パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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SCPは主人公だけの特権じゃねぇぜ!!





報告17:不協(カリブー視点)

 

 その緑は沼より深く、その緑は沼より濃い。

 

 *

 

 おれ達が()()を見たのは、シャボンディ諸島の騒動を躱し、隠しておいた海賊船を潜水させた時だ……。

 

 海軍と海賊の正面衝突、パシフィスタの投入と、いつ流れ弾が来るかわからない状況。のんび〜りと観戦している暇は残念ながら、無い。

 浮袋を外し、海獣に怒鳴り急きたてる。

 そうすれば、あっという間に500メートル以上も潜れてしまうって寸法よォ〜。海獣のスピードは他の船を強襲する時にも便利で、なかなか便利なモンを手に入れたってなァ。

 

「なぁ……なんか、暗くねぇか?」

 

 そうしてさらに深くへ潜ろうとしていた時。

 船員の一人が、両腕を寒そうに擦りながらそう呟いた。他の船員も、そういえばとシャボンから見える海中の景色をキョロキョロ眺める。

 おれとしては、クルーとはいえおれや弟より何倍も弱っちい男たちが、海ン中っていう逃げ場の無い状況にビビってんじゃアねぇって、煽りたかったァもんよォ〜!

 

 魚人島を目指す船の七割は沈むってのァ、有名な話。今からその三割に挑もうって時に、テンションの下がることを言っちゃアいけねェ。

 ここは船長のおれが喝でも入れてやろうかねェ〜、なァんて事を考えた瞬間、イカスミでも撒かれたみたいに、周囲が暗くなったのさァ……。

 

「なんだこれ……モヤ……?」

「暗い」

「寒い」

「あ、れ……??」

 

 突然の不明な現象に、船員たちが俄かに異常を感知し始める。

 ある者はただ暗さを怖がり、ある者は寒さを訴えた。そしてまたある者は、なァんもわからなくなっちまったみてェに、自分が誰かをブツブツ繰り返している。

 おれも、はっきりと怖気の様な冷たさを背筋に感じて、船員たちの不気味な変わり方に何もいえなかった。

 

 コリブーのやつも、なんだかもう、自分が何者で、なんて名前なのかもわかんねェみてェだ。

 寒気が強くなるごとに、自分の存在がグラスの中で割られていく様な……水割りの酒になった気分を味わう。

 

 おれは、なんとか海獣に指示を出して、ここから離れるよう叫んだ。

 アァ! こんな現象、魚人島までのルートにあるなんざ誰も言ってなかった! 凶暴な海王類でも、幽霊船でもねェ、ヒトの存在丸ごと食っちまうようなモヤが、一体どうして存在しちまってるんだ??

 

 海獣が大急ぎで波を掻き、モヤの中を離れていく。

 おれァそのモヤの中に、奥の奥の奥に、何か……途方もなくデカい、バケモンの姿を見た。

 緑の、藻のような霧のような、ウミヘビでもリュウグウノツカイでも死体の山でもない。

 ウツボだ……と思いついた時には、甲板に頭を打ちつけ始めた弟の嗚咽が耳に張り付き始めた。

 

「おれって誰だ? なんだ? なぁ」

「暗い……何も見えない……おれの手はどこへ行った?」

「はは、は、神様! 神様! カミサマ!」

 

 船ン中はダメだ。終わりだ。

 ガタガタ鳴る歯は、沼人間だってェのに硬〜く音を鳴らして、視界の端が暗く濁りはじめている。

 誰も彼も正気じゃ無い。モチロン、おれも。

 血の匂いは潮の香りで満ちたシャボンの中で鉄臭く目立ち、それを発生させている弟や他の船員は、次第に数を減らしている。

 

 関わっちゃいけねェ、下手な億越え賞金首よりも厄介で極悪な、()()に障っちまったんだ。

 この先にあるのは発狂の末の死だけで、それ以外は舗装どころか獣道すらありえねェ。

 だが、そんなヤツがたった数百メートル潜っただけでいるなんて、どうやって想像できる?

 近寄っただけで人の精神を終わらせる、なんて、そんなの存在しちゃいけねぇモンだろうが!!

 

 ア〜、ア〜、いやァ? そんな事はないかもな。な?

 うん、うん? このおれの足元にいるのは誰だァ? なんだったかァ? ケヒヒヒ、ヒ。

 

 違う違う、壊滅、そう、壊滅の危機なんだ。いやもう殆どがダメだろうが、おれだけでもォ、生き残らなきゃアなァ〜〜?

 そうしなきゃよォ〜、ダメななんかがなぁ、あった気が……なんだっけなァ。

 

 お、おれはなぁ、あれだ……誰だ……カリブー、そう、カリブーに追い付いて殺さなきゃアなんねぇんだ。

 いや、シャボンディって奴だったか?

 この船で、追い付いてな、アァ、皆殺しでっ……ケヒヒヒヒ、ヒヒヒ……。

 皆んなってなんだ。

 

 その為には〜〜手段を、選んじゃいけね〜よなァ〜〜?

 おれの手にあるのはなァ、どっかの、怪し〜い露天商が売ってた、“秘薬”ってヤツよォ!

 み、緑の半透明の液体をォ、チクッと注入しちゃえばよゥ、並外れたチカラを得れるって話さァ!

 買ったときャ、テキト〜に馬鹿に倍値で売りつけるつもりだったがけどもォ、こ、こうなっちゃ話は別よゥ。何がなんでも、ケヒ、おれだけはァ生き残ってやる、の、さ。

 

 ああ、おれの名前はコリブーだ。

 

 おれは、自分の腕に、アちくっとォ、それを注入した。

 も〜、視界の暗いモヤは、全体の8割を覆うところだった。暗いな、暗いなァ。

 

 だが、緑の液体を注射しきったところで、世界が変わった。

 

「っは、アァ? なんだァ、今までのおれは、完璧にパーになっちまってた、のかァ……?」

 

 ガチッと、身体全体の歯車が切り替わったみてェに、正気に戻された。さっきまでの、自分が誰なのかも忘れちまってたテメェが、恐ろしく他人事の様に思える。

 今は、もう、違っている。

 頭がすっきり冴えていて、今じゃ魚一匹が()()()()()()()()()()も予測できそうな程だ。

 

 露天商から買った緑の液体は一つしかない。もう、おれ以外のクルーは、弟も含め、誰も使い物にならない。

 

 だがそれがなんだと言うんだ?

 

「ケヒヒヒヒ、これは……これァゲームだ、競争なんだ……。そしておれはそれに勝てるんだ、神様ァ見てくださるのよォ!」

 

 意欲が溢れ、そして身体の神経が研ぎ澄まされる様だった。

 船員は使い物にならないが、船はまだ万全に使える。

 おれはいつの間にかいなくなっていた海獣の代わりに、操舵輪を回す。いつもは操舵手と航海士に任せている作業だというのに、今のおれにはナイフで人を斬るように簡単な事だ。

 内在していた競争本能、闘争本能と言えるものが、真価を発揮したような無敵感が、ごく自然に身体に馴染んでいる。

 

「待ってろよォ麦わらの一味ィ! その首ィ、いただいちゃうぜェ〜〜!?」

 

 グルリと回した操舵輪が、海流に乗り、帆が風を受けたように強く張った。

 甲板に響く声は、もう頭に入ってこない。

 

 *

 

「見ィつけたァ〜〜〜」

 

 特徴的なライオンの船首はまさにアイツらの船のトレードマークだ。

 数こそ少ないが、一人一人が精鋭揃い。対するおれは孤軍だが、あの秘薬によってパワーアップしたおれなら、勝算は十分にある。

 自然系はそもそも敵の攻撃が効かず、流動的なこの身体は狭い空間でも安定して戦える。

 

 海流の勢いに乗って、おれは船を思いっきり麦わらの船に体当たりさせた。シャボン同士がくっつき、船同士での移動が可能になる。

 となれば、もうこの船も船員たちもお払い箱だ。麦わらの船を乗っ取り、良いように使えばいい。

 

 麦わらの一味は、突然の奇襲に驚き、だがしかし素早く戦闘態勢をとる。

 おれも、麦わらの一味を侮っているわけじゃあ無い。本当なら、船員たちに一斉射撃でも命じたんだろォが、無いものは仕方がない。

 

「ケヒヒヒヒッ! 麦わらァ、殺しにきちゃったぜェ〜〜!!」

「ルフィ! ゾロ! あんたら絶対にシャボン破らないでよ!!」

「カイロスさんはこちらへ!」

 

 

 先手必勝と、体内に隠しておいた銃のうち数本を射撃する。流石に機関銃は、シャボンを破る危険性からつかえねェが。

 だがァ、それは簡単に防がれてしまった。まァ、こちらもそう簡単にいくとは思ってないからねェ。

 正面突破はハナから勝率が低いとわかってる。おれがもともと得意とすんのは、卑怯上等の手口よォ!

 おれの前で弱点を晒すなんてェ、利用してくれって言っちゃってるようなモンだぜェ〜〜??

 

「ダメよォお兄さんらァ、オンナノコは丁重に使()()べきだぜェ〜〜!??」

「な、あの野郎カイロスちゃんを人質にしやがった!!」

 

 他人の行動が予測できるってのはァ、良いモンだなァ〜〜。

 得意なフィールドなら、尚更輝くってモンよォ、簡単に一番弱そ〜な、ちびっ子を捕らえられちゃったぜェ!

 

「おじょ〜ちゃァん、ちょ〜〜っとおれの作戦に協力してくれよなァ! なァに、大人しくしてりャ殺しはしねェさ」

 

 叫べないよう口を塞ぎ、こめかみに銃を突きつける。

 人は誰だって情に流されるモンよォ。おれはおれが一番かわいいが、麦わらの一味は仲良しこよしで有名だァ。人質を取れば、圧倒的に有利なのはコッチってわけよォ!

 

 案の定動きを止めた麦わらたちに、優しさで涙が出そうだねェ〜〜!

 お嬢ちゃんも、怖くて声も出ねェみてェだ。可哀想になァ!!

 

 おれの勝ちは確定したようなもんだ、あの緑のウツボみてェなバケモンがまた出てこない限りはな!!








☆この作品でのSCP-1853の扱いについて☆
・曝露者が「競技」と認識する行動に対し活性化し、その競技に勝つことに曝露者が高度な能力を発揮できるようになる。
・曝露者の性格が競技に勝つことに拘るようになり、他者に攻撃的になる。

ざっくりこういう効果を持ったSCP-1853ですが、「曝露者が競技に勝てるよう未来を確定させる」ような現実改変能力ではなく、
「曝露者が限りなく競技の勝利に繋がるよう身体能力や思考能力を向上させる」という解釈をしています。
簡単に言うとポケモンのふしぎなアメによる強制レベルアップ。

今回はカリブーが曝露したことにより、見聞色の覇気に目覚めました。また、覇気によってミーム耐性が上がり、アナンタシェーシャの汚染を後から弾いています。
アナンタシェーシャの汚染は強力ですが、カリブーは接触時間がせいぜい20分ほどだった為、覇気で弾けるくらいにはまだ後戻りできる段階としました。

SCP-1853は非常に強力で便利な血清ですが、これを物語内で使用しすぎるとまぁアカンので、これ以降極力縛ります。
SCP-1853を飲んでもワンピース世界では無敵ではないよな……という立ち位置です。修行しないである程度覇気を扱えるようになると言う時点で割と破格な気もする。

ところでカリブーの喋り方、うっかりすると闇マリクになるんですが許してください。
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