ゆらぎ荘の呪術師君   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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鬼の御姉さんと漫画

ある日の学校帰りの事である。陽葵とコガラシと幽奈がゆらぎ荘の玄関を潜ると、そこには風呂上がりの呑子が、ビール片手にトコトコ歩いてきた

 

 

「ただいまーっす。」

 

 

「呑子さん、ただいまです。御風呂上がりですか?」

 

 

「あら、おかえり〜。そうなの。今、良い湯加減だったのよぉ〜。」

 

 

そんな真昼間から酒を飲んでいる呑子に、コガラシは顎に手を当てて熟考する

 

 

「呑子さん、昼間から温泉スか?…ん?そういや、呑子さんっていつもゆらぎ荘に……。もしかして、ニート……?」

 

 

「こ、コガラシ君!?流石に違うと思うよ!?収入無しなら、御酒買えないでしょ!?」

 

 

「そ、そうよぉ〜。流石に、ニートはねぇ〜……。」

 

 

「コガラシさん、陽葵さん!!呑子さんはですね……!!」

 

 

そう困った様な顔をする呑子をフォローしようと、幽奈が呑子について話そうとした瞬間、階下から鋭い声が響いた

 

 

「呑子先生!!……呑子先生!捜しましたよ!!」

 

 

「累ちゃん!!」

 

 

そんな声の方向を見ると、そこに居たのはスーツをビシッと着こなした累と呼ばれた女性だった

 

 

「まさか、この修羅場中に温泉とは……。」

 

 

「リフレッシュしたかったのよ〜。」

 

 

「呑子……先生?」

 

 

「え?呑子さんって、学校の先生だったんですか?」

 

 

そんな呑子の素性を未だに理解出来ていないコガラシと、先生と呼ばれた陽葵が呑子を学校の先生と勘違いしてる様に累が振り返り、コガラシに名刺を渡す

 

 

「これは、失礼しました……。ゆらぎ荘の方ですか?私、荒覇吐呑子先生の、担当編集に成りました……。羽良嶋累と申します。」

 

 

「月刊少女、マーマレード……?てことは、呑子さんって……マンガ家!?」

 

 

「そうよぉー!!ちゃんと、働いてるんだからぁ!!」

 

 

そうドヤ顔を決める呑子を見ながら、陽葵は何故かコガラシの裾をチョンチョンと引っ張る

 

 

「コガラシ君、コガラシ君……。」

 

 

「ん?どうした?」

 

 

「マンガって……何?」

 

 

「は!?マンガ知らねぇのか!?ほら、絵が書いてる本……あ。」

 

 

ここでコガラシはとある事実を思い出し、ある一つの結論に辿り着いてしまう。「陽葵は名家の御坊っちゃま→英才教育→ギャグ漫画みたいな下品な物禁止→文学作品ばかり」という方程式に

 

 

「……?」

 

 

「えーっと、マンガっていうのはな……?なんて説明したら良いんだ……。」

 

 

そう頭を抱えるコガラシの横で、累がキランと目を輝かせ陽葵を見ると、呑子に耳打ちをする

 

 

「呑子先生……。」

 

 

「ん?どうしたの〜?」

 

 

「次の章で、女装男子が出てきますよね……。けど、モデルが居なくて先生困ってたじゃないですか……。ですが、彼……。」

 

 

「……なぁるほど。」

 

 

そう頷き合うと、累は人の良い笑顔を浮かべながら陽葵の方へと近づいて彼に警戒心を抱かれない様にしゃがんで目線を合わせる

 

 

「申し訳ございません。少々、宜しいでしょうか?」

 

 

「は、はい!!」

 

 

「呑子先生が、漫画家という事を御理解頂けたのを御承知で少々お手伝いをして欲しい──。」

 

 

「分かりました行きましょう!!」

 

 

「え……?即決……?」

 

 

そうポカンとする呑子と累を、陽葵はムンッと拳を作りながら目をキラキラさせて何度もコクコクと首を縦に振って了承する

 

 

「御困りなんですよね!?それじゃあ、僕頑張ります!!行こう、コガラシ君!!」

 

 

「お、おう!!」

 

 

「それじゃあ、御部屋の前で待ってますね!!」

 

 

そうして呑子の部屋へと走って行ってしまった陽葵を呆然と見ながら、累は呑子に対してポンと肩を置きながらぼやき始める

 

 

「呑子先生……。」

 

 

「えっと~……。どうしたの?」

 

 

「彼、ちゃんと見ておいた方が良いですよ……。多分、訪問販売とかされたら疑いも無くサインするタイプです……。多分、オレオレ詐欺にも引っ掛かりそうですよ……。」

 

 

「そうね~。……取り敢えず、行きましょうか。」

 

 

そんな呑子に累は頷くと、まだ何も知らない純粋無垢の権化の呪術師とそんな彼に振り回される霊能力者の少年を追って自室へと向かったのだった……

 

 

「おじゃましまーす……。え……?」

 

 

「いらっしゃーい!!ちょ~っと、散らかってるけどぉ~!」

 

 

そうして、呑子が居住している201号室が開かれると陽葵とコガラシの眼前に広がったのは圧巻の光景だった!!……悪い意味で……

 

 

「おぉ……。」

 

 

「お、御酒がいっぱい……。繁忙期で残業20日目突入して高専に泊まり込んでる、家入さんの保健室より酷い……。」

 

 

「これでも、大人しい方なんですよ……。」

 

 

そう呪術高専の酒カスヤニカス代表の家入硝子を連想しながら、取り敢えずゴミ袋の中に缶と瓶を分別して入れ始める陽葵の横で、累が頭を抱える中コガラシは半眼に成りながら呑子に用件を尋ねる

 

 

「それで、修羅場ってのは……?」

 

 

「呑子先生の在宅アシさんが、事故で入院してしまったのです。」

 

 

「そうなのよぉ。来週には退院出来るらしいんだけどぉ……。今月の締め切り、明日なのよねぇ」

 

 

「明日!?」

 

 

「そ、それってもう少し焦った方が良いのでは……!?」

 

 

そう素っ頓狂な声を上げるコガラシの横で、陽葵もゴミ袋に詰めていた瓶ビールを床に取り落としそうに成ったところを慌ててキャッチしながらポカンとしてしまう

 

 

「累さん……。因みに、明日の何時でしょうか……?」

 

 

「明日の朝七時……、残り十五時間です。なのにまだ、白紙のページが何枚も……!!」

 

 

「や、ヤバいんじゃないんスかこれ!?」

 

 

「凄く……!!」

 

 

そう顔を真っ青にしている担当編集一名と、急遽戦力補充の為に呼び寄せられた男子高校生二名が顔面蒼白になっている中、当の筆者は顔を真っ赤にしていた……酒で

 

 

「コガラシちゃんに、陽葵ちゃん何飲むぅ?何か、買ってきたげよっかぁ?」

 

 

「呑子さん!?」

 

 

「アンタ、何でそんな呑気なの!?」

 

 

「ふふ……。御酒の力よぉ!!ヤな事全部、忘れられるぅ!!」

 

 

「現実逃避してる場合か!!」

 

 

しかし、そんな呑子のフィーバータイムも突如として終了してしまう。何故なら、遂に堪忍袋の緒を切らした累が彼女の酒を奪い取ってしまったからだ

 

 

「原稿上がるまで飲酒禁止です!!」

 

 

「あぁん!!分かってるわよぅ……。」

 

 

「編集さんって大変すね……。」

 

 

「そういう事だからぁ、コガラシちゃんに陽葵ちゃんも手伝ってくれない?」

 

 

「了解っす!!」

 

 

「分かりました!!」

 

 

そう胸を張って了承をするコガラシと陽葵に対して、累は重ね重ね頭を下げて御礼をしながらも陽葵に向かって紙袋を手渡す

 

 

「すみません……。私が、ヘルプアシさんを見つけられれば……!微力ながら、私もお手伝いさせて頂きます!!……それから、美空さんでしたね。先程の御願いの件ですが……。」

 

 

「は、はい!!」

 

 

「実は、現在呑子先生が書かれている漫画で次号からショタ系のキャラクターが出てくる事に成っているんです。」

 

 

「ショタ……?」

 

 

「つまり、貴方の様な小柄で中性的な顔の男性です。」

 

 

そうして累が設定資料集のようなものを見せると、確かに次章から男子高校生でありながら小柄な体躯の男子生徒が登場してきている……。しかも、何故か見た目まで陽葵にそっくりな……

 

 

「えっと、つまりこのキャラクターのデッサンモデルをしたいから僕に?」

 

 

「はい、コンセプトとしては小柄男の娘母性系女装ショタです。」

 

 

「まんま、陽葵じゃねぇか……。というか、属性盛りすぎじゃないスか?」

 

 

「読者のニーズですから……。」

 

 

そう疲れ切った顔をする累に対して、陽葵は普段から化粧をしている事も有ってか困った様な顔をしつつも頷いて了承をする

 

 

「分かりました。それじゃあ、自室で着替えてきますね?」

 

 

「御願いします。」

 

 

そうして陽葵が立ち去った後に、呑子の部屋で急ピッチで漫画の締め切り追い上げ大会が始まったのだが……。そんな呑子からは、何かどす黒い念の様な物が浮かび上がり四級呪霊が浮かび上がっていた

 

 

「なんか……呑子さん、雰囲気違くないすか?しかも、呪霊が……。」

 

 

「呪霊?」

 

 

「いや、何でもないっス!!」

 

 

「……?まぁ、原稿中……特に締め切り前は荒むそうで……。しかし、ああなれば何とか間に合わせてくれる筈です。」

 

 

「あんな呑子さん、初めて見た……。」

 

 

そんな普段はのんびりしている呑子の真新しい面に直面したコガラシが息を飲む中、累も累でコガラシの下書きの出来栄えに目を見開く

 

 

「それにしても、冬空君上手いですね……。漫画書かれるんですか?」

 

 

「いやぁ、昔ちょっと漫画家志望の霊に取り憑かれた事が。」

 

 

「霊?」

 

 

「しっかし、この漫画を呑子さんがね~……!!御酒以外の物にも、興味あったんすね。」

 

 

そうやって椅子に座って呪詛の様な物を吐いている呑子に、コガラシが話しかけたが……。呑子は何故か、空笑いの様に笑いながら、パソコンのデジタルデザイン上の原稿の男キャラをペンで指差し始める

 

 

「……ふ……ふふ……っ。」

 

 

「呑子さん?」

 

 

「この男子もね……。モデルもやってる様な、魅力的な女子に迫られても……。主人公以外の女子なんて、異性として殆ど意識しないの……。絶対ぶれたりしないのよ。裏切ったりしないのよ、絶対に……。……こんな一途な男が居るかよぉぉ!!」

 

 

「アンタが描いてんでしょーよ!!」

 

 

そうツッコミを入れるコガラシに対しても、呪詛モードに入ってしまったのか呑子は脇目も振らずに呪詛を吐き続けてしまう

 

 

「大体、何が悲しくてリア充なティーン共がキャッキャウフフする様を、克明に描写しなきゃならないのぉ!?こちとらとうに、成人してるってのよぉぉ!!」

 

 

「……ほっといて良いんスか?」

 

 

「呑子先生は、碌な男と出会わなかったそうで……。そのフラストレーションを、原稿にぶつけてらっしゃるのですが。偶に現実を思い出し、あぁなるそうです。大丈夫、暫くすれば落ち着き────。」

 

 

その瞬間、201号室の襖がトントンとという音と共にノックがされ外から着替え終わったであろう陽葵の声が中まで届いてきた

 

 

「あの、着替え終わりました~。」

 

 

「待て待て!!陽葵!!今、呑子さん荒れて────は?」

 

 

そうして襖が開かれると、そこには柔らかなワンピース姿を着た陽葵が立っておりそんな彼から漏れ出る陽の呪力が呑子の生み出した四級呪霊を一掃する

 

 

「どうでしょうか、呑子さん?」

 

 

「……遂に高血圧で、昇天しちゃったのかしら……。天使が居るわ……。」

 

 

「天使さんじゃないですよぉ!?」

 

 

そんな陽葵の突っ込みが荒んだ201号室に轟き、そこから一時間に渡りポージング撮影が始まったのだった……




陽葵君ワンピース

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