さて・・・仲居さんの慰安旅行中のわちゃわちゃ食事会から数日が経った、とある日の誰も居ない放課後の教室。コガラシは先生からの頼み事で職員室に行っており、残された陽葵と幽奈は誰も居ないのを良い事に二人きりで会話をしていた。
「そういえば陽葵さん、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「どうしたの?」
「この前、狭霧さんからお聞きしたのですが・・・。呪術師さんは、呑子さんやちとせさんの様な妖怪の方々を、仮想怨霊として位置付けているんですよね?」
「うーん、カテゴライズ的にはそうかもね?」
「そ、それでは・・・。呑子さんや、ちとせさん達の事も祓徐対象に成ってしまったりしないのでしょうか・・・?」
そう言いながら、首を傾げつつも不安げな顔に成る幽奈。そんな彼女の質問に、暫く呆けていた陽葵だったが首を傾げながら長考する。
「うーん・・・。確かに妖怪さんである事には変わりないけど、少しだけ呪術カテゴリーにおける仮想怨霊と呑子さん達は違う気がするんだ。」
「と・・・言いますと?」
「呪術カテゴリーにおける仮想怨霊っていうのは、人の妖怪を恐れる思念から生まれる存在。例えば、学校の七不思議のトイレの花子さんとかね。でも、それは人の妖怪を恐れる思念から生まれた存在でしかないんだよ。」
「えぇと・・・。つまりは、呑子さん達は人の念から生まれたわけではないので呪術師さんの祓徐対象ではないという事ですか?」
「うん、ややこしいけどね。」
そう説明しながら苦笑する陽葵と、その説明を聞いて何となく納得している幽奈。そんな二人のもとに、一つの声が掛かった。その声に振り向くと、そこに居たのは千紗希であった。
「ねぇ美空君、何の御話ししてるの?」
「あ、宮崎さん。えーっとね・・・呪術における妖怪と、霊能力者における妖怪のカテゴリーの違いの御話し。」
「幽奈さんと?」
「うん。」
陽葵がそう頷くと、彼の机の上に置いてあったボールペンとメモ帳を幽奈に手渡す。すると、メモ帳にペンが走り始めた。
『そうなんです!陽葵さんの、呪術の御話し物凄く興味深いんですよ!!』
「そ、そうなの?」
『はい!!どうやら、呪術師さんと霊能力者さんでは同じ妖怪でも色々捉え方が違っている様で・・・。』
そうペンを走らせながら、熱心に陽葵が話してくれた霊能力者と呪術師の妖怪に対する解釈の違いを千紗希に説明する幽奈。そんな彼女の説明を、千紗希も感心した様に聞いている。
「へぇ~。同じ妖怪でも、呪術師さんと霊能力者さんによって解釈が違ってくるんだね。」
「うん。だからこそ、古くから呪術師と霊能力者は共同戦線を張って来たんだよ。」
「そうなんだ!何か凄いねー!そういえば、霊能力者さんで思い出したけどコガラシ君は?」
「ん?コガラシ君なら、先生の御手伝いに行ってるよ?なんか、重い物を運ばないといけないらしくって。でも、彼此三十分も経ってるのに・・・。全然帰ってこないんだよね・・・。」
そう言いながら教室のドアを見つめる陽葵だったが、コガラシは未だ帰って来ていない。そんな陽葵の様子に、千紗希も心配そうになる。
「うーん・・・。立て込んでるのかな?」
「かもねぇ・・・。」
「そっか・・・。あ!そう言えばなんだけどさ!ちょっと、御願いしたい事があって!!」
「御願い?」
そう首を傾げる陽葵と幽奈。そんな彼等に、千紗希はウインクをしながら件のお願い事を話し始める。
「うん!冬空君が帰ってきたら皆で写真を撮ってみても良いかな?もしかしたら、幽奈さんが写るかもしれないでしょ?心霊写真みたいに!」
そう話す千紗希には、悪気は無く折角御友達に成ったのだから記念に皆で写真を撮りたいという純然たる思いがあったのだろう。しかし、そんな彼女の言葉に幽奈は申し訳なさそうにノートに文字を書き始める。
『あ・・・あの。すみません!私、写真撮られるの苦手なんです・・・。』
「そ、そっかぁ・・・。苦手なものはしょうがないよね。」
『す、すみません・・・。でも、私も筆談じゃなくて実際に千紗希さんと御話をしてみたいなって気持ちはあります・・・。陽葵さん、非術師の方でも私が見えるようになる方法はありませんか?』
その言葉に陽葵はうーんと、首を傾げ始める。そんな彼の頭に浮かんだのは、先日に合同任務を共に行った少女・・・。禪院真希の眼鏡だった。
「うーん・・・。呪霊が見える眼鏡はあるけど、幽霊が見える眼鏡は聞いた事無いし・・・。でも、幽奈さんの事も見える様に成るのかな?でも、あまりその眼鏡は流通はしてないし・・・。」
「そ、そうなの?」
「うん、残念だけどね。呪術師は呪霊が見えて当たり前だし、わざわざ非術師に呪霊を見せる機会もないからね。・・・そもそも、非術師と呪術師じゃ脳の構造が違うからね。そうなってる以上、余程の特殊条件じゃないと見えないと思うし・・・。」
そう苦笑いしながら説明をする陽葵に、千紗希は少しだけガクリと肩を落としたが何かを思い出したかのように首を傾げる。
「な、なるほど・・・?あれ?じゃあ、なんでアタシはあのとき・・・えーっと、領域展開だったっけ?あの結界みたいな場所の風景が見えるようになったの?」
「あれは、千紗希さんが恐怖心から大量の呪力を放出したからだよ。それで、一時的に僕の生得領域の風景が見える様に成ったって訳。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「特級呪物を体内に取り込んだりとか、他にも方法はあるけどあんまりオススメしないかな。そもそも、特級呪物なんて毒物同然だし、呪物に人格を乗っ取られる可能性が高いからね。」
「ど、毒物なんだ・・・。し、しかも乗っ取られちゃうんだね・・・。」
そう顔を青ざめさせつつ、自分の身体が名前も知らないような人物に乗っ取られてしまうのを想像した千紗希はその考えを振り払うように首を振る。
「でも、今の話は術師基準の話だし・・・。僕じゃなくて、コガラシ君に聞いた方が良いかもね。」
そう話しをしていると、噂をすればなんとやら・・・。教師の手伝いを終わらせたコガラシが、教室の扉を開けながら陽葵に話し掛けてくる。
「陽葵ー、帰ろうぜ・・・。って、宮崎も居るじゃねぇか。」
「あ!コガラシ君、御疲れ様!!ねぇねぇ、一個聞いて良い?」
「お?どうした?」
「実はね・・・。宮崎さんが、幽奈さんと口頭で御話ししたいらしくって・・・。何か、良い方法ないかな?」
そう言いながら首を傾げる陽葵と、何処か期待するかのような眼差しを向ける幽奈と千紗希の顔にコガラシはしばらく考え込むとピンと指を立てる。
「そうだな、幽霊と話すには霊感が必要な訳だが・・・。普通の人間が霊感会得するには、最低十年は霊山に籠らねーと厳しいらしいぞ?あとは臨死体験するとか・・・。」
「そっ、そこまで人生賭けるのはちょっと・・・。」
そう引き攣った顔を見せる千紗希に、陽葵も苦笑いをしながら若干のフォローを入れる
「まぁ、人生楽な道は無いって事だね。一応、さっき話した眼鏡の呪具がないか問い合わせてみるよ。それでいいかな?」
「良いの!?有り難う、美空君!」
そう笑い合いながら、陽葵と千紗希とコガラシと幽奈は最終下校時刻になるまで和気藹々と話し合っていたのだが、その翌日である・・・。
いつも通りHRを終えて、一限目の授業が始まったと同時に教科書を開いた陽葵。そんな彼のすぐ後ろの席では、なにやらペンを走らせる音が響いており後ろに目線を向けると、千紗希が幽奈と筆談を楽しんでいた
(物凄い楽しそうに御話ししてるなぁ・・・。こうも楽しそうにしてるなら、やっぱり実際に御話しさせてあげたいけど・・・。)
そう思いながらペンを走らせ続けていたのだが・・・。
(な、長い!)
そう。授業が始まってから数分が経過しても尚、千紗希は幽奈との筆談を楽しんでいた。それ自体は良い、それ自体は良いのだが陽葵が懸念しているのは筆談に夢中に成り過ぎて、授業の聴講が疎かに成ってしまうのではないかという事であった。
そして案の定、何を話しているのか分からない千紗希の筆談のスピードが速まった瞬間に千紗希に白羽の矢が立ってしまったのだ。しかも運が悪い事に、この時限の担当教員は厳格な事で知られる教師であった
「宮崎!!」
「は、はいっ!?」
「どうした宮崎!?続きを読まんか!!」
「す・・・すみません。何処からでしょうか・・・?」
「何ぃ・・・?たるんどる!もう五月病か!!罰として、放課後残って資料整理!!」
そう宣告されがっくりと肩を落とす千紗希を後ろ目に見ながら、陽葵は苦笑いをしつつ教師の怒気から生まれた低級呪霊を祓い、コガラシは窓の外を見ながら内心呆れ果てていたのだった。
そうして放課後である。毎日の業務である放課後に、呪霊が校内に湧き出ていないか探索していた陽葵のもとに、千紗希から一通のメールが届いた
『美空君、まだ学校に居る?実は幽奈さんが、冬空君と美空君にも世帯ものがあるって!』
『見せたい物?分かった、じゃあ今から向かうね。』
そう返信をして階段を駆け上がり、陽葵が屋上へと向かうとそこにはすでにコガラシと幽奈と千紗希が勢揃いしていた
「三人してどうしたの?さっき、宮崎さんから連絡が来て屋上に来いって言われたんだけど。」
「はい!実はお見せしたいものがありまして!」
そういうと幽奈の全身が光に包まれ、光が段々弱まるとそこに居たのは普段の浴衣姿では無く黒を基調としたセーラー服を着た幽奈であった
「どうですか?コガラシさん、陽葵さん?」
「おう、ばっちりじゃねーか!」
「似合ってるよ幽奈さん!」
そう称賛する陽葵とコガラシとは対照的に、千紗希はやはり見えないのか目を凝らして凝視しようとしていたが・・・
「う~・・・やっぱり見えない・・・!」
そんな顰めっ面も幽奈が筆談でセーラー服を着れた事を喜んでいる事を筆談で伝えると、花が咲いた様な笑顔になるが、フワフワ浮いているせいかミニスカからショーツが見え掛けヒマリは慌てて目を背けコガラシも目を逸らす
『千紗希さんの御陰ですー!!』
「ゆ、幽奈さん……。その……。」
「その恰好で、あんまり浮くな……!!」
そうわちゃわちゃする中、千紗希はふと何かを思い出したような顔に成り改めて幽奈に向き合って……ただし、フヨフヨ浮いているメモを向いてだが問いかける
「……幽奈さんは、どうして写真苦手なのかな?」
「……!」
「あ……ごめん!!やっぱり、記念写真撮りたいなって思っちゃって……。」
そんな千紗希に、幽奈は何処か物哀しげな顔をしながらもポツリポツリと写真を撮られた時の事を陽葵達に話し始める
「大した事じゃ無いんです。写真には、私の姿がはっきり映らなくて皆さんを怖がらせてしまうので……。」
「成程な……。」
「怖がらせないようにしたんだ……。幽奈さんは、優しいんだね……。」
しかしそこは、こゆずによるポルターガイストや呪術戦における最終極地である領域展開を体験した千紗希。心霊写真程度ではもう怯えない
「そういう事なら大丈夫!!今更怖がったりしないよ!!だから撮ろう!?」
「で、でも……!!」
「ここに入ってね!!」
「あ……あの!!」
「ハイ、チーズ!!」
そうして幽奈をスマホの画角に入れて写真を撮ったのだが……。案の定、写り込んだ幽奈は心霊写真の様なボヤっとした感じになってしまった
「……。」
「な、成程……これは。」
「はー……。こうやって写るのか。」
「や…やっぱり、怖いですよね?」
そうやって、千紗希を怖がらせてしまったのでは無いかとオロオロする幽奈だったが、千紗希はハッと気を取り直すと加工をし始める
「だ、大丈夫!!確かにこのままだと、ちょっと怖いかもだけど……ほら!!可愛くない!?」
そうしてスマホを掲げた千紗希の画面には、なんという事でしょう!!加工アプリで、リボンを付け目がパッチリに成った幽奈が写って居るではありませんか!!
「成程!!加工アプリ!!」
そうポンと手を打つ陽葵の横で幽奈は無言状態であり、そんな沈黙にコガラシと幽奈は不安を募らせる
「幽奈……?」
「あ、あれ……?ダメだったかな……?」
しかし、幽奈は千紗希の近くへと移動すると彼女の手を取り、掌に文字を描き始める
『あ・り・が・と』
そんな幽奈との接触に、千紗希も幽奈の間に流れる空気も暖かく成り一件落着……したと思ったのだが
「じゃあ、この写真は冬空君と美空君に送るね!!」
「あー……。僕は大丈夫なんだけど……。」
「悪ぃ……、俺スマホ持ってねぇわ。多分、幽奈も……。」
「そんなぁ!?」
そうガッカリする千紗希の横で陽葵は苦笑いしながら、コガラシの頭を撫でる
「今度買いに行こうか、保護者欄はちとせさん……。若しくは、僕の知り合いの五条さんにして。多分、五条さんなら『青春を謳歌する為なら、全然OK!!』くらい言ってくれそうだしね。」
「あ、ありがとうな……。」
そうして、今度こそ忙しない一日は終わりを告げたのだった……