宿儺もどきはスローライフを夢見たい   作:表梅

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さて、一品目といくか

 

 

 

暗い部屋で二人の男が話し合っている。

 

「そうだドクター、公安の例の男の事…知ってるかい?」

 

一人は白髪で壮年の先生と呼ばれる男。もう一人は低身長でメガネをかけたドクターと呼ばれる男だ。

 

「あぁ…あの斬撃のやつかの?悪いが先生、儂はあの手のシンプルな個性は然程興味ないんじゃ。知っておるだろう?」

 

ドクターは言葉通りにつまらなさそうに話を進めるが、先生は反対にワクワクした様子で例の男について語り出した。

 

「勿論さ。でも彼の能力はそれだけじゃない。斬撃、そう思っているようだけどね、その本質はエネルギーを斬撃に変換する能力さ」

 

「…ほう」

 

「このエネルギーはとても応用が効いてね、自身の肉体の修復に始まり条件をつける事で自身の強化にも繋がる」

 

「…なるほどの。中々面白い個性じゃが…それがどうしたんじゃ?」

 

おや、わからないか。そう言いたげな様子で先生は言葉を続ける。

 

「つまるところ、彼の個性は変幻自在。僕らの望む新たなステージ…マスターピースへ至る贄としてこの上無い存在だとは思わないかな?」

 

先生…もといAFOが探す新たなる肉体、その器。それこそがマスターピースであり、二人が目指す研究の究極系だ。

 

「ほーう!!なるほど道理じゃ。しかし先生よ。なぜそんなことを知っているんじゃ?」

 

「その個性が欲しくてね、昔に奪いに行ったんだけど初めて負けたからさ」

 

AFOはさらりと言ってのけた。

 

 

 

 

「ぶわっくしゅ!!」

 

中々に強烈なくしゃみがでる。まさかこの俺が風邪か?或いは俺を噂している輩がいるのだろうか?名は消した筈だがな。全く勘弁願いたいものだ。

 

さて今日も今日とて俺は厨房に立たねばならん。転生してから早いことで二十年。気づけばどっからどう見ても呪術廻戦の両面宿儺となっていた。そんな俺は宿儺のロールプレイをしながら生きている。言っておくが、俺は快楽殺人犯でもカニバリズムに目覚めているわけでも無いので其処まで人を殺していない。昔の仕事柄、ある程度は殺しはしたがな。

 

そしてこの世界だが僕のヒーローアカデミアという作品だ。俺はその作品を全て見た訳じゃ無いが、すぐにピンときた。なぜわかったか?それはオールマイトだ。流石にオールマイトはわかった。前世のメディアでも結構出てるし、呪術で言うところの五条悟枠というのも分かっている。

 

そんなことより転生していたという話を戻すぞ。

 

この世界に生まれた俺は最初四つ目で4本腕の異形だった。しかし弛まぬ呪力操作の賜物でどうにか虎杖悠仁に宿った時と同じ姿になれた。そこから所謂ヴィジランテのようにヴィランを秘密裏に消して、ソイツから金を奪うことで生計を立てていたのだが、ある日公安から接触があった。

 

それはスカウトだった。当時は10歳程度の俺をスカウトするほど人材が枯渇していたのか、はたまた奪うことしか知らない餓鬼の俺を哀れに思ったか。それは知らぬことだが、俺はその手を取った。まぁ単純にその方が生活が安定するし、美味い飯にもありつけるからな。

 

なに?宿儺のロールプレイはどうしただって?まぁ本編宿儺も別に話が全くできない化け物じゃ無い…はずだ。そもそも平安では自分が祭り上げられるとはいえ大人しくしてるようなキャラだからな。ギリギリセーフと言ったところか。

 

今は訳あって公安を辞めた。その後は料理人としての腕前を磨く日々が続き、現在では定食屋をやっている。生憎と金はあるもので、然程客が入らなくとも気にしていない。まだまだ若いがスローライフというやつだ。

 

「解」

 

俺は細切れにした野菜を盛り付けると出来上がったステーキ定食の試作品を頬張る。

 

良い、これで良い!

 

ククッ…このステーキのピンク色を見るがいい!芸術的とすら言える火の通りだ。常温解凍から始まり、熱したフライパンに油を投入。その後にニンニクを入れ、焼き目がつくまでひたすらに見極める。おっと…ハーブを入れるのを忘れてはならんぞ。ステーキを裏返すと塩と胡椒をかけ、油を追加。更にバターも追加すると溶けたバターを肉にかける作業を繰り返す。こうする事で誕生するのは至高のステーキ。内包された肉汁と旨みは五つ星レストランにも引けをとらん。

 

全く料理というのは手間を掛ければかけるほど期待に応える。そうか、オマエが五条悟に次ぐ才能の原せ─────

 

思考が完結するより先に店の扉が開く。

 

其処にいたのは暗い表情の女だ。しかも知り合いと来た。ヒーロー名レディナガン。本名は筒美火伊那。俺は元だが、同じ公安ヒーローだ。

 

「本当にこんなとこに居るんだな」

 

「まったく…人の食事を邪魔するなぞ礼儀がなってないな、ナガン」

 

そっちからやって来たくせにポカンとした間抜け面を晒していた。しかし直ぐに憂に沈んだ表情へと戻る。

 

「生憎殺し以外は知らないもんでね」

 

「随分拗れた返事だな。…して何用だ?俺とて暇では無い」

 

その割には寂れてるけどね。そんな軽い嫌味な返答に一瞬イラッとするがどうにも様子がおかしい。以前のナガンと比べてどうにも覇気が感じられない。

 

「…話を聞いて欲しいんだ」

 

「はァ…何も出さんぞ」

 

「いや…私にもそのステーキくれよ」

 

「ならん」

 

一先ず試作品ステーキ君8号を食すと、新たな試作品を作りながらナガンの話を聞いてやる事にした。

 

「…なぁ宿儺、後悔はしてないのか?」

 

「生憎そのような覚えはない」

 

「公安を辞めた事だよ」

 

「やはり覚えがない。俺は常に自身の判断に従う。故に後悔はないな」

 

「……そうか」

 

「逆に聞くが後悔しているように見えるか?」

 

俺はフライパンを傾け、溶けたバターを肉に回しかけると匂いを楽しみながら料理にも熱を注ぐ。

 

「…いーや、全くはそうは見えないな。…私は、最近私がわからなくなって来てる」

 

「ケヒッ…ならば自分探しの旅にでも出る気か?」

 

大学生じゃあるまいし、ナガンは呆れながら返事をするとポツポツと吐露しはじめる。

 

「現代社会の問題がなんだか分かるか宿儺?」

 

いきなり本題とは本当に余裕がないらしい。

 

「ふむ…あげればキリがないな。俺に心当たりがある所でいえば異形差別だな」

 

「あぁ…あんた本当は4本腕なんだっけ?そうだな、それも問題の一つだ。でもな、私は思うんだ。ヒーローが絶対正義の世界こそ間違っていると」

 

「ふん…それで?」

 

「ヒーローは正しい生き物だ。ヒーローは間違えない…筈だ。なのになんで私は殺しをしてるんだ?私は…ヒーローになりたかったのに。私は一体なんなんだろうな…。人を救うはずの個性で…気づけば殺した数の方が増えてたよ」

 

「続けよ」

 

「それでも命令だ。治安のためだ。必要な犠牲だって、ずっと言われてきた」

 

ナガンの拳が、わずかに震えている。

 

「私は……ヒーローになりたかっただけなんだ」

 

場を包むのは沈黙。

俺はそんなことを意に介さず、肉を皿に移し、野菜を添える。

 

「ふむ…オマエはヒーローという肩書きに幻想を見すぎだ」

 

ナガンが顔を上げる。

その目には、怒りよりも困惑が浮かんでいた。

 

「アンタは……簡単に言うな」

 

「簡単だろう。向いていないなら辞めればいい」

 

「そんな簡単な話じゃないんだよ!」

 

声が荒れる。

 

「簡単な話じゃないんだ!なぁ…オマエどうやって公安をやめた?私はな…言われたよ!辞職が何を意味するか分かるかってな!公安のトップにだ!」

 

「遠回しな殺害宣言か…ますますくだらん。そんなもの口だけだ」

 

「…よく言えるよ。アンタも私もそういう殺しをやってきたってのにさ!」

 

「…はぁ喚くな騒々しい。して、俺がどうやって公安を辞めたかだったか」

 

「…教えてくれ!私が理性失う前に!会長を殺す前に!」

 

「ケヒッ…必死だな。実に単純な話だ。俺は言ったぞ?ならオールマイトを殺すとな」

 

俺は肉を休ませるついでと言わんばかりに簡単に告げる。

 

「…はあ?」

 

「現代社会が抱える1番の問題。それはヒーローの正義性や異形差別、個性の過剰進化…どれでもない」

 

「……」

 

俺は一切言葉を選ばずに淡々と話を進め続ける。

 

「この国が抱える社会問題、それはオールマイトに背負わせすぎという紛れもない事実だ。今でこそ拮抗しているが、オールマイトが居なければ日本は未だAFOの天下…それどころか犯罪係数やヴィランの組織は海外と比べても遥かに高かっただろう」

 

「それはそうだが…」

 

「オールマイトのような絶対があるからこそ、人は現実から目を背ける。異形差別から生じた犯罪があってもヤツがなんとかするだろうという無敵の暴力装置に…実態のない光に縋る。だから殺すと言った。オマエとて不意での一撃ならオールマイトを殺しうる筈だろう?なにせそれを仕込んだは公安なのだからな」

 

「それは…!」

 

「思い浮かばなかったか…はぁ。しかし…そうだな、それでも駄目なら俺を呼べ。昔のよしみだ、なんとかしてやろう。高く付くがな」

 

其処までいうと漸くナガンも落ち着いた。肩から力が抜けたというべきだろうか。先程と比べても幾分か穏やかな顔をしている。

 

「なんか…もっと冷たい奴だと思ってたよ。心のどっかじゃアンタに縋っても無駄だと思ってたけど…頼ってみるもんだな」

 

「中々好き勝手に言ってくれるな…。して…望み通りステーキだ。空中に絵を描くような神技を用いた料理だ、ありがたく食せ」

 

「ははっ…意味わかんねーよ」

 

それでもナガンは心底楽しそうに笑った。

 

元公安で後に自身の事務所を持つ事になるズボラ女が、この日より全くもって有り難くない常連となることとなった。

 

 

 

 

 

 

東京某所、20:35分。

 

「オマエは阿呆の極みだな」

 

「な…なぜだ!なぜオマエがここに居る!」

 

「俺の行動原理は常に俺自身が決める。二年前の件で貴様はよく知っているだろうヒーロー公安委員会会長?」

 

「だ…だれか!助けてくれ!ヴィランだ!ヴィランが───」

 

「喚くな」

 

瞬間、不可視の斬撃により男の指が飛ぶ。

 

「あぁ…!!!こんな事をして許されると思っているのか!?直ぐにヒーローが来るぞ!」

 

「なら殺す。応援が来ればそれも殺す。そしてお前に一切の救いがない事を教示した上でお前も殺す」

 

「イかれているのか!?」

 

「なんだお前、今更気づいたのか」

 

「……くそっ!!それで何のようだ!」

 

「なに、近々お前の子飼いが辞職願いを出す。それを受理しろ。それと俺への指名手配の解除もな。いくら肉体を変化させて顔を変えれるとはいえ面倒でな」

 

「出来るわけがないだろう!」

 

男はそう叫ぶと机に仕込まれていたボタンを押す。確か公安委員会の会長室には緊急で公安内のヒーローを呼ぶボタンがあったのだったか。てっきり噂だけの代物と思っていたのだがな、こんな形で知る事になるとは。

 

「…なぜだ。なぜ誰も…来ない?」

 

「…ケヒッ!漸く気づいたか間抜け。安心しろ殺してはいない。精々腕の一、二本無くなっただけだ!」

 

「すでに全員無力化していたのか…!」

 

「それでどうする?要求を飲めばヒーロー共の腕は直してやる」

 

「断───あ゛ぁ!!」

 

「二つに一つだ。好きな地獄を選ぶが良い。それ以外は…やはり殺す」

 

俺はただただ愉快に笑った。

 

 

 

 

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