パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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報告23:太陽

 

「11年前アーロンを解き放ったのは……わしなんじゃ!!」

 

 ナミさん、ケイミーさんらが竜宮城からこちらに合流して来ました。

 どうにも、王族の住む城が海賊に占拠されてしまったそう。ゾロさんたちも中にいるため、どうにかして救出しないといけないようです。

 私がお昼寝している間に、随分と事が進んでしまっていた様子。

 

 ですが、ナミさんたちだけでも外に出れたなら、こちらから向かえばまだ何とかなります。中には負傷兵も何人か居るようなので、微力ながらご一緒させていただきたいところですね。

 ですがその前に、ジンベエさんにより、この魚人島の、人間との関わりの流れが話されました。

 ナミさんは、魚人によって過去に傷を持つそうで……。私が聞いて良い話か迷いましたが、その話が魚人島の「今」につながると言われると、聴くしかありません。

 

 そこから話された、オトヒメ王妃とフィッシャー・タイガーさん、タイヨウの海賊団の歴史は……深く根付いた差別と、壮絶な種族間の溝を描いたものでした。

 

 奴隷、人間と魚人、世界会議……。

 汗と涙、そして血に塗れたそれぞれの生と死は、ただ語られた音に耳を向けるだけでも、重くのしかかる錨の様です。

 人って、なんでしょう。

 心って、なんでしょう。

 彼彼女らの行いは、愚かだったでしょうか。それとも、聡かったでしょうか。

 当時を知らず、人でも魚人でもない私には、ハッキリした解答は出せないと思います。

 

 私はぬいぐるみですから、抱きしめられる相手を選びません。

 人間でも魚人でも、天竜人でも奴隷でも、私にとっては平らで、なんの凹凸も無い同じ地面に立っています。

 トリアージは年齢順というものこそありますが、それは私が大人を差別しているとか、そういうわけではなく。ただ私が“SCP(わたし)”となった時、込められた想いによる基準なのだと、そう考えています。

 

 では、私に差別の心が無いのかと思考すると、それもちょっと違う気がします。

 私は聖人ではありませんし、明確な好き嫌いも存在します。

 ビルダーベアは嫌いです。ジョーシーを傷つける人も嫌いです。人の死を笑う人も嫌いです。

 好き嫌いの感情があるということは、私も無意識に他人を分別し、偏見や差別の型で抜き取る事もしてしまうでしょう。

 区別と差別は紙一重。

 自分の思考が全ての人間に当て嵌まるとも思っていません。相容れない存在は必ずどこかに居ます。

 

 だからこそ、差別を取り除くことは難しいでしょう。

 生理的嫌悪感や根源的な恐怖心は、話し合いだけで解決できるほど浅くはありません。

 長い時が経っている分、積み上げられた偏見や批判材料も数え切れないでしょう。

 

 ですが、そんな高い壁に立ち向かった人たちがいた事は、忘れたくありませんね。

 私はぬいぐるみですが、あの方達は人でした。

 抱きしめられる誰かを選ぶ事も、また人の持つ権利だと思いませんか。

 それが拒絶であれ、願望であれ。

 

「アーロンの過去を聞いたって、今更赦したり同情はしないわ。でも、あの出来事があったから今のわたしがいる。繋がってるの、全部ね」

 

 ナミさんの言葉に、強い人だと少し瞳を揺らしました。

 全てが繋がっていたとしても、それらはパッチワークの様に色も模様も違うもの。切れ端だけに針を突き立てる事だって、幾らでもできます。

 ですが、彼女は出来上がった作品そのものを受け入れて、次の縫い針を握っている。

 それは、簡単にできることではありません。

 

 そう強くなるまでに、彼女の頬にどれだけの涙が伝ったのか。幾本の針が彼女の手を刺したのか考えるだけで、喉が震えます。

 ですが、彼女の言う通り、彼女の人生に勝手に謝ってはいけないように、彼女の過去を勝手に哀れんではいけないのです。

 

「……俺としちゃ、人種って考えはどうにもピンとこないが……まぁ、世の中にゃ極端なやつもいるもんだな」

 

 ミスターが小声で、私だけに伝わるほどの独り言を溢しました。

 SCPはさまざまな形態のものが揃っていますが、私やミスターは人種というものにはあまり当てはまらないですからね。

 種族全体を馬鹿にされる、蔑ろにされるという感覚は認識しにくいのかも。

 

[我々は財団に居た時も、ある程度自由やプロトコルによる支援を得ていました。故に、我々が我々の望むものと認められないのはどう言う状況なのか、という仮定に明確な答えを出せないのかもしれません]

「少なくとも、オレンジのツナギ連中よりは丁重に扱われてたしなぁ」

 

 おや、ミスターもDクラス職員の扱いが悪い事は認識している様子。

 あれも、まぁ、前科者に対する差別と定義できるのでしょうか? 死刑囚だとしても、彼らを使い捨ての様に扱ったり極度の痛みに当てることは、正当な扱いでしょうか?

 末路は死刑だとしても、その過程に苦痛や恐怖を伴う作業をやらせることは過度な罰ではないか?

 でも、それは私の一存で決められることではありませんし。きっと一生正しい答えは定まらないんじゃないでしょうか。

 

「俺も、奴隷にはなりたくないし、魚扱いも御免だからな。そういう権利を勝ち取るためには、王妃サマもタイガーって男もよく戦ったとは思うがね」

[人という存在が人格を持つ以上、上下や支配体系は必ず生まれるでしょう。逃れられないからこそ、立ち向かい理解し合う行動が大切なのでしょうね]

 

 財団は、意思や人格を持つアノマリーにはある程度対話を試みてくれる一面もあります。

 問答無用で破壊や殺害という冷酷な面も勿論ありますが、あくまでも“確保・収容・保護”を主軸としてくれているので、私やミスターもその存在を壊されずに済んでいる。

 私たちが別の団体に確保され、意も無く破壊されたり、世間に広められたら、どうなっているんでしょうね。

 収容という閉じた世界だからこそ、見なくて済んだ闇というものを、直視した未来もあったかもしれません。

 

 変わらないのは、私はこの話を聞いても目の前に傷ついた天竜人が居たら治すでしょうし、奴隷がいても治すでしょう。

 それは、どんな話を聞いても、変わらない事実です。

 

「……おぬしの様な子どもには、おおっぴらに聞かせる話では無かったのう」

[私の他者を想う気持ちは、その話を聞いても揺らぐものではありません。寧ろ、そういった記録があるからこそ、より深く他者を抱きしめる事ができるようになるでしょう。お気になさらず]

 

 そう、私がジンベエさんにメモを見せた時でした。

 突然、海の森にモニターが現れたのです。

 

「生まれ変わろうじゃないか、裏切り者を殺し、プライドある“新魚人島”へと……!!」

 

 告げられた身勝手な処刑宣告に、この場のみんなの表情が変わります。

 いえ、相変わらずミスターの顔は分かりづらいのですが……。

 

「……幼い子らの未来のためにも、ホーディの企は阻止せんといかん。隣人を安心して抱擁できてこそ、より遠くの存在へと腕を伸ばせるものじゃからの」

 

 ジンベエさんは、人間と魚人の関係に明るい兆しを望みたいからこそ、ホーディ一味の行いは看過できない様子。

 私としても、このまま人間と魚人の溝が深いままで良いとは思えません。差別と復讐のループに生まれる無数の死者を、仕方ないと逸らしたくないのです。

 

[ミスター、ここからは危険な道となります。もし不安なら、安全な場所へ移動した方が]

「馬鹿、俺よりちっさいお前が行くんだから俺も行くに決まってんだろ。……あー、関係者繋がりだろうと全く繋がりの無い奴らよりはマシなんだよ、色々と」

[もしかしたらそれこそが種族意識なのかもしれませんね]

「なんでもいいわ、この際」

 

 ミスターはこのまま私と同行する事に。

 私一人とジョーシーだけではあまりにポツンとしていますからね、しらほし姫のように筆談がし難い相手がいたら、ミスターに読み上げて貰いましょう。

 人手が増えるだけでも助かります。

 ミスターは頭こそ魚ですが、ジョーシーの様に半身が存在しない、というわけではないので、私の活性化対象でしょう。万が一の時は頼ってくださいね。

 

「なんじゃ、おぬしらも来るのか? 守ってやれんかもしれんぞ」

「カイロスちゃん、流石に今回は危険すぎるわ。銃が怖くなくても、ああいう輩は他人を傷つける方法をいくらでも知ってる」

 

 ナミさんがハッキリと止めてきますが、他者を傷つける方法を知っている者が相手だからこそ、他者を癒せる私が出なくてはなりません。

 それに、目の前にボロボロになった国王様を見せられて、黙っていられるSCP-2295でもありません。

 私の前に重傷者を出す事こそ、私を一番突き動かす燃料となるのですから。

 

「あ〜、なんだ、完全な部外者の俺が言うのもアレだけどよ。俺たちの関係者は、何かしら“異常性”を持ってるヤツが多い」

「異常性?」

「大小様々、中には自分でも制御できないものまで……それはコイツ(カイロス)も同様だ」

 

 ミスターは、私を親指で指差しました。

 集まる視線に、微笑んでみせます。

 SCPは不思議だらけ。私も誰もその“異常性”がどこから来たのか知りません。

 ですが、あるなら使ってしまいましょう。

 幸いにも、私が齎すのは恐怖ではない筈ですから。

 

「特別なプロトコルでも用意しない限り、何がなんでも()()()()ぞ、コイツ。それこそ、箱詰めにでもされない限り」

[私は幼い庇護対象である以前に“パッチワークのハートがあるクマ”ですから。ね?]

 

 戦うということは、怪我人が出るということ。

 処刑するということは、死人が出るということ。

 

 差別は、私には治せません。それはきっと、時間だけが薬となる永遠の病。

 私は人間側にも、魚人側にも立ちません。

 ただ、目の前にある大きな諍いの気配と、鼓動を止める誰かの心臓の予感に、立ち向かいたいのです。

 

 少しでも、私にできる事があるのなら。

 

「だけど──」

「そりゃ、最前線には立たせねぇよ。ただちょっと、こっちもこっちで色々やらせてもらうだけだ。お前達の戦いの邪魔はしない……ってよ」

[私も自身の非力さは自覚しています。蛮勇はいたしません]

 

 流石に正面戦闘は無理です。ミスターも無理です。

 なので、本命との戦いはお任せして、こちらはこちらで、犠牲を抑えるためにも行動します。

 私が傷つくと悲しむ人がいますから、自滅覚悟の作戦なんて立てませんよ。ただ……まだこの魚人島には、SCPの気配があるのです。

 戦いの気配……誰かの命の危機を強く認識したからか、私の神経に強くその気配が反応しています。

 これが他SCPも持つ特性なのか、私だけのものかは分かりませんが……。

 

[“使えるものは不死の首飾りでも使え”……故郷の教えです]

「なんだそれ」

 

 何事にも勇気と挑戦は必要という意味……かもしれません。

 

[ホーディさんの企みから魚人島を守るため、私たちも頑張っていきますね]

 

 グッと拳を握りやる気のポーズを見せましたが、周りの皆さんはどこか心配げに、頭上にハテナを浮かべていました。








◇使えるのなら落ちているSCPでも使うクマ
人の命を一番大切にしてるテディベアの前で、戦争宣言をしたということは、つまり「喧嘩を売った」ということ。
売られた喧嘩は買うクマー!!
本人は蛮勇はしないと言っているが、幼女の姿で戦争に首突っ込むこと事態が蛮勇だと気づいていない。
ミスター・保護者の心労や如何に。
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