そうしてなんやかんやで、千紗希の家に向かう事が決定した一行だったが・・・。何故か千紗希の家の前に居たのは、陽葵を除いた三人だけであった。
何故そうなったかは、数分前に遡る・・・。
『よっし!それじゃあ早速、宮崎の家に行って解決するか!!』
『はい!頑張りましょう!!』
そう言い合いながら張り切る幽奈とコガラシ、そして未だに男子二人が自分の家に来るという現実に緊張している千紗希だったが、そんな三人に陽葵が話し掛ける。
『二人共。意気込んでるところ申し訳ないんだけど、ちょっと更衣室で着替えてきても良い?』
『は?着替えるって?』
『ちょっと、いつも任務のときに着てる服に着替えたくって・・・。』
『なにか、理由があるんですか?』
そう言いながら不思議そうな顔で話し掛けてくる幽奈に苦笑しながら、陽葵は呪術師の服について説明する。
『うん・・・。呪術師には下から順に、四級から特級までの等級が有るんだけど・・・。僕みたいに最近特級術師なった術師は、白い服を着る事になってるんだ。』
『それは・・・。特級術師が、文字通り特別だからか?』
『うーん。何て言うか、特級術師は"単独での国家転覆が可能な術師"って定義付けられてるんだ。』
そんなとんでもない事実をサラッと告げる陽葵に、コガラシと幽奈と千紗希が目を丸くさせて驚きの声を上げる。
『は!?単独での、国家転覆!?』
『うん。ある意味危険人物扱いみたいな感じだから、目立つ白い制服を着とかないといけなくって・・・。それじゃあ、サッと着替えてくるね!!先に向かってて!!』
それだけ言うと、陽葵はクルリと踵を返すと校舎の中に入って行ってしまった。そして、そんな彼を除いた三人組は取り敢えず陽葵の指示通りに千紗希の家に先に集合していたのだったが・・・。そんな三人の間には、気まずい沈黙が流れる。
(取り敢えず、解決してくれるらしいからコガラシ君も呼んじゃったけど・・・。や、やっぱり不安だよ・・・。)
(や、やべぇ・・・。全然話し掛けてきてくれねぇ・・・。けど、そりゃあそうだよな・・・。陽葵、早く来てくれぇ!!)
(ち、沈黙に耐えきれません・・・。でも私は、筆談じゃないと千紗希さんと御話しが出来ませんし・・・。)
そう三人が悶々としていると、彼等の前に一台の黒塗りの車が停まった。そんな黒塗りの車に、コガラシは驚きの声を上げる。
「うぉ!?なんだ、この車!!」
すると、車のフロントサイドウィンドウが開くとそこからスーツ姿に眼鏡を掛けた男が顔を覗かせた。
「美空君、目的地に到着しましたよ。」
「有り難う御座います、伊地知さん。送迎に来てくださって、助かりました。」
そう言いながら、陽葵が後部座席のドアを開けて車から出てくる。そんな彼の恰好は、紺色の湯煙高校の学ランから白を基調とした呪術師の服に変わっていた。
「いえ・・・。今回は、霊能力者の方との共同任務とお伺いしております・・・。それから非術師に呪術の存在を公開した事に関しては、追って総監部から連絡が来るでしょうが、緊急時ですのでそこまで重い罰則は受けないでしょう。それにしても、こちらの家は・・・。」
「残ってますよね、呪力の残穢。」
「そのようですね・・・。帳はどうされますか?」
「御気遣い、有り難う御座います。ですが、帳は僕が降ろしておきます。」
「分かりました。では、御武運を・・・。」
その言葉に陽葵が頷くと、フロントサイドウィンドウを閉じて走り去っていく車。そんな車を見届けた陽葵は、コガラシ達の方を見遣るが彼等があんぐり口を開けているのに気が付く。
「三人とも御待たせ。・・・どうしたの?」
「あ、いや・・・。わりぃ、見慣れない格好に驚いちまって。」
「何と言いますか・・・。ザ・呪術師!みたいな感じの御洋服ですね。」
そう正直な感想を述べるコガラシと幽奈に、恥ずかしげな顔に成りながらも陽葵はゆっくりと頭を振る。
「ううん、気にしないで。けど、この格好に慣れてくれると嬉しいな。・・・宮崎さんも大丈夫?」
「え?あ、あの・・・。さっきの人って誰なの?スーツと眼鏡を掛けた人・・・。美空君と同じ、呪術師の人?」
「あの人は、補助監督っていう役職の人だよ。前線には出ないけど、警察とかへの根回しをしてくれる人なんだ。その・・・。一応、呪術師の存在を非術師の政府高官の人達は把握してるとはいえ、末端の警察官の人達は呪術師の存在を知らない可能性があるんだ。そして、術師には日本刀を扱う人もいるしね。」
「じゃあ・・・、もしも銃刀法違反みたいなことを言われたときの為に?」
「そういう事。それじゃあ、早速入ろうか。」
「おぅ!それじゃあ、行くか!!」
そう言うと、陽葵とコガラシはクラスメイトの女子の部屋に潜入する事になる。すると玄関に立った陽葵は、手印を構えると何かを唱え始める。
「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え・・・。」
陽葵がそう唱えると非術師の千紗希は兎も角、霊能力者のコガラシと霊体である幽奈は、何かしらの結界が張られる感覚に陥る。そして一息ついた陽葵に、幽奈が質問を投げ掛ける。
「あの、陽葵さん。今、何をしたんですか?結界の様なものが、張られた感覚がしたんですけど・・・。」
「ん?あぁ・・・帳っていう、外から僕達の行動を
「へぇ~!結界術か、すげぇな!」
「ありがとう。だけど帳は結界術の中でも、結構簡単な部類だからね~。そこまで誇る事でもないかな~。それで千紗希さん、件の人形さん達って何処に置いてあるの?」
そう言い合いながら、傍から見たら厨二病全開の会話をする三人にポカンとしていた千紗希だったが、突然陽葵に話し掛けられるとビクッと肩を震わせて返事をする。
「え!あ、えっとね・・・。こっちの御部屋・・・。」
そう言いながら、三人を自室に案内する千紗希。そんな彼女に付いていくと、如何にも女の子らしい部屋に辿り着いた。そして、そこには当然のようにズラリと人形が並んでいる。
「ここが、ヌイグルミが飛んでたっつー宮崎の部屋か。」
「みたいだね・・・、宮崎さん。早速で申し訳ないけど、どの人形さんが動いてたか覚えてる?」
「え、えっと・・・。とりあえず、これとこれとかかな?」
「そっか・・・。ちょっと、見せて貰える?」
そう呟くと、陽葵はじっくりと渡された人形を見始める。そして、コガラシはコガラシで千紗希の部屋を見渡しながら異常がないかをチェックする。
そんな彼等を横目に、千紗希はソワソワとし始める。何故なら・・・。
(ど・・・どうしよう。結局、来て貰っちゃった・・・。他の霊能力者さんに相談しようとしたら、すっごい御金が掛かるから、美空君と冬空君に頼めるのは有難いんだけど・・・。だけど・・・!!自分の部屋に、男子を上げたの初めてなんですけどぉぉ!!)
そう、この宮崎千紗希十五歳。十五年も生きていたにも
(こんな事知ったら、御父さん卒倒しちゃうよ!だ・・・大丈夫だよね?美空君と冬空君、悪い人じゃない・・・よね!?ね!?スカート捲ったのも、わざとじゃないらしいし・・・。一応、美空君が居てくれるから変な事も起きない筈・・・。あ、あれ?でも、美空君がもしもその気に成っちゃったら!?それに便乗するように、コガラシ君もその気に成ったら・・・。女のアタシなんて・・・っ!!)
そんな千紗希の脳内には、狼と化したコガラシと陽葵が自分に襲い掛かって来るイメージ像が展開されていた。そんな想像をしていると、陽葵が声を掛けてくる。
「宮崎さん、ちょっと訊いて良い?」
「なっ!何かなっ!?」
「宮崎さんの御部屋にある人形さんって、此処に有るので全部?」
「えっ!?う、うん!!」
それを聞いた瞬間、陽葵の口から特大の溜息が放出される。そして、眉間の皺を揉み始めるとコガラシに現時点で判明した情報を打ち明ける。
「はぁ・・・。コガラシ君、視た感じ呪力の残穢が残ってる。・・・呪詛師が関与してる事は間違いなさそうだよ。」
「マジか・・・。」
「うん。でも、ちょっと疑問が残るんだよね。」
「つーと?」
「犯人の呪詛師は、どうやって宮崎さんの人形さんに呪力を流し込んだのかなって。」
そう話す陽葵の頭の中には、一つの疑問点が浮かび上がっていた。傀儡操術は、動かしたい傀儡に対して直接呪力を流し込まなければならない。つまりは一度、千紗希の部屋に侵入して彼女の人形に触り呪力を流し込まなければ、人形を動かせない筈なのである。
それを説明すると、コガラシも腕を組んで唸り始める。
「確かに・・・。どうやって、呪詛師は宮崎の人形に呪力を流し込んだんだ・・・?」
「宮崎さん。ここ最近、家族以外の人を家の中に入れたりした?例えば、水道点検の人とか。」
そんな陽葵の質問に千紗希はしばらく頭を捻るが、眉を寄せながら首を振ってそれを否定する。
「う、ううん。最近は、そういう人は来てなかったよ。宅配便の人とかも、玄関先で対応して貰ってるし・・・。」
「うーん・・・なるほど。とりあえず、仮説を立ててみたよ。」
「仮説?」
「多分だけど、今回の事件は二人以上の犯行の可能性が高いと思うんだ。」
そう説明するが、コガラシと幽奈に千紗希はよく分かっていないようで首を傾げている。そんな三人に苦笑すると、陽葵は自身の仮説を話し始める。
「まず大前提として、例外を除いて呪術師や力の強い呪霊は基本的に一人一つの術式しか保有できない。ここまではオッケー?」
「おぅ。」
「はい!」
「う、うん。」
そう頷いた三人が説明をちゃんと呑み込めていることを確認した陽葵は、咳払いをすると再び説明を再開し始める。
「まず、今回の犯人の内一人は傀儡操術の呪詛師であることは間違いない。けど、傀儡操術使いが宮崎さんの御部屋に入る為には、窓硝子を割るか来客を装うかでもしないと入れないんだよ。」
「確かに、話を聞く限り人形を操るだけの能力らしいしな。」
「つ、つまり・・・。傀儡操術っていう呪術を使う呪詛師さんに、協力者がいるって事ですか!?」
そう驚いた顔をする幽奈に、陽葵はコクリと頷くと綺麗な指を二本立てて説明をし続ける。
「多分、知性のある呪霊。それか、妖怪が協力している可能性は高いね。けど、呪力の残穢は一人分しかなかったから、可能性としては後者かな。」
「その線は、ありそうだな・・・。」
「取り敢えず僕は、一旦御外に出て呪力の残穢がないか詳しく見てみるよ。コガラシ君は、引き続き御部屋の中を調べてて。」
「おぅ、分かった。」
そうして、陽葵はコガラシと幽奈を千紗希の部屋に残すと陽脈調律で身体強化をし宮崎家の屋根の上に飛び乗る。そして屋根の上で周囲を警戒していると、ポケットから着信音が鳴る。そんな携帯電話を取り出すと、とある人物からの電話に応答をする。
「もしもし、御久し振りです。・・・えぇ、全ては先程メールに送った通りです。はい・・・はい。そうですか・・・、わざわざ教えていただき有り難う御座います。最近、そちらで変わった事は御座いませんか?・・・え!?恵君が、脱兎を調伏したんですか!?そうですか!では、僕からもおめでとうって言ってたとお伝えください。では、失礼いたします。」
そう電話先の相手に御礼を言うと、陽葵は屋根から飛び降り再び千紗希の家に入ろうとしたのだが・・・。そんな彼の目の前でいきなりドアが開いたかと思うと、コガラシと幽奈が宮崎宅から追い出されバタンとドアが閉まると中から千紗希の怒声が聞こえてきた。
「もうっ!帰って!!やっぱりタダの、エッチな人じゃん!!どうせ、霊能力者ってのも嘘なんでしょ!!そうやって、美空君にも上辺だけの付き合いをして良いように利用してたりするんでしょ!?あんなに優しくて、純粋な男の子を騙すなんて最低だよ!!信じたアタシが馬鹿だった!!」
「ごっ、誤解です!話を聞いて下さい、千紗希さん!!」
そんな怒鳴り声に対して、涙目になりながら弁明しようとする幽奈だったが筆談する為の道具を持っていない彼女の声は、千紗希には聞こえないようだ。
「・・・コガラシ君、幽奈さん・・・。今度は、何をしでかしたの?」
そうジト目になりながら問いかける陽葵に、コガラシと幽奈は事のあらましを説明する。どうやら、突然人相が変わったぬいぐるみに驚いた幽奈が、ポルターガイストを引き起こしコガラシを浮かし、ポルターガイストが解除されたと同時に浮いていたコガラシが千紗希を押し倒し、勢いそのままにめくれ上がった下着を見てしまったらしいのだ。
そんな彼等に起こった惨状に。陽葵は羞恥で顔を赤くしたり、真っ白にしたりと忙しく表情を切り替え最終的には大きな溜息を吐いてしまう。
「コガラシ君・・・。一回、コガラシ君にその・・・ラッキースケベを起こさせるような呪いが掛かってないか、診てあげよっか?」
そう本気で心配する様な眼差しの陽葵に、コガラシは全力で頭と両手を振って拒否をする。
「いや、んなもん憑いてねぇよ!?」
「人間って、案外自分の事は分かって無いものなんだよ?まぁ、いいや・・・。取り敢えず呪力の残穢なんだけど途中で途切れてた。でもね・・・。」
そう言いながら背伸びをして、コガラシに何かを耳打ちする陽葵。そんな彼の言葉に耳を傾けたコガラシは、陽葵の考えを理解すると大きく頷く。
「なるほど、攻め入るならそのタイミングか。」
「そういう事。それじゃあ、事が起きるまで待機しとこっか。あ、御弁当食べる?今日そんなに暑くなかったし、傷んでないと思うよ?」
「お、おう。」
そう言いながら陽葵が鞄から差し出した弁当をコガラシは受け取ると、彼と一緒に立ち喰いしながらブラブラと歩き始めたのだった。