パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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いっちゃん好きなSCP





ファイル:発生〜現地住民との関わりについて
報告1:パッチワークのハートのあるクマ


 

──全ての傷を癒す事が出来るのは、時間だけだから──

 

 *

 

 私は、強い潮風の匂いを感じて目を覚ましました。

 最初に目に入ったのは草原で、そして少し遠くには砂浜と青い海が見えます。心当たりの無い光景でした。

 そもそも、私は死んだはずでした。

 末期癌で、全身に転移したそれを癒す術は現代には無く、病室のベッドで様々な点滴や補助器具に繋がれて息を止めました。あの走馬灯はハッキリと覚えています。海なんて、もう何年も見ていない景色です。

 

 どうやら、私は草原に一人で座っていたようでした。

 木製の、簡単な作りのポストに寄りかかって、眠っていたようです。明らかに素人が作ったとわかる雑な形のポストで、現代ならポスト本来の役割は果たせないであろう簡素さでした。

 ポストを観察するために立ち上がれば、随分と、視線が低い。ベッドの住人だった時も、高身長とはとても言えない数値でしたが、今はそれ以上に低く、小学校中学年程度の高さしかありません。

 手や、足の大きさも、そのくらいの幼さを持つ小ささでした。

 そこで、私はようやく自分の身体が自分のものでは無い違う何かになっていることに気づいたのです。

 

 背は低く、パッチワークのエプロンドレスを着ていました。膝丈のスカートの中はたっぷりのパニエがボリュームを出していて、靴は黄緑のツヤツヤしたメリージェーンです。

 胸元には、臓器らしいリアルな形の心臓のピンが刺してあり、首にはアイボリーの大きなリボンが巻かれています。

 ふんわりと丸みのあるボブカットの髪は、服のパッチワークと同じく様々な色が集まっているようです。頭頂部のあたりには、ふわふわした、布製のクマ耳が生えていました。

 可愛らしい格好ですが、私はその特徴に覚えがありました。

 

 SCPです。SCP-2295を少女にしたような姿をしています。

 SCP-2295「パッチワークのハートがあるクマ」は、そのまんま、パッチワークのクマのぬいぐるみです。

 身体に損傷を抱えた人の近くにいると活性化し、布や手芸道具を使って、その損傷を特殊な方法で癒します。決して、人の耳で“お友達”を作ったりしない、善良なクマのぬいぐるみです。

 

 私は、死ぬ前──前世では、寝たきりになる前はSCPを楽しむ者の一人でした。

 SCPは、異常存在を確保・収容・保護する財団であり、有名な創作サイトの一つでした。

 フィクションではありますが、凝った設定やサイトデザイン、個性的なSCPの解説が、私の心を大いに刺激したのです。その中でも、優しくて切ない、SCP-2295は好きなSCPのひとつでした。

 パッチワークの生地の模様や、ハートのデザイン。手触りが布のクマ耳と尻尾が、これはSCP-2295だと確信できます。

 なぜ人型に、しかも少女になっているのかはわかりませんが、私はSCP擬人化文化にも触れていたので、受け入れることは容易でした。

 

 ですが、SCP-2295のオブジェクトクラスはSafeであり、普段は財団の施設に収容されている筈です。外、しかも屋外に私がいるというのは、重大な収容違反となります。

 害を与える存在ではありませんが、SCPの存在という機密を守る以上、財団職員は速やかに私を収容しなければならない筈でしょう。

 しかし、私にも、ここが何処だかわかりません。青々とした海原はいつか食べたブルーハワイのかき氷が溶け切った残りのようです。

 ボロのポストにも、住所や所在地も何も書かれていませんでした。潮風で荒れた支柱が今にも折れそうなくらいです。

 

 このままぼーっと、ポストの横で突っ立って居るのも馬鹿らしいでしょう。

 私は、動くたびにフワフワと揺れるスカートを楽しみながら、海が見える、ポストの向いている方向とは反対側に行ってみることにしました。

 反対側からは、なにやら、微かに人の声らしきものが聞こえるのです。もしかしたら財団のエージェントが私を探して居るのかもしれません。

 人型になった事に驚かれるかもしれませんが、財団は安全なSCPには案外優しいです。きっと、ロッカーではない人らしい部屋に収容し直してくれるでしょう。

 キチクマやクソトカゲにならなくて良かった、と私は心から幸運を喜びました。

 

「包帯っ……! 包帯はまだなの!?」

「ボクのゆびが! ゆびがぁー!!」

 

 そこは地獄絵図でした。

 良秀が描くほど……ではないでしょうが、人の叫びや怒号が飛び交う様子というのは、見ていて気持ちの良いものではありません。

 子どもや大人の何人かが、大怪我を負って倒れては泣き叫んでいます。無事な人が治療しようと駆け回っていますが、怪我人に対して数が足りないようです。

 何があったのかはわかりませんが、多くの人が、多くの傷を抱えていることは確かでした。

 

 私には前世の記憶があります。人の思考というものがあります。

 しかし、身体がSCP-2295になったからでしょうか?

 傷を、苦痛を、泣いて伝えてくる姿に、抗い難い本能を感じました。

 それが存在意義であり、私の……SCP-2295の収容要因でもあるのですから。

 財団の人には怒られるかもしれませんが、本来SCPとは自由勝手に行動するものなのです。

 

「だ、だれ……?」

「──」

 

 どうやらこの身体は喋れないようでした。

 SCP-2295も喋れませんから、そういうものなのでしょう。

 私は、指が欠けてしまった少年の近くに座ると、エプロンのポケットから針と糸を取り出しました。布は、端切れはここにありませんから、スカートをハサミで切ります。

 そして、パニエも切り取り、縫い合わせて彼ぴったりの指の形をしたぬいぐるみを作りました。裁縫の経験は前世では学校くらいしかありませんでしたが、驚くほどにスラスラと縫う事ができます。SCP-2295の特徴なのでしょう。

 それは一瞬で私の手の中から消え、少年の指に繋がりました。やはり太さも長さもぴったりで、きちんと触感なども通っているでしょう。

 少年は目を見開いて、その布製の指を曲げたり開いたりしました。

 

 少年には、あとは擦り傷くらいしかありませんでしたので、私は別の青年の所へ移動します。

 腹から臓物が飛び出している重症です。このままでは数時間内に死ぬでしょう。辺りが真っ赤に染まっていますが、構わず座り込み、スカートを切り取ります。

 皮膚はもちろん、腸や膵臓あたりが酷く傷ついているようです。見ただけで損傷がわかるのは、なかなか便利な力でしょう。

 特に損傷している腸を一から縫いなおし、膵臓は切り裂かれた箇所を布を貼り付けて補修しました。腸を置換したら、なるべく痛くないよう、パニエを詰めてお腹を閉じます。切り目は、細く切った布を貼り付ければ綺麗に閉じることができました。

 失った血液は、流石に液体を布で作ることはできないので、経口補水液をポケットから生成し、渡しておきました。

 青年は目を白黒させていますが、痛みは消えたようです。

 

 次はうつ伏せに倒れている女性。

 どうやら背骨が砕かれてしまったらしい。背中から見える白と赤の混ざった傷が、なんとも痛ましいです。ギリギリ、呼吸音はありますが、背骨が砕かれた以上座ることも立つこともできないでしょう。

 骨、となるとある程度硬く作らなければなりません。本音を言えば、毛糸やフェルトが欲しいところですが、この場にはありません。

 申し訳ないですが、パニエを限界まで詰めたぬいぐるみを使う事にしました。空気の入る余裕をなくせば、柔らかいパニエでもある程度硬さは見込めるでしょう。

 スカートが短くなってきましたが、パニエがある分、中のドロワーズが丸見えになることはまだありません。

 背骨を置き換えて、傷を布で塞げば、問題無く傷は無くなりました。

 骨が砕けてあちこちに散らばっていても、作ったものと置き換えればまとめて消失してくれるのは便利ですね。

 

 そうして、私はどんどん怪我人をSCP-2295の力で治していきました。

 既に亡くなってしまった人も居たことが、悲しくもありましたが、私は死者の蘇生はできません。そこまで、万能では無いのです。

 最初は奇異の目で見ていた人も、私の作ったパーツが正しく人の部位として機能することがわかると、私の元に怪我人を運んでくるようになりました。

 不審者として攻撃されなかったのは、大きな幸運でしょう。感謝を言ってくれる人も居て、この人達の善性にありがたさを感じます。

 

 傷は、どうやら大きな獣によるものらしく、牙や爪でやられたようです。

 脚を持っていかれた人、肩を砕かれた人。沢山の被害が出ていました。

 途中で気づきましたが、ここは村で、建物の向こうでは獣相手に村の戦える者たちがなんとか駆除しようと戦っているようです。

 派手な破壊音がひっきりなしに聞こえてきますが、大丈夫なのでしょうか……。

 私は、傷を癒せますが戦うことはできません。他者を傷つけたくありません。

 私はどこぞのアベルや機動部隊のように、戦闘の術を持っていないのですから。まして、他者を害す事に快感を感じません。

 

 治し続け、スカートやパニエも少なくなってきた頃、ようやく戦いの音が止みました。

 私がもっとお姉さんで、身長が高く大きなサイズのエプロンドレスを着ていたら、布を切り詰めなくても良かったのに。

 ボロボロになったドレスは、村の人たちの体のあちこちに使われました。多くの人を救えたことは嬉しいですが、端に寄せられた死体を見るたびに、視界が潤みます。

 頭をやられていて、脳が損傷して、治せなかった人もいました。

 私は、脳は治せないのです。

 

 傷だらけの、武器を持った人たちが怪我人が集まる私たちのもとへ戻ってきました。巨大な、それはもう大きな狼の死体を何分割かにして運んでいます。

 こんな獣が村を襲ったと考えると、この規模の被害も納得のものでした。むしろ、全滅していないのが奇跡かもしれません。

 

 流石能力者だ、と何人かがリーダーらしき人を褒めていましたが、私にはよくわかりませんでした。

 リーダーの人たちも、私が布を使って人々を治療した事に驚いているようです。財団の人たちに見つかったら、この人たちは記憶処理が施されるのでしょうか?

 村の人たちは、リーダー達とはまた別で、村を救った恩人だと私に頭を下げます。

 私は、私のしたい事をしただけですので、深く下げられた頭に困り笑いをするしかありません。

 

 何がお礼をさせて欲しい、と言われて、私は自分が話せないことが不便に思えました。仕方のないことですが。

 パクパクと金魚のように口を動かしていたら、察した誰かが紙とペンを持ってきてくれました。

 それに、迷わず私はこう書きます。

 

[布や端切れを、たくさん。できれば清潔なもの]








◇SCP-2259
みんな大好きキチじゃないほうのクマ。
今回は何故かクマ耳の少女になっている。身長130cmくらい。
ぬいぐるみ時と同じく、エプロンドレスを使って他人の損傷を治すことが可能。パニエが綿代わりになっている。
前世人間の意識が入っているが、死因やSCP知識以外の記憶は極薄い。性別や年齢も覚えていない。

他SCPの擬人化について。※擬人化した場合仲間になります。

  • 主人公だけでいい。
  • 他のSCPも一部擬人化する。
  • 危険度の高いやつを擬人化する。
  • 危険度の低いやつを擬人化する。
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