ゆらぎ荘の呪術師君   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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前話の次の日


狭霧さんと悶々

ゆらぎ荘の202号室では、狭霧が姿見の前で悶々としていた。そして、そんな彼女の手には大人しめの色でありながらフワリとした質感のスカートと服が握り締められていた。

 

 

「・・・再び着てしまった。こ、こんな女子らしいものを・・・。」

 

 

そう言いながら姿見に立つ狭霧は、いつもの黒い私服から恐る恐る先日の騒動で来ていた服と同系統の服に着替え始める。

 

 

そうして着替え終わった狭霧は姿見の前で、着替え終わった己の恰好をまじまじと見始める。まるで、姿見に映っているのは自分ではないナニかと錯覚しているかのように。

 

 

「・・・試しに、普段からこの格好で・・・。いや!やはり、私の柄では!!う、うぐぐ・・・。」

 

 

そう悶々と悩み続ける彼女の頭には、先日に任務終わりに陽葵からかけられた言葉が反芻され続けていた。

 

 

『物凄く似合ってたと思うけど?フワフワしてて、可愛かったよ?』

 

 

その言葉を思い出す度に、狭霧の心拍数は上昇してしまう。しかし、そんな狭霧の後ろから彼女の熱くなっていく心を冷ます様な声が掛けられた。その声の正体は、朝から酒の匂いを漂わせる呑子であった。

 

 

「さぎっちゃーん!!朝御飯よー!!」

 

 

「の、呑子さん!?の、ノックくらいしてください!!」

 

 

「ごめんねー・・・。って、何その恰好!?物凄く似合ってるわよー!!」

 

 

「ちち、違います!!こ、この格好は・・・!!」

 

 

そう慌てながら必死に切り抜け様とする狭霧であったが、そんな彼女の慌てようは更に事態を悪化させるだけであった。そう顔を赤くする狭霧の方を、呑子は興味津々と見遣る。

 

 

「もしかして、この前の呪術師との合同任務に着てった服!?たしか、カップルに扮して妖怪と呪霊を誘き出したのよね!?コガラシちゃんと組んだの?それとも、陽葵ちゃん!?」

 

 

「そ、それは・・・!!」

 

 

そんな呑子の興味津々な問いかけに、如何にしてはぐらかそうかと考える狭霧であったがはぐらかす為の言い訳が思いつかない。そんな彼女に、呑子はニコニコしながら追い打ちをかける。

 

 

「カップルのフリでしょ?キスはした?」

 

 

「せせっ!?接吻などしていません!!」

 

 

「えー?でも、想像くらいしてみたら?陽葵ちゃんの唇、男の子なのにピンク色で柔らかそうよねぇ。」

 

 

その呑子の言葉に、狭霧はついつい思い出してしまう。あの日、頑固だったはずの自分の心をいとも容易く溶かしてしまう様な、陽だまりの様な笑みを浮かべてきた陽葵の顔を。

 

 

「・・・っ!!」

 

 

「あれ?なんか、想像しちゃった?」

 

 

「し、していません!!着替えますから、部屋から出てください!!」

 

 

「はいはーい。」

 

 

そう顔を真っ赤にしながら叫ぶ狭霧に、ニヨニヨ笑いながらも何処か温かい眼差しを向けた呑子は手をヒラヒラ振ると階段を下りて行ってしまう。そして、残された狭霧は先程の雑念を振り払うと、いつもの無地の服に着替えたのだった。

 

 

そんなやり取りが行われているとも露知らず、ゆらぎ荘の外ではコガラシと陽葵が屋根に向かってとある人物に呼びかけていた。それは、屋根でスヤスヤ眠る夜々である。

 

 

「夜々ちゃーん。起きてー。」

 

 

「夜々ー、起きろー。」

 

 

そう両者が呼びかけるが、夜々は気持ち良さげにスヤスヤ眠っている。そんな彼女に、如何したもんかとコガラシが頭を悩ませていると、陽葵は何か思いついた様な顔に成る。

 

 

「・・・夜々ちゃん、"御昼御飯"の時間だよ~。」

 

 

「ごはん!!陽葵のごはん!!」

 

 

その瞬間である!!カッと目を覚ました夜々が、ぴょんと飛び降りてくる!!しかし、屋根の淵に足を取られて落っこちそうになる!!

 

 

「夜々!!」

 

 

「夜々ちゃん!?」

 

 

そんな彼女を心配した陽葵が陽脈調律で跳び上がり抱きとめようとしたところ、突然現れた巨大な猫が彼女のフードをバクンと咥えたのだ!!

 

 

「わ!これが、猫神様!?」

 

 

「な、何かシュールな絵面だな・・・。」

 

 

そう言いながらボーっとしていた二人だったが、フードを咥えられブランブランしている夜々を見るとハッとして早く地面に降りる様に言ったのだった。

 

 

「本当に、肝を冷やしたよ・・・。夜々ちゃんが、いきなり飛び降りるから・・・。」

 

 

「確かにな・・・。猫神が、夜々を咥えなかったらどうなってたか・・・。」

 

 

そう言いながら食卓に就いて、カチャカチャと音を鳴らしながら昼ご飯を食べる陽葵とコガラシ。そんな彼等に、いつもの無地の服に着替えた狭霧が説明を始める。

 

 

「猫神は、宿主を守る習性があるんだ。」

 

 

「習性?」

 

 

「猫神は気まぐれに人間を宿主とし、宿主に様々な力を与えるが誅魔忍軍では基本的には無害とされている妖怪だ。」

 

 

そんな狭霧の説明に陽葵は驚いた顔をしつつ、夜々の方を見ながら感心したような声を上げる。

 

 

「そうなんだ、でも神様が憑いてるって夜々ちゃんはすごいねー。」

 

 

「うん。猫神様と夜々は、仲良しだから。」

 

 

「そんだけ!?」

 

 

そうクールにドヤ顔をする夜々にコガラシは驚愕して、陽葵は温かい眼差しを向けながら彼女の頭をヨシヨシ撫でる。

 

 

「そっかそっか・・・。仲良しさんなのは、良い事だよね。」

 

 

「普段は夜々の中で眠ってるらしいが、夜々から出て外へ遊ぶ姿もよく見かける。ちゃんと夜々の所へ帰ってくる辺り夜々が気に入られているのは間違いないだろうな。」

 

 

「へぇー・・・でも、猫さんか・・・。恵君の式神には、猫さんは居ないしなぁ・・・。」

 

 

そうボソッと言いながら、ツンツンしたウニ頭の少年を思い浮かべる陽葵に興味を示したのか、コガラシが彼の言葉に反応する。

 

 

「恵って?」

 

 

「ん?あぁ、僕の後輩呪術師だよ。伏黒恵君っていう子で、十種影法術っていう式神術を使う呪術師なんだ。」

 

 

そう何気無く後輩呪術師の事を話す陽葵に、夜々も興味を示したかのように目をキラキラさせる!!

 

 

「伏黒・・・。夜々と同じ!!」

 

 

「そうだね、夜々ちゃんと同じ苗字だね。恵君も、夜々ちゃんと同じ様に動物の式神を操るんだよ。」

 

 

「猫神様・・・!?」

 

 

「うーん・・・。十種影法術に、猫さんは居ないけどワンちゃんとか鳥さんとか兎さんは居るよ。」

 

 

その言葉に夜々は、まだ見ぬ自分と同じ姓を持ち動物を従える伏黒恵という呪術師に思いを馳せているのか箸を持ったままボーっと考え込んでしまった。そんな彼女の隣で、こゆずが羨ましそうに呟く。

 

 

「いぃなぁ、猫神様は。大好きな人と、いつも一緒に居られるんだね。僕にも憑依能力があったらなぁ。」

 

 

「千紗希さんの事ですか?」

 

 

そんな幽奈の問いに、こゆずは箸と茶碗を置いてうっとりした表情で頬に手を添える。そんな彼女は、先日の事件のときに千紗希に抱き着いた時のおっぱいの感触を思い出しているかのようだった。

 

 

「うん・・・。やっぱり、千紗希ちゃんのおっぱいはボクの理想だからさ・・・?あっ・・・!ここの皆のおっぱいも凄く素敵だよ!?あくまでボク個人の理想の話で・・・。」

 

 

「あ・・・。うん、ソウダネ・・・ヨカッタネ・・・。」

 

 

そう"おっぱい"を連呼し続けるこゆずに、陽葵は片言になって茹蛸のように顔を真っ赤にしてしまう。そんな彼を不憫に思ったのかコガラシは軽くこゆずを諫める。

 

 

「何のフォローだ。」

 

 

「でも、ホントにコガラシ君や陽葵君に幽奈さんには感謝してるんだ。仲居さんの料理を、毎日食べれるなんて・・・。こんな幸せ無いよ~。」

 

 

そう言いながら、ちとせの料理にメロメロになるこゆずに呑子と陽葵も同調するかのように大きく頷く。

 

 

「うんうん!仲居さんの料理は、絶品よね~!」

 

 

「本当にどれもこれも美味しいよね!!美味しいだけじゃなくて、実家の安心感がある感じ!!」

 

 

「こゆずさんが凄く喜んでくれるので、私も作り甲斐があります~。」

 

 

そうニコニコしていたちとせであったが、ハッと何かを思い出したような顔に成ると心配そうな顔に成る。

 

 

「ところで皆さん。私・・・明日から温泉組合の慰安旅行なのですが、本当に私居なくて大丈夫なのでしょうか・・・?」

 

 

その言葉に全員はちとせを安心させるかのように、狭霧を始めとした各々は笑顔で話し始める。

 

 

「勿論です!朝夕の食事を、皆で分担する手筈です!!」

 

 

「仲居さんには及びませんが、僕も御料理は得意なのでなんとかなると思います!!」

 

 

「数日ぐらい、大丈夫だろ!!」

 

 

「楽しんできてください!!」

 

 

「仲居さんも、偶にはゆっくりしなきゃあ~。」

 

 

そんな彼等の頼もしい言葉に安心したような顔に成ったちとせも、ホッとしたような笑顔になる。

 

 

「有り難う御座います!では、御言葉に甘えて・・・。」

 

 

「「「いってらっしゃーい。」」」

 

 

そう言いながら皆と一緒にちとせを送り出した陽葵ではあったが、彼は知る由もなかった・・・。この数日間が、とんでもない料理発表会に成ろうとは・・・。

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