ゆらぎ荘の呪術師君   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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厳重注意後の謎の美女、そして御褒美。

中央に吊るされた灯篭が、室内に広がる闇に辛うじて明かり灯す。そして周囲には襖を隔てて数人の人の気配があった。

 

 

「非術師に対する、呪術の存在の公表・・・。」

 

 

「どういう事か、説明してくれるのだろうな・・・。」

 

 

「申し開きの余地はないぞ。美空陽葵・・・。」

 

 

その様な厳粛な声が響く、とある部屋の中央に陽葵は佇んでいた。そして、その隣には源五郎と夜蛾が立っていた。

 

 

「どういう事も何も・・・。非術師が呪術被害に遭っていたので、呪術の脅威を排除いたしました。それ以上でも、それ以下でもありません。」

 

 

そんな厳粛な声に、普段の温厚さや朗らかさは何処へやら。無表情に、淡々と事実を告げる陽葵。そんな彼に、怒声が飛び交う

 

 

「何をふざけている!!術師の役割は、非術師に襲い掛かる呪術被害を防ぐ事だ!!未然に防がずして、何が特級呪術師だ!!」

 

 

「挙句の果てには、非術師一名に呪術の存在がバレたという話ではないか!!」

 

 

「呪術の存在を知り、恐れ戦く非術師から呪霊が発生したらどうするつもりだったのだ!!」

 

 

その様な怒声が飛び交う中、陽葵は表情一つ変えずに佇んでいた。そんな彼が居るのは、呪術総監部・・・。呪術師を統制する最高機関として日本国政府内に設置されている機関であり、保守派が中核となっている。位置付けとしては国のトップの機関である。

 

 

そんな総監部は、先程から『非術師の安全』だの『特級の癖に呪詛師を殺さぬとは、一体全体何事だ!!』などと聞こえの良い事を言っているが、その本質はただ単なる保身馬鹿に世襲馬鹿。高慢馬鹿にただの馬鹿。腐ったミカンのバーゲンセールであるという事を陽葵は五条から散々聞かされてきた。

 

 

現に陽葵が幼い頃よく遊んでくれた、灰原雄という呪術師が居た。そんな彼は呪術師としては珍しく素直な性格で人をあまり疑わず、常に周囲に明るく愛想良く振る舞うまさに好青年であった。

 

 

無論だが幼く無邪気な陽葵は、そんな彼に一番懐いていた。呪術界という黒い影が付きまとう業界。そして、そんな呪術界の中枢ともいえる御三家の一つである五条家に、最も近しい美空家に次期当主として生まれた陽葵。

 

 

そんな陽葵にとって、灰原雄という存在は裏を感じさせない、数少ない信頼できる"御兄ちゃん"であった。

 

 

しかし、そんな灰原は高専を卒業する事無くこの世での生を終えてしまった。何故なら総監部から、等級違いの任務を当てられてしまい敢え無く殉職してしまったからだ。

 

 

無論、それは全て総監部の責任ではないかもしれない。調査不足であった、窓や補助監督にも責任があったかもしれない。だが、総監部や上層部は"最悪"を一切想定していなかった。そして、最悪な事に総監部は一切反省をしていなかったのだ。

 

 

『等級違いの呪霊に当たり、殉職するなどよくある事だろう。』

 

 

美空家に居た幼い陽葵の耳に、そんな言葉が入って来た。そう吐き捨てたのは、上層部に位置する美空家の老公だった。

 

 

その言葉に、陽葵はショックを受けて立ち尽くすしかなかった。あんなに優しい"御兄ちゃん"が死んだ事を、この人達は何とも思っていないんだと。この日から、陽葵の上層部の対する評価が一変した。怒りも抱かない、悲しみも抱かない・・・。虚無の感情そのもので、接する事にした。

 

 

基本的に慈悲を忘れはしない陽葵としては、異例中の異例の態度であったのだった・・・。

 

 

そして、そんな総監部達から今回の一件を責め立てられる陽葵。しかし、そんな彼は小さく息を吐くとあっけらかんと答えたのだ。

 

 

「それが、どうかしましたか?」

 

 

そう呟いた瞬間、一瞬だけ総監部内の空気が静まり返る・・・。そして、怒声が陽葵目掛けて飛び交ったのだ!!

 

 

「何だと・・・。貴様、今何と言った!!それが、どうしたのだと言ったのか!?」

 

 

「何だ、その責任感の欠片も無い発言は!!」

 

 

「これだから、特級というのは!!」

 

 

「全くだ!!五条は命令を聞かんし、夏油傑は呪詛師に堕ち!!最古参の九十九由基に至っては、命令を無視し海外へ放浪しているそうじゃないか!!」

 

 

そんな怒声の一切合切を、陽葵は聞き流していく。そもそも陽葵からすれば、『灰原御兄ちゃんを見殺しにして責任を取らなかったくせに、責任感とか言われてもなぁ・・・』と、寧ろ困惑しているのだ。

 

 

「だって、普通に考えてくださいよ。そもそも、今回の被呪者である宮崎さんが呪霊の存在を知ろうが知らまいが、この瞬間にも勝手に呪霊は湧いて出るんですよ?」

 

 

「だから、一人くらいに知られたところで問題無いと言いたいのか!!」

 

 

「はい、その通りです。それに宮崎さんは、僕が依頼を受ける以前から呪力で呪骸が動く現場を見ちゃってるんですから。僕が動こうが動かまいが、既に怯えて呪霊を無意識に産み出してた可能性も有りますしね。」

 

 

「この糞餓鬼・・・!!屁理屈を!!」

 

 

「そもそも今回の一件、呪詛師や呪霊でもない存在・・・。妖怪と呼ばれる存在も関与していました。妖怪に対する人の恐れから生まれた仮想怨霊とは、別次元の正真正銘の妖怪。そんな存在を、呪術師である僕らが対処できるとは思えません。つまり今後は呪術の存在を知った内の一人である、霊能力者と共同戦線を張る必要があると考えられます。妖怪が居れば、恐怖が生まれる。恐怖が生まれれば呪霊が生まれますので・・・。」

 

 

そう言いながら淡々と報告と説明をする陽葵だったが、彼の報告内容に総監部が騒めき始める。

 

 

「霊能力者・・・?まさか、誅魔忍やあの一門も動いていると・・・?」

 

 

「いや・・・。誅魔忍は兎も角として、あの一門はあり得んだろう・・・。一子相伝であるが故、約百年前に当時の六代目が死亡し潰えたはずだぞ・・・。」

 

 

「・・・まぁいい。美空陽葵よ、御主の考えを申してみよ。」

 

 

そんな上から目線の言葉にも、一切苛つくこと無く陽葵は淡々と自らの考えを総監部に提示する。

 

 

「僕の考えとしては、純粋なる妖怪の対処は霊能力者に。呪霊や呪詛師の対処は呪術師である、僕で分担する事にします。そうすれば、効率も良いでしょう?」

 

 

「ぬぅ・・・。まぁ良い、さて、では次にそこの呪詛師の処遇だが・・・。」

 

 

その言葉にびくりと肩を震わせる源五郎と彼を庇おうとした夜蛾だったが、そんな彼等の腕を取ると陽葵はさっさと退散しようとする。

 

 

「待たんか、美空陽葵!!君の処遇が決まっただけで、その男の処遇は決まって・・・。」

 

 

「え?五条さんから、何も聞いてませんか?」

 

 

「は?」

 

 

「こんな手紙を、渡されたんですけど・・・。総監部に渡しといてって。」

 

 

そう聞き返してくる総監部の面々に、陽葵はとある茶封筒を手渡す。そして警戒しつつも、茶封筒を開けて中の文を読んだ総監部達の目に入った内容とは・・・。徹底的に、煽り散らかしたものだった。

 

 

『もしかして、鰐淵源五郎を秘匿死刑にしようとしてます?傀儡操術使いを死刑にするなんて、非効率の極みですよー。ボケるにはちょっと、早過ぎるんじゃないですか?まぁ、こっちの独断でその男は生かす事にしたので~。よろぴく~。』

 

 

「それでは、手紙は渡しましたので・・・。」

 

 

それだけ言うと、源五郎と夜蛾の手を持って総監部から退散する陽葵。そんな彼等の背後からは、『あの、糞餓鬼がぁぁ!!』という怒声が聞こえたが、気にしない事にした。

 

 

そうして、コガラシが今日は帰れないという事を仲居さんに伝えてくれている筈と信じながら、陽葵は高専の仮寮室に今日は滞在する事になる。因みに夜蛾と源五郎は、夜通し学長室で腹を割って話し合うらしい。

 

 

「はぁぁ・・・、疲れたぁ・・・。体内の陰陽のバランスを取って、回復を早めない・・・と・・・。」

 

 

そう言いながらも、陽葵は重くなっていく瞼に逆らえず眠りに就いてしまった。それもそうだろう、いくら呪力効率が良いとはいえ今日は働き過ぎたのだから・・・。

 

 

そして、どれくらい時間がたっただろうか・・・?陽葵が目を覚ますと、そこは自身の生得領域の中だった。

 

 

「あれぇ・・・?なんで、生得領域の中に・・・?」

 

 

そうぼんやりしながら、辺りをキョロキョロ見渡す陽葵。そんな彼のもとに、中性的な女の声が響いた。

 

 

「ようやく起きたかい?菅原道真の子孫、美空陽葵。」

 

 

「だ、誰ですか!?」

 

 

そんな声に驚いた陽葵が、声の主の方を振り向くとそこには軍服のような服装の美女が立っていた。背も170cmはゆうに越えており、陽葵との圧倒的身長差は見て取れる。

 

 

「あたしの名は、───だ。六代目───だよ。アンタのよく知る、冬空コガラシの師匠だよ。」

 

 

そう言いながら彼女は、陽葵に自己紹介をするが肝心な部位が聞き取れない。

 

 

「え?な、なんてお名前ですか?コガラシ君の、御師匠さんって事しか聞こえなくって。」

 

 

「あー、クソ。呪術師の生得領域の中だからか?上手く話せねぇな。これだから、呪術師ってのは・・・。」

 

 

そうブツブツ呟く美女だったが、そんな彼女は陽葵に急接近してくると彼の顎をクイッと持ち上げ、ジッとその顔を見つめ始める。そんな美女の行動に、初心な陽葵は顔を赤らめてしまう。

 

 

「あ、あの・・・?」

 

 

「ふぅん・・・。隔世遺伝か?道真の血が、今まで会ったどの五条家の呪術師よりも濃い・・・。いや・・・それどころか、菅原道真の生き写しみたいだねぇ。こりゃあ将来的に、コガラシと肩を並べる良いライバルになるね。」

 

 

「え!?僕が・・・コガラシ君の、ライバルにですか?」

 

 

「あぁ!なんてったって、菅原道真の怨霊は全盛期のアタシでさえ祓えなかった程の強さだからさ!!」

 

 

そう豪快に笑う謎の女性に、陽葵はポカーンとした顔に成りながら女性の話を聞き続ける。なんでも、数年前に悪霊を誘き出している彼女を、悪霊に襲われていると勘違いしたコガラシだったのだが無謀も無謀。魂を食われて一度死んでしまったらしい。

 

 

「えぇ!?コガラシ君って、死んじゃった事があるんですか!?」

 

 

「あぁ!まぁ、その後に件の悪霊をぶっ飛ばして蘇らせたけどね!!そういや、アンタも陰陽を操れるんなら死人の蘇生もできるんじゃないか?呪術師の事は専門外だから、よく知らないけどねぇ。」

 

 

「え?陰陽操術って、そんな事もできるんでしょうか?」

 

 

「詳しくはないけど、陰陽ってのはこの世のあらゆる理だろ?だったら、生と死も操れんじゃないのかい?」

 

 

そんな女性の言葉に、陽葵は少々考える。たしかに、術式の解釈を広げればそんな事も出来る可能性は高い。だが、何の代償も無しに死人を甦らせれる訳がない。

 

 

イタコによる、降霊術ですら長時間の詠唱や生贄としての生者が必要になるのだ。

 

 

「・・・分かりませんけど、あまり気乗りはしませんね。どんな代償が来るか、分かったものではないので。」

 

 

「ハハッ!随分と慎重だねぇ!!・・・っと、どうやらそろそろ時間のようだね。」

 

 

「あ・・・、もう行ってしまわれるんですね・・・。」

 

 

「あぁ。まぁいずれ、また何処かで会えるだろ!!それじゃ、コガラシと仲良くしてやってくれよ!!」

 

 

その女性が言い終わると同時に、陽葵の意識が覚醒する。そんな彼が時計を見ると、朝の四時を時計の針は刺していた。外を見ると、未だに外は暗い。しかし、意識はハッキリしてるし眠くもない。

 

 

「あ・・・!結局あの女の人の御名前、分からずじまいのままだった・・・。それにしても、幽霊さんって生得領域に入れるんだ・・・。だけど、霊って生者に取り付くこともできるし・・・。そういう意味では、生得領域に入れても不思議じゃないのかも?」

 

 

そう呟きながら、彼は大きな音を立てないように学校の荷物を纏めると『夜蛾さん、行ってきます』と置き手紙を残す。そして、窓から飛び出すと夜闇を陽脈調律で飛び回る。なるべく人に見られないように、暗度の高い場所を選びつつ空を蹴って空高くまで跳躍する。この高さまで飛べば、きっと地上から陽葵が見えても黒い点が動いてる程度にしか思われない筈だ。

 

 

すると、数十分後にはゆらぎ荘まで到着していた。そんなゆらぎ荘の引き戸を、なるべく音を立てずに開ける彼だったが、そんな彼の目の前ではちとせが玄関で掃除をしていた。

 

 

そして、陽葵の帰宅に気が付いたちとせは小声で彼に朝の挨拶をする。

 

 

「陽葵君、おはようございます。」

 

 

「おはようございます・・・。早いですね、仲居さん・・・。」

 

 

「はい。これでも、ゆらぎ荘の管理人ですから。昨日は、大変だったそうですね・・・。」

 

 

「そこまで大した事でもありませんよ・・・。少し、総監部の人達からネチネチ言われただけなので・・・。」

 

 

「そうですか・・・。御部屋に上がって、眠られますか?」

 

 

そう心配そうな顔で尋ねてくるちとせに、陽葵はしばらく頭を悩ませるとゆっくりと頭を振って柔らかい笑みを浮かべる。

 

 

「いえ。もう目が覚めてしまったので、コガラシ君が起きて来るまで待っています。」

 

 

「分かりました。ですが、眠たく成ったらいつでも寝ていてくださいね。毛布くらいであれば、御掛け致しますので。」

 

 

そう言ってペコリと頭を下げると、ちとせはパタパタと廊下を歩いて行ってしまう。そんな彼女が去ったあと、陽葵はぼんやりと天井の木目を数え始めたのだった・・・。

 

 

そして数時間後、空が白みだした頃である。幽奈とコガラシが二階から勢いよく降りて来て、広間に居る陽葵を発見すると彼に駆け寄る。

 

 

「陽葵!!」

 

 

「陽葵さん!!」

 

 

「あ、コガラシ君に幽奈さんおはよ・・・。」

 

 

そう言って挨拶をしようとした陽葵だったが、コガラシは駆け寄ってきた勢いそのままに陽葵の肩をガシッと掴む。

 

 

「陽葵!!昨日は大丈夫だったか!?」

 

 

「あ、うん。ちょっと、色々言われたけど罰則とかは無かったよ。」

 

 

「そ、そうか・・・。その、呪術規定だったか?それに色々違反して、なんか言われてんのかと・・・。」

 

 

「あはは、大丈夫だよ!!でも、心配してくれてありがとね!・・・そういえば、コガラシ君。今日実は夢の中で・・・。」

 

 

陽葵はにこやかに微笑みながら、『夢の中で、コガラシ君の御師匠さんに会ったよ!!』と言おうとした。しかし、ふと考える。いくら呪詛師と妖怪によって起こされた事件を得て絆が深まったとしても、自分達は会ってまだ一週間も経っていない。

 

 

そんな相手から、『君の御師匠さんに、夢の中で会ったよ!!』と言われたコガラシはどんな反応を示すだろうか?恐らくは、何故その事を知ってるのかと問い詰めてくるだろう。最悪の場合、不信感を招いてしまうかもしれない。もしかしたら、絶交と言われてしまうかもしれない。

 

 

無論、冬空コガラシという快男児がその程度の事で怒る筈もない。しかし、そこは今まで同年齢の友達が一人も居なかった箱入り息子の陽葵である。初めて出来た友達から、嫌われたくないと考えた彼は、とっさに誤魔化す事にする。

 

 

「夢の中で?何か変な夢でも見たのか?」

 

 

「ゆ、夢の中で・・・。こ、コガラシ君と幽奈さんが結婚式を挙げてたよ!!い、いや~・・・!おめでたいよね!!」

 

 

「は、はぁ!?」

 

 

「え、えぇぇ!?こ、コガラシさんと私が結婚!?」

 

 

そう驚く二人に対して、誤魔化す様に陽葵は立ち上がるとスタスタと食卓へと向かって行ってしまう。

 

 

「さ!朝御飯を食べて、今日も一日頑張ろー!!今日の朝御飯は、何だろなー!!」

 

 

そう陽葵が言うタイミングに申し合わせたかのように、ちとせが二人に朝御飯を運んでくる。そんな朝食を見た陽葵は、いただきますと言うとモグモグ食べ始める。そして朝御飯を食べ終えると、示し合わせた様に同時に陽葵達三人組はゆらぎ荘を飛び出したのだった。

 

 

そうして、市街地に到着すると三人は並んで学校までの道を歩き始める。

 

 

「・・・それにしても。一つ気になった事があるんだよね。」

 

 

「どうした?」

 

 

そう訊き返してくるコガラシに、陽葵は綺麗な人差し指を顎に当てながら慎重に話し始める。

 

 

「幽奈さんって、一応は地縛霊なんだよね?」

 

 

「はい!そうですね!!」

 

 

「地縛霊ってさ、死んだ地に縛り付けられるものじゃないの?・・・それにしては、こうして外に出れてるのって不思議な感じなんだけど・・・。」

 

 

「確かにな・・・。そこら辺のとこ、どうなんだよ幽奈。」

 

 

そんな陽葵とコガラシの何気ない質問に、幽奈はムムムと難しげな顔をしていたがドヤッとした表情になりながら話し始める。

 

 

「確かに昔はゆらぎ荘に縛られていて、御外に出られませんでした・・・。ですが、試行錯誤と訓練の末!今や私が縛られるのは、寝る時くらいとなったのです!!幽霊歴も長いんで!!」

 

 

「そっかー。頑張り屋さんだねー。」

 

 

そう言いながら、無意識の内に幽奈の頭をヨシヨシと撫でる陽葵。そして、幽奈は幽奈でニコニコしながら撫でられる。

 

 

「そうでしょうか!!陽葵さんの掌ポカポカしてて、御日様みたいですね!!もっと撫でてください!!」

 

 

「なんか御前等、姉妹みたいだな・・・。」

 

 

そう三人が言い合いながら歩いていると、学校が近いのか段々湯煙高校の生徒達の数も増えてくる。すると、とある二人組の生徒達が、コガラシと陽葵を見ながらコソコソ話し合っているのが聞こえる。

 

 

「あ・・・あの黒髪の方の男子!」

 

 

「何々?」

 

 

「ほら。入学式早々セクハラとか、痛い自己紹介した例の・・・。」

 

 

「あぁアレ!あの人がそうなんだー!あっちの、茶髪の子は?」

 

 

「あの子は知らない。でも、呪術師って噂だよ。本人は否定してたみたいだけど、どうせ類友じゃない?」

 

 

そんな嘲笑とも取れる会話だったが、普段から非術師への説明や彼等からの反応に慣れている陽葵や、霊能力者としての力を信用されない事に慣れているコガラシは何処吹く風だ。しかし、幽奈は申し訳なさそうにしている。

 

 

「あ、あの・・・。すみません、私やっぱり帰ります。学校まで付いていくのは、御迷惑ですよね・・・。」

 

 

「え?帰らなくても良くない?」

 

 

「そうだぞ。あんなの気にしてたら、キリが無いからな。」

 

 

「人の噂も七十五日って言うしねぇ・・・。三ヶ月もしたら、皆すぐに忘れるよ~。」

 

 

そう三人が話していると、彼等に声を掛ける者が居た。それは、先日助けたばかりの千紗希だった。

 

 

「・・・あ!!美空君、冬空君!おはよ!!」

 

 

「宮崎!!」

 

 

「あ!宮崎さん、おはよう!!昨日は、あれから大丈夫だった?」

 

 

そう柔らかい笑みを携えながら聞く陽葵に、千紗希は憑き物が落ちたかのような笑顔を見せながら返事をする。

 

 

「うん!もう大丈夫だったよ!!あれから、ぬいぐるみも動かなくなったし!!そういえば、美空君・・・。」

 

 

「ん?どうしたの?」

 

 

そう首を傾げる陽葵に、千紗希は恐る恐る問いを投げ掛ける。それは、千紗希に危害を加えた呪詛師である源五郎についてだった。

 

 

「その・・・。源五郎っていう呪詛師さんは、あの後どうなったの?」

 

 

「源五郎さんなら、監視付きで更生中だよ。夜蛾さんの下で、非術師を救う為に頑張っていくみたい。」

 

 

「そっか・・・。良かった・・・。そういえば、コガラシ君にも聞きたいんだけどこゆずちゃんは?」

 

 

「あ、僕も気になる!あの後結局、こゆずちゃんには会えなかったし・・・。」

 

 

まさか自分に話題を振られるとは思って無かったのか、コガラシは少しだけ戸惑っていたがこゆずのその後について話し始める。

 

 

「あぁ・・・。なんか、やたら生き生きしてたぞ。」

 

 

そう言いながら、ゆらぎ荘に着いたこゆずの事を思い返すコガラシ。ゆらぎ荘にやってきたこゆずはというと、真っ先に呑子の乳房に埋もれたりやりたい放題していたのだ。本人に下心が無いのが、救いだが・・・。

 

 

「そっか!今度遊びに行くって、伝えておいて!」

 

 

しかし、そんな事を知らない千紗希は鞄から何かを取り出そうとしている。

 

 

「それから、昨日は本当にありがと!こんなので、御礼になるか分からないけど・・・。クッキー焼いてきたの!良かったら食べて!」

 

 

そんなクッキーに、和菓子しか食べた事が無かった陽葵はタダでさえ澄んだ黄緑の瞳をキラキラ輝かせており、コガラシは雷撃に打たれたかのように衝撃を受けていた。

 

 

「わぁ!!可愛い洋菓子!!これが、クッキーなんだね!!」

 

 

「クッ・・・キー・・・だと!?」

 

 

そう目を輝かせながら、大事そうにクッキーを抱きしめる陽葵。そんな彼とは違い、コガラシは涙を滝の様に流しながらサムズアップしていた。

 

 

「・・・最っ高の御返しだぜ!宮崎・・・!!」

 

 

何故なら、借金地獄に陥り節制による節制を繰り返していた彼からすれば、クッキーなど御馳走の様なものだったからだ。そして、そんな彼の頭をヨシヨシと陽葵が撫でる。

 

 

「良かったね、コガラシ君。」

 

 

「おぅ・・・!!」

 

 

「あ、それから美空君。これ・・・ありがと。一応、洗濯しといたんだけど・・・。」

 

 

そう言いながら、千紗希は丁寧に折り畳まれた白い何かを陽葵に手渡す。それは、陽葵の呪術師としての制服であった。

 

 

「あ!僕の羽織・・・。わざわざ、洗濯してくれたんだ。ありがとうね、昨日はそれしか羽織って無かったけど寒く無かった・・・。あ・・・。」

 

 

それだけ言うと、陽葵の顔が段々と真っ赤に染まっていく。何故なら昨日、陽葵は千紗希を運ぶ為に彼女を御姫様抱っこしたのだ。そして、その時に感じた身体的接触を思い出してしまったのだ!!そして、それは陽葵だけではなく千紗希も同様だったようだ!!

 

 

「あ!えっと・・・。と、取り敢えず昨日の事は忘れよう!!」

 

 

「そ、そうだよね!!え、えっと・・・。それじゃあ幽奈さんにもよろしく言っといて、アタシ今日は日直だから!!また後でね!!」

 

 

それだけ言うと、千紗希は走り去って行ってしまう。そして、そこに残された陽葵は羞恥で顔を真っ赤に染めていた。なんなら、少しだけ目も潤んでいる・・・。そんな泣き顔さえも可愛らしく見えてしまうのは、五条家特有の最高水準の顔面偏差値を受け継いでいるからだろうか。

 

 

「なんか・・・。僕、コガラシ君に色々言っちゃったけど・・・。僕も大概、宮崎さんにその・・・。エ、エッチな事しちゃってたね・・・。どうしよう・・・。」

 

 

陽葵はそう責任を感じてはいるが、冷静に考えると御姫様抱っこの際に触れるのは膝裏と項の付近。つまり、御姫様抱っこで女性のデリケートゾーンに触れる事は絶対にないのだ!!

 

 

しかし、ピュアな陽葵は実質裸の女性に触れたというだけで自己嫌悪に陥ってしまったのだった。そんな陽葵を、コガラシは必死にフォローする。

 

 

「ま、まぁ気にすんなよな!!それに、俺でもあの場合は姫抱きして宮崎を運んでたと思うしな。俺のときと違って、女が触られて嫌がる所は触って無いんだろ!!だったら、宮崎も怒っては無いだろ!!」

 

 

「だ、だと良いんだけど・・・。」

 

 

そう言いながら、しょんぼりする陽葵。そんな彼の頭をヨシヨシと笑顔で撫で返してあげていた幽奈に、コガラシは話し掛ける。

 

 

「・・・さっきの話だけどさ。まぁ、気にすんなよ。そりゃ、困ったりもしたけど・・・。幽奈が騒ぎを起こしたおかげで、結果的に宮崎とこゆずは友達になれたわけだし。俺は、久しぶりにおやつが食える。それで良いじゃねぇか。」

 

 

「・・・はい!!」

 

 

そう話していると、クッキーを一口齧った陽葵が驚愕の声を上げる!!そんな彼の顔は、しょんぼりした顔から向日葵のような笑顔に早変わりしていた!!実に、単純な男の娘である!!

 

 

「コガラシ君、幽奈さん!!このクッキー美味しいよ!!」

 

 

「マジか!!・・・お!確かに美味いな!!幽奈も食べてみろよ!!」

 

 

「はい!御供えしていただければ、味わう事なら・・・。ふわぁぁ!?美味しいですね~!」

 

 

「だよな!?」

 

 

そう言い合いながら、桜の花弁が舞い散る並木道を歩き続ける三人。そんな彼等の間を、優しい和風が通り過ぎて行ったのだった。

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