東堂葵をキヴォトスにひとつまみ   作:むめい。

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アンケートの回答は意外にもネルが今のところ一番多いですね、ネルのキャラ解像度低いんで困ってます。


3話 性癖の開示

 

しばらく、二人は黙って歩いていた。

 

 東堂葵は、周囲を見ていないようで、すべてを見ていた。

 銃を下げた生徒。

 笑いながら引き金に指をかける距離感。

 守られている自覚と、それに甘える空気。

 

 先生の方から口を開いた。

 

「“さっきの戦闘だけど”」

 

 東堂は返事をしない。

 

「“トラブルの原因は、だいたい分かる”」

「……ほう」

「“君は歩いていただけ。絡まれたんでしょ?”」

 

 先生は一拍置いた。

 

「“でも、ひとつだけ聞きたい”」

 

 足を止める。

 

「“どうして君は、ヘイロー...光の輪も無しに彼女たちと戦えた?”」

 

 東堂は、立ち止まらない。

 歩きながら答えた。

 

「なるほどな」

 

 低い声。

 

「どうやら、俺たちは同郷らしい」

 

 先生の眉が、わずかに動く。

 

「会った時から勘付いてはいたがな、確信は持てなかった」

「俺と常識が同じなのが何よりの証拠」

 

 東堂は、肩越しに先生を見る。

 

「質問の返答だ」

「俺には力があり、それを操る術を持っている」

 

 東堂葵は、淡々と言った。

 

「だが、それだけだ」

「特別でもなければ、祝福でもない」

 

 先生は黙って歩調を合わせている。

 

「守られていない世界ではな」

「力は“理由”とセットでしか振るえん」

 

 東堂は、前を見たまま続けた。

 

「殴れば壊れる、撃たれれば死ぬ。だから、殴る前に考える」

「考えずに振るう拳は、ただの暴力だ」

 

 先生は、ゆっくりと息を吐いた。

 

「“つまり……覚悟の問題?”」

「違う」

 

 即答だった。

 

「覚悟など後付けだ」

「本質は、選択だ」

 

 東堂は、そこで足を止めた。

 

 振り返り、先生を見る。

 

「殴るか」

「殴らないか」

 

「殺すか」

「生かすか」

 

「その全部を、自分で選ぶ」

「それだけだ」

 

 先生は、しばらく沈黙した。

 

 街の雑音が、二人の間を流れる。

 

「”……君が、危険視される理由がよく分かった”」

「光栄だな」

 

 東堂は鼻で笑った。

 

「だが安心しろ」

「俺は、つまらん相手にしか手を出さん」

 

 先生が、首を傾げる。

 

「“つまらん?”」

「覚悟のない奴だ」

「自分で選ぶ気のない奴」

 

 東堂は、ふっと息を吐く。

 

「……で」

 

 唐突に、話題を切り替えた。

 

 先生が一瞬、戸惑う。

 

「“で?”」

 

 東堂は真顔で言った。

 

「もう一度聞く、どんな女がタイプだ!?」

 

 空気が止まる。

 

 先生は、完全に不意を突かれた表情をした。

 

「”……え?”」

 

「答えろ!」

「今すぐに!」

 

 先生は、少し困ったように笑う。

 

「“さっき言ったのじゃダメだったかな?”」

 

「女の前だ、カッコつけたくなるのもわからんことはない」

「しかし!」

 

 東堂は胸を張る。

 

「性癖には、そいつの全てが反映される」

 

 一歩、距離を詰める。

 

「女の趣味がつまらん奴は」

「生き方も、戦い方も、つまらん」

 

 先生は、逃げなかった。

 

 考え、そして静かに答える。

 

「”ごめんね、答えは変わらない…一生懸命な子”」

「“自分の弱さを知っていて”」

「“それでも前に出ようとする”」

「"そんな女性がタイプかな"」

 

 東堂は、じっと先生を見つめていた。

 

 数秒。

 

 値踏み。

 

 そして。

 

「……軽薄だな」

 

 はっきりと、吐き捨てた。

 

「理想論だ」

「誰でも言える」

 

 先生の表情は、崩れない。

 

「“そうかもしれない”」

 

 東堂は、鼻で笑った。

 

「だが」

 

 一拍。

 

「嘘ではない」

「だから始末が悪い」

 

 視線を逸らし、歩き出す。

 

「ちなみに俺は」

 

 歩きながら、堂々と宣言する。

 

「タッパとケツがでかい女がタイプだ」

 

 先生は、思わず苦笑した。

 

「”……随分と分かりやすいね”」

「具体性があるだろう」

 

 東堂は即答する。

 

「具体性のない理想は、虚しいだけだぞ」

 

 前方に、シャーレの建物が見えてきた。

 

 先生は、東堂の背中を見ながら思う。

 

 ――この男は、危うい。

 ――だが、自分をごまかさない。

 

「“君は...”」

「なんだ」

「“君は、この街で浮く”」

「だろうな」

 

 即答。

 

「"ふふっ、これから楽しくなりそうだ"」

 

 シャーレの扉が、静かに開く。

 

 退屈が裏返る匂いが、確かにそこにあった。

 

***

 

 シャーレの建物は、街の喧騒から一段だけ浮いていた。

 

 銃声が遠くで弾けても、ここまでは届かない。

 防音が優れているというよりここ近辺の治安が良いのが理由だ。

 

 東堂葵は、建物を見上げて鼻を鳴らす。

 

「ふん……」

「随分と静かだな」

 

「“生徒が戻ってきて、安心して眠れる場所だからね”」

 

 先生の声は穏やかだった。

 誇るでもなく、威張るでもなく、ただ事実を述べている。

 

 ──なるほど。

 思想が先に立っている。

 

 東堂は、それを嫌いではなかったが、同時に警戒もした。

 

 中に入ると、さらに静かだった。

 足音がコツコツと鳴る床。

 壁に貼られた作戦図と、無数の端末。

 隅に置かれた銃のラック。

 

 東堂の視線が、自然と人の導線を追う。

 どこで立ち止まり、どこで会話が生まれ、どこで判断が下されるか。

 

 相変わらず女性しか居ないのは、東堂にとって嬉しいことでもあり、悲しいことでもある。

 

「“簡単に案内するね”」

 

 先生はそう言って、廊下を歩き出した。

 

「“ここがメインの部屋。仕事場って言い換えてもいい”」

 

 画面に映る情報を、東堂は一瞬で把握する。

 配置、損耗、撤退判断。

 

「…よくわからん機械が多いな」

「“私も最初は手間取ったよ、君ならすぐ慣れると思うけどね”」

「まあ、な」

 

 次に案内されたのは、休憩スペースだった。

 簡素だが、必要なものは揃っている。

 

「“仮眠室もある。ほとんど私が使うことが多いかな”」

 

 東堂は、そこで足を止めた。

 

 ベッドを一瞥し、視線を逸らす。

 

「……」

「ここに、住めと言うつもりか」

 

 先生は、少しだけ目を丸くした。

 

「“鋭いね”」

 

 そして、いつもの調子で言った。

 

「“東堂君。ここ、使ってくれて構わないよ”」

 

 一瞬、空気が張り詰めた。

 

 東堂は、ゆっくりと振り返る。

 

「施しは俺のプライドが許さん」

 

 低い声だった。

 怒ってはいない。

 だが、譲歩もない。

 

「俺は、拾われる側じゃない」

「居場所は、自分で決める」

 

 先生は、すぐには答えなかった。

 その沈黙は、引き下がったものではない。

 

「“そうだね”」

 

 否定しない。

 

「“なら、条件を変えよう”」

 

 東堂の眉が、わずかに動く。

 

「“仕事を手伝ってほしい”」

「……仕事?」

「“この街は、強いだけじゃ回らない”」

「“責任も大事だよ”」

 

 先生は、東堂をまっすぐ見た。

 

「"君に仕事を手伝ってもらう、代わりに私が君の責任を負うよ”」

 

 東堂は、数秒黙っていた。

 

 ――施しではない。住む場所は必要。

──これは、対等な取引だ。

 

住む場所も必要。

 

「……ほう」

 

 東堂は、腕を組んだ。

 

「言っておくが俺は、全員を助ける気はない」

「つまらん奴は捨てる」

「迷いながら引き金を引く奴も、だ」

 

 先生は、はっきりとうなずいた。

 

「“それでいい”」

 

 東堂の視線が、鋭くなる。

 

「……ほう?」

「“生徒を守るのは、私の役目だよ”」

 

 一拍。

 

「“君と相性の悪い生徒は僕が引き受ける”」

 

 その言葉に、東堂は小さく笑った。

 

「……なるほどな」

「面白い」

 

 東堂は、背を向けて歩き出す。

 

「いいだろう」

「タダで住む気はないが」

 

 振り返り、言い放つ。

 

「働く」

「退屈しない程度にな」

 

 先生も、微笑んだ。

 

「“歓迎するよ、東堂君”」

 

 シャーレの静けさの中で、

 二人の思想が、噛み合った音がした。

 

 ──退屈が裏返る。その予感だけは、確かだ。

 

「早速、仕事を手伝ってもらえるかな?東堂」

 

 先生の声は、相変わらず穏やかだった。

 

 東堂葵は足を止め、軽く首を回す。

 

「……言っただろう」

「働く、と」

 

 確認するような口調ではない。

 すでに決まっていることを、もう一度なぞっただけだ。

 

「ただし条件がある」

 

 先生は黙って続きを待つ。

 

「俺は便利屋じゃない」

「言われた通りに動く気もない」

 

 一拍。

 

「つまらん仕事はやらん」

「つまらん奴の尻拭いもしない」

 

 はっきりとした線引きだった。

 

 先生は、少しだけ苦笑する。

 

「“うん。それでいいよ”」

 

 東堂の眉が、わずかに動く。

 

「“無理にやらせても、君は手を抜くでしょ”」

「当たり前だ」

 

 即答。

 

「退屈な仕事ほど、人を腐らせるものはない」

 

 東堂は、部屋の奥に並ぶ端末へ視線を向けた。

 映し出されるのは、生徒たちの行動ログ、任務履歴、トラブル報告。

 

「……で」

「俺は何をすればいい」

 

 先生は、少しだけ表情を引き締めた。

 

「“最近、不良グループの動きが活発になってる”」

「“理由は私の不甲斐なさかな”」

 

 東堂は、鼻で笑った。

 

「お前のような一般人にできることは無い。」

「弱者の言葉を奴らは聞かんだろう」

 

「“だから、「俺がいる」

 

 先生の言葉を、東堂が途中で切る。

 

「撃っても死なない」

「殴られても立ち上がる、そんな体を生まれながら持っていたら」

「……そりゃ、調子にも乗る」

 

 東堂は、画面の一つを指で示した。

 

「こいつらだろう」

 

 先生は驚いた。

 

「“分かるんだね”」

「これだけの情報があれば誰でもわかる」

 

 一拍。

 

「仕事の内容は単純だ」

 

 東堂は、ゆっくり言葉を選ぶ。

 

「調子に乗ってる奴を」

「一度、地面に叩きつける」

 

 先生は、遮らない。

 

「殺さない」

「だが、勘違いしたまま帰す気もない」

 

 東堂の声は低い。

 

「俺がやるのは、それだけだ」

 

 沈黙。

 

 先生は、深く息を吐いた。

 

「“……ありがとう”」

「礼を言われるようなことじゃない」

 

 東堂は即座に返す。

 

「俺が退屈しないためだ」

 

 先生は、小さく笑った。

 

「“じゃあ、最初の仕事を頼んでもいい?”」

「つまらん仕事だったら殴るぞ?」

「“ゲヘナ寄りの区域で、同じグループが何度も問題を起こしてる”」

 

 東堂は、肩を鳴らした。

 

「なるほど」

 

 一歩、前に出る。

 

「退屈かどうか」

「試してやろうじゃないか」

 

 そう言って、振り返る。

 

「ひとつ、勘違いするなよ先生」

「“うん?”」

「俺は生徒を見捨てると思ったか?」

 

 先生は、少し考えてから答える。

 

「“……君は人を選ぶ”」

 

 東堂は、鼻で笑った。

 

「当然だ」

 

 一拍。

 

「俺が捨てるのは」

「つまらん奴だけだ」

 

 拳を握る。

 

「面白くなれる可能性があるなら」

「叩いてでも、引き上げる」

 

 それだけ言うと、東堂は出口へ向かった。

 

「案内はここまででいい」

「仕事の続きは、現場で覚える」

 

 シャーレの扉が開く。

 

 先生は、その背中を見送りながら思った。

 

 「"生徒に大怪我させないかが心配だな..."」

 

それは、東堂葵のみが知る。

相棒(ブラザー) 作者はホシノ推し

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