「海王類とは違う、また別の生物?」
牛柄の海獣さんを船から解放した後、私は改めてあの船に起こったことについて説明することにしました。
もちろん、SCP-3000“アナンタシェーシャ”は財団の切り札として、多くの情報が一般の財団研究員にも伏せられているほどです。全てのことを正しく話すわけではありません。
まず告げたのが、海王類とはまた違う、特殊な能力を持った生物の近くを、あの船は可哀想なことに通ってしまったのだろう、と言うものです。
[はい。海王類は未だ謎多き種ではありますが、人間の精神に深く影響する能力は確認されていません。故に、海王類ではない、別種の存在と、私は認識しています]
「ニンゲンノセーシンニエイキョー?」
[あの船の船員達は全員、その存在に曝露し、精神に治療し得ない不可逆の損害を受けたと推測できます。そして、その損害は今現在、他者に感染する可能性も予想されています]
「精神汚染された……ということね。感染の可能性があったから、貴女はわたしたちをあの船に近づけさせなかった」
「お、おっかね〜!? 感染したら、おれ達もあんな、こう……不気味な感じになっちまってたのか!?」
「セーシンニフカギャクノソンカイ??」
なんだか若干名ついて来れていない方々がいますが……ナミさんが放置して良いと手を振られたのでこのまま続ける事にします。
まぁ、これを知る人は少ない方が良いでしょう。財団にとっては。
[精神汚染されると、彼らのように錯乱、発狂が見られ、末期には……という極めて危険な状態となります]
「物理的じゃなく、メンタルに攻撃してくる……って考えで良いのか?」
[そうですね、それが医学的な精神なのか、または魂のようなものに対してなのか……]
「人間の精神というものは、一度崩れてしまうと修復は難しいものですから、精神が最初に崩れた事でなし崩しに魂も……というのも、おかしくないと思いますよ」
ブルックさんが冷静に分析しました。ブルックさんは一度死に、悪魔の実の力で蘇った……と聞いていますから、魂の存在をより近く認識しているのかもしれません。
しかし精神が先か、魂が先かという話はあまり重要ではなく、「治癒不可能な精神汚染での壊滅」が、シャボンディ諸島から魚人島へのルートに存在する事が特に重要な事ですかね。
[あの存在に曝露した者の言葉の中に、「暗い」「光が無い」と言ったものがあります。ですが、現在のサニー号の位置にも太陽光は届いている]
「そいつの周辺だけ嫌に暗いってことか?」
「あるいは、近寄った人間が光を知覚できなくなるのかも」
「……なんにせよ、最悪のルートを私たちは免れたってワケね」
私は頷きます。
あの船の人たちがどこから潜水し、どういうルートを辿ってここまで来たのかはわかりませんが、海獣に引かせていたということは、ある程度海流に逆らった動きもできたはず。
通常船ひとつで潜水する場合、通らないルートに居たら良いのですが……。海獣に引かせる船がメジャーだと、相当危険ですし面倒ですね。
あれは財団の貴重な記憶処理剤の素です。
今後財団が管理下に置く場合、海賊による妨害や事故の可能性が高くなるわけで……天竜人の印籠もどれだけ使えるか未知数ですし。
我々がアレに曝露しなかったことは、まずひとつ目の大きな幸運でしょうね。またアレの存在を確認できたことも、私にとっては幸運です。
精神的なダメージは別として。
「しっかし、シャボンディの近海にそんな魚? がいるなんて初めて知ったぞ」
「ええ、わたしもそんな文献は読んだ事ないわ」
「カイロスちゃんは何でそれの事を知ったの?」
当然の話ですが、アナンタシェーシャの存在は大きく隠されているのと近寄った場合生存率が極めて低いため、この世界の現地民の人でここまで理解している人はいないでしょう。
SCPがいつからこの土地に存在し始めたのかもわかりませんが、文献や資料として出回っていないのもおかしくありません。書く前に死ぬでしょうし。
なので、何故こんな小娘がここまで詳しく情報を得ているのか、は当然疑問点となります。
危険度の都合上、人命優先で動きましたが、さてどう誤魔化したものでしょうか。
[私の故郷には、様々な異常性や能力を持った存在、“アノマリー”が多く確認されていました。それらは、故郷よりは少ないものの、この土地の各地に同じく存在していることは、私が故郷を出てから知ったことでしたが……]
「あー、グランドラインって島による固有種とかめっちゃいるからな。おとぎ話だと思ってた生物が実際にいたり」
「おとぎ話だと思っていたかった存在に追いかけ回されたりな……」
「サンジ、あんた本当にどこに修行に行ってたの……?」
グランドラインには多くの生命、種が存在します。それこそ、地球では確実にSCPとして扱われていた様なものも、当然の様に存在するのです。
なので、この世界の人は割と自然法則や進化論に反した生物にも寛容です。というか、実際に存在を確認している以上、寛容にならないと生きていけないというか。
船での生活はサバイバルだと、私は船上生活で理解したのです。
「なるほど、地元産の生物だったのか」
「あんなヤバい奴が普通にいる地元とか絶対行きたくない。余裕で死が見える」
「随分と過酷な土地からやって来たんだなァ嬢ちゃん」
多少の用語くらいは、使用しても大丈夫でしょう。詳しい分類やオブジェクトクラスは説明しなくて良いでしょうし。
切り札レベルとなると、作品名も伏せる事にしましたが……念の為。この世界にアナンタシェーシャという単語が存在するかは謎ですが、財団にとって重要度の高い機密情報なので、下手に口を滑らせないように。
海は広いな大きいな、ということで、グランドラインのごく一部に存在する種が、シャボンディにもいた……という事にしました。
誤魔化せたかは、わかりません。財団がアナンタシェーシャの存在を認識し確保したら、記憶処理剤も製造されるでしょうし、本当にヤバくなったら使ってもらいましょう。
[ジョーシーも私の故郷の固有種です。この子は危険性は特にありませんので、ご心配なく]
「結構グランドラインも旅してきたと思ってたが、未知ってのはまだまだあるもんだなぁ」
「ヨホホホホ! 人生全てが勉強と言いますよ! まぁワタクシもう死んでるんですけど!!」
「そこのあんた達〜、もう戻ってきていいわよー」
早々に説明をリタイアした若干名の方々は、何故かまたピザを食べていました。どれだけ食べるんでしょう。
説明している間にじわじわと船外も暗くなってきました。まだ視野はある程度確保できてますが、ここから本格的に暗くなってきそうですね。
[ああ、あれも私の故郷にいました]
「なんだ? あのデケェ魚か?」
[その頭のあたりにいる、ビロビロした生き物です]
大きく体をよじらせる魚の頭あたりに、形容が難しい、赤い花のような器官をもった生物が取り付いています。
あれはSCP-1251-JP。“花に追われた人類”ですね。
「なんだアレ、ウミユリ?」
[海底の分解者なのですが、ああして生きているものにも取り付き、内部に穴を開けて埋まるのです。当然ですが、取り付かれると死にます]
「へぇ〜自然の摂理ってやつかぁ」
「ほんとか? それ本当に自然の摂理か??」
ウソップさんには私の故郷がどう見えているんでしょうね、既に魔境と化している予感しかしない。
でも、ジョーシーや私のように、癒し系もいるにはいるんですよ? ねぇ?
危険な奴らに対して数が足りなさすぎるのはわかりますけど。
あ、そうだすっかり忘れてました。
「ん?」
[ゾロさん、貴方はその片目を、治したいと思いますか?]
「あ? 片目?」
ゾロさんの、傷跡で綴じられた瞼の奥。閉じ込められた瞳の側の己の目尻を、私はとんとんと指で叩きました。
片目というのは、両目が見えている人の想像よりも大きく身体に影響します。
視野が狭まり、見えない部分への恐怖心や躊躇いは当然。体幹や歩き方にも変化が出ますし、距離感を掴むのは長い時間が必要と言います。
先天的であれ、後天的であれ。私は、治せます。
ですが、治療が必要でも、治療を必要としない人はいます。
事前のヒアリングは大切な事です。この世界では、傷自体が誰かとの思い出に繋がっていることも少なくない。
ゾロさんは、少し見えている方の目を細めた後、私の頭をぐしゃぐしゃとかき回しました。
「いんや、これはおれの誉のひとつだ」
[であれば、私は何もいたしません。突然の質問失礼いたしました]
ぺこりとお辞儀をして、デリケートな話題に触れたことへの謝意を示します。
ゾロさんは気にすんなとカラカラ笑ってくれました。刀や服装の印象通り、武人気質の真っ直ぐな方です。
本音としては、治したいです。ですが、木が年輪を数えて大きくなるように、傷が増えることで成長していく人もいるのでしょうね。
特にこの世界の人は、案外傷跡を気にしないというか、名誉に思っている人も多い印象です。
波乱な世の中ですね。
傷や武器の存在、当たり前に語られる戦いの話。荒れた、騒乱の気配を確かに感じさせるサニー号の中。
しかしその外に見える海の中は、そんな人の声も忘れるように静かになっていきます。
同じなのは、生きることの厳しさ……でしょうか。
◇海のSCPは物騒だぞアノマリー
海系SCPは何故こうも殺意が高いのか?
我々はその謎を追い求め魚人島へ向かった──
ワンピ世界の現地民へのアノマリー説明はざっくりと嘘も交えつつ。危険性と(あれば)解決方法がわかればええねん。
たぶんこの後一部海域を財団こと天竜人が買い取ります。天竜人なら一部の海の使用権すら買えちまうんだ! たぶん。
因みにキチクマことビルダーベアくんは、現状サイト24内にいます。サイト24内にいることは確実なんですが、どこにいるかは不明です。
なので呑気に廊下をお散歩してるだけでも遭遇の可能性があります。
こわいね。