ゆらぎ荘の呪術師君   作:雨を呼ぶてるてる坊主

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呪術師君と、霊能力者君

チュンチュンという雀の鳴き声と共に、ゆらぎ荘の客間に朝日が差し込め始める。そして、そんな鳴き声と共に長い黒髪を一房に纏めた男・・・。冬空コガラシが、呻き声を上げながら起き始める。

 

 

「う・・・うぅん。もう朝か・・・?」

 

 

そう言いながら呻き声を上げる彼に対して、隣から可愛らしい声が響き渡った。

 

 

「おはよう御座います、冬空さん。」

 

 

「ん・・・?あぁ、おはよう幽奈・・・。・・・は?だ、誰だお前!?」

 

 

そんな声に対して返事を返そうと、声の主の方を振り向いたコガラシだったが声の主の姿に驚愕の声を上げる。

 

 

なんとそこに居たのは、いつもコガラシにラッキースケベられポルターガイストを引き起こしてしまう幽奈ではなく、薄茶色のミディアムヘアに黄緑色の瞳をした可愛らしい少年・・・。美空陽葵が座っていたからだ。

 

 

そんな陽葵に驚きの声を上げるコガラシに咳払いをすると、にこやかな笑みを浮かべながら陽葵はコガラシに自己紹介を始める

 

 

「御紹介が遅れました。僕の名前は、美空陽葵と申します。歳は今年で15歳に成ります。昨日から、ゆらぎ荘に入居致しました。以後ともよしなに。」

 

 

「お、おぅ・・・。宜しく・・・?」

 

 

「はい、よろしくお願いします。実は昨日、苦無が刺さっていた貴方をここまで運んだのですが・・・。御気分は如何でしょうか?」

 

 

「そ、そうか・・・。なんと言うか、有り難うな。」

 

 

そう柔らかな笑みを浮かべる陽葵に、段々と混乱していた気持ちが落ち着いてきたのかコガラシは改めて正座をすると陽葵に向き合って自己紹介をする。

 

 

「さっきは取り乱して、悪かったな。俺は冬空コガラシだ!!因みに、俺も歳は15だからタメで良いぜ!!よろしくな、陽葵!!」

 

 

「分かった。それじゃあ、タメ口で話させてもらうね。今日から宜しくコガラシ君。それにしても仲居さんから聞いたんだけど、コガラシ君って霊能力者なの?」

 

 

「おう!あんま、驚かねぇんだな。」

 

 

「うん!かく言う僕も、呪術師だからね!」

 

 

「へぇ~・・・。呪術師か・・・。」

 

 

そうにこやかに笑う陽葵に向かって、コガラシは恐る恐るベッドに横たわっている白髪の女性の方を見遣る。

 

 

「御前さ、今さっき呪術師だって言ってたよな?それじゃあ、アイツの事見えてるか?」

 

 

そんなコガラシの指差す方には、未だ眠りから覚めない幽奈がすやすやと眠っていた。そんな彼女に目を遣った陽葵は、少しだけ困ったような顔をしながらコクリと頷く。

 

 

「うん・・・、見えてるよ。視たところ、過呪怨霊に近い感じがするけど・・・。未練があって、此処にとどまってる感じの子?」

 

 

「まぁ・・・そんな感じだ。幽奈っつーんだけどな、俗にいう地縛霊・・・。陽葵の言う、過呪怨霊に似て非なるもんかもな。」

 

 

「そっか・・・。」

 

 

そう呟きながら、陽葵はジッとスヤスヤと眠る幽奈の方を観察する。そんな彼の頭の中には、様々な思惑が飛び交っていた。

 

 

(仮にこの子が、過呪怨霊なら・・・。呪術規定に基づいて、今すぐこの場で祓わないといけない・・・。だけど・・・、本当に祓うべきなのかな?)

 

 

「なぁ、陽葵。もしかして御前、今幽奈を祓うべきかどうかで悩んでるだろ?」

 

 

「えっ・・・。う、うん・・・。」

 

 

「だよな・・・。けどさ、少しだけ猶予をくれねぇか?」

 

 

「猶予?」

 

 

そう首を傾げる陽葵の心の中を読んだかのように、コガラシは彼に自分が幽奈と交わした約束事を話し始める。幽奈自身、自分の未練を把握できていないという事。そして、そんな彼女に未練を晴らす手伝いをコガラシが申し出た事を。

 

 

「ってのが、事のあらましなんだが・・・。分かってくれたか?」

 

 

そう言いながらも、何処か不安そうな顔をしているコガラシに溜息を一つ吐くと陽葵は持論を語り始める。

 

 

「例え今は、自我を保っていても・・・。この世に縛り付けられた死者の魂は、怨霊へと転じてしまう・・・。そして、仮に幽奈さんが怨霊と成り果てて非術師に危害を加える可能性が無いわけじゃない。だから、呪術規定一条の脅威の排除に基づいて幽奈さんは祓徐(ふつじょ)されるべき存在・・・。」

 

 

「それは分かってるって、けどな・・・。」

 

 

その陽葵の理性的な言葉に、コガラシが待ったをかけようとするが次に彼の口から放たれた言葉にコガラシは動きを止める事になる。

 

 

「けれども、何事にもイレギュラーは存在する。もしかしたら、幽奈さんは僕が今まで見てきた過呪怨霊とは違う物かもしれない・・・。」

 

 

「ど、どういう事だ?」

 

 

「通常、禍呪怨霊には呪力による負のエネルギーが渦巻いてる筈・・・。けれども、幽奈さんの身体には負のエネルギーの他に正のエネルギーが拮抗して渦巻いてる。」

 

 

「そ、そういうの分かんのか?」

 

 

そのコガラシの質問に陽葵はコクリと頷くと、自分の術式を開示しつつ説明を始める。

 

 

「うん。僕の術式は、陰陽操術っていうんだ。文字通り、陽の力と陰の力を操る術式の事なんだけど。副次効果の一つとして、対象の生命エネルギーみたいなものを見る事が出来るんだ。」

 

 

「つまり・・・。本来、禍呪怨霊には負のエネルギーしか流れていないのに、幽奈の身体には正と負のエネルギーが渦巻いてるって事か?」

 

 

「うん。まぁ・・・結局何が言いたいかっていうと、今のところ幽奈さんを祓うつもりは無いよ。非術師に危害を加えない限りはね。」

 

 

そう言いながら、先程までの真剣な顔は何処へやら。フワリとした雰囲気を漂わせながら、柔らかい微笑みを浮かべる陽葵にコガラシはホッと息を吐く。

 

 

「そ、そうか・・・。」

 

 

「さて。それじゃあ、僕は今から仲居さんの御飯を食べたら町に降りて御買い物に行ってくるよ。」

 

 

「そうか、なんか日用品でも買いに行くのか?」

 

 

そう首を傾げるコガラシに対して、目をパチクリさせると陽葵は困った様に苦笑いをしながらゆっくりと首を振る。

 

 

「ううん。今度の休み明けから、学校が始まるでしょ?だから、新しい文房具とかを買いに行きたくて。」

 

 

「あ~・・・、なるほどな。」

 

 

「コガラシ君も、良かったら一緒に行かない?それとも、もう文房具とかは買っちゃった?」

 

 

そう言いながら首を傾げる陽葵に、コガラシは気まずそうに笑うと自身の懐事情を話し始めるが、そんな彼の懸念を陽葵は一蹴する。

 

 

「あー・・・。今は金が無いし、カツカツだから中学の時に使ってた鉛筆を使おうと思ってんだけど・・・。」

 

 

コガラシが、そう言いかけた瞬間である!突然、バン!という音が鳴り響いた!その音の正体は、陽葵が叩いた机の音だった!

 

 

そして、机を叩いた当の本人はというとプリプリと怒っているようだ!

 

 

「駄目だよ!コガラシ君!」

 

 

「うぉっ!びっくりした!」

 

 

「あっ・・・ご、ごめんね。大きな声出しちゃって。でも、折角高校生になるんだから、新しい文房具とかノートを買って、心機一転頑張らなきゃ!」

 

 

「いや、だから金が・・・。」

 

 

そうブツブツ言うコガラシにだったが、そんな彼に対して陽葵は水戸黄門の紋所の様にある物を彼に突きつける!

 

 

「大丈夫!僕がこれで、全額奢ってあげるから!」

 

 

そう言いながら陽葵が手渡した物・・・。それは、黒を基調とした色に金の模様が描かれたクレジットカード・・・。つまりは、ブラックカードだ。

 

 

そんな普通に生きていれば、まず見る事の無いカードにコガラシの目が点になる。

 

 

「は・・・?な、なん・・・だ?このカード?」

 

 

「え?ブラックカードだよ?取り敢えず、このカードさえあれば基本的になんでも買えるからね~。よし!じゃあ先に僕、下に降りてるからねー。」

 

 

それだけ言うと、ブラックカードを手に持ったまま微動だにしないコガラシを部屋に残すと陽葵は階下に降りて、昨日の共有スペースに向かう。するとそこには、仲居さんとピンク色の髪をした女性が座って談笑していた。

 

 

「あのー。おはよう御座います・・・。」

 

 

「あら!陽葵君、起きてこられたんですね!」

 

 

「はい。御布団いただきました、とっても気持ち良かったです。」

 

 

「それは何よりです!それでは、朝食の準備をしてきますので少々お待ちください!」

 

 

そう言うと、仲居さんはパタパタと音を立てて厨房のほうへと消えてしまう・・・。そして、陽葵はピンク髪の女性と二人っきりになってしまったのだが・・・。持ち前の人当たりの良さで、難無く陽葵は女性に挨拶をする。

 

 

「あの、おはよう御座います!昨日は、ちゃんとした挨拶が出来ずに申し訳ありませんでした!えっと・・・、美空陽葵って言います!不束者ですが、どうかよろしくお願い致します。」

 

 

「わー!ちゃんと挨拶が出来る良い子ねー!アタシ、荒覇吐呑子(あらはばきのんこ)っていうの!宜しくね、陽葵ちゃん!仲居さんから聞いてるわぁ~、呪術師なんですって!?」

 

 

「はい!呪術機関からの任務により、暫くこのゆらぎ荘に滞在させて頂く事になりました!改めて宜しく御願・・・。あれ?」

 

 

元気いっぱいな声で自己紹介をしてくれた呑子に、陽葵は改めて礼をしようとしたのだが・・・。そんな彼の真横から、一人分の人の気配が感じられた。

 

 

そんな気配に陽葵がゆっくり目線を隣に遣ると、そこには猫耳のフードを被った緑髪の少女が陽葵の顔をジーっと覗き込んでいた。

 

 

「えっとー?こんにちは?」

 

 

そう陽葵が挨拶をしても、なかなか反応を見せない猫耳フードの少女。そんな少女の様子に陽葵が困った様な笑みを浮かべていると、いきなり少女が陽葵に抱き着いてきた!!

 

 

「え!?え、えっと・・・!?」

 

 

そんな少女の行動に、陽葵がパニックになっているなか猫耳少女は陽葵に膝枕されるような形で横になる。

 

 

「ポカポカする・・・。ここ、日向ぼっこしてるみたい・・・。」

 

 

「えっと・・・。呑子さん、この子は一体・・・。」

 

 

「この子は、伏黒夜々ちゃんっていうのよ~。猫神様っていう妖怪の、宿主なのよ~。」

 

 

「あ、そうなんですね・・・。だから、猫耳と尻尾が・・・。」

 

 

そう言いながら、猫耳をピクピクさせながら自分の膝に乗って寝ころんでいる夜々をどかすにどかせず、陽葵はそのままの体勢で放っておく事にする。

 

 

「それにしても、まさかこんなに早く夜々ちゃんが甘えてくるなんてね~。さっき、日向ぼっこしてるみたいって言ってたし、陽葵ちゃんの御膝があったかいのかしらね~。」

 

 

「多分、僕の術式の影響でしょうかね?僕の術式は陰陽を操るので、陽の呪力に吸い寄せられちゃったんでしょうか?自分でも何言ってるか、よく分かんないですけど・・・。あ、そういえば呑子さんも妖怪なんですか?」

 

 

「そうよ~。正確に言うなら、酒呑童子と人間のハーフの人妖よ〜。」

 

 

「な、なるほど・・・。」

 

 

そう言いつつも夜々を膝から降ろせないでいると、陽葵の背後から凛とした女性の声が響いた。そんな声に陽葵が振り向くと、少し離れた場所に昨日コガラシに向かって苦無を投げ付けようとしていた女性が立っていた。

 

 

「呑子さん、おはよう御座います。それから・・・貴様は、昨日の新参者か。」

 

 

「あ!はい!昨日は御挨拶が遅れて、申し訳あり・・・。」

 

 

そう陽葵が挨拶をしようとした瞬間、女性が何かを陽葵に向かって投げ付けた・・・!が、それが陽葵に当たる事は無かった。何故なら、女性が投擲したものを陽葵は顔に当たる寸前のところで指に挟んで止めていたからだ!!

 

 

(く、苦無・・・!?よ、陽脈調律で動体視力と反射速度を向上させてなかったら、間違いなく当たってた!!)

 

 

そんな投げ付けられた物の正体に慄いていると、女性は新たな苦無を再度持って構えながら陽葵に忠告をする。

 

 

「美空陽葵・・・と言ったな。一つ覚えておけ。もし貴様が冬空コガラシ同様に、このゆらぎ荘の風紀を乱す様な事があれば・・・。この、雨野狭霧が天誅をくだす!!」

 

 

「う、うん・・・?えっと、これから宜しくね?」

 

 

そう困惑しながらキャッチした苦無をそっと畳に置きつつ呆然とする陽葵を他所に、呑子と狭霧が陽葵の横で言い合いをし始める。

 

 

「も~。コガラシちゃんのときもそうだったけど、さぎっちゃんいきなり辛辣過ぎよぉ~。」

 

 

「呑子さん!冬空コガラシが来たときも言いましたよね!?ただでさえ男子がもう一人増えるんですから、きちっとした服装をしてください!!」

 

 

そんな彼女達の様子をぼんやり見ていた陽葵の肩を、何者かがポンと叩く。そんな仕草に振り返ると、そこには私服に着替えたコガラシとアワアワしている幽奈が居た。

 

 

「陽葵・・・。御前も、狭霧に初対面早々に苦無を投げ付けられたんだな・・・。」

 

 

「う、うん・・・。ちょっとビックリしちゃったけど、受け止められない程じゃなかったし大丈夫だよ。」

 

 

「まぁ・・・。なんと言うか、男同士助け合っていこうぜ。」

 

 

「そうだね・・・。取り敢えず、仲居さんの朝御飯食べ終わったら御買物に行こっか・・・。」

 

 

そう言いながら、ゆらぎ荘に滞在する美空陽葵と冬空コガラシの両名はギュッと固い握手を交わしたのだった。

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