃をかました件の城の主──アインツベルンの英霊セイバーは、真正面から城のホールに乗り込んできた不届き者に剣と殺意を向けていた。

 

「……どういうつもりだ、ライダー」

 

 低い声で真意を問う小柄な剣士。その殺気に当てられ、こひゅっと思わずウェイバーは息を飲んだ。睨みを効かされている側だが、その問いはウェイバー自身が問いたい。

 果たしてすぐ隣の馬鹿(ライダー)は何の意図があってこんな真似をしたのか、それはマスターであるウェイバーにも分からないのだから。

 

 敵と主に殺意と糾弾の視線を向けられる当のライダーと言えば朗らかに笑って。

 

「まあ、待て。そう殺気立つ出ないセイバーよ、今宵の……というよりもうすぐ朝だが、余は戦いに来たわけではないのだ」

 

「「は?」」

 

 ふふん、と鼻を鳴らすライダーに対してウェイバーとセイバーの反応が一致する。尤も、呆気に取られる前者の反応に比べ、後者は冷たい声音ではあったが。

 

「……これほどの蛮行を襲撃の意図はないというつもりか、ライダー?」

 

 雷撃を纏って突撃した戦車によって瓦礫の山と化したアインツベルン城のホールを一瞥しながら冷然と問うセイバー。

 敵ながらウェイバーも思わず、ぶんぶんと首を縦に振る。

 この惨状を作られておきながら敵意はないと言われて誰が納得するものか。そういわんとする敵に全くの同意見であった。

 

「おい、坊主。お前さん、自分のサーヴァントを間違っておらぬか? なんでお主までセイバーに同調しているのだ。……まあ良い──セイバーよ。今宵、余が貴様のとこの城を訪ねたのは一つ、提案があってのことよ」

 

「提案……だと?」

 

「うむ。セイバー……否! 騎士王アーサー王よ! 余はお主に同盟を申し込む! 我自ら貴様の城を訪ねたのはこの提案あってこそのことよ!」

 

「何だと……?」

 

「はああああ!?」

 

 にんまりと自らの胸の内を明かすライダーの言葉にセイバーは目を見開いて驚き、ウェイバーは全く聞いていないその策略に驚愕の声を上げた。

 

「お、おまえ! どういうつもりだよ! いきなり同盟だなんて! 僕は全然、何も、聞いていないぞ!」

 

「そりゃあお前さん、あの戦いを見た後からずっと呆けたままだったからなぁ……」

 

「五月蠅い! あんなもの見た後じゃ誰だって驚くのが普通なんだよ! 何も考えてない馬鹿と一緒にするな! ……ふぎゃ!!」

 

「余はきっちり考えているぞ。だからここに居るんだろうに」

 

 ウェイバーの言い捲し立てる言葉をデコピン一発で文字通り、黙らせるとライダーは困惑するセイバーの方へと再び目を向けた。

 

「なあ、騎士王。お前さん、あの金ぴかが脱落したのは知っているか?」

 

「! あのアーチャーが……!?」

 

「ふん、知らなんだか。なら交渉の手土産がてら情報を共有してやろう。あの尊大にして強力なアーチャーは敗れた。他ならぬキャスターのマスターの手によってな」

 

「キャスターのマスター……港湾区での戦いに現れた例の剣を使う魔術師ですか」

 

「応とも。ついでに言うと、アーチャーとの戦いに巻き込まれて、バーサーカーの奴めも戦いから脱落したようだ。遠巻きに眺めていたらしいアサシンの方は生き残ったようだが……ありゃ、じきにキャスターのマスターが追撃して仕留めるだろうな。どうにもアーチャー連中と徒党を組んでいたようだからのう。実力から見て返り討ちにされる可能性も低いだろう」

 

「……アーチャーとバーサーカー、それにアサシンが? こんな短期間で?」

 

「うむ。つまるところ残る参加者は余とお前さん、ランサー、そして一夜で三つも首を取って見せたキャスターの四陣営しか残らぬことになるな」

 

 ライダーの言葉に驚愕の後、深刻そうな顔をするセイバー。

 ……その内心はウェイバーも一緒だった。

 改めて口に出されて分かるが、港湾区の戦いから一夜での情勢の様変わり具合は桁違いだ。つい二日前まで殆ど全陣営が揃って顔を合わせていたというのに、今や残る陣営は半数に過ぎない。

 

 加えてそこまでの状況にして見せたのが一陣営の活躍に依るものだなんて想像だにしなかった。それもセイバーやランサー、アーチャーのような三騎士と呼ばれる優良な英霊でもなければ、御三家の魔術師でもない。キャスターというアサシンに次ぐ戦闘能力の脆弱な英霊を従える外野のマスターが成したこととあれば特に。

 ウェイバー含め、このようなダークホースの存在は完全に予想外であっただろう。

 

「……つまり、だ。征服王、貴様の言う同盟とは」

 

「然り。キャスターのマスターを討つまでのものよ。結局のところ聖杯はただ一つ。貴様が我が軍門に下るというのであれば──」

 

「先にも言ったが、そのような戯言に応じるつもりはないぞ征服王。貴方ががその戯言をまだ通すというのであれば、この会談の場は今すぐにでも貴様との雌雄を決する舞台となるだろう」

 

「──というわけだ。まずは我らの中でも頭一つ抜けた脅威を共闘して防ぐ。雌雄を決するのはその後でも問題あるまい? と、余は思うわけだが貴様はどうだ、騎士王? この同盟、結ぶ利は貴様にもあると思うが」

 

「……利があるのは認める。しかし私の一存では……」

 

「だろうな。では貴様のマスターの意見も聞こうではないか。あの白いご婦人も此処にいるのだろう? 我がマスターも含め、交渉といこうではないか」

 

「……──それは」

 

 ライダーの提案に、途端なぜか逡巡するように口を閉じるセイバー。

 交渉するに能う提案だということを認めていながら応じることには躊躇っている。

 

「んん? どうしたセイバー? 先も言ったが余はこの場を戦場にするつもりはないぞ。騙し討ちの奸計を企てているつもりもない。余は征服王、間違っても背中を討つような狡い真似はせぬぞ? 念話なり何なりで貴様のマスターを呼び出すと良い」

 

「──……」

 

 再度の呼びかけにもしかしセイバーは無言。応えないというよりも、唇を噛み締めるような様子はまるで応えられないとでも言いたげな様子だった。

 謎に躊躇うセイバーの様子にライダーは思わず眉を顰めている。彼をして予想だにしない反応だったのだろう。

 

 一方でそのライダーの影に隠れるウェイバーの方は、黙秘するセイバーの様子を見て直感的にある予想が脳裏に浮かぶ。

 ……目下、最大の脅威であるキャスターのマスター。彼の攻略傾向は明らかに御三家を狙い撃っている。最初に間桐、次が遠坂、だとしたら次に狙うのはアインツベルンに違いない。

 そして電光石火の快進撃を続けるあの陣営であれば既にアインツベルンに何らかの攻撃を加えているのではないか。キャスターは未だ姿を見せずして如何なる能力を秘めているかわからない存在だ。

 

 或いはなにがしかの呪術に長けた英霊であれば遠距離からマスターを狙う術もあろう。

 

(もしかして……アインツベルンのマスターは姿を見せられないのか?)

 

 その予想が正しかった場合、それは交渉に使えるかもしれない。あの剣の英霊を脅しつける様な真似は後が怖いが、どの道最後はあの英霊も倒さなくてはならないのだ。

 だったらここで強気の状況を作り上げ、優位性を気づくのは今度のためにも必要なこと──。

 

 ゴクリと緊張に生唾を飲み込む。無言の場にいよいよウェイバーがなけなしの勇気を振り絞って、口を開こうとする──その寸前に。

 

 

「──それの提案はマスターも受諾済みの提案であると認識していいのか、ライダーのサーヴァント」

 

 

 ──ホールに響いたのは三人のうちの誰でもない第三者の声。

 気づくと上階に昇る階段の影から一人の男が歩み出てきていた。

 

「む? 何者だ?」

 

「なっ!?」

 

 不意を打たれたにも関わらずライダーは動揺一つ見せず声に応じたが、対するセイバーの方は驚愕に満ち溢れていた。信じられないといわんばかりの表情は味方に向けるそれではない。

 すわ第三勢力かとライダーの影により深く隠れようとウェイバーは身を縮めるが、あろうことかウェイバーの襟を掴みあげたライダーのせいで強引に矢面に立たされる。

 

「当然であろう。この通り、我がマスターも乗る気である。……が、しかしだ。交渉の場に立つからにはまず名を名乗ると良い。この場はセイバー陣営と我らの会談の場である。知らぬ顔が立ち入っていい場所ではない。もしもセイバーとは無関係の者であるならば貴様の首も交渉材料の一つに数えるがどうする?」

 

「……衛宮切嗣。アインツベルンに雇われた、彼女たちの協力者(・・・)だ」

 

「──ほう? だそうだが、どうなのだセイバー?」

 

 錆のような渋い声で応答する黒い男の言葉をそのままセイバーに向けて流すライダー。水を向けられたセイバーは鼻白むような様子を見せた後、ライダーと黒い男との間に二度三度と視線を行き来させた後、慎重に言葉を紡いだ。

 

「えぇ……彼は我々の協力者です。アインツベルンが聖杯戦争のために外部の魔術師を雇ったと」

 

「成程。貴様らの後詰めという奴か。まあ良い。それで、そこの外部の魔術師とやら。口を挟んできたからには貴様が交渉役を買って出るつもりと思って良いのか」

 

「ああ。……だが交渉相手はお前じゃない。お前のマスターだ」

 

「へ? ぼ……じゃなくて私と!?」

 

 外部の協力者──衛宮切嗣からの突然の指名にウェイバーは動揺する。先ほどまで半ば蚊帳の外で出来事が展開されていたため突然当事者として名前を挙げられたことに驚きを隠せない。

 辛うじて体裁は守ろうとしたが、動揺したのは間違いなくバレている。

 これから交渉挑むという場では失点だ。しかし対するライダーの方はといえば流石に大王だけあって、この手の場はお手の物らしく、表情一つ変えぬまま切嗣の指定に言葉を返す。

 

「ほう、坊主と交渉か。理由を聞こうか」

 

「簡単だ。聖杯戦争を勝ち抜くための陣営同士交渉ともなれば駒と交渉しても意味はない。決定権を持つのは常に英霊のマスター。魔術師の側だ。その気になれば令呪で反故できる相手との会話に意味はない。違うか?」

 

「……確かに。それが道理か。些か気に喰わん露悪的な言い様だが、理はそちらにあるか。良し! だそうだマスター! 此処は征服王のマスターとして上手い具合に話を付けてきてくれ!」

 

「え──ふがっ!」

 

 突然の無茶振りに叫びそうになったところ、鼓舞する風を装って思いっきりウェイバーの背中を叩いたライダーによって阻止される。

 噎せ返るマスターを傍目にライダーはこそっと耳打ちをしてくる。

 

(馬鹿もん。交渉の場でそんな百面相をするもんじゃない。もっとシャキッとせんか)

 

(おま! 交渉も何も僕に相談一つせず振っておいてふざけんな! そ、それに交渉なんて、どど、どうすれば……)

 

(そう難しい内容ではないだろう。ただ単に協力の約束を結ばせればいいだけの事。簡単であろう?)

 

(簡単って、お前な……!)

 

(何だ。今まで随分と息巻いていたようだのに此処に来て怖気づくのか? 殺し合うわけでもない簡単な交渉の席一つで怖気づくとは。情けない、情けないのう)

 

(う、ぐ……~~~ッ!!)

 

 あからさまに煽るようなライダーの言葉だったが、実際その通りであるためウェイバーは言い返せず歯噛みする。確かにこの提案を用意し、この場を勝手に設けたのはライダーだが、その行動は全て聖杯戦争に勝つための戦略であることには違いない。

 ここまで来た以上、今更潜在的敵対者に今までの言葉はライダーの勝手によるものだと言って、この場そのものを破棄してしまえばマスターとしての手腕が疑われるし、弱点として突かれかねない。

 加えてそれより何より──これ以上、何者であれ侮られることは我慢らない。

 

「い、良いだろう。魔術師、衛宮……殿。き、貴殿との話し合いには私が応じよう。場所はここで構わないだろう? 席に案内してくれたたまえ」

 

(流石は余のマスター)

 

 緊張で明らかに動揺が周囲に波及するガタガタの言い様だったが、ウェイバーの背後でライダーはグッと親指を立てて賞賛する。そんな我が子が運動会で一着を取りましたみたいな反応に、ウェイバーはこめかみをピキリとさせるが口から出そうになった怒号だけは寸前で抑えた。

 

「──よろしいのですか? キリツグ?」

 

 一方で影でやり取りを重ねるライダーたちとは違い、セイバーたちの間柄は冷ややかだ。真意を問いただすようにセイバーは協力者に言葉を向けるが、質問に応答はない。

 あくまで協力者だからアインツベルンの英霊であるセイバーと言葉を交わす義理はないとでもいうつもりか、その視線はウェイバーへと固定され、ウェイバーへと話を向ける。

 

「……案内する。ただし、あくまでマスター間の交渉の場だ。互いのためにも英霊はこの場に残すことを条件とする。無論、交渉の場で危害を加えるつもりはない。望むならギアスを結んでも構わないが?」

 

「──……い、要らない。貴殿が闇討ちを狙ってきたとしたら、その時はぼ……私も魔術師として力を振るうだけだ。いざともなれば令呪も使う」

 

 突然の条件追加に内心で動揺するウェイバーだが、半ば見栄を張って切嗣によって付け加えられた条件に往々と応じる。無論、魔術戦になれば戦闘に関する心得など欠片もない根っからの研究肌であるウェイバーに術など無いが先ほどライダーに煽られた手前、弱音は口に出来ない。

 虚勢であろうが何だろうが、自棄でも何でも強気に出るしかない。

 

 が、幸いなことにその方針はドンピシャだったのか。何やら提案した側の衛宮切嗣は微かに目を細め、警戒心を強くしながら小さく頷いた。

 

「──分かった。では、互いに方針を討ち合わせるとしよう」

 

 そういって通路の奥へと進む衛宮切嗣の後にウェイバーも遅れて続く。心臓はバクバクと脈打ち、額からは汗が絶え間なく流れ、正直今すぐロンドンに帰りたいがもうここまで来たら行くしかない。

 そんな弱音だらけの内心を秘めながら、歩を進める──その間に。

 ふと、視界の端にセイバーの姿を捉える。

 

「…………」

 

「……?」

 

 歯がゆそうな、苦虫を噛み潰したかのような──或いは不信のような。

 そんな視線を衛宮切嗣に向けるセイバーの姿が、妙に記憶に残った。




未来のロンドン☆
「かえりたい、いぎりすにかえりたい」

正義の味方
「(遠坂邸での戦闘から即座に動いて結界に秘されたアインツベルンの城に辿りつき、工房の場所を突き止めたという情報を背景に匂わせながら強引に交渉に持ち込むとは。しかもアイリの身体が不調なタイミングに?偶然か?それとも狙っての事か?だとしたら小聖杯の情報も知っているのか?いったい何処から突き止めた?尊大な風を装っているが、油断している様子は無い。あの極度の緊張状態、常に臨戦態勢なのは敵地を警戒しての事か。ギアスの提案にも応じず、これでは罠にかかる可能性は低いか。ならばここは素直に提案に乗りつつ、情報の少ないライダー陣営のマスターを抜くことに注力するべきか)分かった、話し合いをしよう」
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