大魔王ゾーマさんは勇者じゃない彼にだけ優しい   作:クォーターシェル

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第3話 俺と化け茸と呪いの加護

町へ戻った翌朝、俺はまず教会に足を運んだ。

理由は言うまでもない。胸元で存在感を主張し続けている、あの首飾りだ。

 

ベッドの上でも、歩いている時でも、首元に指を伸ばすたび、

「外れない」という事実だけがはっきりと分かる。

 

司祭は俺の首元を見るなり、小さく息を呑んだ。

 

「……これは、珍しいですね」

 

そう前置きしてから、静かに祈りを捧げるように目を閉じる。

しばらくして目を開いた司祭は、困惑と感心が入り混じった表情をしていた。

 

「確かに、呪いはあります」

「ですが同時に、とても強い守護の力も感じます」

 

解除は可能だ、と司祭は言った。

だが続く言葉が、俺の足を止める。

 

「この呪いは、装備者を害するためのものではありません」

「むしろ……守るために縛っているように思えます」

 

(……だよな)

 

昨日の戦いが脳裏をよぎる。

魔法のダメージを軽減し、致命傷を避けさせた、あの感覚。

 

そして、闇の衣を脱いだあと、少しだけ寂しそうに笑ったゾーマの顔。

 

「解除は……いいです」

 

司祭はわずかに目を見開いたが、それ以上は何も言わなかった。

 

教会を出ると、町はすでに朝の活気に満ちていた。

冒険者、商人、行商人。

ここはまだ小さな町だが、人の流れは絶えない。

 

(ダーマ神殿に行く前に……王都だな)

 

今の装備と実力で、いきなり神殿を目指すのは無謀だ。

王都なら、もっと良い武器や防具が手に入る。

他にも有益な情報を知っている人間に会える可能性がある。

 

そう考えて酒場に立ち寄ると、ちょうど気になる話題が耳に入った。

 

「森のおばけキノコ、増えてるらしいぞ」

「毒と眠りで被害が出てる」

「初心者が何人も倒れたってよ」

 

――おばけキノコ。

ドラクエ知識がある身としては、厄介さが嫌というほど分かる。

 

だが、今の俺なら。

 

「……行くか」

 

依頼を受け、森へ向かう。

木々が密集するにつれ、胞子の匂いが濃くなり、空気が重くなる。

 

やがて、不自然な影が視界に入った。

 

傘の大きなキノコ。

根のような脚で地面を這い、こちらを認識すると、ゆっくりと向きを変える。

 

おばけキノコだ。

 

傘が震え、甘ったるい息が吐き出される。

 

――あまいいき。

 

一瞬、意識が霞んだ。

瞼が重くなり、身体が前のめりになる。

 

だが次の瞬間、首元がひやりと冷たくなる。

 

「……?」

 

眠気が、引いた。

頭は冴え、剣を構えた姿勢を保っている。

 

「効いて……ない?」

 

戸惑う俺に構わず、おばけキノコは距離を詰め、

菌糸に覆われた腕を振り下ろした。

 

――どくこうげき。

 

腕に衝撃が走り、紫色の毒が滲む。

 

「くっ……!」

 

痛みはある。

だが、身体が痺れない。

力が抜ける感覚も、体力が削られていく感触もない。

 

(……毒、回ってない?)

 

理解した瞬間、背筋が寒くなった。

 

反撃に剣を振るい、数合のやり取りの末、おばけキノコは地面に倒れ伏した。

胞子が風に散り、森に静けさが戻る。

 

帰り道、毒と眠りで倒れている冒険者を見つけ、教会まで運ぶ。

その間も、首飾りは静かに冷たさを保っていた。

 

(守るための、呪い……か)

 

効果を説明しなかった理由が、少しだけ分かった気がした。

 

町を出る前、街道の分かれ道で足を止める。

北に王都、その先にダーマ神殿。

 

「順番を間違えたら、死ぬな」

 

今の俺は、まだ勇者じゃない。

だからこそ、生き残る選択をする。

 

胸元に手を当て、静かに息を吐いた。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

丘の上から、ゾーマは町を見下ろしていた。

 

首飾りは、問題なく機能している。

状態異常耐性も、守護の呪いも。

 

「……順調だな」

 

小さく呟く。

 

彼は弱い。

だが、弱さに甘えない目をしている。

 

かつて支配した世界で見てきた、愚かな者たちとは違う。

 

「強くなれ」

 

それは命令ではなく、願いだった。

 

ゾーマは人の住処へ入ることなく、静かに闇へと溶けていった。

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

町へ戻ると、思っていた以上におばけキノコ討伐の話は広まっていた。

 

「あんたが倒したのか?」

「眠らされなかったって、本当かよ」

 

酒場で声をかけられ、軽く話を合わせる。

首飾りのことは伏せたままだ。

 

(変に注目されるのは面倒だ)

 

冒険者の一人が、俺の装備を見て鼻で笑った。

 

「その装備で王都に行くつもりか?」

「街道の途中、魔物の質が変わるぞ」

 

王都。

やはり、誰もが通る場所らしい。

 

宿に戻り、ベッドに腰掛けて荷物を整理する。

剣、防具、回復薬。

どれも“最低限”の域を出ない。

 

(王都で揃えないと、本当に先に進めないな)

 

ダーマ神殿で転職するには、

「生きて辿り着く」ことが前提条件だ。

 

その夜、窓を開けると、町の外は静まり返っていた。

月明かりの下、胸元の首飾りが淡く光っているように見える。

 

「……なあ」

 

思わず、独り言が漏れる。

 

「お前、どこまで守るつもりなんだよ」

 

答えはない。

ただ、冷たい感触だけが返ってくる。

 

――その頃。

 

町から少し離れた森の奥で、ゾーマは焚き火も使わず、

ただ岩に腰掛けて夜空を眺めていた。

 

人の町に入らない理由は、単純だ。

必要がない。

 

眠る必要も、食べる必要も、

誰かと語り合う必要も――本来は。

 

「……変だな」

 

ぽつりと呟く。

 

レイの戦い方は拙い。

剣筋も、間合いも、まだ甘い。

 

だが、恐怖に飲まれない。

 

大魔王として数え切れないほど見てきた。

力を持ちながら、恐怖に負ける者たちを。

 

彼は違う。

 

(異分子……か)

 

この世界の人間ではない。

それは、ゾーマ自身も同じだった。

 

だからこそ、首飾りを渡した。

だからこそ、外せなくした。

 

守るためだ。

――そして、見届けるためだ。

 

「王都、か」

 

唇に、かすかな笑みが浮かぶ。

 

夜が明け、俺は町を出た。

目的地は北、王都。

 

街道は広く、舗装もされているが、

人の気配が減るにつれて、空気が張り詰めていく。

 

途中、旅人や行商人とすれ違う。

中には、俺の首元をちらりと見て、怪訝な顔をする者もいた。

 

(気のせい、じゃないよな)

 

首飾りは、相変わらず外れない。

だが、重くはない。

 

むしろ――

 

(守られてるって感覚が、ある)

 

それが、少しだけ怖かった。

 

王都の城壁が見えた時、思わず息を呑んだ。

今まで見てきた町とは、規模が違う。

 

「……でか」

 

ここから先は、

本当に“世界”が動いている場所だ。

 

ダーマ神殿へ向かうための準備。

強くなるための選択。

 

そして――

いつか、首飾りを外す意味を知るために。

 

俺は、城門へと歩き出した。

 

胸元で冷たく光る呪いの加護を抱えながら。

 




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