ヒュォォ・・・と重苦しい空気が、帳が降ろされた公園内に流れ込む。そして、陽葵はコガラシに指示を飛ばす。
「コガラシ君、もっと三人を下がらせて。特に幽奈さんは、呪術カテゴリーで考えれば怨霊に該当するから最悪余波で祓われる可能性が高いからね。」
「任せとけ!・・・死ぬなよ、陽葵!!」
「分かってる。死ぬつもりも無いし、あの人を殺すつもりも無いからね。」
そう言いながら、コガラシ達に安心させる様な笑みを向けると陽葵は目の前の呪詛師を見据え始める。すると、呪詛師の方から陽葵に話し掛けてきた。
「そこの御前・・・。美空陽葵だな?」
「御名答だよ。そういう君は、鰐淵源五郎かな?」
「お、俺の名前を知ってるのか!?」
そう驚いた顔をする、鰐淵と呼ばれた呪詛師。そんな彼の反応に、表情一つ変えずに陽葵は夜蛾から聞いたであろう情報を話し始める。
「もちろん、東京校の夜蛾さんに電話で聞いたからね。傀儡操術の第一人者である夜蛾さんの、一番弟子だったんだってね。」
「・・・クソッ!あの脳筋野郎!!」
「それから、どうして呪詛師に成ったのかも聞いてるよ。なんでも、非術師に呪力を使って危害を加えたからだって。」
そう話す陽葵が、夜蛾から聞いた話はこうだった。昔・・・それも現在、四十代後半に差し掛かろうとしている夜蛾がまだ教師に成りたてだった二十代前半の頃・・・。彼の受け持った生徒の中にファンシーなぬいぐるみ好きな、夜蛾と同じ傀儡操術の使い手が居たらしい。その使い手こそ、鰐淵源五郎だった。
そして、そんな源五郎を見た夜蛾は、自分と同じ術式を持っていた彼に大いに期待を抱いていたらしい。そして、そんな彼をときに厳しく指導しながら導いていた。
だが・・・そんなある日、事件が起こった。その事件とは、源五郎が呪力を使って非術師のヤンキーを襲ったというものだった。
事件のあらましとしては、自分が昔から大事にしているぬいぐるみのクリーニングを終えた源五郎がクリーニング屋から高専まで帰っていると、彼に数人程のヤンキーが絡んできたのだ。そんなヤンキーたちは、可愛らしいぬいぐるみを持った源五郎を取り囲み馬鹿にしだした。
初めは源五郎も、呪術規定の事を必死に頭に浮かべつつ耐えていた。しかし突然、何もしてこないと判断したヤンキーの一人が源五郎の持っていたぬいぐるみを奪い取ると、地面に投げ付け踏みつけ、挙句の果てには小便をひっかけたのだ。
しかし、それは源五郎の逆鱗に触れる行為だった!!彼は怒りに身を任せ、傀儡操術を発動し呪力強化されたぬいぐるみでヤンキー達を完膚なきまでにボコボコにした。もちろん源五郎自身も、呪力を拳に纏いマウントポジションから殴打し始めたのだ!!
もちろんこれは、呪術規定の九条"非術師の保護"に違反している。しかし、たかがぬいぐるみ・・・されどもぬいぐるみ。自分の大切な宝物を傷つけられた事は、源五郎には屈辱同然だったのだ。
そして・・・。数時間後、路上に警察が集まり高専出身の警官が内密に夜蛾に電話を掛け現場に駆け付けると、夜蛾は源五郎に説教をした。
ヤンキー達の命に別状が無かったとはいえ、非術師に呪力を使い危害を加えた以上、どんな理由であれ処罰対象となってしまうからだ。
そして、説教を終えた次の日・・・。気持ちを切り替えて、彼に再び傀儡操術を教えようと教壇に立った夜蛾であったが、彼はその日から教室に来る事は無かった・・・。不審に思った夜蛾が寮室を見に行くと、そこには退学届けが置かれており源五郎の姿は何処にもなかったのだった・・・。
「・・・っていうのが、僕が夜蛾さんから聞いた話なんだけど?合ってるかな?」
その陽葵の言葉に、当時の事を思い出したのか源五郎は肩をブルブルと震わせる。
「沈黙は、肯定と受け取るよ。」
そして後ろで話を聞いていた正義感の強いコガラシはもちろん顰めっ面をし、千紗希もショックを受けた様な顔をしていた。
「何だよ、それ・・・!!他人の好きなもんを嗤って、汚すなんざ人間の所業じゃねぇよ!」
「酷い・・・!大事にしてる、ヌイグルミに・・・!!」
そう同情する様な声を掛ける二人だったが、そんな二人の心遣いを笑い飛ばすかのように源五郎は嘲笑の声をあげる。
「ハハッ!そこまで知ってたのか・・・!そうだ!俺は、その事件がきっかけで呪詛師になったんだよ!!」
「じゃあ・・・。どうして、宮崎さんの家を狙ったの?」
「それは罠だよ!御前達、高専関係者をおびき寄せる為のな!!まぁ、こんな学生を送り込んでくるとは、遂に
そう毒を吐く源五郎に、陽葵は小さく溜息を吐くと彼に一歩近づき始める。
「・・・取り敢えず、貴方を呪術規定の一条に則って拘束させてもらうからね。大人しく、投降してくれるかな?」
「誰がするか!!」
そう言うと、源五郎の周囲に佇んでいた呪骸が軋み始め、腕を武器へと変形させ一斉に陽葵に襲い掛かる!!しかし、陽葵も負けてはいない!
陽脈調律を使い、その小さな身体からは想像が付かない程の俊敏な動きで飛び回り、呪骸を一体づつ破壊していく!
「陰陽操術!!浄掌照破!!」
そう唱えると光り輝く拳で地面を殴りつけると、光の衝撃波が発生して全ての呪骸の核を完全に破壊して完全に機能を停止させてしまう。その拳の威力は、固められた公園の地面に半径10m程はある巨大なクレーターを作ってしまう程だ!!そんな鮮やかな討伐劇に、後ろで見守っていたコガラシ達も感嘆の声を上げる。
「す、すげぇ・・・!武器を持った傀儡が、一瞬で・・・!!」
「す、凄いです!!拳一つで、地面が割れちゃいました!!」
「あ、あれが・・・。美空君の力なの・・・?」
そうして倒れた全ての呪骸の中心に無傷で立つ陽葵に、源五郎も冷や汗をかきながら狼狽し始める。
「なっ!あ、ありえない・・・!!こんなガキに・・・!!お、俺の等級は準一級なんだぞ!?こんなガキに・・・俺が負ける訳無いんだぁ!!」
そう言うと、突然何かを放り投げる源五郎。そんな彼の前に大きな口を開けた巨大な呪霊が出現する。そんな呪霊の登場に、陽葵は少しだけ眉を上げて驚く。
「呪霊・・・!?術式は、傀儡操術じゃなかったの!?まさか、躾けたの・・・!?」
「いいや!!これは、あの御方が貸してくださった一級呪霊だ!!さぁ、吐き出せ!!」
その言葉と共に、呪霊の口から無数の呪骸が吐き出される。そんな光景に、陽葵は少しだけ息を整えるかのように大きく深呼吸をする。
「どうした!?降参か!?心配せずとも、この呪霊の中にはまだまだ数千の呪骸が居るからな!!御前を殺した暁には、御前の首を夜蛾のもとまで送り届けてやる!!圧倒的な物量に呑み込まれてから死ねぇ!!」
そんな源五郎の言葉に呼応するかのように、一斉に呪骸と呪霊が陽葵目掛けて襲い掛かって来る!!
「陽葵!!避けろぉ!!」
「陽葵さん!!」
「陽葵君!危ない!」
「美空君!!逃げてぇ!!」
そんな絶体絶命の陽葵の危機に、コガラシ達は陽葵にその場から離れるように大声を出す。しかし、そんな声が聞こえていないかのように立ち続ける陽葵は、ボソッと呟く。
「まさか、任務一件目からこれを使う羽目に成るなんてね・・・。」
そう呟く彼の首元に、一体の呪骸の刃が届きそうになった・・・!!しかし、陽葵から鮮血がほとばしる事は無かったのだ。
「─────領域展開。」
そう彼が呟き手印を結んだ瞬間、源五郎はもちろんコガラシ達を含む全員が、公園全体を包み込む程の巨大な結界に飲み込まれたのだった。
今話の呪骸の見た目は、ターミネーターみたいな感じです