パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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報告3:海兵

 

 村に滞在して、数日が経ちました。

 

 私はこの世界のことを何も知らないようですから、村で知恵のある人に教えてもらったり、常識のズレを把握するのに時間がかかってしまったのです。

 この世界には海賊と海軍が戦っていたり、世界政府や奴隷制度など、現代日本ではあり得ない世界状況となっているようです。

 財団の存在はやはり誰も知りませんでしたが、そもそも公になっていない組織ですから、フロント企業やダミープロトコルで隠されている可能性もあります。

 まだ、存在しないと確定するには早計でしょう。

 

 滞在の間、私は仕立て屋さんで細々と働いています。食住を借りているわけですから、少しは働かないと申し訳なかったのです。

 手縫いですが、簡単な小物作りや編み物を担当することになりました。

 大きな縫い物は、足踏みミシンに足が届かなかったのです。無念でした。私の身体は幼い少女のものですから、身長のハンデはどうしても降りかかるものです。

 人を助けるため、人体パーツを作るときは素早く的確に、それこそミシンより早く縫うことができる私ですが、ただの縫い物だとそうはいかないようです。

 やはり、あの速度と器用さは、怪我人が近くにいることでの活性化によって発動する力だと思われます。

 ですから、スピードこそ落ちますが、丁寧にひと針ひと針、縫っていくことになります。

 村の人は良い人ばかりなので、居心地も良いですし、楽しい日々です。

 

 キッノさんはあれからより己を鍛えているようです。

 村でただ一人の能力者で、戦闘経験も多いとなると、相応のプレッシャーがのしかかるのでしょう。身体から槍を出すという攻撃的な能力ですから、余計に戦う者として意識が高くなっていると思われます。

 訓練用の空き地で朝から晩まで鍛えているのをみると、宴会での決意を行動にしっかり移していることに好感が持てます。

 肉体の損傷も、せいぜいが筋肉痛や軽い打撲ですから、私が出ることはありません。

 

 村の人たちは、あの狼事件によってたくさんの人の体の一部がパッチワークになりました。

 見た目としては可愛らしいものです。正常に臓器や皮膚として機能しているので、健康面に問題はありません。

 身体が少しファンシーになったくらいです。

 村人たちも、私のこの力を不思議に思ったようですが、どこかの研究組織に連絡したり、深入りはしないようです。善性の高い方々で、本当に良かった。

 能力者ではないことは、子どもたちと浜辺で水遊びをした時にわかっていますから、私だけが持つ特別な力だと認識したようです。

 

 午前中は仕立て屋で働き、午後は診療所に顔を出したり、村の子どもたちと遊びます。仕立て屋の奥さんの家に泊まらせてもらって、なかなか穏やかな生活と言えるでしょう。

 

 仕立て屋の奥さんは、私に大きなバスケットをくれました。たっぷり容量があるそれには、沢山の布や刺繍糸、綿が入っています。どれも新品で、色も柄も様々です。

 私がエプロンドレスを素材に使わないように、補修用の素材をまとめてくれたそうで。

 バスケットの持ち手に結ばれたスカーフには、「KAIROS」の刺繍がしてありました。

 なんて素晴らしいプレゼントなんでしょう!

 私はそれを貰った時、思わずステップを踏むほど喜んで、村の音楽家がそれに合わせて曲を弾くところでした。

 

 バスケットは私が両手で持たないとバランスが取りにくいほど大きいものでしたが、それだけ素材が入るなら、この程度の重さは軽いものです。

 それから、私はいつもこのバスケットと行動を共にすることになります。

 ご飯の時も、眠る時も、すぐ近くの床に置いてあります。

 

 そして今日も、バスケットと共に村の子どもたちとかくれんぼを遊ぶ予定でした。

 

「難破船だ!」

「しかも海軍のだ! 誰か、担架を持ってきてくれ!」

 

 そんな叫びが、村中に響きました。

 ここは、海に囲まれた島ですから、海から流れ着いた漂着物はよく目にします。

 しかし今回は、規模も内容も、大きく違うようでした。人が、沢山流れてきたのです。

 

 大人たちの向かう浜辺に急げば、大きな軍艦が、マストや船首をボロボロにしながら砂浜に転がっていました。

 酷い嵐にでも、巻き込まれたのでしょうか?

 周囲には沢山の制服を着た人たちが倒れていて、中には血を流している人もいます。

 出番、と言うと、なんだか不謹慎な気もしました。

 

「こりゃ立派な軍艦だ。海賊か、海王類か……グランドラインの気候にやられたか」

「軽傷者はこっちで対応する! カイロスの嬢ちゃんは……」

「もう、来てるみたいだな」

 

 倒れた人たちの中でも、外傷は無いものの水を飲んでしまっている人や、置換するまでもない軽度の傷の人たちは、診療所に運ばれていきます。

 理解の早い方達で助かります。私は、順番に作業に取り掛かることになりました。

 海に揉まれたせいか、木材の破片がお腹に刺さっていたり、皮膚が抉れるほどの擦過傷を受けている人もいます。

 私のトリアージは、あくまでも年齢順。これは抗えない習性なので、苦しむ他の人には耐えてもらう必要がありますが、若い人から、補修を開始します。

 

 今回は心強いバスケットがありますから、ポケットからハサミや針を生成し、どんどんパーツを作っていきます。

 胃、骨、脂肪、皮膚……。パッチワークに編み物、フェルトやぬいぐるみ……。

 やはり怪我人が近くにいると、縫う速さも段違いです。30分もすれば、既に15人の補修が完了しました。

 誰かと戦っていたのか、銃創や刃物による切り傷もあります。構わず、治していきます。

 

 村人達は、船に残っている遭難者を救助したりしているようです。その中にはキッノさんの姿もあり、自然と針を持つ手に力が入りました。

 補修が終わった人たちも、疲労由来か大きく補修を行ったからか意識が回復しないので、まとめて診療所へ運ばれていきます。

 前回の狼事件で行動が見直されたのでしょうか、救助する村人たちの手際は見事なものです。

 村を挙げての救助活動は、日も落ち掛ける時間になってようやく終わりました。

 

 *

 

「私は海軍中将のモモンガという。今回の救助及び治療、誠に感謝する」

 

 診療所内は海兵さんでギュウギュウです。

 意識が戻ってない人が優先的にベッドに寝かされていますが、もう数十分で全員目覚めるでしょう。

 モモンガさんは一番怪我が酷くて、内臓や筋肉、骨もボロボロの満身創痍でした。今も、置換できない擦過傷や打撲で全快とは言い難いです。

 そんな中、頭を下げられても、こちらとしては当然のことをしたまでですから、萎縮してしまいます。

 血に染まった真っ白のはずだった制服も、痛々しさを増す要因でしょう。

 

 私は、全員の補修が終わった後しばらく休憩していたので、モモンガさんが起きた時はその場にいませんでした。

 私の体躯では屈強な海兵さんたちを運べませんし、残りの治療は診療所の看護師さん達に任せた方が余程安心できます。

 ですから、私は救援劇の次の日の昼に、診療所に来ていました。

 

「深傷を負って、部下を失う覚悟もしていたが……まさか、全員生還するとは。これも、貴方がたの尽力のお陰だ」

「いえいえ、海兵さんが無事なら、それで十分ですよ。それに、特に頑張ったのはこの娘ですから」

 

 お医者さんが、ぽんと私の肩に優しく手を置きました。

 モモンガさんは不思議そうな顔をしています。もしかしたら、私が何をしたか、お医者さん達から聞いていないのかもしれませんね。

 

「負傷者の中には、傷があった部分に何やら布が貼ってあった者も居たが……」

「そうですねぇ、カイロスちゃん、自分で話すかい?」

 

 お医者さんのその言葉に頷いて、私は紙とペンを取り出しました。私が喋れないことを察したのでしょう、モモンガさんの纏う空気が少し寂しさを帯びました。

 書きやすい万年筆で、私の特性を簡単に説明しました。もちろん、置換した内臓や皮膚はきちんと機能し、拒絶反応なんかは起こらないことも。

 モモンガさんはそれを読んで、すぐ自分の腹を確認しますが、そこにはパッチワークで塞がれた腹の穴があります。

 

「確かに、感触も触れた温度もわかる……本物の皮膚と何の変わりもない」

「不思議なことですが、人体に何の害も無いと断言できるでしょう。この村には、心臓を取り替えた者もおりますから」

「そういう、悪魔の実……なのだろうか?」

「いいえ、本人は海で楽しく水遊びができる子ですよ」

 

 モモンガさんはなにやら神妙な顔をして、眉間に皺を寄せていましたが……私の視線を感じたのか、表情を柔らかく戻して、こちらに向き直します。

 

「ありがとう。君の力で、我々は救われた。不思議な力だが、君はそれを正しく使える娘なのだな」

「──!」

 

 私はにっこり笑って、お辞儀をしました。

 子どもであろうと、しっかりとお礼をするモモンガさんはとても良い人柄をしているのでしょう。この力を気味悪がることなく、受け入れてくれたのも、ありがたいことです。

 私は私の習性に逆らえませんが、この力が人によっては酷く不気味に見えることも、また理解していますから。

 

「それにしても、中将ほどのお方があんな傷を負うなんて……何があったんです?」

「ああ……元白ひげ海賊団傘下の海賊何船かと、戦闘になってしまい。その中に、嵐が来て……。なんとか脱出しようとしたが、結果はご覧の通りで」

「それはそれは……大変でしたね」

「いえ、これも仕事なので……ああ、子どもに聞かせる話では無かったですな……」

 

 成る程、戦いの最中に大嵐に巻き込まれて難破してしまったようです。

 グランドラインの気候は、常識はずれの険しさや理不尽さだと聞きました。並の航海士では十分と経たずに沈むそうです。

 そんな海で、戦いながらとなると、海兵さんの仕事はとても危険度が高いものなのでしょう。あの傷も納得です。

 

「これから、どうするんです?」

「直ぐに本部に救難信号を送る。数日から数週間で軍艦が迎えに来るでしょうから、それまでは待機ですな」

「それでは、救援が来るまで、ゆっくり疲れを癒してください。まだ目覚めていない者もおりますし……何かあれば、自分か看護師に」

「重ね重ね感謝する」

 

 お話も終わったようなので、私も笑顔で一礼して、診療所を出ました。

 今日は仕立て屋さんはお休みなので、一日フリーです。

 村の学者さんにこの世界のことを聞くのも良いですし、子ども達と遊んでも良いでしょう。

 前世は何歳だったのか、覚えてはいませんが……今の幼い身体も、なんだかんだで楽しんでいます。かくれんぼも鬼ごっこも、無邪気に楽しめるのです。

 

 チャンバラごっこは、遠慮してしまうのですが。







◇パッチワークの娘
おそらくSCPの特性で血液や内臓のグロい傷が平気。
痛々しさを感じたりはするが、エグさに顔を顰めたり吐いたりしない。補修対象なので、しっかり見れる。
補修用バスケットを入手。蓋付きのデカいやつ。
善性の塊だが、悪意に鈍感なわけではない。

次回モモンガ視点。

他SCPの擬人化について。※擬人化した場合仲間になります。

  • 主人公だけでいい。
  • 他のSCPも一部擬人化する。
  • 危険度の高いやつを擬人化する。
  • 危険度の低いやつを擬人化する。
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