超常というものは、隣人になれるのか。
*
油断、したわけではなかった。
頂上戦争によって、白ひげは死亡。奴が船長を務めていた海賊団も、解体へ向かうことになる。戦争で減った人員も少なくなく、一つの巨大な勢力が翼を散らせたということだ。
しかし、その舞い散る羽の中には、最早やけっぱちになった連中も、少なからずいる。
長期遠征の帰り、少し波の荒い海を進んでいた時のことだ。
白ひげ海賊団のジョリーロジャーをこれみよがしに掲げた数隻の船が、軍艦を囲った。頂上戦争には参加していなかった、系列の海賊だろう。
船ごとぶつかり、叫びを上げながら特攻してくる辺りが、もはや己の命などどうでも良く、ただ復讐のための襲撃だと物語っている。
こちらとしても中将として、戦いを生き残った身。
長期遠征の疲弊こそあれ、私も部下も、仇討ちの的になるつもりはさらさら無かった。速やかに武器を構え、迎撃に入る。
頂上戦争に呼ばれなかったということは、戦力にならない……居ても邪魔になる程の力しかないということだ。数こそ多いが、順調に迎え撃つことに成功していた。
海軍の軍艦は、一般的な海賊船よりも丈夫にできている。船底には海楼石が嵌められ、船の側面は鉄板で守られている。砲門も、船としては数が多い。
政府から費用が降ろされている海軍と違い、海賊は船も自費で用意しなければならない。大海賊になれば、貴重な木材や鉱石を使い大規模な改装も可能だろうが、大抵は木材のみのシンプルな造りだ。
木の材質も高品質ではない船に体当たりされても、鋼鉄を纏う軍艦は寧ろ相手にダメージを与える。接近した方が不利になることが多いのだ、海賊にとっては。
それは最早海賊の間では常識となっているのだが、目の前の海賊はもうその腕で相手を斬り裂く事しか考えられていないようだ。
正気の外れた瞳は、恐慌状態と言って間違いない。
愚かだが、構わずに意識を抉り取っていく。
「中将ッ! 緊急です!!」
「なんだ!?」
「大嵐がすぐ迫っています! “
海兵の叫び声に、思わず力を入れすぎて目の前の海賊を蹴り捨てた。そいつは、軍艦から飛ばされ海へ沈んでいく。余計な力を込めた。
破砕の大嵐は、その名の通り通った場所全てを破砕していく嵐だ。竜巻と大雨の中に、どこから巻き上げたのか、大量の岩石や鉄塊が混ざっているのである。人が何の対策もせずに巻き込まれたら、数秒でその岩たちにすり潰されてミンチだ。
船も無事では済まない。
破砕の大嵐はかなり突発的に現れるため、航海士でも予測は難しく、予兆らしい予兆も無い。
グランドラインの4割の船は、この嵐によって沈んでいると言われているほどだ。
島には上陸しにくいため、発生を確認したら速やかに近くの島に停泊することが一番の回避方法なのだが……。
周囲は海賊船に囲まれており、海賊達は嵐の発生を聞いてもお構いなしだ。このまま心中でもするつもりなのだろう。正気ではない。
「操舵手は全員船を動かせ! 無理矢理にでも突破する!!」
「させるかよォ! オヤジの仇、何が何でも獲らせてもらうからなァああ!!」
サーベルを振りかぶった海賊をまた蹴りによって打ち砕く。甲板の人員が減る分、最大戦力である自分が戦線をキープしなければならない。
チリ、と頬に砂粒のようなものが掠ったのを感じた。嵐は、すぐそこまで来ている。
「海の藻屑になりたくなくば、全力で帆を張れ!!」
「ハッ!!」
移動と並行した戦いに、少なからず負傷者も増えてくる。
私もまた、流血が多くなってきた。砂利が、顔や腹に当たってくる。海賊達は、仲間の死体を踏み越えて特攻だ。攻撃力に割ける余力が違う。
部下たちは必死に舵を動かし、帆を引っ張るが、嵐の接近に対して鈍すぎた。海軍の軍艦は、装甲が厚い分速力が低いことが仇になっている。
「総員、退避を──」
その言葉は、竜巻の岩が頭に当たり、届くことはなかった。
*
次に目が覚めたのは、穏やかな診療所らしき屋内だった。
清潔なベッド、よく換気された空気、穏やかな日の光。
思わず起き上がれば、ズキリと頭や関節が痛んだ。額に手をやれば、包帯が巻かれている。
周囲には部下たちも座ったり、ベッドに寝かされていて、そこでようやく自分たちが助かったのだと理解した。
「ああ、起きましたか」
灰色の髭をたくわえた、白衣の壮年男性が部屋に入ってきた。敵意は感じない。おそらくここの医者だろう。
細い目を更に細め、医者らしき男は近くの椅子に座った。
「貴方が、あの軍艦に乗っていた中での最高責任者で間違いない?」
「ああ……合っている。ここは」
「貴方がたがね、うちの島に難破しまして……勝手ながら、救助と治療をさせていただきました。説明は、貴方が起きてからにしようと」
「そうか……」
一先ず、一命を取り留めたことに安堵する。破砕の大嵐と海賊に囲まれた中、生き残ったのは奇跡に近い。しかも、五体満足でだ。
感謝を伝えつつ、島の場所や救助された部下の人数などを教えてもらう。
嵐があった所から少し北の方へ流れ、そのまま潮の流れに呑まれてたどり着いたらしい。そこまで距離は無かった。
部下は、これもまた奇跡だが全員揃っていた。中でも軽傷な者や既に動けるものは、別室にいるそうだ。
何かの加護でも働いたのかと思うほどに幸運が重なっている。
と、その辺りで、診療所のドアベルが軽くも高い音を鳴らした。
医者は、「ああ、功労者のご登場だ」と笑う。その言葉に疑問を感じつつ、近寄ってくる小さな気配を待ってみた。
入ってきたのは、かわいらしい少女だった。
パッチワークのエプロンドレス。ふわふわした多色の髪に、着け耳なのかクマの耳が見える。瞳は磨かれた最高級のダークオークのようにツヤがあり、純粋だ。手にはなぜか大きなバスケットを持っている。
どこかの貴族のご令嬢の様だった。しかし、その割には金の気配が無く、素朴で無垢な雰囲気。幼いとはっきりわかる身長は、庇護欲を掻き立てられる。
可憐な少女だ。
少女は私をみて、ぺこりとお辞儀をする。
医者はカイロスと呼んでいた。姿のわりに、どこか勇ましい名前をしている。
口がきけないらしく、取り出された紙とペンに、どこか心が曇った。別に珍しいことではないが、本来当たり前にできることができない、というのは、持つ者と持たない者の違いをはっきり認識してしまう。
持たない者は、淘汰されやすいことも。
しかし、彼女から説明された“功労者”の意味は、驚くべきことだった。
彼女は、たった一人で、重症の海兵たちを治したらしい。腹に木材が刺さった者。銃で撃たれた者。岩に骨を砕かれた者。全てを。
それは自分もそうだった。
少し鈍痛のある腹を思わず見れば、なにやら、可愛らしいパッチワークが傷口を塞いでいた。大きさからして、かなりの大穴が開いていたと察せられる。
明らかに布でできているというのに、そのパッチワークを触れば、感触も、温度もわかる。彼女が損害の酷かった胃も交換したとメモに書いたときは、眩暈すらした。
合併症や後遺症を残さない、布による臓器の置換や肌の再生。
布で作られているというのに、臓器は正しく機能し、肉体に適合する。布さえあれば、脳以外のどんな臓器でも、健康な状態へ戻せる。
治療の力としても、規模が大きすぎる。確実に、世界中が欲しがる力だ。軍を挙げて確保に走る国もいるだろう。
しかも悪魔の実ではなく、この娘特有の力らしい。つまりは海楼石での無効化や海水の弱点が存在しない。
ますます都合が良い。
部下の中には失った指や関節、脚すら布による補修が行われていた。内臓もとなると、どれだけ損傷が激しかったのか想像できる。
自分も、風穴の開いた腹は普通なら死か、海兵を引退するレベルの重傷だ。
それがどうだ。
打撲や擦過傷、大小の傷はあれど、それらは時間が経てば跡もなく治るだろう。治れば、無傷だ。問題無く任務に出ることができる。
そんな力を、幼い、善良な少女が持っていること……。想定できる最悪の末路が、海軍として多くの闇を見てきた頭が否応なしに考えてしまう。
奴隷か、傀儡か、死か。
それでもまだマシかもしれない。
しかし、彼女は他人を治した。この人数の補修は、相当な時間が掛かったはず。
自分の利になるかもわからないというのに。
私には、その純粋な善意が、酷く眩しく見えた。
「ありがとう。君の力で、我々は救われた。不思議な力だが、君はそれを正しく使える娘なのだな」
悪用も幾らでも考えられるが、彼女の行いは正しいものだ。
悪魔の実であれ、独自の能力であれ、人を超えた力を持った者が道を外れるのは、よくあることだ。
海軍にも、海賊にも、そういう輩はごまんといる。
無償の善意で、人を助けられる者がこの世界にどれだけいるのだろう。
「…………世界が、君の優しさに応えてくれることを願う」
救助連絡の後、私は本部で報告書を書くことになる。
そこに、彼女のことは書かないでおこう。海軍で保護すべきという意見もあるかもしれないが、彼女を護るには、今の海軍は不安定過ぎる。
隠すこと。それが、今の私にできる彼女の優しさへの礼だった。
それにしても、うちの部隊は随分とファンシーな見た目になってしまった。
これはどう誤魔化そうか……部下たちと共に、なんとか考えるしか無いだろう。
◇モモンガ中将
苦労人のイメージが強過ぎる人。能力無しで中将に上り詰めてる時点でかなりのバケモノ。
ちなみにカイロスの容姿描写は、モモンガ中将がロリコンなのではなくカイロスちゃんがマジもんの美少女だから。
彼女の能力がヤバいことに気づいているが、頂上戦争後で色々ゴタゴタしていたり、天竜人と近い海軍では無事を保証できないと隠蔽を決意。善人。
力を人のために使える人が、もっと増えれば良いのになぁと思った。
他SCPの擬人化について。※擬人化した場合仲間になります。
-
主人公だけでいい。
-
他のSCPも一部擬人化する。
-
危険度の高いやつを擬人化する。
-
危険度の低いやつを擬人化する。