Metalnova   作:アグナ

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ACT-30 破綻

「はっはー! 早速結んだ同盟が活きる時が来たではないか坊主!」

 

 轟々と空に響きたる稲妻の如き音は戦車の車輪から発せられるもの。

 空を征く二頭の飛蹄雷牛(ゴッド・ブル)が牽引する戦車(チャリオット)。

 征服王イスカンダルが有する宝具『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』である。

 

 夜も更けた頃。街外れにある深緑の森に上がった魔力波動を察すると同時、ライダーは主であるウェイバー・ベルベットの首根っこを掴みあげ、颯爽と進軍を開始していた。

 空を駆ける戦車の速度は既に百キロを超え、空を征く故に進路(ルート)は最短。同盟者の城にまで辿り着くのに一時間と掛るまい。

 

 気持ち的にはさらに全速力で駆け抜けたいところだが……突然、仮宿とするマッケンジー宅の二階から首根っこを掴まれ飛び降りさせられた挙句、状況を察するより先に空の旅路に突き合わされて不機嫌極まる主は、そこまでの自由をライダーに許さなかった。

 

「いいか!? 約束を守るのは良いけど力を出しすぎるんじゃないぞ!? セイバーたちとは一時の不戦条約を結んだだけで最後は戦うんだからな!? 寧ろあわよくば戦って消耗してるところを……! って痛い!」

 

「馬鹿もん! そんな無粋な真似を余がするものか! 彼奴との決着をつけるならば日を改めるに決まっておろうが! 弱った相手を手にかけたとあっては征服王の名が廃るわ! ふふん、敵は名だたる騎士の王。真正面から獲るからこそ価値があるというものだ」

 

 魔術師らしい合理性を説く主を一蹴してライダーは不敵に笑う。

 

「ゆえに騎士王との戦いは改めて行うものとし、此度はただ戦略無くして討ちえぬ難敵を狙うのみ。かの勇者、両雄を相手に怯む手合いではあるまいて!」

 

「づぅ……って、まだキャスターの所が敵と決まったわけじゃないだろ! 同盟は確かにキャスターの所を見据えてのものだけど敵は他にもいるんだし、何か想定外の事が起きたって可能性もあるだろう!?」」

 

 今夜、突如としてアインツベルン城方面で上がった魔力波動(花火)は同盟に際して切嗣とウェイバーが取り決めた救援信号である。

 それが上がるということはどちらかが敵に襲われたということ。そしてウェイバーが把握するところセイバー・ライダー同盟を除いた残る陣営はランサーとキャスターの陣営のみである。

 つまり現在進行形で起こっているだろうアインツベルンでの戦いはランサーかキャスターのどちらかが主導するものだと考えられる。

 

 しかし……。

 

「ふん、分かってないのぅ」

 

 その二者択一の保証をやれやれと知った顔で呆れたようにライダーは否定した。

 小馬鹿にするようなカチンとくる態度に思わずウェイバーは食って掛かった。

 

「何がだよ!」

 

「無論、戦場の空気によ。既にこの聖杯戦争も佳境。なれば場が動くとあれば自ずと何処もかしこも動き出すに決まっておろう────お? 現にほれ。あそこにキャスターのマスターも居るではないか」

 

「だからキャスター陣営かどうかまだ……はい? キャスターのマスター?」

 

 言い合いの最中、不意にライダーが地上に見下ろす一か所に指を向ける。

 ウェイバーは一瞬、何を言っているのか理解できず、ただ反射的にその方向へと目を向ける。

 

 空から見下ろす街区は深山町。その住宅街の屋根を飛び征く地上の流星。雷のような魔力光を発しながらライダーを並走するように同じ方角を目指す影がある。

 キャスターのマスター、カルキ。

 サーヴァントに匹敵すると思われる勇者は当たり前のように同じ戦場を目指して駆けていた。

 

「キャスターのマスター!? じゃあ今、アインツベルンの奴らが戦ってるのは……!?」

 

「さてランサーか、はたまた別の相手か……なんであれ、丁度良い!」

 

「へ? 丁度良い?」

 

 ライダーの発言に意図を掴みかねて首を傾げるウェイバー。だが、彼が意図を掴むより先にライダーは行動を移している。

 進軍速度が下がり、同時に『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』が降下する。まるで知り合いに車を寄せる様な軽いノリで、ライダーは地上の流星との距離を詰め──。

 

「よォ、キャスターのマスターよ! お主も城を目指しておるのか?」

 

「……──ライダーか」

 

 軽々に、同盟を結んだ大敵(原因)へと話しかけていた。

 その気安すぎる態度にウェイバーの方は遂に言葉も無くなり、唖然とする。

 

 マスターの言葉も相手のことも気にやらず傍若無人に振舞う様は正に暴君。それでいて大王として君臨した片鱗を見せる絶大な大器であった。

 敵を憎まず、疎まず。明日の敵をも出会ったならば今日の友とする度量の深さ。敵味方の垣根を超え、友愛を結ぶ征服王らしい有様だといえよう。

 

 対して、その敵側といえばこちらはこちらで敵意を見せずして会話に応じる。征服王とは別の理由で、こちらも割り切りの良い性質なのだろう。

 彼からすれば突然現れ、気安く話しかけて来た敵にカルキは素面で応じた。

 

“……マスター”

 

「良い──不意打ち一つせず、話しかけてくる辺り害意が無いのは悟ったが、ならばこそ何の用だライダー。俺の目的に何か思惑が重なるところでもあったか?」

 

 語り掛けてくる霊体化したキャスターの行動を一言で止めながら、カルキは突如として寄ってきたライダーに向けて目も向けず言葉で応じる。

 

「何、余もまた城を目指しているゆえ、同じ道を征くとあれば道中で歓談するのもどうかと思ってのう。それに余はセイバーと二人、主を共通の敵と見た同盟を結んでおる。ここらで一つ、敵情を探ってみようと考えたまでよ」

 

「それは……まあ、剛毅だな」

 

「ふふん、そう褒めてくれるな」

 

 隠すことなく明かされた思惑に、思わず鉄面皮のカルキをして呆れた顔と言葉が送られるが、その皮肉を賞賛と受け取ったライダーは誇るように鼻を鳴らす。

 だがライダーが満足してもマスターの方はといえば最悪だ。

 この馬鹿何してくれちゃってんですかと言わんばかりに叫んだ。

 

「こんッの……! 馬鹿ァァ! 何さらっとセイバーとの同盟をバラしちゃってくれてるんですかァッ!!?」

 

「うむ。いずれ知られるのであれば今知らせても問題なかろう?」

 

「大有りだァァァ!!!」

 

 昨夜、壮絶に胃を痛めながらセイバーの協力者を名乗る物騒な相手と何とか盟を結んだのは記憶に新しい。

 ライダーの無茶振りを何とか成功させ、合図をきっかけに平時は別々に動くと取り決め、達成感と共に帰ったのが今朝の話。

 敵に知られぬ手札を一枚増やしたことで満足顔でさっきまで今夜の作戦を組んでいたというのに、その段取りは遮二無二言わず連れ出したライダーによって破綻し、今日以降の戦略の要は今の一幕でその手札があっさり吹っ飛ばされてしまったのだ。

 これで冷静であれというのが酷であろう。

 

「どうすんだよ!? これじゃあ自分から敵意を煽るようなもんじゃないか!」

 

「そうか? ふむ、我がマスターはこのように言っておるが……どうなんだ、キャスターのマスターよ」

 

「そのままこちらに振るかね、普通」

 

 マスターの叫ぶ不平不満をそのままカルキの方へと流し見するライダー。

 傍若無人も此処に極まれり。

 気安すぎる対応にカルキは嘆息しながらも律儀に応じた。

 

「……そちらに害意が無いなら今日中に貴様と決するつもりはない。俺の目的は既に聖杯戦争の諍いとは別の所にある。今、アインツベルンを目指しているのもセイバーの首が目的ではない」

 

「ほほう、面白いことを言うではないか。聖杯戦争の最中にありながら聖杯戦争よりも優先すべきものがあるとはのう。是非聞かせてもらいたいところだが?」

 

「俺も事態の全てを把握して動いているわけではない。その前提を置いて語らせてもらうならば……どうも英霊全てを倒せば願いが叶う、という単純な構図ではないようだ。この聖杯戦争には名状しがたい悪意が絡んでいる」

 

「悪意とな?」

 

「然り。人々に害を成す類の悪意だ……聖杯そのものなのか、はたまた暗躍している何かかが原因なのか。何にせよ、それを明かし討伐するのが今の俺の目的だ。故に貴様らとの諍いに無駄な時間を使っている暇はない」

 

 カルキが告げる内容に興味深そうに顎を撫でるライダー。だが、傍から聞いているウェイバーの方は興味深いだけでは済まさせれない。

 人々に害を成すという悪意、聖杯か或いは未知の敵が絡む不穏な話題。聖杯戦争も佳境であるこの局面でそれを聞いて無視できるものなどいない。

 

 ライダーへの文句を飲み込んだウェイバーは、恐ろしい宿敵を前に意を決して自ら話しかけた。

 

「その、悪意って言うのはアンタから見て危ないものなのか。いや、アンタが聖杯戦争より優先してるから不味いんだろうなっていうのは判るけど、それはアンタから見てどれぐらい危ない?」

 

「そうだな……『アレ』が氾濫すると考えれば、少なくともこの街が死都と化す程度には危険と言えば現状把握としては正しいか」

 

「死都だってッ!?」

 

「ん、何だ坊主。そりゃあ不味いのか?」

 

「不味いなんてもんじゃない! 死都なんてつまり、この街自体が死んでしまうようなもんじゃないか!」

 

 死都とは文字通り都市部としての機能停止。

 魔術世界では吸血鬼──死徒(・)によって街一つが支配されることと意味を同じくするが、なんにせよその言葉はその街に取り巻く全てが全滅することを意味する。

 

 不味いなんてもんじゃない最悪の結果と言えるだろう。

 

「でもなんでそんなことが……!」

 

「それは知らん。知らんが、『アレ』は聖杯クラスの魔力供給があって成立する災害だった。だとすれば聖杯戦争の根幹部分に関わっている存在だと考えるのが妥当だろう。それを検める意味でもアインツベルンには用がある」

 

「成程な。つまりお主は、その悪意とやらを食い止めるため行動していると、そういうことか」

 

「その理解であっている。だからこそ、今はお前たちと争うつもりは……」

 

 ない、とカルキが言い切るより先にバチンと拳を合わせる快音が響く。反射的にカルキが目をやると、音の元たる征服王は何やら闘志を燃やして泰然と笑っていた。

 

「相分かった! 勇者たるお主にそこまで言わせる手合いとあらば、この征服王の見逃せる相手でもない。ましてや今を善く生きる人々を危機に晒すとあっては……英霊として見逃せるものでも無し! 余も助太刀するぞキャスターのマスターよ! 件の悪意、ともに打ち砕こうではないか!」

 

「ちょちょちょちょ、何勝手に決めてんのさ! お前は!?」

 

「街一つを殺す悪意が蠢いていると聞かされたら、此奴の言う通り聖杯戦争どころではなかろう坊主? それともなんだ、坊主は街の皆を見捨てても良いとそういうつもりか?」

 

「そ、それは……そ、そんなわけないだろ! 時計塔でも神秘は人目を隠すものだと教えられるし、街一つダメにするような何かだなんて聖杯戦争どころの話じゃない! そ、それに……それに……む、無関係の人を巻き込むのは、その……違うだろ」

 

「ハッ! よく言った坊主! それでこそ余のマスターよ!」

 

「ってぇ!?」

 

 魔術師としての態度を見せつつ、最後は人としての良識から賛成を取るウェイバーにライダーは勢いよくその背を軽快に叩いた。

 

「と、いうわけじゃキャスターのマスターよ。此処は一時同盟と行こうではないか!」

 

「……俺を仮想敵にセイバーと同盟を結んだのではなかったのかな、貴様らは」

 

「無論! だが、そんなことは後でも出来よう。まずはお主と結び、悪意とやらを討つ! その後、セイバーと組み、貴様を討つ! 何の問題もなかろうよ」

 

「…………ふっ、確かに。一周回って、もはや痛快だよライダー。戦場で笑わせられたのは正直初めてだ」

 

「はっはっは! 何だその辺知らずに育ってたのか勇者よ! 余の時代ではな、勇者は戦場でこそ笑って見せるものよ!」

 

「そうか……生憎とそれを良しとするつもりはないが、そういう時代があったことは認めてやるとしよう。征くぞ」

 

「応ともさ!」

 

 此処に方針を同じくした両陣営はそれきり言葉なくして目的地を目指す。

 町を駆け抜け、森へ。その先のアインツベルン城へ。この一時に手を取り合い、この街を取り巻く悪意を挫くべく、義心で以て戦場に参ずる──。

 

 

× × ×

 

 

「…………」

 

 衛宮切嗣が敢えて玄関ホールを見下ろせる二階部の柱の裏側に身を伏せ、陣取ったのは強襲してくる敵の行動を予想しての事だった。

 キャスターのマスター、カルキ・H・ピースマン。彼は英霊とも比肩する近接戦の達人。魔術師というより軍人のような手合いである。

 

 ともすれば玄関から正々堂々踏み入るよりも定石に乗っ取り、敵の警戒が手薄であろう箇所から慎重に侵入してくるのが予想される。

 少なくとも普通ならばそうするだろう。

 だが、彼はあくまで軍人のような手合いであって軍人ではない。

 策略を、計略を、戦場での最適解を分かった上で平然と踏み潰す。

 

 真っ向から迅速に打倒するのが彼最大の強みである。

 

 故に──彼が、相手が衛宮切嗣のようなテロリズムに精通した相手と判っているならば、身を隠して行動するよりも一気呵成に打ち破ることを選ぶだろうと切嗣は予想する。

 裏からの侵入は当然、切嗣に予想される。その場合、バレずに敵に元に辿り着くならば罠攻略は必須だ。当然その方針では攻略に時間を要する。

 

 完全なる敵陣地で、地理感覚も無いまま一つ一つ罠を攻略していくのは悠長にも程がある。切嗣ならばその間に敵を察知し、戦う前に離脱を選ぶだろう。

 或いはその後、敵ごと城の爆破でもするに違いない。

 ましてやその方針ではカルキの強み──速さを殺すことになる。

 

 カルキの取る戦術予想、そしてカルキが想定するであろう敵の評価。

 その二つを考えれば彼が高確率で真正面からの速度重視の攻略法を取ることは容易に想像がついた。

 だからこそ切嗣は玄関にありったけの地雷と罠を仕掛け、さらにそれが破られることを前提に本命たる致死の一撃を喰らわせるべく、こうして二階部に潜んでいるのだ。

 

「…………」

 

 港湾区での戦いでも用いたワルサー狙撃銃のスコープ越しに荘厳なアインツベルン城の玄関扉を睨みつける。

 ……此処までの戦闘で、カルキという魔術師が攻撃に比重した存在であることは割れている。敵の主武装は二刀。近接戦に特化した使い手であり、かつ防御手段に乏しい手合いだ。

 

 アーチャー攻略時、彼は光の剣で宝具を撃墜していたが、その桁違いの魔力で防御の結界なり盾なりを形成する様子は一切なかった。

 というより、魔力放出や身体強化のような基礎的な魔術式以外使う様子が一切ない。彼は常にその膨大な魔力を強化材料(ブースター)や中近距離(弾丸)としてしか使用してこなかったのだ。

 

 手を隠している──ということも考えられるが、あのアーチャー相手にその余裕を見せられるほど余力があるとも思えない。

 だからこそ切嗣は此処までの戦闘の全てを彼の全力だと仮定し──『狙撃』という手段こそが彼に致命傷を与えると判断した。

 

“令呪によるアーチャーの自害……ともすれば今までの奴の言動から察せられる人格とは乖離した方針。それは奴が勝つためにはそうせざるを得なかったものだと推測できる”

 

 つまりは“距離”だ。彼は確かにサーヴァントと打ち合えるほどの戦闘能力を有するが、人であるゆえにサーヴァントよりも分かり易い弱点がある。

 近接に秀でる反面、遠距離での戦いに極めて劣る。

 ならばこそキャスターのマスターであることにも合点がいく。枠が埋まったことによる消去法という面もあるにせよ、自らが手の届かない部分を埋めるためにこそ彼はキャスターのマスターとなったのだろう。

 

“間合いの遠距離(そと)からの攻撃は高い確率でキャスターが守っている。真っ当に不意打ちをしたところで防御されてしまうだろう、だが──”

 

 玄関の仕掛けは開門ではなく、踏み入った瞬間に発動するようになっている。

 考えられる奴の行動──恐らくは例の光の剣で玄関を斬り破って登場する──次に彼は堂々と踏み入り、ワイヤー式のトラップで敷いたクレイモア地雷餌食となり──自らの地力で以て斬り抜ける──その魔力反応に応じて今度は五感を縛る手榴弾(フラッシュバン)が発動する──と同時にアインツベルンから借り受けた金細工の使い魔が殺到──それを今度はキャスターが撃退する──その誘発した混戦状態で。

 

“……この玄関部には通常の結界に重ね掛けする形でもう一つ、囲い無いの魔力を一時的に散らす仕様の結界を敷いた。英霊クラスの力を無効化するほどの意味は持たないが、防御を柔くする程度の効果はあるだろう”

 

 切嗣の隠れるこの場所から階下までは数百メートルも無い。ワルサー狙撃銃の有効射程距離を考えれば、完全に間合いに収まるものであり、威力も距離が短い分、十分以上に発揮できる。

 さらに万が一、第一射(ファーストショット)を防がれたとしても、二段構えとして腰には本命中の本命、『起源弾』を装填したトンプソン・コンテンダーがある。

 

 防御が叶うならばそれはそれで全く結構。この間合いで狙撃銃から身を護る防御ならばさぞ『起源弾』の直撃は致命傷になることだろう。

 ……人事は尽くした、とはいえ気になるのは。

 

“セイバー、誰と戦っている……?”

 

 敵が、仮想標的とするカルキとは限らないということだ。

 

 仮に敵が城内に侵入したとあれば切嗣は城中に仕掛けたCCDカメラで状況を把握することが出来ただろう。

 だが敵が来た、と切嗣が判断できたのはつい先ほどアインツベルンの森に敷いた結界内の異常と、セイバーの出撃に端を発してのものであった。

 

 セイバーに通じれば敵の詳細をすることも出来ようが、その手のコミュニケーションは取らないとの方針を切嗣自身決めているのでそれは不可能。ならば残された手段は、遠見の水晶ないしアインツベルンの結界を通じて敵を把握することだが、そもそもそれらの術者は切嗣ではなく、アイリの方だ。

 アインツベルンの正統な魔術師でない切嗣には結界に通じる権限は無いし、遠見の水晶を用意している時間はこの強襲には発生しえない。

 

 つまるところ切嗣は敵を知る前に迎撃体制へ移行することを強いられたのだ。

 

“とはいえ本命のキャスターのマスター。残る英霊が他にライダーのみと考えればその線が最有力──”

 

 その予測は果たして──答え合わせの時とばかりに扉が揺れた。

 

「…………ッ」

 

 ズン、と底から響く様な振動。

 直後に玄関の守りと置かれた荘厳な扉、その取っ手に当たる部分を中心に扉全体に亀裂が奔った。外部からの衝撃を受けて損傷したのだろう。

 あの扉の向こうに、扉の開閉ならざる手段で突破を試みる輩がいることの証明であった。

 

 引き金に指を置く。

 勝負は敵が扉を破り、第一歩を踏み込んできたその瞬間。

 絶え間ない罠の数々に混乱するその一瞬にこそある。

 

 緊張に早鐘を打つ心臓を浅く息を吐いて落ち着かせ、切嗣は勝負の時を待ち受ける。

 

 ズンと二度目の衝撃。土煙を上げ跡形も無く砕ける扉。

 これで敵の侵入路が生まれた。

 

“…………さあ、来い────…………?”

 

 煙越しに朧に見える人影。それは肩越しに何かを構え、正面ではなく二階部の吹き抜け回廊に照準し──何かの発破音と、噴出音。

 聴き馴染みのある近代兵器の音。

 

“ロケットランチャー!?”

 

 俗にいう対戦車擲弾発射器(ロケットランチャー)。予想された近接武器の使い手に有るまじき兵器での強襲に、切嗣は目を見張り同時にすぐさま狙撃銃を捨て、回避に移る。

 敵の居場所を把握した上での砲撃ではないのだろう。

 標的を決めずに乱射されたそれらは二階の吹き抜け回廊を崩壊させた上、周囲に伏せてあった罠らもまとめて衝撃で破壊し、さらに破壊の巻き添えで発動した罠もまた標的を把握せぬまま破壊の勢いを増長させ、華美な意匠で彩られたアインツベルンの玄関ホールは一瞬のうちに無惨な様相となっていった。

 

 爆撃後も斯くやと言わんばかりの跡地、何とか崩壊の最中から脱出した切嗣は二階部から転がるようにして一階に着地した。

 

「……クソッ!」

 

 カルキの直線的な攻撃を念頭に置いていたため、このような絨毯爆撃は想定の内に無かった。自らの失策を悟りつつ、切嗣は顔を上げ、ようやく敵の正体を視界に収める。そこに居たのは……。

 

 

「久しぶり──いや、この時系列ではまだ初めましてだったかな? 衛宮切嗣」

 

 

 中腰で身構える切嗣を見下ろすように現れた壮年の男。

 その──事前の情報に一切引っかからない壮年の神父を目の当たりにし、切嗣は困惑に固まった。

 

「お前は──誰だ?」

 

 我知らず切嗣が問いの言葉を紡ぎ出す。

 瞬間、敵と思わしき神父は悪魔のようにその口元を三日月に歪め。

 

「私の名は言峰綺礼──決して貴様と相容れぬ、貴様の敵だよ。ふ、ふふふふふ……そうだろう? 衛宮切嗣、多を生かすため少を殺す正義の味方よ」

 

「────」

 

 想像だにしない敵の名と予想だにしない言葉に切嗣が硬直する。

 ──運命は此処に。

 定められた筋書きをなぞる様に、不倶戴天は邂逅した。

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