パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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報告24:捜索

 

 というわけで、魚人街にやって来ました!

 

「……なぁ嬢ちゃん、蛮勇はしないって言ってなかったか? ここ、どう見てもスラムなんだが」

 

 ミスターが呆れたように腰に手を当てますが、SCPの気配はこの辺りからするので、しょうがないのです。

 それに、魚人街の荒くれ者たちは放送されているホーディさんたちの様子にびったりの様子。コソコソ行けば、きっと気づかれませんよ。

 

 実際、魚人街の中は相当に盛り上がっていて、様々な武器や装備を着けた荒っぽい見た目の魚人達が、モニターを眺めながら酒を呑んでいたりします。

 人を憎んで、人に好意的な同族に怒って、それらに感情をぶつけられる時間を楽しみにしているようでした。

 中には既にへべれけの人もいて、周囲を警戒している様子はありません。

 

[ざっくりとした位置しか感知できませんでしたので、ここからは地道に探索していきましょう]

「危なくなったら抱えて逃げるからな……ハァ」

 

 危険なものなら、おそらく既にこの地は阿鼻叫喚になっているはず……つまり、ここにあるSCPは危険性が低いか、特定の手順を踏まなければ異常性が現れないのではないでしょうか。

 薄暗く、建物も崩れかかって、いかにも治安の悪い場所ですが……元はみなしごの集まる土地だと思うと少し悲しくなります。

 魚人島は孤児院や養育の法があまり整っていないのでしょうか。

 

 それとも、もう一世代の王位期間では直しきれないほどに魚人街全体が歪んでしまったのでしょうか?

 モニターに集まる人たちの身なりは、街の外の人たちよりいくらか見窄らしいです。

 どの国にも闇はあるものですが、間近で見ると複雑な気持ちが改めて湧いてきます。

 

 建造物や、流れてきた船の残骸らしい影に隠れて、私たちはSCPを探します。

 感覚的には、近いんですが……うーん。

 移動、してるっぽい? ですかね。

 ぼんやりとある感知がズレたりブレたりしています。生体系SCPでしょうか……。

 

「SCPを探すっつっても、俺みたいにわかりやすい見た目じゃなかったらどうするんだよ」

[その時は、なんとか感覚に深く潜って探り出すしか……]

「なぁ、ついてきた俺が言うのもなんだけどよ……ちょっと、体当たりがすぎないか? この計画」

 

 しかし……私はSCPを確認したら報告しないとですし、王様や一味の皆さんも助けたいですし。

 財団に人に対する攻撃は禁止されているので、それに抵触しないよう貢献するには、まず未発見のSCPを探してからでも遅くないと思ったんです。

 幸いにも、処刑までは数時間の猶予があります。

 運が良ければ、発見したSCPを作戦に有効活用できないかと考えているのですが……。ううん、そもそも誰かの処刑阻止の経験が無いもので、どうにも行き当たりばったり。

 

[今からでも降りるのは遅くありませんが]

「抜けるとは言ってねぇよ。ただヒヤヒヤする俺の身にもちょっとはなってくれ」

[どうもすみません、何かあれば即座に治療します]

「そうならない事が一番なんだけどな」

 

 モニターに向けてのパーティーは騒がしく、小声の会話ならすぐかき消されて彼らの元には届きません。

 私は、流石にこの明るい装いは目立つので、ミスターのジャケットをお借りして、上からコートのように被らせていただいています。

 ジョーシーはバスケットの中。なんとか鳴かないでほしいとお願いしたので、今はおやつのちゅーるを食べながら大人しくしています。

 

「あーこういう時に財団の助けでもありゃ楽なんだが」

「財団!? ねぇ今財団って言った?」

「ちょっ、シー! シー!」

 

 魚人達が集まる広場を抜け、スラムらしい路地の方に隠れていた時のことです。

 ミスターがふと漏らした愚痴に、第三者の声が混じりました。

 その声の主の姿にも驚きましたが、その前に結構な目立つ声量を立てたものですから、慌てて黙らせ、周囲を確認します。

 ……幸運にも、気づかれてはいないようですね。

 

「……頼むから小声で話してくれ。で、アンタは……“関係者”か?」

「おっと、すみません。財団という単語が聞こえたので、つい。あ、自分は怪しいものじゃありませんよ!」

 

 気さくに話しかけてくる相手に、ミスターはちらりとこちらに目線をよこしました。

 私は右手でオーケーのサインを作った後、話しかけてきた「彼」に軽く会釈します。

 それに、相手もその()()()()を丁寧に動かして挨拶を返してくれました。

 

[初めまして、SCP-CN-985“受験鮫”。あるいは“ダイウェイ”と呼んだ方が宜しいでしょうか]

「ワオ、まさかこんなところでSCP財団の人と出会えるなんて思ってなかったよ。しかも、俺を知ってるんだ」

「まぁ、俺もこの嬢ちゃんも『同族』だからな。アンタもそうなんだろ?」

「同族? あなた達も財団に助けられたんですか?」

 

 ん? とミスターが首を傾げます。

 さて、目の前の彼……コモリザメに似た姿のサメは、SCP-CN-985“受験鮫”。オブジェクトクラスはSafe。

 受験を頑張る喋るサメくんです。以上、説明終わり。

 

 補遺としては、彼は財団をフロント企業のサメ・クジラ保護財団と思っているので、私たちが同族だという定義には小首を傾げざるを得ないのでしょう。

 ミスターには後で説明しますか。

 私は一度ミスターに軽くハンドサインをして下がらせます。SCPの情報に関しては、私の方が強いことは確かです。

 路地の影に隠れてるとはいえ、人通りが無いわけでは無いので、彼には見張りを頼みました。

 私は、目の前のサメ……ダイウェイと会話を続けます。

 

[あなたが所属していたサメ・クジラ保護財団は、より良い保護活動のために、私のような子どもを支援したり、隣の彼の様に普通の職に就きづらい人を雇用したりしています。あなたが財団に助けられたというなら、それは我々も同じことです]

「へぇ、それは知らなかったです……。やっぱ、海だけじゃなく、他の場所でも福祉として活動してるんですね。あ、俺はいつか財団に入りたくて、勉強してるんです」

[ええ、あなたの事は存じ上げています。熱心な方だと。あなたは今の財団の状況を把握していますか?]

 

 彼はフロント企業の活動に感銘を受け、そして自らが彼らに助けられたことによって、将来サメ・クジラ保護財団の一員となるために勉強をしています。

 私やミスターの様に、アノマリーを収容し保護する財団とは違う一面で財団を見ているわけですね。

 私としても、彼に真実を伝える気はありませんから、話を合わせます。

 こういう時、自分の口の巧さは助けになりますね。騙しているようで、ちょっと悪いですけど。

 

 ダイウェイは、器用に首を横に振ります。

 どうやら気づいた時には収容室からここに居たそうで、ここでは勉強もできないし、財団ともコンタクトできないと困っていたそう。

 私はなるべく慎重に、彼の信じる財団ごと不可思議な現象で別世界に居ること、財団は規模を縮小しながらも活動を続けていること、私は助けを必要とする財団関係者を探して報告していることを説明します。

 私は財団から支援を受けた子どもという立場ですが、私もまた財団の行いに憧れと共感を持ち、支援に志願したという程です。

 

「そっか……もし財団が消えちゃってたらどうしようって思ってたけど、活動は続けてるなら、良かったです」

[当然、あなたがここに居たことも報告しますが……現在、財団は大きな支援を必要とするサメやクジラを優先的に収容しています]

「流石に、この状況で俺の勉強の手助けをして欲しいとは言えないですよ。もっと酷い怪我をした保護対象なんかを最優先で助けるべきですもんね。俺は、ラッキーなことに怪我はしてませんし」

 

 やはり理性ある相手との会話は話が早くて助かります。良心的なSafeと連続して出会えている事は素晴らしいですね……。

 状況説明は終わったので、私とミスター、そしてジョーシーの紹介を軽くします。ミスターは、地上に詳しいとは言えないダイウェイには然程違和感に映らなかったようです。

 財団の存在は、愛護企業とはいえ、広告や取材の暇も無い今はなるべく伏せて欲しいことも伝えます。

 フロント企業として説明するというのは、なかなか骨が折れますね。中身綿しか無いですけど。

 

「あー、ダ……イウェイはここで今まで何してたんだ?」

「一回、海上に上がって財団の人と会えないかと計画したんですけど、土地勘無いし、この辺りヤンキーが多いんで諦めました。それで、どうしようかと思ってたらなんか街が騒がしくなって、物騒な話もしてたんで隠れてたんです」

 

 ふむ、流石大学を目指すサメです。聡い行動をしていますね。

 下手に土地勘の無い場所で動かず、ヤンキー(この場合魚人達なんでしょうか、泳いでいる魚なんでしょうか)に話しかけず、不穏な気配がしたら隠れる。

 お陰で無傷の状態で私たちが見つけられました。

 よりにもよって魚人街ですからね、素直に道を聞いて教えてくれるとはあまり……。本サメにとっても不安だったでしょうし、合流できて良かった良かった。

 

「ダイウェイ、良ければ俺たちのこと手伝ってくれないか? 財団の……あー、仕事道具とか、俺らみたいな関係者がまだこの街にあるらしいんだ」

「俺で良ければ、財団の助けになることはなんでもしますよ! 流石に、研究とかそっちは、まだ難しいですが」

[ある種の探し物ですから、学歴なんかは必要ありません。私が一応、財団の探し物のデータを頭に入れているので、ほとんどは私の護衛やお手伝いです]

「カイロスさん、まだ小さいのにすごいっすね……! 俺も、小さい時からもっと頑張ってればなぁ……」

「まぁまぁ、カイロス嬢は外れ値っていうか、そういう奴だから気にするなよ」

 

 ミスターが励ますように彼の背を軽く叩きました。

 そもそもSCPのデータが頭に入っている時点で異常ですからね。財団は現在都合良く解釈してくれているのか、警戒はされていないように感じますが……。

 クラス3職員以上が知ってるデータとか、機密のあれやそれも知っていると分かれば、ヤバイでしょうねぇ……。

 終了か、記憶処理か、完全な収容か。

 あまり考えないようにしましょう。悪用はするつもりありませんから、勘弁してほしいです。

 

「お前の察しの通り、今ここの治安は最悪だ。流石のカイロス嬢もヤカラには敵わない。俺たち年上のボディーガードが必要なんだ」

「了解です。俺も喧嘩が得意ってわけじゃないですけど、まぁ、ガキん時はそこそこやんちゃもしてたんで」

 

 どうやら、コミュニケーションは無事成功の様です。

 私のボディーガードさんが増えました。心強いですね。何かあったら即治します。

 “受験鮫”は見つけましたが、まだ他にもSCPの気配がします。なんでってこう、魚人街に集まっているんですかね?

 時間はまだ余裕がありますから、気をつけつつ進んでいきましょう。

 

 ……まぁ、SCPの気配がするのは、魚人街()()では無いんですけど。

 

「お前受験してんだろ? もしかして英語圏外出身?」

「えっ、そうっすけど、なんでわかったんすか」

「や、お前の英語の使い方ちょい拙いから……もし機会があったら勉強見てやるよ」

「うわハズ……もし良ければおなしゃす!」

 

 ……よく考えると、私たちの言語ってどうなっているんでしょう?








◇外れ値のアノマリー
受験を頑張るサメを発見。理性的だし物分かり良いし優しいしで大当たり。
でもまだまだ続くよSCP探し。
ワンピ世界の言語って謎だけど、SCP間の言語も割と謎。
自分が話している言語と違う言語で相手に聴こえている可能性もある。


因みに受験シーズンにダイウェイくん出すことになったのは偶然です。
でも、受験生は応援してます。がんばえ。
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