しばらく不定期になると思います。一ヶ月以上は期間を空けないようにしたいです。
騒ぎの元に急いで駆けつけると、広場は既に戦場になっていました。
ホーディ一味の勢力の中には、勿論魚人が多いですが、ボロボロになった人間も沢山います。鎖に繋がれ、無理やり戦わされているようです。
何万人と収容できそうなほどの広場が、埋まりそうなほどの人数。規模。
ルフィさんたちは怯んでいないようですが、私の目には、あまりにも多くの赤が吸い込まれていきます。
こんなにも多くの、こんなにも沢山の人が、傷ついて、痛みを負って……。
バチバチと、背中から頭が弾けるような「他者の苦痛」が、私の異常性を刺激します。
治したい。治さなきゃ。治せたら。
無意識に、瞳孔が開きます。
「ちょちょちょ、待て待て待て!!」
「行っちゃダメですよ! 危ないっす!!」
ふ、と正気に戻ると、私はミスターに抱えられていました。
広場を見下ろす足場の、ギリギリに立っていたところを連れ戻されたようです。
「フラフラ広場に飛び降りようとするからビビったぞ……」
「流石にあの乱闘に飛び込むのは無茶っすよ!!」
[す、すいません……少し我を忘れていたようです]
あまりに一度に負傷者を確認したので、性質がオーバーフローを起こしたのでしょうか。
今も、あの広場の中に行かなければと焦燥感が綿を焦がすようです。
ですが、私たちの仕事は戦場の真ん中ではありませんね。あんな戦いの中に放り込まれても、あっという間にバラバラになって終わりそうです。
「嬢にとっちゃ、あの光景は居ても立っても居られないだろうが、我慢してくれ」
「今は例の海賊の人たちが頑張るのを応援しましょう!」
[ミスター、このまま私を抑えておいてください。また衝動のまま飛び出すかもしれません]
「了解」
シャボンディ諸島では、ジョーシーに気を取られていましたが、それでも今の戦いほどの規模ではありませんでした。まさか、負傷者を沢山発見すると暴走状態のようなものになるとは……。
ミスターに止められていなかったら、あのまま広場に飛び降りて、全ての人を治療するまで止まらなかったかもしれせん。それによって、スカートどころか脚や体内の綿や布も使い切ってしまっても。
ここまでの戦争は見たこともなかったので、新しい発見……でしょうか。財団には報告した方がよさそうですね……。
ミスターに抱き上げてもらって、行動を制御してもらいます。視界が上がって広場の中も見やすくなって一石二鳥です。
私の抵抗程度なら、ミスターも怪我せず抑え込めるでしょう。
「にしてもすげーな、麦わらの連中。正に一騎当千って感じ」
「まだまだ余裕って感じですね〜」
「──! ──!」
「嬢〜、我慢しろ〜」
ぐぬぅ、治したい……治したいですぅ……。
私なら、後遺症も無く癒せますよぅ。痛みも無いですし、すぐに終わりますよぅ。
たっぷりの布と、たっぷりの糸と、たっぷりの綿をください……。見てられません……。
「でも、結局良い案は浮かんでませんよね。サポートするにしても」
「俺たちは他人を害せないし、今はカイロス嬢がこの状態だからなぁ……。できて、戦闘後の治療くらいだぞ、これじゃ」
「66%に賭けます?」
「いやぁ、怖いだろ」
広場での戦闘が予定より早めに始まってしまったのもあって、私たちの中での作戦会議が不足しています。妨害にしろ、致死の可能性があるものはなかなか使いたくなく……未だどうサポートするか定まってません。
戦闘後の治療や後始末も大切ではありますが、戦いを黙って見ているだけというのは、私には辛いです。
「にしても、シャボンって便利ですね。こんな風に水のない空中を泳げるなんて、考えたことも無かったです」
現在、ダイウェイさんはシャボンによって空中を泳ぐスタイルです。
魚人島ではシャボンは生活必需品レベルなので、簡単に入手することができます。耐久性もなかなかで、浮き輪だけど浮き輪の材質じゃないんですよね。
空中での機動性も高くなるので、慣れたら空も自由自在なんでしょうね。
人魚の方なんかは、特にシャボンを使っている印象ですが、流石にシャボンで空を飛んでの爆撃なんかはしないようです。
急降下なんかはしていますが、空中に止まって遠距離でチクチクするのは、難しいのでしょうか?
魚人や人魚は、元になった魚類の特徴を引き継いでいます。そこから人間には行えない特殊行動を取ったりするので、戦う人はなかなか大変でしょう。
毒持ちなんかもいるみたいですし。
今のところ、主に白兵戦で、魚人特有の戦略が光っています。ルフィさんたちは悪魔の実の力や自力で対応している様子。
科学レベルや武器の技術に偏りがあるのは、こういった個々人のできることに偏りがあるからでしょうか?
合体ロボはいるのに……。
戦闘中だというのに、フランキーさんのロボに目を輝かせるルフィさん達。少年の心を持っていますね。
私もかっこいいとは思いますが、戦闘中にそんなによそ見して大丈夫なんでしょうか……あと、ナミさんとロビンさんはとても無反応なんですが……。
「というか……ホーディのやつ、見た目違くねぇか?」
[映像の時は黒髪でしたね。なんだか体格も良くなっている気がします]
あの放送で観た姿と、今のホーディさんの姿は、かなり乖離していました。
体毛は白さを、筋肉は肥大を増し、その瞳は狂気的なものに染まっています。ゲームのキャラクターが進化したみたいに、なにか、異例のパワーアップを遂げたように見えます。
遠く、広場の奥で、ホーディさんが何かを口に入れ、噛み砕いたのが見えました。
「なにか……薬? みてぇなの飲んでないか?」
「ドーピングで、あんな風になったんですかね? 正直、敵役が食ってる錠剤なんてヤベェもんの香りしかしませんよ」
「嬢は何か心当たり無いか?」
うーん……流石に距離が遠すぎてよく見えません。
錠剤タイプとなると、あの血清では無さそうですが、加工されていたらわかりませんね。ですが、何かしら身体機能に影響を及ぼすとなると、良いものとは思えません。
そもそも薬物の過剰摂取は推奨されないものです。あんなおやつ感覚でぼりぼり食べてたら、本人の身体に負担がかかりそうですが。
「……ん? なんか、上に影が」
「な、なんか、落ちてきてますよね? デッカい、塊が」
「巨大な……船?」
広場全体、どころか魚人島を覆うほどの影が、落ちてきました。
上空を見れば、シャボンの外、水中に巨大な船が見えます。魚人島を形成する泡を構わず、めり込んで近づいてくる圧はとんでもなく、市民どころか戦場の戦士たちもパニックに叫んでいます。
あれが魚人島に落ちたら、泳げる魚人たちも、泳げない人間たちも、みんなまとめてプチッと潰れてしまいますね。ホーディ一味も焦っているあたり、計画の一部ではないようですが、仲間割れでしょうか。
『この魚人島と共に! しらほしの死に供えられる生贄となれェ!!』
響く男の声。聞き覚えはありませんが、あの男が船を落とした本人なのでしょう。
狙いはお姫様らしく、船は
姫様が、その身をもって標的として、広場から……魚人島から離れていきます。
彼女の肩に刺さったナイフの血を見て、また私はミスターの腕の中で力を入れました。
船は……ノアは、彼女を追っていきます。
いくら彼女の身体が巨大でも、それよりも遥かに大きい質量を持つノアがぶつかれば、命は無いでしょう。
姫様が、泣きながらも、ノアを島から離していくのを、私は見ていることしかできません。
更には、少しでも姫様に当たるのが遅くなるようにと、魚人の皆さんが必死にノアの鎖を押していたというのに、ホーディはその人たちに攻撃を浴びせました。
また、また私の前で傷が増えていきます。
「……」
私が腕を振っても、足をばたつかせても、ミスターは私を腕の中でしっかりと押さえています。
しかし、彼も、この光景に愉快な感情は持っていません。私のすぐ近くにある拳が、強く握りなおされました。
「!? なんだ、姫様の周りになにか──!」
「白い……海獣か? いや、獣じゃない、あの脚は──」
「オオグソクムシ……それも、特大の!」
「まさか、姫様を襲いに!?!?」
市民たちの悲鳴が、耳に刺さります。
姫様の周囲に、突然三体のオオグソクムシが現れたのです。その巨体は姫様を超え、そしてどこか気の抜ける布が甲殻の一部を構成しています。
私が治した、彼らでした。
「なんだ、あの虫たち……」
「姫様を……護ってる?」
現れた数秒こそ、その異様さに人々の恐怖を煽ったようですが、ノアから放たれたナイフを……姫様を狙ったそれを、彼らはその脚でもって弾き返しました。
三体のオオグソクムシは、姫様の警護のように、ノアと周囲を警戒しています。
その姿は、白いパーツもあり宮廷騎士の様な頼もしさを、光と共に反射していました。
「あれは、嬢が治したオオグソクムシたちか」
「な、なんでお姫様を護ってるんですかね? カイロスちゃんが指示したわけでもないでしょう?」
[……彼らの知能は高度なものです。
もし彼らがこれまでの戦いの光景を陰から見ていたとしたら、ノアと姫様の関係、ルフィさんの敵や仲間の関係性は理解できたでしょう。
そして、今自分たちがやれることは地上の戦場に降り立つのではなく、海中戦……姫様の守護だと思考した。
ノアから投げられる凶器は彼らによって弾かれ、合流した王子たちも、疑問に思いつつも彼らを味方と判断してしらほし姫様を護ります。
ノアから上がってきたホーディさんが、王子たちを狙うも、オオグソクムシたちの硬質な身体によって防がれました。
「なんだ……? その、バカみたいなツギハギの殻は」
鋭く尖った脚は、その先が布製であろうと本来の硬度と同様です。振り下ろされた脚は、金属を纏ったホーディさんの背びれにすらヒビを入れました。
しらほし姫様の護衛は王子たちにある程度任せ、彼らはホーディさんへの攻勢に周ったようです。
脚、牙、殻によって、攻撃と防御を的確にこなしていきます。
人とほぼ同等の高度な思考回路と、深海で生き抜くための武器と盾を持つ身体。
それらを組み合わせ、チームを作り、ホーディさんを翻弄しています。
ホーディ本人も、まさか突然現れたオオグソクムシに苦戦するとは思っていなかったのでしょう。その顔には苛立ちが浮かんでいるように思えます。
しらほし姫様は、そのうちにどんどん彼らと距離を離していました。
私は、治した彼らが戦う姿を、瞳に焼き付けています。
◇バーサーカーヒーラー
暴走すると周りの人を見境なく治療するヒーラーモンスターになる。
この場合、材料を適宜補充する余裕が無いため、放っておくと最終的に腕と頭だけ残して全ての体を使ってしまう可能性がある。
周りに与える影響は治療だが、本人の消耗(物理)が甚大なため押さえつけ係が必要になる。
押さえつけること自体は子どもでもできるくらい簡単。
投稿遅延詫びチョコ(遅い)です。
【挿絵表示】