パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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幕間的なものです。






Tale:サイト19で起こった日常について

 

 罪人にも、使い道はある。

 

 *

 

 地獄の監獄インペルダウンには、数えるのも刑罰になりそうなほどに罪人が収監されている。

 殺人、強盗、違法行為……ありとあらゆる犯罪者が集まり、看守による刑罰や気まぐれの暴力に晒されている。

 その環境は劣悪で、檻の中で命を落とす囚人も多数いる。明日は誰が生き残っているかは、何も無い牢屋の中での希少な娯楽だ。大抵は、賭けたやつ全員が死ぬのだが。

 

 そんな中で、とある元海賊の男に「釈放許可」が降りた。インペルダウンにおいて、それが与えられることは宝くじより低い当選確率と言える。

 囚人の大脱走があった後、トップが代わった大監獄だが、その厳しさは寧ろ増すばかり。そんな中、獄中死をする事なく、お日様の光を浴びれるということは、誰もが羨む贅沢なのだ。

 

 男は、ちぃとばかし腕に自信があり、海賊として宝石屋や富豪の家を襲った一味の船長だった。ポカをやって捕まったが、いつか、脱獄してやろうと虎視眈々と幸運を狙っていた。

 しかし、自分が掴み取る前にあっちから降ってきてくれるとは。同じ牢にいた奴らの羨望と嫉妬の視線が愉快でたまらない。男は優越感に浸りながら、その時だけは、随分大人しく看守の指示に従った。

 

 男は船の奥に、他の何人かの元囚人と一緒に詰められ、何処かへ連れて行かれた。

 釈放許可を得たのが自分だけではなかったのは面白くなかったが、同じような境遇の連中と、これからの展望を話すのは楽しかった。

 船底に近いタコ部屋には窓が無く、船員は何処へ向かっているのか聞いても無視される。船員はなにやらひ弱そうな学者らしき者ばかりで、中には女もいたが、男達の下衆な視線すら無視し切る鋭利さがある。

 男たちとしては、反抗的な女なぞぶん殴ってやりたかったが、ここで下手にコトを起こすと釈放許可を手配してくれた存在の不興を買うかもしれないと、我慢した。

 しかし、もしこの先海でやり直して力を得たら、あの女も泣いて謝ってくるはずだ。

 

 釈放許可は、外部の人間によって特例として判を押されたものだと事前に説明されていた。

 海軍および政府が管理するインペルダウンでそんな荒技を通す存在が、やはりどうしても気になる。

 何処かの、海軍に大量の寄付をしている大貴族だとか、案外七武海の誰かかもしれないとか、好き勝手に想像していく。天竜人という選択肢は、理解はできれどなるべく考えたくないものだ。

 

 船は一ヶ月ほど海を渡り、その後、島に降りてから一時間ほど歩かされた。整備されつつも木々や茂みが残る島の様子は、何か隠すような、わざと手入れを完璧にしていないような、不可解な雑さがある。

 男としては、この先に七武海のアジトでもあるのではないかと踏んでいた。七武海が、インペルダウンに収監されている優秀な囚人を集めて戦力の補強を図っている、というのが船で出た予想のひとつだ。

 

 しかし、一時間後に目の前に現れたのは、異様な……あまりにも無機質で冷たい、白いビルだった。

 いくつかの消毒作業や入場手続きをした後、男たちはオレンジのツナギに着替えさせられ、Dから始まる番号を与えられた。

 さも、男たちの本名はこれから意味をなさなくなると言うかのようだ。

 そして伝えられる、職員の命令への絶対服従と規則の厳守。

 こちらは何をするのかもわからないのに、淡々と窓ガラス越しに伝えられる指示は理解を拒むものだった。

 

「ナニサマだ、テメェら! なんでおれがお前らの命令に従わなくちゃなんねぇんだ!」

「そもそも、このビルはなんなんだ!? 何をする場所なんだ!」

 

 そんな事を喚いても、職員は聞く耳を持たない。

 ただ、少しでも長く生きたいのなら、従順になる事を薦める。なんてふざけた事を言って、まるでケージみたいな部屋に男たちを置いて出て行った。

 

 まだ、意味のわからない混乱から抜け出せないものの、首に爆弾付きの首輪を付けられなかったことから、天竜人の線は消えた。

 ならば、ここは一度従順なふりをして、隙を見て職員を襲い、脱出すれば良いと男は他の奴らを説得した。

 男は、自分がそこそこ、頭が良いと自負していたのだ。実際、他の奴らも感心したように頷く。

 ここに来てからも、見てきた職員はインドアらしいヒョロイ連中ばかり。男は殺して、女は攫うなんてことも、海賊としてやってきた男たちは簡単にできるだろう。

 

 今は、仕事をこなすフリをして、油断を誘うのだ。

 男は、自分の頭脳を自慢するように、指でこめかみをコツコツ叩いた。

 

 そうして、どう奴らを欺こうかと待機していると、職員が男たちの中から数名を呼び出した。

 男は、ここで一度偵察だと、残る者たちにこっそりとサインを送り、表向き素直に職員の言う事を聞いた。

 胸元にある番号で呼ばれることは、やはり一個人として見られていないようで不愉快だ。

 

 命じられたのは、部屋の清掃だった。

 呼び出されたのは男を含め3人で、清掃用具は何故かひとりにしか支給されなかった。

 清掃する部屋は、窓が無い施錠された扉のみの部屋らしく、中はそこまで広くないと説明される。

 そして、3人の中で清掃担当をひとり決め、それ以外の2人は中にある“彫像”を()()()()()()と命令された。

 

 男たちは、やはり意味がわからず、片眉を上げたり気を違ってしまった者を見る目をした。

 2人は必ずその彫像を見つめ続けねばらなず、瞬きをする際は必ず片方のみとなるよう合図を送り合えとも言われる。

 彫像は壁際にいるだろうから、必ず、目を逸らすな。もし、ひとりが目を逸らしてしまったら、清掃担当はすぐに清掃を中断し、彫像を見つめながら部屋から出てくる事を約束させられる。

 

 男たちは、内心とんだ奇人の集まりに捕まったもんだとため息を吐いた。

 指示される奇行は、明らかに普通ではなく、また馬鹿らしい。彫像が猛獣だとでも言うのか。これは案外脱出の日は近いかもしれない。

 男たちは、取り敢えずじゃんけんで清掃担当を決めることにした。おそらく清掃役が最も重労働だろうから、負けた奴にさせてしまおう。

 運が良い男は、ここでも勝ちをもぎ取り、監視役のひとりとなった。

 

 室内は薄暗かったが、床の汚れははっきりと見えた。

 独特の糞の様な匂いと鉄臭さは、衛生状況が劣悪な監獄でもなかなか無い酷さだ。悪臭に耐えつつ、部屋の奥にいる彫像を見れば、やはりそれは猛獣でもなんでもないただの彫像だった。

 一応、表向きは従順に作業をしなければならない。

 もうひとりの監視役と合図を交わしながら、瞬きをし、また彫像を見つめる。

 

 室内は悪臭が広がっているが静かで、床を清掃するデッキブラシと洗剤の音だけが、この奇妙な夢の様な現状が正しく現実だと伝えてくる。

 確かに部屋はそこまで広くなく、掃除に何十人とは必要無い規模だ。しかし、床の汚れは思ったより頑固らしく、清掃担当の疲れた様な息が聞こえ始めてきた。

 10分もすれば終わるだろうと思っていた掃除は、もう体感としては30分を越えようとしている。

 

「なんの意味があるんだ、この仕事には」

 

 もうひとりの監視役がぼやく。

 男としても、同意だった。ただぼーっと彫像を見つめ続ける仕事は、面白くもなく、達成感も無い虚無だ。

 これならば、掃除に意識を割ける掃除役のほうが暇ではなかったかもしれない。

 彫像は当たり前だが彫像のままだ。

 

 ところで、先にも書いたが、この男は少しばかり頭が良い事を自慢としている。

 その頭脳によって成功率の高い宝石強盗や人質の使い方を考え、南の海ではなかなかに悪名を轟かせていた。

 悪知恵や咄嗟の判断力は、グランドラインでも通用し得ると元仲間たちも尊敬し、キラキラした瞳で教えを乞うてきたものだ。

 

 だからこそ、男はこの作業を、「彫像を監視させること」ではなく、「男たちの気を彫像に集中させること」が目的なのではないかと思いついた。

 そもそも、急に釈放許可なんて、おかしいじゃないか。そんな甘い話が、世の中にあって良いものか。

 それにあの職員たちの態度は、人を人と思っていない、価値のないクズを見る看守たちと酷似している。

 

 つまり、この施設は釈放許可による新たな居場所ではなく、インペルダウンの支部のようなものなのではないか。

 それが、男の脳が弾き出した真実だ。

 優秀で危険な囚人をここに集め、意味のわからない作業をさせ、意識がそこに向かったところで後ろから撃つのだ。

 看守が作った特別な処刑場。

 それがきっと、この施設の正体だ。

 

 だとするならば、注目すべきは目の前の変な彫像ではない。

 もっと、他のところにある。

 

 そうして、男は、彫像から視線を逸 ら  し     て

 

 

 *

 

 白く無感情な施設の廊下、白衣を着た女性に、スーツ姿の男性がバインダーを片手に駆け寄った。

 

「すいません、先程のSCP-173の清掃が終了しまして」

「ああ、お疲れ様です。すぐに終わりそうなら、ここで今聞いちゃいますよ」

 

 博士は、一度廊下に立ち止まり、手首の腕時計を確認する。会議まではまだ時間があった。

 職員は、博士の労いに頬をかくと、バインダーに挟まれた書類に記入された数字に視線を向けた。

 

「Dクラス職員3名に仕事を命じたのですが、1名が作業途中で視線を離し、死亡しました。幸いにも残りのDクラスがすぐに視線を向け、そのまま退室したことで収容違反は発生していません。その後、Dクラス職員を追加し、清掃完了。死亡は2名、精神に不調が見られる者は4名です」

「了解しました、想定内の損害ですが、どうにもこの土地のDクラスは命令の厳守意識が低いですね」

「あまり法治が行き届いていない情勢にあるからでしょうか。サイト19(うち)はまだ月の平均損害数は低い方ですが……」

 

 職員は、経理担当の部門から聞こえる呻き声を思い出したのか、苦笑いをする。Dクラス職員が反抗的なこの土地は、命令さえ守れば損害ゼロで終わらせられる作業にも損害が出てしまう。

 それが一度にひとり、ふたり程度なら、かわいいものだ。

 

「SCP-131が発見できれば、楽になりますかね?」

「あの二体をこの世界のDクラス職員の近くに置くことは、慎重な判断が必要です。不用意にSCP-131を傷つけたらいけないわ」

「それは確かに。経理部は、アイポッドがいない事をかなり嘆いていますけどね」

 

 その言葉に、博士もクスリと笑う。

 

 この世界は、()の世界とはあまりにかけ離れている。しかし、SCPは存在を確認されていた。

 財団が再収容にまわっているが、経済ピラミッドや科学レベルなど、どうにも前の世界と同じ様にとはならず、探り探りで進めている最中だ。

 発見されたSCPは、今の所前の世界よりも少なく、発見できていない、再収容できていないSCPも多々存在する。

 

 危険度の高いSCPを優先しているため、その管理に使うDクラス職員の消耗も激しいというわけだ。

 各国とのパイプが不完全な都合上、発見するための捜索にもかなり難航している。

 幸いなのは、この世界の支配システムも潔癖ではなかった、という面だろうか。

 

 適当に脅威度の低い囚人をインペルダウンなる刑務所──刑期は大抵が無期限だが──から譲ってもらい、Dクラス職員として利用する。

 扱いづらいものの、前の世界の死刑囚より数は多い。あまりケチケチせずに使える点は優秀と言える。

 

「それでは、定例会議に向かうので、私はこれで」

「はい、お疲れ様です」

 

 博士と職員は、それに対して何か言うことはない。

 SCP-173の清掃は隔週で行われるものだし、Dクラス職員が死のうが収容違反が起きていなければただの日常だ。

 

 この世界でも、我々がやることはただ三つ。

 確保、収容、保護。

 それだけなのだから。








Q.なんで財団はインペルダウンに囚人を融通してもらえるの?

ネクストコナンズヒント:天竜人

他SCPの擬人化について。※擬人化した場合仲間になります。

  • 主人公だけでいい。
  • 他のSCPも一部擬人化する。
  • 危険度の高いやつを擬人化する。
  • 危険度の低いやつを擬人化する。
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