the origin 異能力者の起源 – 3.72%の少女外伝   作:六位漱石斎正重

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 セルダンは、自分と付き合いのある人たちの人脈の中からテレパシー能力を持つ人物を探すが、見込みのある能力者はほとんど見つからなかった。いや、唯一有望な能力者をやっとのことで見出したものの、それは彼の求めている能力者ではなかった。
 セルダンが伝えた探索結果に失望するベッカーだったが、セルダンから能力者が存在する可能性の高い、まだ探索していない場所があると聞かされて、彼は驚く。果たしてセルダンが探索候補として挙げた他の場所に、精神干渉能力者は本当に存在するのだろうか、ベッカーは訝しい思いを抱くのだが……。



第15話 精神干渉能力者の探索

 結局のところ、セレブの世界に精神干渉能力者は存在しなかった。やむを得ず、セルダンは能力者の探索エリアを繁華街の裏社会とスラムに変更した。その理由は、精神干渉能力者の存在が必ずや人々の忌避感を引き起こすだろうとの予測からだった。

 自分の身近に、人の心を読んだり思考を変えたりすることのできる人間がいるという事実は、その人にとって耐え難い恐怖を感じさせるに違いない。それが世間の人々にとっての一般的な感覚なのだろうと、セルダンは語った。

 

 最初に口を開いたのはベッカーだった。

「僕は、博士の()()()()()()()()調()で散々じらされてきました。博士との会話は楽しいのですが、僕も無限に時間があるわけじゃありません。もういい加減に結論を教えていただけませんかね?」

「ひどい言われようだな。だがまあ、君の気持ちはわかるよ、ベッカー君……じゃあ、最初に結論を言おう」

 ベッカーは椅子に座ったまま、身を乗り出しセルダンの顔をじっと見つめた。

「まず、繁華街の方だが、結論から言えばここには精神干渉能力者はいなかった」

「なんだ、結局いなかったんですか?」

 ベッカーはそう言うとあからさまにがっかりした表情を見せた。

「いや、よく考えてみれば探すまでもなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。仮にそう言った人物が存在したら、たぶん、その世界で頂点に君臨しているはずだ。私は自分のツテを使ってそういう人たちにも会って話をしてみたが、みな普通の人だったよ……いや、普通ではないか、そんな世界のトップに立つくらいの人たちだからな。まあ一癖も二癖もある人たちではあったがね」

「博士も随分無茶をしますね、怖くなかったんですか?」

「そりゃ怖いよ、決まってるだろ? だがな、裏社会でも一般的な社会と同様にヒエラルキーが確立されているんだ。集団の上層部はそりゃ丁寧な対応をしてくれたよ? 少なくとも表面上はね」

「博士の知名度は、比較できる人物がいないくらい巨大なものですからね。博士を脅したり乱暴したりすれば、自分たちもただでは済まないと彼らも思ったんでしょうね。彼らはそう言った力関係には敏感なはずだ」

「まあ、そんなところだな……とにかく私の会った人たちは全員、精神干渉能力者じゃなかった」

 それを聞いたベッカーは黙ったままだった。

 

 しばらくしてベッカーは再び口を開いた。

「ところで、先ほど博士は繁華街の裏社会に精神干渉能力者がいるはずがない、とおっしゃっていましたが?」

「ああ」

「もう少し詳しく説明してもらえますか?」

「ああ、いいとも。それは裏社会には、一般社会以上の濃密な情報網が構築されているからだよ。それもセレブの世界並みのな。そんな情報網に対して、自分の存在を隠したまま探知されずに精神干渉能力者が生き延びていけるとは思えない」

「濃密な情報網?」と、ベッカー

「彼らの多くは一般社会からつまはじきにされている連中だ。素行の悪さによって、自ら引き起こした事件の情報が一般社会では共有されていて、まともに稼ぎたくても一般的な会社の門戸は最初から閉ざされている。免許や保険証のような社会的な保証もない。だから、彼らは自分の利に聡い。自分の管理しているシマに、トラブルの種になるような不確定な異物の混入を彼らは決して許さないだろう。だから例え普段から対立している集団同士であっても、彼らはお互いの権益を守るために密接な情報網を構築していて、即応態勢がとれるようにしているのさ。そうすれば公安などの抜き打ち立ち入り検査などにも対応できるからね」

 

「なるほど。でも、そういう緊張状態の上に対立集団同士が微妙な均衡を保っているとしたら……もともと利に聡い連中です、精神干渉能力者を引き入れることによって、自分たちだけが有利な位置を占めようと考える者がでてきても不思議ではないと思いますが? ……まあ、一種の用心棒みたいなもんですね」

 そう言って、ベッカーはニヤッと笑ったが、セルダンはそんなベッカーを優しいまなざしで見つめ、彼の考えを否定した。

「君も純真だね、うらやましいくらいだ。いや、決して君を馬鹿にしているわけじゃないよ? だけど、それはありえないんだ、ベッカー君」

「どうしてですか、博士?」

「先ほど君に言った通り、各集団のトップに君臨している人物達は、みな自分の利に聡い連中だ。そして、精神干渉能力者は他人の思考を読んだり、他人の感情を変えることのできる人間だ。そんな異能力者を自分の組織に引き入れたら、自分のシマだけじゃなく組織自体を乗っ取られかねんだろ? 彼らは自分の利に聡いが故に、一人の例外もなくみな『猜疑心』が強い。裏社会の組織には()()()()2()は不要なんだ。あるのは自分と手下たちだけでいいのさ。その反面、自分以外の相手の集団に精神干渉能力者がいる状態も認めがたいだろう。従って、精神干渉能力者の居場所は裏社会には存在しない」

「……」

「もっとも、精神干渉能力者自身が組織を作って裏社会の片隅でひっそりと生き延びている可能性を完全に否定することはできんがね。あるいは、さっきも言ったが、いっそのことその強力な能力で裏社会全体を支配するか……まあ、いずれにせよ確度が低すぎてあてにはならない。とにかく私は繁華街の探索は望み薄だと判断した」

 

 ベッカーは考えた。結局、繁華街には精神干渉能力者はいなかった。残るはスラムだけだ。まさか今回も、スラムにもいなかったから別の場所を探すと博士は言うだろうか? いや、そんなはずはない! ここで精神干渉能力者が見つからなければもう探すエリアはない、そうベッカーは確信してセルダンと自分のコーヒーを入れなおし、再び椅子に座るとセルダンが口を開くのを待ち構えた。

 セルダンはベッカーが淹れてくれたコーヒーに口をつけると、カップをそば机において口を開いた。その瞬間を狙いすましたかのように、ベッカーが口をはさんだ。

「博士、度々のお願いで恐縮なのですが、まず結論を先に言ってください」

「ああ、わかってる……」

 そう言ったセルダンは少し不機嫌そうな表情をした。物事には順序というものがある。若いヤツはなんでも性急に結果や回答を求めすぎる、彼はそう思ったものの、その好奇心こそが学者にとって最も重要なものであるということも彼はよく理解していた。

 

 しばらくして彼は口を開いた。

「スラム街での精神干渉能力者の探索結果についてだが……」

「……」

 ベッカーは生つばを飲み込んだ。興奮のあまりその音が聞こえるくらいだった。セルダンはそのあとに語をつなげた。

「精神干渉能力者を……ついにここで発見した」

「ほ、本当ですかっ!」

 そう言って大きな音を立ててベッカーは椅子から立ち上がって、セルダンを凝視した。そして興奮したまま口を開いたため、激しくどもりながらセルダンに次々と質問を浴びせた。

「そ、その、の、能力者は、た、確かに、か、精神干渉能力を、も、持っていたんですかっ!」

「ああ、確かに我々が期待する以上の精神干渉能力を持っていた。それもとび切り強力な能力をな」

「そ、その、じ、人物は、い、一体、ど、どんな……」

 激しくどもりながら話すベッカーのその様子を見てセルダンはあきれた。

「ベッカー君、期待していた答えが得られて興奮するのはわかるが、いい加減に少し落ち着いたらどうかね……」

 ベッカーはそれを聞いてハッと我に返り、「す、すみません。しょ、少々興奮してしまいました」と言うと、静かに椅子に座り、コーヒーを一口すすった。

 ベッカーのその様子を見て「まあ、興奮するのも無理はないがね」そう言ってセルダンは微笑を浮かべた。

 

 ベッカーはやや興奮が収まると再び話を続けた。

「そうですか、ついに見つけたんですね、精神干渉能力者を……」

「ああ……」

「よかった、これでようやく221銀河標準年後に訪れる予定の、心理歴史学的特異点への接近を回避できる可能性が高まったというわけですね、博士?」

「まだ可能性にしか過ぎないけどね。例の第2帝国のなりかけとなるセクターで、政策決定権や軍事作戦決定権を持つ重要人物の思考に『干渉』することができれば、セクターの版図が巨大になりすぎて崩壊時の心配をする必要がないほどに、その版図の大きさをある程度コントロールすることができる。それこそ君が以前言った、勝ちすぎたら負けるように仕向け、負けが続いたら今度は勝てるようにする、といったことも全くの絵空事とも言えなくなる」

「じゃあ、僕の言ったことはそれほど間違っていたわけじゃなかったんですね」とベッカーがまんざらでもない顔をしていった。

「もっとも君の言うことは、ちょっと極端すぎる気もするがな」

 そう言ってセルダンは苦笑した。

 

「ところで、博士」

「何かね?」

「その精神干渉能力者ですが……」

「ああ」

「どんな人物だったんですか?」

 セルダンは目を閉じると、その精神干渉能力者に会った時のことを思い出しながら答えた。

「子供だった……たぶん当時8歳くらいだったはずだよ?」

「子供!?」

「ああ、女の子供だ。ちょっと変わった色彩の瞳を持つ子でね……」

「へぇー……ん? ちょっと待ってください。今、博士は当時、とおっしゃいましたか?」

「ああ、言ったが、それがどうかしたかね?」

「……ということは、今もいるということですか?」

「もちろんだ、今は確か……15歳……になったんじゃなかったかな。私の『財団』の研究員だよ」

「美人ですか?」そう言ってベッカーはニヤニヤした。

「ああ、とびきりの美人だよ」

 

 それを聞いたベッカーは思うところがあったのかしばらく黙っていたが、ふとあることに気づいてその疑問をセルダンにぶつけてみた。

「博士、僕はその精神干渉能力者であるその女の子にぜひ会ってみたいと思うんですが、その前に僕は博士のお話を聞いて、どうにも腑に落ちないいくつかの疑問が浮かんだんです」

「何かな?」

「長年の苦労が実り、博士はようやく精神干渉能力者を見つけることができました」

「ああ、4年もかかったがね……」

「でも、そういった精神干渉能力者は、社会からつまはじきにされていて、忌むべき存在として虐待すらされている可能性すらある、とも博士はおっしゃっていました」

「ああ、確かに言ったし、事実彼女は虐待されていた」

「だとすれば、その子が素直に博士の誘いに応じるはずがないじゃないですか。子供じゃ未来の銀河系を救うために協力してくれと言ったって、訳が分からないでしょうしね。まあとにかく、私が言いたいのは、その子を『財団』に引き込むのは、女性をダンスや食事に誘うのとはまるでレベルが違うほどの高い難易度だということです」

 

 セルダンはその少女をリクルートした時の事を脳裏に浮かべながら、ベッカーの質問に答えた。

「ああ、確かに大変だった。こちらは見ず知らずの中年のオヤジだしね。最初に私が彼女に会った時、彼女の目は憎悪にまみれていて、まるで敵でも見るような目だった」

「そうでしょうね。でもまあそれはいいです。私が最も不可解だと思っている疑問点はもう一つあるんですよ。こちらの方がよっぽど深刻じゃないかと思えるのですが……」

「なんだろう? ぜひ聞かせてもらいたいね」

「えーっと、その女の子は虐待を受けていて、周囲の人々を憎んでいる精神干渉能力者です」

「うん」

「ということは、その子がもう会いたくないと思っている人間の記憶を、操作したり消したりすることができるわけです」

「そういうことになるね」

ベッカーの指摘にセルダンは驚いた様子もなく、すました表情でそうこたえた。

「だったら、仮に博士がその子に会ったとしても、その子が精神干渉能力者だという記憶を、博士の頭の中から消してしまえる、ということになりますよね? 彼女は自分が精神干渉能力者だという事実を、絶対に誰にも知られたくないはずです。知られれば再び周りの人たちから虐待を受けるかもしれない、そう考えるのではないでしょうか……」

 

 それを聞いたセルダンは黙ったままだったが、ベッカーはことさら勝ち誇った様子もなく、単純に心底困った表情で話を続けた。

「我々は第六感の内、念力、透視、瞬間移動、テレパシーのそれぞれの能力を人間に発現させる可能性について検証してきました。ですが、今私が話したこの問題は、それに負けずとも劣らない難問だと思いますよ? テレパシーという能力があったらあったで、今度はどうやって精神干渉能力者を自分達の組織に引き込むか、という問題が新たに持ち上がるだけです」

 やはりセルダンは口を閉じたままだったので、ベッカーは再び口を開いた。

「仮に精神干渉能力者を様々な偶然で自分たちの組織に引き込ませることができたとしても、彼らが素直に協力してくれるでしょうか? つまり結局のところ、その能力者たちを221銀河標準年後の銀河系の危機に対抗する手段とするのは極めて難しい、ということです」

 

 二人はしばらく黙ったが、今度はようやくセルダンが口を開いた。

「だが、実際に私はその子を自分の『財団』に引き込んだんだ……」

 それを聞いたベッカーは我に返って叫んだ。

「そうだっ! そういえば先ほど博士は、その女の子は今でも『財団』に所属していて研究員になっている、と確かにおっしゃっていました。いったいどんな方法を使ってその女の子を『財団』に誘ったんですか? 僕はそれを聞くまでは絶対に帰りませんからねっ!」

 ベッカーは再び興奮した様子でそう言うと、セルダンに詰め寄ったが、セルダンは柔らかな笑みを浮かべながらコーヒーカップに口をつけたまま、黙り込んだ。

 

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