報告11:財団
ジョーシーを加えての船旅は、およそ1年間続きました。
途中商会の支部で補給しながら、様々な島を巡り、様々な景色を見ました。
中には、治安の悪い島やピリピリと警戒の満ちる島もありましたが……ハニカムさんに守ってもらえたので、何か怪我をしたりとかはしませんでした。
商品はとても順調に売れていて、前年比10%アップだとか、パインさんがニコニコしていました。
私も、たまに治したり、タンポポさんに習った応急処置によっていろんな人を助けられて、とても成長を感じる一年です。
健やかな生活を、誰もが送れる世界になって欲しいものですね。
どうしても、この世界は争いが多くて。
乱世、と言えば良いのでしょうか。
海賊たちが覇権を争い、それを海軍が取り締まろうとしていて、時に国でもクーデターが起こる。
殺さないと殺される。みたいな世界で……酷く物騒で、赤い世界です。
海はこんなに青いのに、少し周りを見れば、斬られた誰かの血が辺りに散っている。
なんだか海軍も政府もきな臭いみたいですし、すごい世界ですよ、本当。
ですが、私に真摯にお礼を言ってくださったモモンガさんや、パインさんたち、村の人たちなど、良い人もたくさんいる事を知っています。
悪い人も、良い人も、怪我をせず健康で、穏やかな世界になったらいいな。
それそこ、お菓子の名称ひとつで言い争うくらいの平和さが、きっと一番ですから。
あのお菓子、この世界では見てませんね……?
そうして、またひとつの島から旅立ち、次の島を目指すことになった頃です。
パインさんさんが神妙な顔をして、私に紅茶を勧めました。なにか大切な話がありそうだと、私も席に座り、紅茶にハニカムさんの蜂蜜を少し垂らします。
食堂には、私とパインさんの二人しかいません。
「次の島の後、我々は商会本部へ帰らなくてはなりません」
船にたっぷり積んであった商品たちは、どうやらもう殆ど売れたようでした。島々での取引は無事成功し、予定より多く売れたこともあったので、倉庫もだいぶ寂しくなっていることでしょう。
「ですが、商会の掟として、本部にはお客様……カイロス様を連れて行けないのです」
中立的な立場を守る商会は、その巨大な組織力や資金を守るために、本部は所属者しか入れられないそうです。
道のりも、教えては行けない秘匿情報らしく、つまり次の島で私は船を降りないと行けない。
「ですが、流石に知らない土地に貴方様を降ろして置き去り、なんて事は危険過ぎます。……それで提案なのですが」
商会に入りませんか?
それが、パインさんの案のひとつでした。
確かに商会に入ると決めたら、本部にも入れますし、このままパインさんの船に乗り続けられるかもしれません。
この船の皆さんは優しくて、親切で、頼りになる方々です。この一年の生活も、とても楽しかった。
職を持つということも、根なし草の今よりはマシなのかもしれません。
ですが、私は首を横に振りました。
「了解しました。いえ、断られるだろうとは、思っていましたよ」
私は武力的に無力ですし、喋れません。それだけで商人的にはとんでもないハンデです。
おまけに姿も少女ですから、最初の印象も商人として相応しくないでしょう。
私の異常性を利用するにしても、この力は案外限定的ですし、私ひとりしか使えない力を商品とするには、安定性に欠ける。
魅力的な案ではありましたが、きちんと働けている己のビジョンが観れなかったのです。
「では、最初のあの村に戻りますか? 我々の船とは別になりますが、信用できる船乗りを手配しますよ」
その言葉にも、私は首を横に振ります。
あの村はとても素晴らしい場所でしたが、やはり私の異常性を活かしきれない。
ぬいぐるみだった時なら、長く異常性を示さなくても、平気だったかもしれません。
しかし、私はこうして自我をはっきりと持ち、そしてこの世界の厳しさを多く見てきました。
私は、より多くの人を治したい。
私ができることを、惜しみたくないのです。
パインさんは困ったように笑いました。
私も、わがままを言っている事はわかっています。
[次の島はなんという所ですか?]
「シャボンディ諸島です。賑やかな島ですよ、沢山の人が集まる観光地です」
[でしたら、そこで降ろしてください。私とジョーシーは、次はひとりと一匹旅に挑戦してみる事にします]
私のその言葉に、パインさんはゆっくりと紅茶に口をつけました。商人らしく、感情の制御が上手い方です。言いたい事は、きっと色々ある事でしょう。
私は、もう決心しています。
普段の笑みを少し深くして、パインさんを見つめました。
「観光地だからといって、平和なわけじゃありませんよ。海賊は多く、奴隷を売る店もある。私は、カイロス様に無茶をして欲しくはありません」
[私は傷を治せます。自己修復も可能です。そして、私は他者を治すことこそ使命なのです]
何かあっても、ジョーシーを無事に逃すくらいの気概は見せてやるつもりです。
ふんっとちからこぶを見せるポーズをして、やる気をアピールします。
パインさんは、私のその姿にクスリと笑います。
「……わかりました。次の島でお見送りします。改めて、わたしの肺を治してくれたこと、感謝いたします」
[この船での旅は、私にとって無二の思い出です。どうか、貴方の心身がこの先健やかでありますように]
「わたしも……貴女様の周りが、優しさを優しさで返すひとのみでありますように」
その夜、特別に出された特製ケーキは、涙するほどに美味しかったのです。
*
「気をつけてなー!」
「一年ありがとー!」
「怪我すんなよー!」
船上で、船員の皆さんが手を振ってくれます。それに私も振り返して、お辞儀をしました。
シャボンディ諸島は想像よりも大きくて、賑わっています。
ひとりと一匹で旅をしていく事を決意した私は、ここが新しいスタートの場所だと意気込むのです。
お別れの時、ジョーシーはポケットの中で眠ってました。自由ですね、猫なので。
ハニカムさんが、控えめに手を振ってくれている事にも、笑顔になります。
餞別に、素敵な蜂蜜も頂いてしまいました。間違いなく一番近くにいてお世話になった方ですから、感謝も一際大きいです。
また、どこかで会えたら、会いましょう。
ふふ、案外ばったり出会うかもしれませんからね。
泡のような、シャボン玉の舞う街は、キラキラしていて……絵本の世界のようです。
シャボン玉の風船? のようなものを持っている子もいます。なんだか、テーマパークみたいですね。
私はうきうきと辺りをキョロキョロ見回していますが、ジョーシーは興味無さげに寝息を立てています。身体が半分しかないので、ポケットにすっぽりおさまって、外からは灰色の塊にしか見えません。
美味しそうな屋台や、カフェ……服飾店やカジノなど、様々なお店が立ち並ぶエリア。
どこも人がたくさんいて、都会って感じです。人の声がBGMのように、言葉ではなく音として聞こえてくるほどの混み具合。
何かお祭りでもあるんでしょうか。
時間としては早朝と言って良い時間なのに、もう人で賑わっているのが凄いです。
都会の街は眠らない、というやつなのでしょうか。
久しぶりの大規模な人混みに、なんだか気疲れしてしまいそうだったので、中でも少し空いているカフェに入る事にしました。
お金は、モモンガさんに貰ったものがまだまだ沢山お財布に入っています。
メモでなんとか注文を伝え、テラス席に案内されました。
頼んだ飲み物は「カフェ・オ・レ・シャボン」。カフェの名物らしく、シャボン玉のような飾りが載せられたケーキがセットになっているそうです。
ジョーシーには、猫好きな商会の人から頂いた魚型のおやつを渡しておきます。
提供されたカフェオレとケーキを楽しんでいると、私の座るテラス席の前に人が立ちました。
黒いスーツを着た、背の高い男の人です。目には黒いサングラスをかけていて、人相がわかりません。
しかし、私はその人の登場に、思わず目を見開きました。
その胸元には、財団のマークが、はっきりと輝いていたのですから。
*
「君は、SCP-2295で間違いないね? 連れているのは、SCP-529とも」
[はい、間違いありません。私は自分がSCP-2295“パッチワークのハートがあるクマ”と理解しています]
私は、財団の職員であろうその人に連れられて、シャボンディ諸島の郊外にある、小さな本屋さんに訪れていました。
表向きは、普通の本屋さんです。ですが、隠し扉を通った先には、白い壁と床に囲まれた、財団の施設がありました。支部ほど大きくはありませんが、財団の管理下の施設のようです。
その中の、カウンセリング室、あるいはインタビュー室の様な小さな部屋に、私とジョーシーと職員さんは座っています。
机越しに、サングラスの圧を感じますが、あまり警戒の色はありません。
私たちが本当に安全なタイプのSafeだからでしょうか。
「私は財団職員の……まぁ、エージェントBKとでも呼んでほしい。君は財団のことを理解しているかい?」
[はい、確保、収容、保護を目的とした組織です。私のような異常性を示す存在や現象を収容しています。私もまた、かつては収容され、何度かの実験を受けましたね]
BKさんは、手元の書類に何か書き込んでいます。私のインタビュー? 記録を書き残しているのでしょう。横には、ボイスレコーダーらしきものもあります。
施設に入った時から、監視カメラもありますし。電話やカメラがカタツムリの姿をしているこの世界では、機械のそれはなかなかに無機質に思えますね。
「何故、人の姿をとっているんだ?」
[わかりません。私がこの世界にいる事を認識した時、私はすでにこの姿でした。ですが、私はぬいぐるみの時と同じく、人を治し、また布による自己修復が可能です]
ひとつひとつ、質問に答えていきます。
ここまでの経緯や、ジョーシーと会った時の出来事。人との関わり、考え、あるいは行動理念。
淡々と、無音の中そのやり取りは続きます。ですが、張り詰めたような緊迫感は、あまり感じません。
これでもし、私が人に害を為していたら、また対応が変わったでしょうね。
「質問は以上だ」
[ところで私は、収容されるのでしょうか? 流石に、あのロッカーには今入れませんが]
あらら、私の旅、まさかの30分で終了ですか?
財団に見つかった以上、まぁ、収容を拒む事はできませんけれど、せめてもうちょっと冒険したり世界を見て回りたかったです。
ああでも、財団なら、治す必要のある人も多いでしょうか……。
BKさんは、サングラス越しに少し眉根を寄せたように見えます。なんだか、複雑というか、本意ではないというか。
書類を置いて、BKさんは机に肘をついて手を組みました。どこか、疲れたように。
「現在、財団は前の世界……地球での規模より、大きく弱体化している」
[そういえば、何故、私たちや財団の皆さんはこの世界に?]
「それも、現行で調査中だ。経過は芳しく無いがな……。しかし、KeterクラスのSCPも既に多数確認されている。収容施設も、危険度の高いものを優先して対応している状態だ」
[それはそれは]
Keterクラスがいるという事は、もしかして、いるんですか、あのクマ。
とっても嫌です。なんとか外の世界には出さないでほしい存在です。まぁ、放置していても人に害は無い私やジョーシーより、人死にが出るレベルのKeterを優先して収容するのは、間違ってないと思います。
船を襲う肉塊のクマとか考えたくないです……。
「そして、武器や収容のための機材も、また開発途中のものが多く……Dクラス職員でなんとか堰き止めてはいるが、いつ収容違反が起こるかわからない。それに、この世界のDクラスは反抗心が強くてな、SCP-529のような無害の存在を害する可能性が高い」
むむ、猫ちゃんに乱暴するとは、悪人です。
私はクマ派ですが、猫ちゃんが嫌いなわけではないですし、誰かを遊びで害する人は嫌です。ジョーシーはサイト内を自由に歩くことが許可されていますが、そんなDクラス職員が沢山いると、行動場所も狭くなってストレスになってしまいます。
というか、この世界ではDクラス職員はどうやって補充されているのでしょう。
「つまりだ、SCP-2295。不甲斐無いことだが、今の財団に完全無害のSCPを保護できる、安定したサイトが……無い」
◇旅秒速終了ぬいぐるみ
人格を得たからか、自身の治癒能力を使わないとストレスが溜まる。
この度財団に捕獲されたが、あまり危機感は無い。
財団なら怪我人も沢山出るだろうな〜癒せるだろうな〜。
でもこの世界の人をもっと癒したいのも事実。
Dクラス職員は可哀想とは思うし、近くにいて怪我していたら治すが、実験や管理のため殺されるのは止めない。彼らの役割を理解しているので。
☆現在の財団のようす☆
・Dクラス職員をインペルダウンから安定&大量雇用できる。でも反抗的で命令に従わない。
・ガチヤバのKeterクラスを優先的に収容している。
・機動隊や管理用の武装、機材が万全ではない(サブマシンガンが最近開発されたレベル)
・職員、博士が少ない(じわじわ増えてはいる)
・土地が無い(島過ぎる)
・国家間の連携が無い(ワンピ世界でできるわけがない)
・SCP-2000が存在しない(これが一番ヤバい)
余裕なんてものは無いです。
他SCPの擬人化について。※擬人化した場合仲間になります。
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主人公だけでいい。
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他のSCPも一部擬人化する。
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危険度の高いやつを擬人化する。
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危険度の低いやつを擬人化する。