伊地知の車から降りて、禪院コンビとコガラシチームと別れた陽葵と狭霧チームは第二公園まで向かっていたのだが・・・。今のところ、陽葵と狭霧の間には一切の会話が無い。
(や、やっぱり・・・。気まずい・・・。)
そう思いながら、チラりと狭霧の方を見遣る陽葵。そんな狭霧は、陽葵の方を偶にチラリと見てくるがフイッと顔を背けてしまう。
(兵藤君も、雨野さんが男の子苦手って言ってたし・・・。やっぱり、問答無用で嫌われてるのかなぁ・・・。ゆらぎ荘の同居人なんだから、仲良くしたいんだけど・・・。真希ちゃんは、コガラシ君と一緒で大丈夫かな・・・。直毘人おじ様も、変な事してないと良いけど・・・。)
そう思いつつ悶々している陽葵。そんな彼の横で、狭霧は黙々と何も言わずに歩いていたが・・・。そんな彼女も、陽葵の事を考えていた。
(美空陽葵・・・。ゆらぎ荘に入所して以降、特に目立った問題を引き起こしてはいない。だが・・・これから、問題を引き起こさないとも限らない・・・。貴様の人間性を、此度の任務で見極めさせてもらうぞ。)
そう考えながら、狭霧は続いて陽葵の強さについても考察をし始める。
(おばば様の話によれば、呪術界とやらには五条悟という最強の呪術師が存在すると聞く・・・。そして、その最強の男を遥かに凌駕する呪力量を持つ男・・・。それが、この美空陽葵という事は未だに信じられんな・・・。)
そう思慮する狭霧の脳内には、呪術師である陽葵と合同任務をする事を聞かされた日。・・・つまりは、髪食いを討伐し終えた後の記憶が蘇る。
その日ゆらぎ荘に帰ってきた狭霧は、独自に持っていた誅魔忍の文献で呪術師について調べ始める。
『呪術師とは、人の負の感情から生ずる呪霊という化生を屠る存在・・・。呪霊は呪術師にしか祓えず、非術師である以上は我々誅魔忍からも発生する。・・・誅魔忍と呪術師は長い歴史において密接に関わっており、共同任務に当たる事がある。』
そう言いながら、次々と読み進めていく狭霧。そんな彼女の目に、とある項目が書かれていた。
『何々・・・?五条家の祖先は、日本三大怨霊の一人である菅原道真・・・。うららが言っていた事は、本当だったのか!!五条家の相伝術式は、無下限呪術・・・。無限を現実へと持ち出し、絶対的防御と攻撃力を誇る。ただし、六眼が無ければ使用不可能・・・。そして、五条家に近い存在として・・・美空家が存在・・・。これか・・・!!』
そう呟きながら、美空家のページを読み進めていく狭霧。そこには数百年に一度、美空家には菅原道真の再来とまで言われるほどの呪力量を誇る存在が生まれると書いていた。
『これか・・・?美空家二十五代目当主代理兼次期当主、美空陽葵。・・・っ!?九歳のときに特級仮想怨霊、酒呑童子を八分で祓徐・・・!?酒呑童子といえば、呑子さんと同種族じゃないか!?』
そうして読み進めていくごとに、浮き彫りとなっていく美空陽葵の異常な強さ。そうして、あらかた読み終えた狭霧は天を仰ぎながら溜息を吐くしかなかった。
そうして現在に至るまで、狭霧は悶々と考え事を続けているのだ。この男の体躯や顔つきに見合わぬ、強さにおける異常性・・・。この身にどれほどの力を蓄えこんでいるのか・・・。
(一国を滅ぼしたと言われる、九尾の狐や大天狗・・・。一目連等も祓除されている・・・。やはり、菅原道真の血が関係しているのか?)
「・・・ん。」
(更には、陰陽を操る術・・・。最悪の場合、生と死を操るとまで言われている術だ・・・。)
「・・・さ〜ん。」
(これほどの呪力量を持った男が、そんな術を操ると成れば・・・。)
「雨野さん。」
そう考えごとを続けていた狭霧の耳に、鈴の様に軽やかでありながらもスッと耳に入る様な声が聞こえてくる。そんな声に狭霧が肩をビクリと揺らし見下ろすと、そこには心配そうに上目遣いで狭霧を見ている陽葵が居た。
「なっ!なんだ!!」
「あの・・・。任務隠蔽の為の、帳を降ろしたいんだけど・・・。」
「あ、あぁ!!お、降ろすなら降ろすといい!」
「・・・?闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ払え。」
そう陽葵が唱えると、上空のある一点を中心に黒い結界が辺りを包み込む。
「結界術か!」
「あ、やっぱり雨野さんにも見えてるんだね!良かったぁ!」
そう言いながら、パアッと無邪気な笑みを浮かべる陽葵。そんな彼の笑みに、一瞬ピクリと反応すると狭霧は問いを投げかける。
「やはり、その呪術とやら・・・。普通は見えないものなのか?」
「うん。だから、呪術が見える人に会ったら嬉しくなっちゃうんだ!こう・・・、悩みを共有できたりするし!あ!もちろん、見えないに越したことはないんだけどね?」
「・・・そうか。」
「それにしても・・・。全然現れないね、四級呪霊が居るけど本命では無さそうだし。」
そう言いながら、キョロキョロと辺りを見渡す陽葵。そんな彼の眼前には、四級呪霊が数匹居るが本命ではないのは明らかだ。
「御洋服を溶かしちゃう妖怪に協力する呪霊って、どんな非術式の思念から生まれたんだろ・・・?」
そう呟く陽葵の格好は、白を基調とした下地に蓮の花がプリントされたオーバーサイズTシャツにジーンズ姿だった。
そんな陽葵は、狭霧の方を見つつ頬を少し染めながらオズオズと質問をする。
「あの・・・雨野さん。」
「何だ?」
「今日の任務、大丈夫・・・?さっき話してたけど、今回の妖怪と呪霊は対象者の御洋服を溶かしちゃうんでしょ?そしたら・・・その・・・。」
そう言いながら、最後の一言を言いにくそうにしている陽葵。そんな彼の感情を察したのか狭霧は陽葵に告げる。
「案ずるな。確かに、男である貴様に裸体を見られるかもしれない事に抵抗が無い訳では無いが・・・。これ以上、婦女子が辱められる現実は許されない。誰かがやらなければならないのだ。」
「雨野さん・・・。」
「私は・・・女である以前に、誅魔忍であると決めている・・・!」
そんな狭霧の決意の表情を見た陽葵は、何も言わずに目を瞬かせると歩き始める。
そうして、暫くの間公園内を歩き続けていた二人だか一向に件の呪霊と妖怪は現れない。そして、陽葵は伊地知から渡されたトランシーバーで連絡を取りながら話し掛ける。
「現れないね・・・。」
そうポツリと呟く陽葵。そんな彼の隣で歩いていた狭霧が、少しだけ声のトーンを落として話し始める。
「やはり・・・。現れないのは、やはり私が女子らしく無いからだろうか・・・?」
「え?」
突然の狭霧の言葉に、コテンと首を傾げる陽葵。そんな彼の瞳には、自信無さげな狭霧が映っていた。
「この格好も、私なりに女子らしくと頑張ってみたのだが。やはり、戦闘用に鍛えられた身体に似合うはずもなくてな・・・。」
「うーん・・・。そうでも無いと思うよ?」
「・・・?どういう事だ?」
「なんて言うか、今日の雨野さんかっこいいと可愛いが同居してる感じだから!」
「・・・んなっ!?いい、いきなり何だ!?」
「それに、この通信聞いてみて?」
そんな狭霧の声に、陽葵はトランシーバーを差し出す。そんなトランシーバーからは、コガラシの悲痛な声と禪院コンビの怒声が聞こえてきた。
『陽葵!そっちが終わったら、すぐに来てくれ!呪霊に纏ってたモヤはぶっ飛ばして、あとは分裂するタイプの呪霊だけなんだが、この二人戦闘狂が過ぎるんだよ!』
『おい、ジジイ!邪魔すんなよ、私の獲物だろうが!それに、一切手伝わねぇってほざいてた癖にしゃしゃり出んな!ってか、マジでこの格好動き辛ぇ!無駄に溶け残しがある分、尚更足に引っかかる!』
『生憎だが、興が湧いたのでな!早い者勝ちだ!御前も、天与呪縛のフィジカルギフテッドならその肉体でワシより速く討伐すればよかろう!』
『禪院さん達、頼むから落ち着いてくれ!!・・・うぁぁあ!』
そんなトランシーバーからは、破壊音や木々が倒れる音に豪快な笑い声などが響き渡る地獄の様な音が響いていた。そんなトランシーバーを切ると陽葵は再度話し掛ける。
「真希ちゃんも、どっちかっていうと男勝りな方なんだけど実際に当たりは引いてるから・・・。女の子らしさは、関係ないし・・・。」
「で、では・・・?」
「こ、恋人らしさとか?」
そう言いながら、顔を真っ赤にして声を裏返す陽葵に狭霧も顔を赤らめる!
「こ、恋人らしさだと!?」
「う、うん・・・。嫌かもしれないけど、手を握ったりとか?」
「・・・誅魔の為、試す価値はあるな・・・。」
その言葉に頷きながら、恐る恐る手を差し伸べる陽葵。そんな触れてしまえば壊れてしまいそうな小さな手に、狭霧も恐る恐る手を差し伸べ・・・。両者、ギュッと握りしめる。
そんな次の瞬間である!二人の周囲に、黒いモヤと共に呪霊の呻き声が聞こえ始める。
「イィィ・・・イチャチャチャ・・・!イチャイチャァァ!スるナナァァ!リリリアジュウガァァ!」
「来たぞ! 」
「うん!って・・・うわぁ!服が溶けてる!!」
そんな呪霊とモヤの出現に構えようとした二人だったが、黒い靄が纏わりつくと二人の衣服を溶かしていく。そんな二人を笑いながら、呪霊とモヤは襲いかかって来る!!
「ヒヒヒ、ヒキサクゥゥ・・・!!リアジジジジュウ、シスベベベシ!!」
「陰陽操術!!照輪清砕!」
そうして陽葵は、円環状の光を放出する。しかし靄が触手の様に飛び出たかと思うと、その円環を殆ど弾き飛ばしてしまった!!まるで靄が、呪霊を護っているかのように!!
「やっぱり・・・!!呪力は、仮想怨霊以外の妖怪には殆ど通用しない!!呪霊相手なら、これだけで祓えるのに!!」
そう呟く陽葵の衣服は、徐々に融解が侵攻していき彼の陶器の様な白い素肌が見え隠れしてしまっている。それは狭霧も同じ様で、彼女の素肌も見え隠れしてしまっている!!
「くっ・・・!!霊視によると、霧を発生させている本体が居る!!そいつを探すぞ!!」
「分かった!!・・・やっぱり、祓えないものは祓えないけど・・・。一時的に、霧散させる事ならできる!!その間に探して!!」
そう言うと同時に瞳を閉じた陽葵の掌に、陽の呪力が一気に集約し始める!!そして、辺り一帯に目を覆う程の光が集約され始めるが・・・。
(何だこの光は・・・。陽光の様に強く輝いているというのに、一切眼球に負担が掛からない・・・。)
そう・・・。その光は闇を切り裂くほどの明るさでありつつも、まるで春の陽だまりの様に優し気な温かさを孕んでいたのだ。
「陰陽操術・・・。照界破邪・・・。」
そして、陽葵が術名を唱えると周囲の靄が一気に霧散する。すると、黒い靄の本体が見え隠れするのが分かる!!そして、それを見逃す二人ではない!!
「雨野さん!!あれが本体!!靄が掛かってない、今がチャンスだよ!!」
「・・・!!雨野流誅魔忍術奥義!・・・
そう言いながら、狭霧は黒霧が再び集まる前に突っ込み中に居た蜘蛛型の妖怪を始末する!!しかし、そんな影から一つの腕が現れると狭霧を吹き飛ばした!!モヤに隠れていた全身に無数の眼球を持つ呪霊が、狭霧の顔を下からアッパーの様に叩き払ったのだ!!
「グゥッ!!」
その勢いのまま、上空へと放り出される狭霧。そんな狭霧の方へと目を向けそうになった陽葵だが、瞬時に落下までの時間を計算すると呪霊へと突進する!!
「呪術を使えない誅魔忍さんに対しては、確かに驚異的な強さ・・・!!でも、相手が悪かったね!!陰陽操術!!陽刃祓閃!!」
そう言うと、まるで辻斬りの様にすれ違いざまに刀状の陽の呪力で斬り付ける!!そんな攻撃に、呪霊はなすすべなく消滅してしまったのだ!!そして、陽葵は陽脈調律で跳び上がると狭霧をキャッチする!!
「雨野さん!!」
「なっ!?美空陽葵!?お、降ろせ!!」
「え?あ!ご、ごめんね!!で、でもキャッチしちゃったものは仕方ないからこのまま降ろすね!!」
そう言うと陽葵はトントンと足踏みをしつつ、空気の面を捉えて安全にゆっくりと地面まで着地をする。そして、地面に足を付けると狭霧を降ろす。ギュッと目を瞑りながら・・・。
「あ、雨野さん・・・。取り敢えず・・・、僕の腕から降りたら急いで着替えて来て!!僕も着替えたいから、女子トイレに入ったらちゃんと言ってね!!」
「え!?あ、あぁ・・・!!」
そう言うと、狭霧は慌てて回れ右をして公衆トイレの中に入っていく。そんな中、陽葵は一応呪霊の死体が消えた跡を観察し始める。何故かというと・・・。
「そこまで強くなかったし、やっぱり取り込んでは無いよね・・・。"両面宿儺の指"・・・。」
そう呟いていると、女子トイレに入った旨が狭霧から知らせられる。その声に、陽葵も男子トイレに入ると湯煙高校の服に着替え始めたのだった。
そして、数分後制服姿になって出てきた狭霧。そんな彼女は、ボンヤリしながらベンチに座っていたが・・・。そんな彼女の頬に、温かい何かがピトッと触れた。
「・・・っ!?な、何だ!?」
「わ!も、もぅ・・・そんなに警戒しないでよ。温かいココアだよ。さっき、あそこの自販機で買ってきたんだ。」
「そ、そうか・・・。」
そう戸惑う狭霧に対して、少しだけ感覚を空けるようにベンチに座る陽葵。そんな彼の行動は、男慣れしていない狭霧に気を遣っているかのようだった。
「美味しいね~。」
そう言いながら、ポヤポヤと擬音が付きそうな程にのんびりしている陽葵。しかし、そんな彼の横顔を狭霧はじっと観察していた。狭霧も、素人ではない。否・・・数々の修羅場を潜り抜けたからこそ分かる。この少年は・・・強い!!
そう考えていると、陽葵から恐る恐る声が掛かる。そんな声に、考え事をしていた狭霧はハッと我に返る。
「あの・・・。雨野さん。」
「っ!?な、なんだ!?」
「あ、あの・・・。そんなに見つめられると・・・ちょっと、恥ずかしいかな?」
そう言いながら困ったように笑う陽葵。そんな彼の頬は桃色に染まっており、綺麗な形の眉を八の字にしていた。そんな彼の顔を見た瞬間、狭霧の胸が熱くなる!!
「・・・っ!す、すまない!!いっ・・・!!」
そう言いながら、慌てて顔を背ける狭霧であったが突然走った痛みに頬を抑える。そんな痛みに慌てて口の中を探っていると、・・・何かがポロリと抜け落ちた。そして、その物体を手に乗せた狭霧は唖然とする。
(・・・これは、私の歯か!?さっきの呪霊からの一撃で、歯茎にダメージを負っていたのか・・・。・・・たしか、この位置に生えていたのは永久歯か・・・!!・・・まぁ、仕方あるまい。こうなるのも、誅魔忍として生きていればよくある事だ。むしろ、歯の一本で済んで良かったと・・・。)
そう考えていると、陽葵が不思議そうに狭霧の顔を覗き込んできた。すると、次の瞬間彼の顔が驚愕の色に染まる!!
「雨野さんどうしたの・・・?って、大変!!口から血が大量に出てる!!」
「こ、このくらい大した傷では・・・!!あがっ!!」
そう強がろうとした狭霧であったが、口を閉じようとした瞬間それを陽葵に遮られる。そして、陽葵は陽の術式を指先に出すと狭霧の口を照らし始める。
「下顎の、右第一大臼歯が折れてる・・・。頬っぺたに、痣も出来てるし・・・。ちょっと待っててね。」
「な、なにを・・・?」
そう一度口を閉じた狭霧の頬に手を添えた、陽葵の手から呪力が溢れ出る。しかし、その呪力は他者を傷つける呪力ではない。寧ろ、他者を癒す呪力。・・・「負のエネルギー」である呪力を掛け合わせることで生まれる「正のエネルギー」を利用し、様々な欠損や怪我を治す技術・・・反転術式である。
反転術式は自分にしか施せない者と、他者へのアウトプットが可能な者が居る・・・。そして、陽葵はというと後者の存在であった。それは、陽葵の術式の中の陽の存在・・・。
陰が破壊なら、陽は再生を司る概念。故に陰陽操術は、反転術式の感覚も掴みやすいものであったのだ。
「痛いの痛いの・・・。飛んで行け。」
そう陽葵が言うと、彼の手から暖かくも柔らかい呪力が流れ始める。すると、狭霧の折れていた歯が再生し血も完全に止血されたのだ。
「これも・・・。呪術の力と言うのか・・・。」
「うん。反転術式っていう、治癒術式だよ。」
そう言いながら、フワリとした笑みを浮かべる陽葵。そんな彼の表情に、狭霧は何故かドキリとしてしまう。そして、遂々ツンツンした言葉を掛けてしまう。
「な、何故私なんかの為に・・・!貴様も気付いていただろう!?私が、貴様を邪険にしていた事は!」
「うん。初対面で、苦無を投げつけられたからね〜。」
「ならば、何故治した!?貴様には、恨まれる事はあっても優しくされる道理は・・・!」
「そんなの、決まってるでしょ?そうするのが、正しいと思ったからだよ。あと、ちゃんと痛いときは痛いって言わないと。」
そう、あっけらかんと答える陽葵。そんな彼は相変わらず、良く言えば朗らかに・・・。悪く言えば、平和ボケしたような表情で笑う。
「だ、だが・・・。誅魔忍である私が、この程度の怪我で痛いと言うなど!」
「情けなく思っちゃう?」
そんな陽葵の的確な言葉に、狭霧は押し黙ってしまう。どうやら、図星だったようだ。そんな彼女に苦笑しつつも、陽葵は穏やかな顔で話し続ける。
「僕は、雨野さん以外の誅魔忍さんには会ったことがないから分かんないけど・・・。やっぱり、我慢は良くないよ。それに、雨野さんは女の子なんだから。」
「は・・・?」
「古い考えだし、今時こんな事を言ったら炎上しちゃうかもだけど・・・。やっぱり、女の子の御顔には傷が付かない方が良いと思うんだ。・・・僕は、雨野さんの可愛い御顔に傷が付いて欲しくないから治したの・・・。有難迷惑だったかな・・・?」
「め、迷惑とは・・・!!い・・・言ってはいない!!」
そんな狭霧の言葉に、陽葵はホッとした顔に成る。そんな彼の顔を見つつも、狭霧はモゴモゴと口を動かしながらボソリと呟く。
「それから、・・・・・・・でいい。」
「え?」
「あ、雨野ではなく・・・!狭霧で良いと言ったのだ!!さんも付けなくて良い!!」
「え、え・・・良いの!?」
「か、勘違いをするな!!これから共に任務をする事が多くなるかもしれない以上、私以外の雨野姓の人間とも邂逅した際にややこしく成らないための措置だ!!決して貴様を信頼したわけでは・・・!!」
そう言いながら特大のツンデレを披露しようとした狭霧だったが、そんな彼女の手を陽葵は握るとキラキラと目を輝かせる!!
「じゃあ・・・今日から、御友達?」
「と、友達だと!?」
「うん!!僕・・・。今まで、同年齢の御友達が居なかったから・・・。い、いっぱい御友達を作りたくって!!」
そう言いながら、胸の前で両手をキュッと握り締める陽葵。そんな彼の姿に狭霧はというと、胸の奥が少しだけ温まる感覚に陥っていた。それは、庇護欲か・・・。無意識下の、母性本能か・・・。それとも・・・もっとドロドロした、無垢で可愛らしい存在を自分色に染め上げ手籠めにしたくなる嗜虐心か・・・。
「や、やっぱり・・・。駄目・・・かな?」
そう言いながら、恐る恐ると先程までの圧倒的な強さは何処へやら。小動物のような雰囲気を醸し出しながら、不安そうな顔で聞いてくる陽葵。そんな彼に、狭霧も遂に折れた!!
「・・・っ!!だ、駄目だとは言っていない!!い、良いだろう!!き、貴様と友人に成ってやろう!!私の事も、狭霧とでもなんとでも好きに呼ぶと良い!!」
「~っ!うんっ!!狭霧ちゃん!宜しくね!!」
そう言うと、大輪の向日葵の様な明るい笑顔を見せる陽葵・・・。そんな彼の表情は凍てついた狭霧の心を溶かしてしまう程の、幸せオーラに満ちていた!!
そうして暫くベンチに座っていた二人だったが、陽葵が買った飲み物を飲み終えると両者共にコガラシチームに合流しようと歩き始める・・・。
「それにしても、狭霧ちゃん。」
「な、何だ!?」
「御洋服・・・。ボロボロに成っちゃったね。」
「いや・・・、気を遣わなくても構わんさ。どのみち私には、不相応な衣装だったしな。」
そう言いながら、何処か諦めた様な顔をしている狭霧。そんな狭霧の方を不思議そうに見つつ、陽葵はキョトンとした顔で首を傾げる。
「んー・・・。さっきも言ったけど、物凄く似合ってたと思うよ?フワフワしてて、可愛かったし・・・。」
「・・・!?きき、貴様っ!!か・・・っ!可愛いなどと・・・どういうつもりだ!?」
「正直な感想を述べただけなんだけど・・・?」
そう言いながら不思議そうに笑う陽葵に対して、狭霧は顔を茹蛸のように真っ赤にする。そんな二人の間には、ほんの少し・・・少しだけではあるが、かすかな信頼が生まれてきつつあるのだった。
一方コガラシチームはというと・・・。
「冬空の!!初の共同任務終了という事で、一杯やらんか!?」
「おい!ジジイ!!非術師に絡むな!あと、未成年飲酒させようとしてんじゃねーよ!!」
「何を言うか!元服を迎えた暁には、酒を飲むのが常識だろう!!」
「平安時代クラスの古臭ぇ慣習を、非術師に押し付けようとすんな!!」
コガラシにちょっかいを出そうとする直毘人に、締め技を仕掛けようとする真希。そして、そんな両者を見ながらコガラシは天を仰ぐ・・・。
(頼む陽葵・・・。早く来てくれよ~・・・。)
そうして数分後、合流した陽葵が直毘人の経絡に中指一本拳を打ち込んで強制的に眠らせたのだが・・・。それはまた、別の御話しである・・・。