Metalnova   作:アグナ

26 / 30
ACT-26 名誉無き戦

 不要な消費、不要な犠牲、不要な罪業、不要な悲劇……。

 畢竟、不合理な損失。

 とどのつまり高度な知性を有しながら、理屈の合わない理を許容する世の在り方こそが俺には許せなかったのだ。

 

 弱きが強きに食い物にされる──義憤を覚えるが世の道理だ。例えどれほど文明が発展し、どれほど世界が安定しても競争は生まれる、比較は発生する。資源が有限である以上、弱肉強食のルールは何処までも進化の影を追い続ける故に。

 

 国と国との戦争で戦士たちが死んでいく。認め難いがそれも一つの当たり前。主権を、利権を、国威を。どちらともが国と呼ばれるほどの人々を抱え、一つの国旗に集ったからには譲れるはずなどあるわけがなく、手を取れないなら後は力で証明するしかない。大義に寄った命の損失。

 それも弱肉強食のルールが生み出す一つの結論だろう。

 

 そう──せめて大義名分があれば憤りこそしても納得はできた。

 これは仕方がなかったのだと、諦めがついた。

 だが……あの犠牲には、真実、何の意味も無かった。

 

 お互いにお互いの外患(スパイ)だと思われてたならまだ良かった。何らかの機密作戦の障害として消去されていたならばまだ良かった。あの犠牲に、あの消費に、何らかの意味があったならば俺は皆と共に一秒後の死を受け入れられていたはずだ。

 

 ──不運な事故(・・・・・)

 

 結論として両国はどちらもあの出来事を無かったこととして抹殺した。いつもの小競り合い、両軍の部隊が居合わせた場所に偶々あっただけの場所。

 そこで起きた虐殺は、双方にとって想定外であり、無意味な殺害であり、明確なまでの悪逆であり──それ故に、両者ともに口裏を合わせて無かったことにしたのだ。

 

 ……なんだそれは。

 互いに憎み合って、譲れなくて、仕方がないゆえ争っていた両国が。都合の悪い時に限って互いに手を取り、仲良く犠牲を忘却した。

 

 せめて悲劇として活用し、和睦に使われればまだ意味はあったのに。せめてあの犠牲を口実に全面的な戦いになればまだ意味は残ったのに。

 

 犠牲を無かったことにして──彼らはいつも通りをただ続けた。

 惰性の駆け引きを、日常のようにただ続けた。

 

 無意味(・・・)無価値(・・・)、あの地獄は、発生したことすら世界の何者にも認められなかったんだ。

 

 赦せない、赦されない。赦していいはずなどない。

 秩序とは、世界とは、常に収支が正しくあるべきだ。

 損失には意義を。悲劇には教訓を。悪行にはいずれ生まれる善性を。

 

 海は巡り、雨に生まれ、土を潤し、大地を育み、土壌は生命を育て、生命は朽ち、やがては海に、大地に、世界に回帰し、また巡る。

 循環、転輪──あらゆる者は流れ出で、また旅立つモノ。

 

 であればそれ(・・)は癌だろう。

 何処にも行かず、何処にも行けず──不運の名の下、積み重なり続ける停滞の膿。ならばこそ、そこ(・・)から生まれたモノして、全ての浪費に意味を与えよう。我こそが彼らが在った意義となろう。

 

 悪の弾劾に興味はなく、救罪の夢など俺は見ない。

 

 ただ地獄から生じた者として、全ての地獄を消失させる。

 無意味などは許さない、無価値であることなど認めない。

 

 

「──秩序無きをただ認めない。正しき秩序の担い手として、世界を抑止する者として、無秩序の増長を担う全てを罰する天罰(デウス)となる。それこそが──」

 

 

 あの地獄の理由(価値)だったと、俺は吼え続ける。

 

 

 

×  ×  ×

 

 

 

 胸を貫く激痛。散華する命の源。

 脳裏に過ぎる自らを生み出した原風景(走馬灯)

 それは心を(おこ)すには十分で、感情に撃鉄が落とされる。

 

 真っ赤に燃える視界が過る。

 眼に映るのは驚愕の表情で魔槍を握る槍兵と、彼方で狂ったように狂笑する魔術師。勝ち誇ったように笑いながら命を踏みつけるような様は正しくカルキが見て来た多くの為政者たちに共通するもの。

 まるで我こそが世界であると疑わず、力を背景に多くの地獄に蓋をする塵屑共。

 

 動機、理由、道理、条理。

 

 理性的に物事を判断する機能はそれで残らず吹き飛んだ。

 嗚呼──全く……ふざけるな。

 

「────…………まだだ(・・・)

 

 停止した筈の心臓が鼓動を鳴らす。全身を巡る血流があり得ない速度で稼働し出す。

 吐き出す呼気は、排熱にも似た高温を宿していた。

 

 心臓が止まれば人間は死ぬ──そんな秩序(あたりまえ)を知ったことかとカルキは容赦なく蹂躙した。

 

「っ?! これは……!?」

 

 その異常に、最初に気づいたのは魔力回路(パス)を通じて繋がる従者(サーヴァント)であった。キャスターは致命に至った筈のマスターから供給される有り得ない量の魔力を感知して、逆撃に構えたアゾット剣を握る手を躊躇った。

 敵手と主、その周辺に重量のように魔力が集結していく。

 その空間のみが重みを帯びて歪んでいく。まるで太陽──規格外の核エネルギーが宙域全てに重圧を与えるように。世界そのものがその存在に耐えられず墜ちるかの如く。

 

「……! 我が魔槍に貫かれて尚、意識を繋ぐか……! くっ、理由はどうあれ騙し討ちの批判は甘んじて受けよう! だが俺は──」

 

「知らん。目的も、信念も、貴様ら全ての言い分に興味はない」

 

「ッ!?」

 

 魔槍を引き下げながら飛び退こうとした騎士が止まる。理由は単純、引き抜こうとした得物が引き抜けなかったから。心臓を貫き通した刃を万力のように握る獲物の姿を騎士は捉えた。

 

「ただ死ね(・・)。俺が言うべきことはそれだけだ」

 

 そのまま一閃。己の命を捉えて離さぬ黄色の魔槍を根元から真っ二つに叩き切った。

 

「なっ────!?」

 

 紛れもなくただ純然たる剣閃を前にして敗北した自らの得物にランサーは驚愕して目を見開く。

 ……英霊の宝具とて道具は道具。『不壊』の概念でもない限り、壊れるのは道理である。ランサー、ディルムッドが誇る魔槍とて、例えばセイバーの聖剣(エクスカリバー)と真っ向切ってやり合えば折られることもあるだろう。

 

 だがこれはあり得ない。鋭く、速く、しかし業と呼べるほど研ぎ澄まされているわけではない。ただただ純粋な剣閃によって己が魔槍が完膚なきまでに破壊される。

 そんな所業が出来るなど、それこそ生前にすら聞いたことが──。

 

「失せろ」

 

「ガッ!!!」

 

 だが驚愕の余地などランサーには無かった。続いて振り下ろされる第二の剣閃。辛うじてそれをランサーは残った紅い魔槍で受け止めるが、勢いそのまま受け太刀に動きを縫い留められ、動けなくなり無防備を晒した腹部をカルキに蹴撃された。

 まるで隕石でも衝突したかの如き衝撃。受け身を取る暇など許されず、もんどり打つようにして転がるランサー。そのまま彼は境内まで続く長い石作りの階段を打ち身しながら転がり落ちていった。

 

 それでも意識喪失までは至らなかったのは騎士の意地か、寧ろ悲劇か。

 崖下で無様に転がりながら、消えかけの意識の中、視界に捉えるのは一対一(サシ)の状況にまで持ち込まれた自らの主と敵の姿。もはや叫ぶ余力すら無い中で必死にランサーは言葉を紡ぐ。

 

「お逃げ……くださ……我が……」

 

「……ぁ……な、何をやっている! ランサー! たかが人間に蹴られた程度で──!」

 

 目の前の光景を受け入れられず呆然としていたケイネスが現実に追いついて喚き散らす。だがもう遅い。仮に平静な状態の彼であれば気づけただろう。ランサーとケイネスを繋ぐパスの細さに。今の一瞬で自らのサーヴァントが戦闘不能にまで追い詰められたという事実に。

 

 狂態を晒すケイネスを前に、しかし敵は容赦しない。

 

「────」

 

「ひっ……!」

 

 多くの怪異、神秘を視て来た筈の魔術師が思わず悲鳴を漏らす。

 迫る死に怯えたからではない。殺意に濡れた激情に当てられたからでもない。

 純粋に、カルキのその壮絶な立ち姿に恐怖する。

 

 ──燃えていた(・・・・・)

 

 魔槍の抜けた心臓から溢れ出る血液はさながら熱を宿した油のように、空気に触れた瞬間から炎上しながら気化していく。皮膚の下を巡る血流は電子回路にも似た輝きを帯び、吐き出す呼気には燐光のような火花が散り、片眼は瞼の裏の涙が熱気化することによってか、黄金色に輝き輪郭を失っている。

 

 人体から発せられるはずのない筈の超熱は焦電効果を呼び込み、活動電位というには常軌を逸した電荷がカルキの身体を覆い尽くす。

 それは古より人が妄想する雷神が如くに。

 雷火を身に宿しながら、ただ敵を睨み据えるカルキの壮絶さに、ケイネスはこれ以上ないほどの恐怖を身に覚える。

 

 ……神秘を究め、如何に頂上を知ろうとも所詮は人。大津波や大嵐といった大災害に見舞われた時、人間に出来る原始的な反応は常に一つだ。大いなる力を前に成す術無く恐怖するのみ。

 この衝動には大英雄さえ抗いがたい。

 その上で、恐怖の後に抗う選択が出来てこそ凡庸ならざる証明であるが──この場合、ケイネスにはそういった資質は皆無と言えた。

 

「く、来るなァ!!」

 

 恐怖に急かされ、自らの魔術礼装を奔らせる。つい先ほどまでは周囲を喚く魑魅魍魎の獣共に飲まれていた礼装だが今はその波からは解放されていた。

 聡い黒波の獣たちは野生の勘で気づいたのだ。今この場で発生した災害(あらし)に関われば、もの皆全てが焼き払われると。だから下がった。巣穴に身を隠して伏せる犬のように。

 

 そして立ち向かった場合のイフは程なくして水銀が証明する。

 

 鞭のように鋭く迫る水銀の刃。

 それを前にしてカルキは構えない。

 構える必要がない。それはキャスターが対応するからでも、水銀の刃がカルキを外してくれるからでもない。もっと単純にしてどうしようもない理由。

 

 水銀の刃は──カルキに触れた端から溶解し、あっという間にその形を保てなくなっていく。

 

「そんな……馬鹿な!?」

 

 魔力による加工(術式)ごと溶解させるカルキの雷火。極々単純な物体が対応できる温度の暴力により、天才ケイネスの生み出した傑作礼装はあまりにも呆気なく破壊された。

 

「────」

 

 一歩、無言のままにカルキが踏み出す。

 

「ひぃぃ、寄るな下郎めが! クソ、ランサー! 貴様、いつまで寝ている!! 主を守るのが騎士の、サーヴァントの役目であろうが!! いつもの騙り口は何処へやったッッ!!」

 

「────」

 

 進む、進む、妨害が無ければ当然のようにケイネスとカルキの間合いは狭る。

 

「おのれ! 役立たずの凡骨め!! 主の手を掛からせよって……! 令呪を以て我が従者に命ず! ランサーよ、疾く我が身を守れ!」

 

「────」

 

 遂に切られた絶対命令権。一撃で行動不能にまで追い込まれ、盤外に跳ねだされたはずの戦士が最前線に引き戻される。魔法のような現象すら引き起こす令呪による空間転移。

 カルキの正面にランサーの姿が引っ張り出される。

 だが当然ランサーは既に戦闘継続が困難なほどのダメージを負っている。もはや数合と打ち合うことすら困難な状態だ。

 しかし背後に死に瀕した主人を背負っていると言う自覚が彼に最後の機会を与える。

 

「その下郎を、疾く殺せ!ランサー!!」

 

「っづお……、……我が、主を()らせはせん! オオオオオオオオオオ!!」

 

 令呪の命令による転移と意地と決死を懸けた渾身の一撃。

 残された二槍の片割れ、紅い魔槍を手繰りランサーは死神のように迫る嵐目掛けて全霊を賭して立ち向かった。

 仮に正気のカルキであれば賞賛の一つでも送ったであろう騎士の鏡の如き振る舞いだが、今のカルキに敵の献身を慮る気遣いなど出来るはずも無く。

 

「────遅い」

 

 殆ど予備動作を感じさせないほど自然な形で前傾姿勢に移行すると、カルキは一足飛び迫る魔槍に飛び込んだ。槍が眉間に触れる寸前で下段から振り上げた一刀で、接触点を逸らし、耳の肉を僅かに削ぐか削がないかといったギリギリの接点で致命傷を凌ぎきる。

 そのままランサーが二撃目に槍を引き寄せるよりも先に、ランサーの懐に寄ると、その側頭部へとカルキは加減無しの裏拳を叩きこんだ。

 

「ッア────!?」

 

 揺れる世界。正気を失う五感。酩酊する意識。

 仮初の肉体を襲う脳震盪にランサーは蹈鞴踏みながら崩れ落ちる。

 意識は健在でも肉体の自由はこれで完全に手から離れた。

 

 残る手段は主の手に残る一角限りの令呪のみ。

 

「この──ッ!!」

 

 憤怒と恐怖交じりに口内であらん限りの怨嗟を飲み込むケイネス。まだ一角、彼の手には令呪がある。それを切れば或いは後一瞬ばかりかは命を繋げたかもしれない。

 だが──激情のままに令呪に魔力を叩きこもうとした刹那、ケイネスは思考してしまう。

 

“ここで令呪を全て失えば、ランサーを制御する手段をうしなってしまう──”

 

 どれほどの感情に支配されていようとも理性的であれ、合理的であれと願う魔術師としての本能。絶体絶命の状況下にあってもこの一瞬にケイネスは迷った。

 期間限定の従者。果たして真意不確かな自らの傀儡が令呪も無しに己に従うのか──此処まで積み重なってきた不信の種がこの局面でケイネスに芽吹く。

 

 よって結末は必然であった。最後の希望を自らの手で手放したケイネスに因果応報の刃が振り下ろされる。

 無慈悲な一刀。雷火を帯びた一撃は令呪の宿るケイネスの腕を根元から袈裟切りに切り裂き、そのまま腰下にまで突き抜ける。

 

 刃に遅れて……ズルリと重力に従い、ケイネスは文字通り上半身と下半身に分け斬られた。

 

「ガッ……アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「──痛みにのたうち回り……苦悶のままに死ね下郎。貴様のような男には、その末路こそ相応しい」

 

 そう言ってカルキは刃を収め──雷火が消失すると同時にそのまま糸の切れた人形のように崩れ落ちた。不治の傷を心臓に受けながらも逆撃する胆力も限界だったのだろう。

 

 ……強引に『神の体液』を駆動させ、自傷する勢いで治癒能力を高めた代償が、カルキの意識を刈り取ったのだ。だが、地に崩れ落ちる寸前に予見していたかのような動きでカルキの身体をキャスターが受け止める。

 そのままカルキの口に何かを含ませると、中空に手を翳してカルキごと、その姿を行方を眩ました。

 

 空間転移か、はたまた隠匿魔術の一種か。何はともあれキャスター陣営が撤退の選択肢を取ったことは間違いない。尤も撤退というよりかは単に目標を達成して引き上げたというべきだろう。

 

 何故ならばこの場には既に敵と呼べる障害は残っていないのだから。

 

「主……我が……主よ……ッ……!」

 

「ゴふ……ぁあ、があ……ァァ……」

 

 主たる魔力源を絶たれたことで存在感を薄ら散らし始めたランサー。共同魔力源としてケイネスに協力しているソラウの供給が生きているため、霊格は維持できているが、受けた損傷は治せていない。

 辛うじて動く片腕で全身を引きづり、死にゆく主に近づいていく。

 

 苦悶に呻く主は間違いなく致死に至るだろう。未だ意識が残っているのはエルメロイが十代と重ねて来た魔術刻印の存命機能のお陰だ。尤も生かすに至らない強制治癒など地獄の引き延ばしだろう。

 雷火で肉どころか骨の芯、神経に至るまで焼き尽くされたケイネスは発狂も許されぬ激痛の中で、死を待つことしか許されない。

 

 故に──朦朧とする意識の最中で、見つけた激情の宛先に、呪いが零れる。

 

「我が身の、不甲斐ない……ばかりに……! 誠に申し訳ございません。我がある──」

 

裏切り者め(・・・・・)

 

「────…………え?」

 

 ……聖杯に呼ばれた英霊は、みな参戦する魔術師たちと同じように聖杯に掲げるべき願いがある。セイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、アサシン、バーサーカー、カルキに従うキャスターにすらも。誰しもが生前に遂げられなかった悲願を、或いは仮初の命を与えられたからこその祈りを、大小問わず持っている。

 

 ランサーのそれは、忠義であった。

 

 ディルムッド・オディナ。フィアナ騎士団の一番槍をして武名を鳴らした彼の未練とは。生前に遂げられなかった純然たる騎士としての振る舞いだ。かつて愛が故に主の信に背いて、主の不信が故に命を落とすことになった生涯。その一生を後悔したが故に彼は聖杯に願った。

 

“願わくば、次の一生では騎士としての本懐を。忠節の者として、曇りなき勝利と栄光を主へと──”

 

 ──その一心で参加した此度の聖杯戦争。

 全力だった。本気だった。断じて背信など考えなかった。

 この槍は真実、主が勝利のために振るうと決めていたのに。

 

 死に瀕した主の言葉は、如何なる罵倒や怒声をも上回る一番聞きたくない怨嗟の声だった。

 

「私の婚約者であるソラウを拐かすに留まらず、下郎相手に何の役にも立たない木偶など……私に勝利を献上する? 騎士として忠義を誓う? ……聖杯には望まず、ただ信義を貫く……だと? 私の期待の全てを裏切っていった貴様がよくもそんなことを言えたものだな……!」

 

「な、ちが……わた……俺は! 俺は本気で貴方に忠を誓って……!」

 

「そう口では言って何度でも裏切るのだろう? ……愚図め! そんなお為ごかしに何度も騙されるものか! そういって生前も主を裏切ったのだろう? 卑しい、汚らわしい、匹夫めが! 嗚呼、私に失策があったとすれば貴様のような男を一瞬でもサーヴァントとして信頼したことだ。それこそ貴様の主のように、初めから貴様など抹殺すれば良かったのだ……」

 

「違うッ! 違うのですッ! それは主を裏切ろうなどと微塵も考えてなどいない! 力及ばずことを罵られることは甘んじて受け入れましょう、ですが! 俺は主を背くことだけは真実一度たりとてしていないのです! どうか、どうか主よッ、俺を信じて──」

 

「信じられるはずがなかろうが! 貴様の言う()とは私のことではないのだろうがッ(・・・・・・・・・・・・・・)!!」

 

「────ぁ」

 

 ──その絶叫はランサーすら無意識であった本心を貫く致命的な言葉だった。

 過去、為せなかった忠義を貫く。

 その願い自体には善悪は無いだろう。かつて主を裏切った身として、今後こそ、勝敗はどうあれ主と共に最後まで駆け抜ける。そう願ったランサーの願いに瑕疵などない。

 

 ランサーに罪があったとするならば、その願いを他者に押し付けたこと。

 ケイネスという一時の協力者に生前の主と同じものを押し付けたことだ。

 

 騎士の価値観と魔術師の価値観は違う。ましてや初対面の関係値。共に戦場を駆け抜け、若き日々より信頼を積み重ねて来た騎士団長フィン・マックールと、時計塔の天才として現代に名を馳せるケイネス・アーチボルトとでは前提条件からして何もかもが違うのだ。

 そんな違う相手に対して、ただ無心に生前と同じものを願うランサー。

 

 それは……相手を見ていないのと同然だ。

 彼は罪を直視するあまり、それ以外を一切見なかった。

 信とは相互理解の果てに積み上げられるもの。

 

 初めから理解しようとしなかったランサーに、それが得られるはずも無く。

 

「騎士だと……? 貴様など──」

 

 故に──。

 

「貴様など──ただの卑しい、裏切り者にすぎない……!」

 

 感謝も労いも、信頼から出る言葉は一切なく。

 終始一貫して怨嗟の言葉を吐き散らしながらケイネス・エルメロイ・アーチボルトはこと切れた。生きていればそれこそ『冠位』にも届き得ると称された至高の才が、魔術世界から失われたのだ。

 残ったのは、ただ一つ。

 

「お……おお……おおお……オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 名誉無き戦に敗走した。亡霊の絶叫であった。

 耳をつんざく嘆きを聞き届けるのは愁嘆場を囲う獣のみ。

 

 地の底で蠢くようにして彼らは、騎士の絶望を舐めるように下卑た笑いを浮かべながら傍観した──。




普段怒らない人を怒らすと怖いよねって……。
え?聖杯戦争?元々殺し合う仲?
黙れ嫌なこと思い出させやがってビーム!

相手は死ぬ。


裏切りにも作法があるって戦国時代から言われているからね、仕方ないネ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。