「ホーディ・ジョーンズの計画の阻止?」
SCPを探しながら、ダイウェイさんに今の私たちの第二の目的も伝えます。
モニターの放送を隠れて観ていなかったらしく、どういったものなのか、何者なのかも知らない様子です。
私はざっくりと、魚人と人間の間に溝があること、それをより決定的にしようとしているホーディさんの野望を伝えます。
「はぇ〜、この世界もなんか大変なんですね」
[魚人と人間の戦争になれば、主戦場は海になります。そこに生きる海洋生物もただでは済まないでしょう]
「これもまた保護活動の一環ってことっすね。なかなかデカい仕事だなぁ……」
「メインのホーディと戦うのは別の奴がいる。俺たちはそれのサポートをしようって事さ」
その為にも散らばったSCPを回収せねば。もしホーディ一味の手に渡ったら危険なものも相当数あります。ホーディ本人が死ぬ可能性のあるものも相当数ありますが。
とはいえ、死者はなるべく出したくないものですし。
魚人街は暗く、魚人島の大半が受けている光の恩恵が無いようです。
懐中電灯でも欲しいところなんですが……暗所の光は目立つので、なんとか目視で確認するしかありません。
そろそろジョーシーが飽きてきそうなので、見つかって欲しいのですが……。
「よぉ、いいモン持ってんじゃねぇか!」
「っぉ、おう、兄弟! いや、俺は新入りだからな、もう少し挨拶は畏まった方がいいか?」
「へっへ、ホーディさんの下につく俺たちは皆平等さ。なぁ?」
少し広い通りを抜けようとした時です。
ミスターが魚人の男に話しかけられました。どうやら、ミスターを魚人だと思ってるみたいです。
私とダイウェイさんはスッと黙り込みます。
「で? そいつ、人間の子どもだろ? なんでこんなとこに連れてきてんだよ」
「あ……あぁ! コレはな、ホーディさんに差し入れようと思って連れてきた奴隷なんだ。ただこんなチビのメスは今からの戦いには役立たずだろ? だから、終わった後に渡そうと思ってな」
「へぇ、ホーディさんのために連れてきたのか、にしては、身なりが良くねぇか? 人間はもっとボロボロのゴミクズみたいに扱ってこそだろ」
ダイウェイさんが彼らの会話に思わず口を開きそうだったので、陰で阻止します。あなたが喋ると更に事がややこしくなりますよ。
私は、俯いてさも従順そうに控えておきます。目も伏しがちにした方が良いでしょう。
「わかってねーなぁ、お前は誰も踏んでない砂浜に最初に足跡をつける楽しさとか知らねーの?」
「知らねーよ。どうせすぐ波にさらわれて足跡なんて消えてなくなるだろ」
「醍醐味ってもんがあんだよ。良く考えろ? 誰も口をつけてない酒はより美味いだろ、誰も近付いたことのない美女と恋人になるのは最高だろ。そういう、お綺麗なものを一番最初に掴む贅沢ってのがさぁ、わかんねぇかな」
ミスターは腕を組み、やれやれと素人を見るような目で相手にため息を吐きました。
酒の例えか、美女の例えに合点がいったらしい男は、なるほどなぁと感心するような目で私の方をチラリと見ます。
「ホーディさんが一番に開けるべきラッピングって訳だ」
「まぁ、俺もホーディの兄貴の好みとかわからんからよ、獲れるやつん中で一番小綺麗な奴をかっぱらってきたわけだ。あ、他のやつには秘密にしろよ、いくらホーディの兄貴のモンになる予定とはいえ、味見されちゃたまんねぇ」
「ハハハ、んなアホな事する奴はいるとは……いや、あり得る話か」
「だろ? だからコソコソしてんだよ。あんまここにいっと目立つから、俺はもう行くぜ」
会話もそこそこに、私たちは黙って路地の方へ移ります。
ある種密閉空間の魚人街は声が響きますから、なるべく足早に離れました。
もう聞こえないだろう、というところまで離れてから、ミスターは大きく息を吸って吐きます。だいぶ心労になった様です。
「あっぶねー……」
「ちょちょちょ、奴隷とか、ゴミクズとか、なんなんすか突然!? あの人は誰なんすか!?」
「落ち着けダイウェイ。全部演技だ、演技」
[ファインプレーです、ミスター。私の外見を巧みに利用した話術でした]
「カイロスちゃんはなんで平気そうなんですか!?」
ダイウェイさんはかなり我慢していたようで、少し息を切らしながら(それでもなるべく目立たないように)叫びました。
ダイウェイさんには、魚人と人間に溝がある話はしていましたが、奴隷云々のレベルまで倫理観が下がっているとは思われてなかったようですね。私の説明不足……というより、この世界の治安が悪いですねー。
あのままダイウェイさんが疑問を口にしていたら、逃亡しか道が無かったでしょうし、危ない綱渡りでした。
「いいか? この世界の治安はマジ最悪だ。奴隷なんて当たり前にいる。差別相手は殺すのが普通のレベルだ。俺は魚の特徴を持ってるから誤魔化せるが、カイロス嬢は誤魔化せねぇ。だから俺たちが必要なんだ」
「えっえっ、ど、奴隷なんて何百年も前の制度っすよ?? 基本的人権は? 人身売買禁止法はどこに??」
「そんなもの、この世界にゃ無ぇよ。特に今の魚人島にはな。まさにこれから魚人が人間を奴隷にする為に攻め入るかが決まる」
「はぇ……しゃ、社会制度の敗北……??」
ダイウェイさんが背後に宇宙を背負ってしまいました。スペースシャーク……。
ダイウェイさんはSCPの中でもかなりまとも寄りで、地元も都会で秩序ある生活をしていたらしいので、どこか中世や文明開花以前の倫理観を持つ彼らの思想は理解し難いですよね。
勿論、奴隷なんて間違っていると主張する魚人や人間も多いのですが……政治的ピラミッドの頂点を考えると、撤廃し難い制度です。
上流階級が楽しむものは、規制を免れやすいですからね。
[ホーディ一味の野望が叶ってしまったら、無辜の民だけでなく財団の人間も襲われるでしょう。今はなるべく潜伏し、隙を見て協力者である麦わらの一味という海賊をサポートします]
「海賊って……大丈夫なんです?」
「んー、まぁ喋ってみて悪い奴らとは感じなかったぜ。カイロス嬢もあいつらに親切にしてもらったみたいだし」
[彼らは普通の海賊とは違う……そう思うのです]
私としては、海賊だからと一方的に不審視するのは良くないと思いますし……彼らはジョーシーにも優しくしてくれました。
人の性質とは、ジョーシーの様なネコや小動物などの、「自分よりもか弱く小さいもの」への対応で多少透けて見ることができます。
慈しむのか、痛めつけるのか。
一方的なのか、思い遣っているのか。
シリアルキラーは小さな生物を殺すことから生まれるなんて噂も聴きます。自分より明らかに弱い相手に対して、どう出るか。それは一つの脅威度の指針となります。
SCPにも、大きな力を持っていて職員に攻撃的な存在や、それでも大人しく収容されたりしている存在がいますよね。
ただ力を持つだけでは、Keterになり得ないのです。
故に、私やジョーシーを無断乗船だというのに歓迎してくれて、友達と形容してくれたあの人たちなら、きっと大丈夫。
ぬいぐるみの勘です。
「別に、全員が全員奴隷制度を良く思ってるわけでもないんだ。それに、財団だって今までの活躍を見てきたならただではやられないって知ってるだろ?」
「まぁ……確かに、密輸業者やハンターと戦う為に、こういうドンパチやる場面にも慣れとかないと……なのかな」
「無理はするなよ。俺もお前も命第一だ」
「うす、がんばるっす」
何事も命あっての物種。
治せる傷は治せますが、まず傷を負わないことが大切ですね。
魚人街は危険度が高いので、はやく残ったSCPを探し出して戻りたいです。ミスターの誤魔化しもいつバレるかわかりませんし。
昼なのに夜のように暗い路を行けば、なんだかモニターの方の広場が騒がしくなっているのが聞こえます。
まだ処刑時間に余裕はありますが……既に騒動が起き始めているのでしょうか。急がないと。
「ん?」
ミスターが、何かを脚に引っかけました。
岩や珊瑚の地面はゴツゴツと不安定ですが、そういったものではなさそうです。
ですが、明らかにここにあるには不自然なものでした。
黒い光沢、ネジが目立つ弾倉、細身のトリガー。
明らかにこの世界の拳銃とは違う、地球現代のハンドガンが落ちていました。
明らかに文明レベルを数段飛ばした、ショートリコイルの実銃です。
「うわ、明らかに不自然なブツじゃねぇか」
「デザイン的に、ベレッタM9っぽいですね」
「詳しいなお前」
「中学時代に調べてた時期があって……。物騒な時代なんですし、ハンドガンくらいは珍しくないんじゃ?」
「この世界の銃はまだ木製パーツが主軸の鉛玉だよ。……うわ、ちゃんと弾も装填されてやがる」
銃社会のアメリカ出身だからでしょうか、おぼつかないながらも、ミスターは銃の扱いを理解しているようです。
弾倉やセーフティを確認し、それが確実に本物のベレッタM9で、実弾が装填されていることを見つけました。この時代には明確にオーパーツですね。
「持ち主がいなくてこれだけってのも怪しいな……嬢はなんか心当たりあるか?」
[実際に撃ってみないと確実性はありませんが、おそらく“昼飯銃”ではないでしょうか]
SCP-3118“昼飯銃”。オブジェクトクラスはSafe。
相手の頭を撃つと、弾丸は対象をすり抜け、血などの代わりに対象が人生のどこかで食べたお昼ご飯が出てきます。容器やカトラリーごと。
実験ではいじめによって虫を食べさせられた時の虫が出てきたりしていたので、おそらく本人が「昼飯」と認識していなくても、規定の時間に食べていれば昼飯と認識されるのかもしれません。
因みにこれを撃たれての生存率は66%です。頭以外の部位には普通の銃として機能します。
「66%って、また微妙な」
「まぁ、昼飯が出ても相手を驚かせて自衛……には使えるんですかね?」
「微妙なところだな。というか、こんな所にあるのに弾が湿気ったりしてないぞ。いつでも撃てる」
「怖っ、絶対セーフティ下ろさないでください」
うーん、これでもしSCPじゃなかったらどうしましょうね。でも、湿気ってないとか、変な位置に持ち主も無く放置とか、そのあたりにそこはかとないSCPみを感じる。
ただ、これを計画阻止に使うのは私はちょっと、抵抗があります。
なんせ34%で死ぬんですもの。
実験記録的には、何発か撃ち込むことで対象の「一番最初の昼飯」に辿り着いたら死ぬのでは……と考えているのですが、財団の報告書にはそういった記述はありませんでした。
なので、一発目から死ぬ可能性もあるんですよね。もしかしたら。
銃は撃ちたくないですし、そもそも私は危害を加えられないので、計画には使えません。
私が持っていると色々危なそうなので、ミスターに持っていてもらうことにしました。
私は銃の使い方は知りませんし、万が一ジョーシーが弄ったら大変です。
ミスターは、SCP-3118を背中側のズボンに挟んで、私が返却したジャケットを上から着て隠しました。
なんだかそれっぽい隠し方ですね。
「けったいな物拾っちまったなぁ」
「暗いから足に引っかけでもしないと見つからなかった気がします」
「変なところで運使っちまった気がする」
ふむ……これで魚人街で見つけたSCPは二つ。
流石に三つは無いんじゃないかと思いますが……なんとも言えない感覚です。あるような無いような。
広場も騒がしさが強まっていますし、一度撤退すべきでしょうか。ですが、ダイウェイさんに協力してもらうのはともかく、昼飯銃は使い道が……。
「オイ、なんだテメェら」
「おっと」
路地の、私たちが来た方とは別の道から、いかにもゴロツキらしい風貌の魚人が複数人歩いてきました。
明らかにこちらを警戒しています。
「見ない顔だな。魚人に、サメに、人間のガキ。妙な面子だ。怪しいな」
「あーいや、ほら、このガキはホーディの兄貴に捧げる奴隷で……」
「ニャオ」
「──!?」
「なんか鳴き声が聞こえたぞ。そのガキが持ってるバスケットの中か? おい、見せろ」
不味いです不味いです。
なんで鳴いちゃったんですかジョーシー! しかもこのタイミングで!!
流石にジョーシーは奴隷だのなんだので誤魔化せません。というか、相手はもう不審者確定、みたいな視線を向けてきています。
後ろの何人かは槍を構えてますし……。
「あー、うん、なんだ。これはホーディの兄貴が一番に見ないといけないプレゼントで」
「の割には、小綺麗が過ぎるし、自由にしているように見えるが」
「違くて、その、足跡の無い砂浜っていうか、ほら、あー……」
「チッ。野郎ども、アイツらを捕まえろ!!」
「だーっ! 逃げるぞお前ら!!」
突然浮遊感を感じると、すぐに揺れと共に景色が過ぎ去っていきます。
どうやらミスターに抱えられて、走って逃げている状況のようですね。いわゆるお米様抱っこってやつです。
ダイウェイさんも、ミスターの叫びに合わせてすぐに尾びれを向けて進みます。
かなりのピンチ! ジョーシーはいまだにバスケットの中にいますが、揺れに不満そうな鳴き声をあげています。
元々はあなたが鳴いたからですよ……。
「カイロス嬢、軽っ! ちゃんとメシ食ってるか!?」
「今はそんな事言ってる場合じゃないですって! やばいですよ!」
「なんかお前ビームとか出せないの! レーザー光線!」
「出せるわけないじゃないですかぁ!」
え、でもダイウェイさんちょっとした念力使えますよね? それでパソコン操作できますよね?
ですが彼らに他者を傷つけさせるわけにはいきません。SCP-3118も使うには不安があります。
なので……
「うわっ!? なんだこれ!?」
「爆弾!?」
「爆弾だ! 止まれ!」
「止まれ止まれーッ!!」
ポイっと、バスケットからあるものを取り出して、投げました。
灰色の塊に、導火線、そして炎が付いています。見た目は、まぁステレオタイプな爆弾の形です。
「えっ爆弾!?」
「そんなもの持ってたのかアンタ」
[いえ、あちら編みぐるみです]
「はぁ!?」
爆発しませんし、そもそも火もついてません。
それっぽく見える、ただの編みぐるみです。
灰色の毛糸を使った球体と、オレンジの紐。その先に炎のようにキラキラするモールを付けた、爆弾っぽい編みぐるみです。
それっぽい重量感を出す為に、底面にちょっとだけ鉄板が入ってます。
ダミーとして危険な時に囮に使えたら良いなと作っておきました。魚人街に行く前に。
毛糸はSCP-6994の治療に使わなかったので、在庫があったんですよね。
焦ってる時は結構判断力鈍りますから、効果があって良かったです〜。
「アレに騙されるアイツらもどうなんだ……?」
「いやでもチャンスですよ! このまま魚人街を抜けましょう!!」
ミスターの健脚により、魚人街の出口はすぐそこです。
魚人島の市街地に戻れば、彼らはまだ追って来れないでしょう。
ニセの爆弾に対する罵声を聞きながら、私たちは無事、魚人街を脱出しました。
「ハァ……ハァ……」
「な、なんとか……逃げ切れましたね……」
「このネコ! 鳴くなっつったよな!?」
ミスターが、ジョーシーを叱る為に荒々しくバスケットを開けました。
そこには揺れで毛並みがボサボサになったジョーシーと、
「……なんだこれ」
あるものが、布にくるまって入っていました。
私たちがそれを確認した時、広場の方で、住民たちの悲鳴と歓声が響いたのです。
◇変なところで肝が据わってる娘
本人がかなり耐久値高いので、危険な時でも割と冷静。
ミスターやダイウェイが間に合わず捕まりそうになったら盾になる予定だった。
自衛の抵抗は人間への意図的な害になるのか考え中。でも本人が暴れたりしたくないので他者が考える抵抗よりずっと弱いし穏やかな抵抗になる。
カイロス本人はデコピンとかつねるとかそのレベルの行動も自分ではしません。