パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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少し体調崩して日付開きました。
冬の乾燥には気をつけよう!(1敗)
taleの註釈は時間ある時に付けます。





報告22:姫君

 

「しらほし姫〜ッ!? なぜここに〜!?」

 

 大柄な魚人さんの、悲鳴にも似た叫びが響きました。

 

 私も驚いたものです。こんな大きな人魚がいるなんて。私の何倍あるんでしょう?

 姫、と呼ばれていたあたり、人魚姫なのでしょうか?

 高貴そうな髪飾りや羽衣のような布から、彼女が貴い地位に属していることがわかります。ですが、その瞳にある光は、とても純粋で。

 おとぎ話の人魚姫のように、健気で慈愛のある方に思えます。そんな方がどうしてここに? という疑問も、また当然のものに感じますね。

 

 護衛らしい護衛もいませんし……ルフィさんが一人で連れてきたのでしょうか。一国の姫様を、同意での行いに見えますが誘拐とは……流石海賊、というわけなんでしょうかね?

 私はサニー号の無事を確認してほっと息を吐きつつ、ミスターと一緒に邪魔にならないところに立っています。

 

 フランキーさんの言った通り、この辺りは船の残骸が多く、尖った木片や破砕されたパーツが剥き出しになっています。子どもが誤って触ってしまったら、怪我を負うでしょう。

 そういう危険もあって、ここには誰も近寄らないのかもしれません。

 ですが、光を浴びながら、外を泳ぐ魚やクジラたちの姿を眺めるというのは、ここでしかできない最上の贅沢に思えます。

 特にサニー号のいる辺りは光が強く、私はそっと目を細めました。

 

「それと……そこにおる者たちは?」

「ああ! あの小さいのがカイロスだ! もう一人はしらねぇ!!」

「あいつはミスター・おさかなって言うらしい。カイロスの知り合いだってよ」

 

 私たちも、ルフィさんから紹介を受けます。大柄な魚人さんはジンベエさんと言うそうです。そして、お姫様がしらほし姫。

 ミスターはあまり積極的に話しかけには行かなそうなので、私が一歩前に出てメモを掲げました。

 ミスターは魚人や人魚といった存在に思うところがあるので、好意的なポーズをとりにくいのかもしれません。あるいは、先ずはルフィさんたちと知り合いである私を前に出すことにしたのか。

 

[初めまして。私は“パッチワークのハートがあるクマ”または“カイロス”と申します。ルフィさんとは、この魚人島に着くまでの短い海中の旅をご一緒させていただきました]

「おお、丁寧な……わしはジンベエ。その名の通り、ジンベエザメの魚人じゃ。ルフィくんとは戦友のようなものじゃな」

[こうしてハッキリと魚人の方とお話しするのは初めてです。ジンベエさん、よろしくお願いします]

「む、初めて? しかし彼は……」

 

 ジンベエさんは不思議そうにミスターを見ました。ミスターは少し気まずそうに腕を組みます。

 魚人島という土地は、一見すると彼にピッタリなように思えますが、実際は反対側なのかもしれません。

 私は彼の心中をピッタリ当てることはできませんが、私が来るまでの間、彼がこういったやり取りを何度かしてきているのではないか、と感じました。

 人間に聞かれるのと、魚人に聞かれるのはまた違う感情が湧くのかもしれません。

 

[彼は“ミスター・おさかな”。私の友人ですが、魚人ではありません。私の故郷の、ごく珍しい種族……と認識していただけると。彼もまた、悪い人ではありません]

「そうか、どうも魚の要素を持っているのは人魚と魚人だけと視野が狭まっていたようじゃの。失礼した。おさかな殿も、どうぞ宜しく」

「あー、そんな気にしてない。大丈夫だ。ミスターでも、おさかなでも、好きに呼んでくれ」

 

 私の紹介で、二人の間にあるぎこちなさが和らげば良いのですが。

 咄嗟に私の故郷にいる人種と言ってしまいましたが、まぁ、間違ってはいないでしょう。

 ワンダーテインメント製を人種として見たら、複数人検索できるわけですし。

 無理矢理感が全く無いとは思えませんが。

 

[しらほし姫様も、初めまして。“パッチワークのハートがあるクマ”あるいは“カイロス”とお呼びください。この度は出会えて光栄です]

「……? えっと……」

 

 おや? 私はメモをしらほし姫様の近くで掲げたのですが、どうにも反応が無いですね。伝わっていないようです。

 言語は、合っている筈なのですけど。それとも、私の字が下手だったでしょうか?

 私も首を傾げると、フランキーさんが私のメモを指差しました。

 

「もしかして、小さすぎて見えてねぇんじゃねぇか?」

「す、すみません。メモで会話する方とお話しするのは初めてで……」

「カイロスはちっせーし、メモもちっせーからな!」

 

 あらら、どうやら私のメモだと距離と大きさで文字が読めないそうです。

 私のメモは、村で受け取った分はとっくに切れてしまっていたので、今は宝石の鱗商会が売っているメモ帳を使っています。

 手軽に使えるカード型で、耐水性も高いものを選んで使っているのですが……そのサイズはハガキよりも小さい正にメモサイズ。

 そこに私の控えめな筆跡となると、大型の方には見えづらいそう。

 なんなら、普通の人間サイズのルフィさんにも少し見づらいと言われてしまいました。

 次にメモを買うときは大きめのものにするべきでしょうか。

 

 私は、しらほし姫様の手に乗せてもらい、メモ一枚に一文字、目一杯に大きく書いて、「カイロスです。よろしくです」と並べました。

 流石に読めたようで、姫様からは華やかな笑顔と共に挨拶をいただきました。姫様の手は、片手だけで私が寝転がれるくらい大きいです。

 人の中でも小さい私ですから、サイズ比はとんでもない事になっているでしょうね。下を覗けば、落ちたらただでは済まない高度でした。

 

「あら? カイロス様のお腹になにか……」

「ニャアン」

 

 ポケットの中にジョーシーがいる事を伝えるのを忘れていました。

 ぽんっと頭だけ外に出したジョーシーの姿に、姫様は目を輝かせます。そういえば魚人島にはネコがいませんね。いたとしても巨大な海獣の姿をしているのでしょうか。

 

 私は、もう一度メモを大きく使ってジョーシーの紹介をしました。

 ジョーシーは寝返りをうっただけのようなので、起こさないようそっとしておきますが、姫様は顔を見れただけでも満足そうです。

 姫様の手では、ジョーシーをもふもふするのにも一苦労ですね。ジョーシーも、大きいとは言えませんからね。

 

「ジョーシー様も、よろしくお願いしますね」

 

 姫様は、ジョーシーを起こさないように、そっと小声で挨拶します。初めて見るのか、もふもふの小さな生き物に少し緊張している様子がわかって、私はクスリと笑ってしまうのでした。

 ふわふわは、魚人島ではあまり見ませんから、ぬいぐるみなんかを贈れば喜ばれるかもしれませんね。

 

「あ、まただ」

「っうお!?」

 

 突然、ルフィさんが跳躍し、飛んできた大斧を弾き飛ばしました。

 それは確かにしらほし姫を目標としていて、当たっていたらと冷や汗が滲みます。

 ルフィさんはどうやら、このどこからか飛んでくる凶器を弾きながらここまで来たそうです。アノマリーかと思いましたが、パッと思いつく物がありませんし、気配も無いですね。

 魚人島の誰かによる犯行だそうで。これによって彼女は10年以上硬殻塔という場所に閉じ込められていたとか。

 

「許せんッ! 今はカイロスちゃんとプリンセスが花園を作っていた所だろうが!!」

「サンジがいつものように女子を邪魔する存在に怒りを燃やしてるーッ! 通常の反応だ!」

「い、今のでジョーシー様は起きていませんか?」

[大丈夫です]

 

 ですが、ルフィさんが今まで完璧に防いできたようですし、彼に任せれば大事にはならなそうですね。

 何かあったら、私も頑張りますし。布と綿、たくさん買わないとですけど……。

 金策、どうしましょうね。財団になんとか支援をいただけないでしょうか。ですが、きっと財団もカツカツですよね……。

 

「なー、お前、ここに用があったんだろ?」

「はっはい! お母様の……お母様の、お墓に」

 

 そういえば、姫様がここに来た理由をまだ知りませんでしたね。

 姫様は私をそっと地面に降ろすと、私が見かけたあの建造物に向かいました。

 それは、彼女の母親が眠っている場所のようです。

 あの時感じた、寂しさと穏やかさは、亡き者が眠るための場所だったから……だったのですね。

 黙って両手を組んだ姫様は、どこか噛み締めるように、祈るようにお墓に向かって瞳を閉じました。

 

「……バンダー・デッケンの毒牙にかかった彼女は、母親の葬式にも出れず……。伝えたい事は、山のように積み重なっている事じゃろう」

「もしかして、これが初めての墓参りなのか?」

「そう……かもな」

「…………」

 

 きっと、今姫様は彼女のお母様に、今まで伝えたくても伝えられなかった事を、精一杯話しているのでしょうね。

 あの姿は、誰も侵犯してはいけない聖域でしょう。

 家族への葬いすら共にできなかったとは、彼女の哀しみは計り知れません。

 

 ミスターも、その表情のわからない魚の頭を、少し歪めた気がしました。

 私も、遠くへいってしまった人を想うと、あまり……愉快な気持ちにはなれませんね。

 私には身内といえる存在はいないわけですが、それでも、近しい人が亡くなるのは、とてもとても……冷たくて、中の綿が綻ぶような気分になります。

 あるいは、もう解けない程に縫い付けられた糸が絡まってしまったような、そんな気持ち。

 

 人が死ぬ事そのものを憎むわけでは無いです。

 生きて、死ぬことは生き物として当たり前のことで、そうすることで生命のサイクルは環となっていくのですから。

 ですが、それが老衰ではなく、病や怪我、あるいは殺人だとしたらどれだけ遣る瀬無いでしょう。

 

 この世界で、ただ老いの中穏やかに眠れる人が、どれだけ居て。

 そうではない人たちが、どれだけ居たのか。

 全てを救う全能神にはなれません。ですが、せめて私の手の届く範囲は、どうか眠るときは安穏であって欲しいのです。

 しらほし姫のお母様。貴女の側に、私も居たかった。

 そしたら、何か変わりましたか。

 

「──」

 

 私は頭を振って、その思想をくずかごの中に放り投げます。

 もう遠くに終わってしまった事を、私ではどうあがいても何もできない事を、無理に悲しむことは傲慢です。

 私は力を持っていますが、それでも所詮はテディベア。

 布と綿の腕で抱ける量は、決して多くないのですから。

 

「俺は悼むとかよくわからないが……あの姫さん、幸せになると良いな」

「──」

 

 ミスターの言葉に、私はそっと頷きました。

 

 海の森は、眠るのにはちょうど良すぎる程に、穏やかな場所です。








◇救世主にはなれないクマちゃん
メモも字も小さい。丸文字で下手ではないけどちょい控えめなサイズと筆圧してる。
身長は120センチくらい。中身綿なのでジョーシーなどのオプション抜くと体重は一桁になる。とっても軽い。
小学2〜3年生の女子でも身長120は低めなので、クラスで一番小さい、前ならえで腰に手を当てるポーズのタイプ。
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