さて・・・ゆらぎ荘の面々との挨拶をし終えた陽葵だったが、そんな彼はコガラシと一緒に町に降りてきていた。
そして買い物が楽しみなのか御機嫌混じりに鼻歌を歌う陽葵の横で、コガラシは陽葵の隣で彼から預かったブラックカードを握りしめながら恐る恐る聞いてくる
「なぁ、陽葵・・・。」
「ん?どうしたの?」
「ほ、本当に良いのか?ブラックカードなんて使って・・・。」
「全然大丈夫だよ?それに、これでも結構稼いでるんだからね?」
「そ、そうなのか・・・。」
「取り敢えず、このカードで新学期の学用品を買ってね。安物とかじゃなくて、ちゃんとしてるやつだよ?」
そう言いながらも、彼はコガラシと一緒に大型商業施設の中に入ると雑貨コーナーの中に入っていく。
「へー!大型商業施設って、一つの施設の中に何個も店が有るんだな!!」
「やっぱり、こういう所にはあんまり来た事無い?」
「あぁ。実はな・・・昔、無駄遣いを繰り返す主婦の霊に取りつかれた事があってな。そのときに、なけなしの金を全部無理矢理使わされてな・・・。暫くの間、買い物がトラウマに・・・。」
「な、なんというか・・・大変なんだね・・・。」
そう言いながら、彼等は雑貨屋の中に揃って入っていく。そして、陽葵はコガラシと共に文房具を選び始めたのだが・・・。
「あのさ、コガラシ君・・・。なんで、一番安い文房具ばっかり選んでるの!?」
そう突っこむ陽葵が持つ籠の中には、コガラシが選んだ安物の鉛筆・・・。それも、新学期セールで割引されている鉛筆ばかりが入っていた。
「何でって・・・。鉛筆なんて、安かろうが高かろうが全部同じだろ?」
「全然違うよ!?安物の鉛筆とそうじゃ無い鉛筆じゃ。雲泥の差が有るんだよ!?例えばこの鉛筆!!この安い鉛筆は、芯の質が悪いから物凄く折れやすいの!!」
「お、おぅ?」
「それに対して、こっちの高い鉛筆は芯の黒鉛の粒子が細かく均一になってるから、折れにくいの!だから、高い鉛筆の方が結果的に安上がりなんだよ!」
そう熱弁しながら、陽葵はコガラシが選んだ安物の文房具を全部棚に戻すとちゃんとした品質の文房具を片っ端から入れていく。
「あとそれから、シャーペンも買っておいて損は無いからね。この際だから、新しい筆箱も買っちゃおう。」
「お、おい!そんな高いもんまで、奢って貰う訳には・・・。」
「僕が、コガラシ君に買ってあげたいだけだから良いの!じゃあ、御会計が終わったら次は辞書を買いに行くよ。」
「ま、まだ買うのか?というか、辞書とか要らなくねぇか?」
「何言ってるの?辞書が有ると無いとじゃ、勉強のし易さが全然違うんだよ?じゃあ、本屋さんにレッツゴー!!」
そう言うと、陽葵はコガラシの腕を引っ張って本屋へと連行する。どうやら彼の世話焼きスイッチに、火が着いたようだ。
そうして数分後・・・。商業施設を歩くコガラシの両腕には、参考書が入った袋と文房具が入った袋の両方がぶら下がっていた。
そして、そんな彼の横では申し訳なさそうな顔をしている陽葵が横に並んで歩いている。
「あの・・・、コガラシ君。なんか・・・ごめんね。ついつい、熱が入っちゃって・・・。」
「いやいや、気にすんなよな!!御前が居なかったら、絶対適当に安物の文房具を買って後悔するのが目に見えてたからな・・・。それに、参考書まで奢って貰って・・・。本当に、至れり尽くせりだな。」
「気にしないで。本当に、僕がしてあげたくてやっただけなんだから。」
そうにこやかに笑う彼の手にも、新品の文房具セットと何冊かの参考書が入った袋がぶら下がっていた。
「それにしても、学校生活か~。う~・・・楽しみ過ぎて、寝れ無くなっちゃったらどうしよう!!」
「そういや、御前は初めてなんだったか?学校生活っていうのは。」
「うん!そもそも僕、自分で言うのもなんだけど箱入り息子だったから・・・。一応、親戚に教員免許を持ってる呪術師の人が居たから、その人に勉強を教えて貰ってたりはしたけど、学校に行くのは本当に初めてなんだ~。コガラシ君は?」
「俺は一応、小中と通ってたな。けど、小学校の頃は二ノ宮金次郎像とか人体模型の付喪神に乗っ取られたもんだ・・・。そのうえ中学生の頃には、借金苦からの霊能修行だったからな・・・。」
そんな思い出を語り終えた瞬間、コガラシの両手を陽葵がガシッと掴み涙ながらに励ましの声を掛ける。
「コガラシ君・・・っ!御互いに、楽しい高校生活の思い出を作ろうね・・・っ!!」
「お、おぅ!!」
そう誓い合いながら、陽葵とコガラシは商業施設の中に有る飲食店に入り少し遅めの昼食を摂ってから帰ろうとしたのだが・・・。とある店の前で、突然陽葵が立ち止まった。
「コガラシ君。ちょっと悪いんだけど、先に帰って貰ってて良い?」
「どうした?」
「ちょっと、追加の買い物があって・・・。個人的な御買い物だし、結構時間が掛かっちゃうから先に帰ってくれていいよ。」
「俺・・・付き添わ無い方が良いか?」
「そういう訳じゃないけど、行っても面白くないだろうし・・・。」
「・・・そうか?まぁ、そこまで言うなら先に帰ってるからな。夕飯までには、帰って来いよ!」
それだけ言うと、コガラシは笑顔を浮かべながら陽葵に手を振るとデパートの出口へ向かって歩いていく。そんなコガラシを見送った陽葵は、件の店の中に入る。
「ふぅ・・・。いくらコガラシ君相手とはいえ、知り合いに此処に入っていくのを見られるのは中々ハードルが高いよね・・・。」
そう呟く陽葵の目の前には、色とりどりの容器がズラッと並んでいた。そう・・・陽葵が入った店とは、コスメショップだったのだ!!
何を隠そう、この美空陽葵・・・かなりのメイク好きなのである。メイクに目覚めたきっかけは、とある任務の日であった。
その日の任務内容は、歳端もいかない女児をターゲットに誘拐をし続ける呪詛師の捕縛であった。
そして、その任務に抜擢されたのが陽葵であった。天与呪縛*1の影響で、身長が150cm程と小さく女の子の様に可愛らしい顔立ちをしている彼は、まさに囮として有用だった。
そして陽葵自身、被害に遭っている非術師の女の子達を憂いていた。それ故に女性補助監督の助言を受けながら、メイクの勉強などをした結果、見事に呪詛師を捕縛する事には成功した。
しかし任務の過程で、化粧の練習をしまくっていた結果・・・。見事に、化粧にドハマりしてしまったのである!!なお、五条曰く『陽葵は化粧しなくても、可愛いけどね。』との事らしいが・・・。
「うーん・・・。あ、この色付けリップ可愛いかも。こっちのリップも可愛いし・・・。あ、この保湿クリーム京都校の歌姫先生が御勧めしてたやつだ!あ、この香水も良いかも!天然香料だし、良い匂いしそう!」
そう独り言を言いつつも、次から次へと気に入った化粧品や香水を籠に入れていく陽葵。そして約一時間後、ある程度買い終えた彼は御会計を済ませると、その足でスーパーで御弁当用の食材を買ってから商業施設を出て帰路に就こうとする。
時間帯としては、少し空が暗く成り始めており人通りも少なくなってきている。
「そういえば、今日の夕御飯って何なんだろ?楽しみだなぁ~。・・・ん?何だろあれ?」
そう彼がウキウキ気分で帰り路を歩いていると、突然彼の視線の先に不可解なものが映った。その不可解なものとは、恐らく酔っぱらいであろう男がオレンジ色の髪をした女の子相手に言い寄っている現場だった。
「は、離してください!」
「良いじゃねぇかよ~。こんな夜遅くに出歩いてるって事は、相当遊び慣れてるんだろ~?だったら、おじさんとも一緒に遊んでくれよぉ~。」
「ち、違います!!だ、誰か・・・!!」
そう言いながら酔っ払いに腕を掴まれてる女の子が周囲を見渡すが、数少ない通行人達は聞こえないふりや二度見をして通り過ぎるだけだった。
「ありゃ・・・。春先辺りは、変な人が多いってよく言うけど。助けに行った方が良いよね。」
しかしそんな中、陽葵は自然に女の子と酔っ払いの方へと足を向けていた。そして、酔っ払いの背後へ立つとチョイチョイと肩を叩く。
「あのー、すみません。」
「あぁ!?何だよぉ~!!」
「その女の子、嫌がってますよー。放してあげてはどうですか?」
そうなるべく穏便に済ませようと、陽葵が穏やかな声で諭すように酔っ払いに話し掛けるが、酔っ払いは陽葵の方を見ると嫌らしい笑みを浮かべてくる。
「おおっ!?君も結構可愛いねぇ~。おじさんと一緒に、遊んでくれよぉ~。」
「あはは、結構ですよー。取り敢えず、御水でも飲みませんか?酩酊状態に陥っておられるようですし、少々目を覚まされた方が宜しいかと。」
そう穏やかな声で話し掛け続ける陽葵だが、流石は出来上がった酔っ払いと言ったところだろうか。先程までのへらへらした雰囲気は何処へやら、何の脈絡も無く怒声を浴びせてきたのだ!!
「あぁん!?おじさんの頼みを、聞いてくれねぇってのか!!」
そう言いながら女の子の腕から手を放し、陽葵に向かって手に持った鞄を振り上げる酔っ払い。そんな酔っ払いの行動に、彼に絡まれていた女の子が悲鳴を上げた!!
「あ、危ない!!」
しかし陽葵が襲い掛かってくる酔っ払いの、
「・・・ふぅ。なるべく、実力行使はしたくなかったけど仕方ないよね。・・・大丈夫だった?」
そう言いながら酔っ払いを抱きかかえる陽葵が女の子の方に目を向けると、ポカンとしていた女の子はハッとすると陽葵に頭を下げてくる。
「・・・あ!は、はい!助けてくれて、有り難う御座いました!!」
「ううん、気にしないで。春先は、こういった類の人が増えるからね~。」
「あ、あの・・・。何か御礼を・・・。」
「大丈夫だよ、当然の事をしたまでだからね。此処から家は近いの?」
「は、はい。」
「それじゃあ、気を付けて帰るんだよ。僕は、この人を交番に連れて行くから。それじゃあね~。」
それだけ言って女の子に別れを告げた陽葵は、爆睡している酔っ払いを俵担ぎしながら最寄りの交番目指して歩き始める。
そうして数分後、交番に酔っ払いを預けた陽葵は今度こそゆらぎ荘に足を向けて帰路に就いたのだった。