パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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報告32:循環

 

「このお兄さんは病院に運んで! 血が足りてないから足上げて、担架!!」

「手空いてるやつは綿入れろ! 布を切れ! 姫様を護ってくれた恩忘れんな!!」

 

 広場ではそんな叫びが響いています。

 私は、魚人の皆さんの厚意から受け取った布を、ひたすらに縫っていました。

 

 私の作成したパッチワークは、他臓器と置換しても問題無く動きます。ですが、他人が丸々作ってしまったパッチワークは、私の異常性の影響を受けれません。

 その二つの違いで、一番わかりやすいのは「誰が縫ったか」です。

 私が全ての箇所を縫えてさえいれば、裁断や綿入れはある程度他人に任せられます。

 繕うことや、編むことが私の異常性を発揮するための、ひとつのトリガーになっているのでしょう。

 

 オオグソクムシたちの命が一刻を争う中、全ての作業を同時並行することは、私だけではできません。

 なので、魚人の皆さんにご協力いただき、裁断と綿入れは任せることにしました。

 材料が足りなくなったら、適宜追加してくれるそうです。

 

 そのおかげで、私はただひたすら、目の前の布を縫い合わせることに集中できます。

 ミシンは必要無く、規則的で美しい縫い目が、私の手によって高速で並べられていきます。

 ミスターとダイウェイさんは、私が出来る治療は行ったため、残りは病院に引き継ぐことにしました。失血のための措置をしてくれるはずです。ダイウェイさんは、本人の傷は少なく過労が大きい様でした。

 問題は、この世界の血液型は地球世界と違うことです。A型なんかではなく、F型なんかが常識のようでした。

 

 血液型というのは、ざっくり言うとその血液が持っている免疫の種類みたいなものですから、もしかしたら名前が違うだけでAもFも変わらないかもしれません。

 ですが、もし適合できる人がいなかったらと思うと……体温の薄い綿の身体が冷えるようです。

 ルフィさんも大きく出血していましたが、輸血はできたでしょうか。

 現地の人ですから、血液型はどうとでもなるでしょう。この世界の輸血パックは思ったよりちゃんとしていて、衛生や保存状態も綺麗なものです。

 私も、輸血用のものを携帯できればいいんですが……流石に、個人の旅人に輸血の衛生を維持するのは無理です。

 

 とにかく、今の私にはどうにもできないことですから、今は目の前の事に集中しましょう。ルフィさん達は、きっとチョッパーさんがなんとかしてくれます。

 

 SCP-6994達は、火山の被害よりももっと酷い傷跡が無数についています。

 欠損箇所も多く、一から部位を作らないといけないものも多いです。

 パーツ一つ一つの大きさが桁違いのため、作業を効率的に、素早く行わないと、目の前の灯火が永遠に消えてしまう。

 その焦りは気力に変換され、私の手が、針が、残像で見えないほどに動いていく。

 針の先が丸くなり、まともに縫えなくなってしまったり、折れたらすぐに別の針を取り出し縫うのを続行します。

 既に私のスカートの上に、使い物にならなくなった針が大量に集まっていました。

 

「綿が足りねぇ!! もっと持ってこい!!」

「ねぇ誰かギョバリーヒルズに住んでない!? この際布ならなんでも──」

 

 クラーケンさんレベルの巨体が四つですから、大量の布とあっても、実際の消費量はさらに上を行くようです。

 一体半、それが今私が治療できている進捗でした。傷が治っても、消費した体力や削れた気力は回復しません。まだ、まともに動ける状態では無いでしょう。

 身体が乾くのを防ぐため、一部の方々に放水もお願いしています。

 

 大規模な治療、多くの人々が海の森を駆け巡り、忙しない空間。ふと、辺りにざわめきが起きました。

 

「カイロスーーッ!!」

「あっバカルフィ!」

 

 空から、ルフィさんが降ってきたのです。

 どうやら、シャボンによってサニー号が運ばれていて、そこから飛び込んで来たのでしょう。

 包帯に包まれてはいますが、本人的には元気そうです。血色も良くなっています。

 

「手当てしたとはいえまだ重傷なんだぞ! 傷が開いたらどうすんだ!!」

「もう元気だ!」

「元気じゃないから止めてるんだ!!」

 

 何やらチョッパーさんと言い合いをしていますが、治療はしっかりされたようで何よりです。

 私は顔をルフィさん達に向けつつ、手元では縫うのを続けて対応します。

 

「ナベ、スシ、フライ……それに、ピラフ」

 

 ボロボロで横たわる四体に、ルフィさんが目を向けます。甲殻の白もずいぶんと汚れてしまっていて、初めて会った時とは大違いです。

 私は完成した脚部パーツを、二体目の一本に置換しました。私では、リーダーのピラフさんくらいしか見分けがつきません。

 まだまだ治療箇所は残っているので、すぐさま近くに積まれた布を取り、また針を通しました。

 

「……ひでぇもんだな」

「そうね……でも、彼女達は諦めてないわ」

 

 この場にいる誰もが、彼らの生存を諦めていません。

 そして、どれだけそう信じる人が少なくなっても、私だけは諦めてはいけない。

 

 ルフィさんは、その傷を見つめた後、私の隣にどすっと座りました。

 

「うしっ、おれもやる!」

「──!」

「これ針か? もっとデッカいやつで縫った方がよくねーか? おいゾロー! お前の刀貸してくれ!!」

「誰が貸すかボケがァ!!?」

「カイロスちゃん困らせないのアホォ!!」

 

 ルフィさんの言葉に、ナミさんが思いっきり拳を振り下ろしました。あの、重傷なのでは……??

 お気持ちは嬉しいですが、縫う作業は私がやらないとですし、刀で布は縫えないかと……。

 

「わ、わたくしもお手伝いします!」

「姫様!!」

「姫様ご無事で!!」

 

 そこに、しらほし姫様が加わります。

 肩の傷は既に自然治癒が開始しているようです。痕にも残らなそうですね、良かった。

 大きな身体が私のすぐ左に降り立ち、両隣の圧がすごいです。

 私は、その間も高速で動かしていた手を一旦止め、縫うことは私に任せて、他のことを手伝って欲しいと伝えました。

 姫様をアゴで使うようで申し訳ないですが、本人が泣きそうな顔で頼むものですから、私も応えます。

 

「綿入れが終わったものの運搬ですね! お、お任せください!」

「ルフィ、変なことしてカイロスちゃんの邪魔にならないようにね。こっちで綿入れ手伝いなさい」

「ゔぁい……ずみまじぇん……」

「わしは放水を手伝おう。ここは近くの入り江が遠いからの」

 

 ジンベエさんの協力も得て、治療の場は更に作業を加速していきます。

 

 何十本の針と、何枚もの布。何キロの綿を消費してやっと、全てのオオグソクムシの治療が終わりました。

 ありとあらゆる柄の布、糸が浮かぶ身体ですが、そこに一つの痛みも無いでしょう。汚れが無くなり、傷が無くなり、潤いが戻った甲殻は、たとえパッチワークになっても立派に見えます。

 

「うおーー!! 復活だ、ピラフーー!!」

「っ、カイロスちゃん、大丈夫?」

 

 ピラフさん達が、また一つ一つのパーツを確かめるように触覚を確認します。

 その動きにぎこちなさは無く、一片の瑕疵も見当たらない様子に、私は安堵しながら体を倒します。

 ロビンさんが支えてくれましたが、私ももうなかなか限界で……指は熱を持ってますし、とっても眠いです。

 

「カイロス、ありがとう! コイツらみんな、元気になったぞ!!」

「……」

「あれだけの作業量じゃ……今はゆっくり休むと良い」

 

 ロビンさんに抱えられながら、私はぼんやりとした意識で、ルフィさんの弾けるような笑顔を見ました。

 首元に、ジョーシーが擦り寄ってきます。

 ふわふわした毛の感触と体温が心地よくて、とっても眠たくって。

 

 私は、そのまま眠りに落ちたのでした。

 

「……寝た?」

「これだけ頑張ったんだ。疲れるのも当たり前だな」

「大した女の子じゃ。この子のおかげで、魚人島の法律が一つ……変わるじゃろうな」

「輸血のこと? そりゃ、ホーディを倒したルフィに血を分けてくれた()()()を罰するなんて、バカみたいよ」

「うむ……他種族の恐れを、一つ壊していった。そうそう、出来まいよ……」

 

 *

 

 ――カイロス、ありがとう!――

 ――お嬢ちゃんに、救われたんだ――

 ――我慢、できなかった、んだ……。こいつ、らも……嬢も、傷つくの、が……――

 

 うつらうつら、微睡の中で言葉が反響する。

 誰かの痛みを助けた時、満たされた感覚。

 誰かが傷ついた時、締め付けられた感覚。

 夢と現実の間で、ぼんやりと、私に与えられた暖かい感情が、フラッシュバックしている。

 

「肉だァーーーーーッ!!!!」

 

 その言葉に、淡い意識がバッチリと覚醒しました。

 

「ちょっと! 今のでカイロスちゃんが起きちゃったじゃない!!」

「カイロス、体調は大丈夫か? なんか辛いこと無いか?」

「うちのルフィがすまんっ!」

 

 ぱちっと目を見開くと、何やら私がいる場所はとっても賑やかでした。

 音楽が奏でられ、料理のいい匂いもします。皆の楽しむ声が、あっちこっちから、響いてきます。

 どうやら、私はジョーシーを抱きながら、ロビンさんに膝枕されていたようです。こんな騒ぎの中ぐっすり眠っていたとは、思ってたより消耗していたのかもしれませんね。

 

「おー、起きたか。お嬢」

「お先に食べてるっす!」

「――!!」

 

 ミスター! それに、ダイウェイさん!!

 

 二人も、無事治療を終えたらしく、元気に料理なんかを楽しんでいるようです。無事に復帰したことに、安堵の息が漏れます。

 私は起き上がり、改めて今の状況を尋ねることにしました。

 

「ここは竜宮城の宴会場です! カイロス様も、楽しんでくださいね」

「……というわけだ。俺たちもそのおこぼれに預かってるぜ」

「こんな美味しい飯食べたの初めてっすよ! 感謝です!」

「お、お二人もわたくしを助けてくださった恩人ですよ!?」

 

 ふむふむ、魚人島の救出や、一つの転機を迎えたことのお祝いのようです。

 よく見れば、下の階でピラフさん達も大きなお肉でもてなされています。私たちがいるのは平べったい魚の上のようですが、流石に重量オーバーだったのでしょうか。

 

「……君によって何人の民が救われたか。王子として、改めて感謝したい」

[私は、ただ私のしたいことに従ったまでです。ホーディさんを治したことは、国としては利敵行為でしたでしょう]

「いや……それでも、君の心はこの魚人島全てを動かした。それは我々がゼロにした未来を、次の一歩へ動かすものだったんだ。……ありがとう」

 

 フカボシ王子達に頭を下げられてしまいました。

 慌てて上げさせます。

 わ、私は私の異常性に従ったまでですから……。ですが、感謝の言葉は、ありがたく頂くことにしましょう。

 

[魚人島の皆さんが無事で良かったです。宴へのご招待、ありがとうございます]

「嬢、これ美味いぞ。取り分けたから食え」

「飲み物はこっちっすよ! 俺たちはまだノンアルですけど」

 

 感謝の応酬も程々に、私も宴を楽しむことにします。ジョーシーも猫用のご馳走を頂いていてご満悦です。

 ダイウェイさんから受け取ったドリンクは爽やかな炭酸にほんのりとココナッツの風味がありました。甘くて美味しい。

 ミスターが取り分けてくれたのは、繊細に飾り付けられたミニケーキでした。キラキラした水面のような飴細工がとっても綺麗です。

 

「お嬢、治してくれてありがとうな」

「――?」

「俺がしたことは……躊躇わず財団に伝えてくれ。全部俺が計画したことだってな」

「……」

「……ま、その話は後にするか。今は楽しもう、酒にも料理にも失礼だ」

 

 私は、ほんのりと不穏な空気を飲み込みつつ、楽しそうに飲み比べしている麦わらの皆さんに目を向けました。

 ふと、そこで気づきます。

 

 ロビンさんが……いませんね?








◇別にお酒では酔わないぬいぐるみ
流石にオオグソクムシ(巨大)×4の治療には疲れた。前よりずっと長く寝てた。
ワンピース世界では血液型が現実と違いますが、一応AやBを使ってる地域もあるっぽいので、輸血は可能としました。
流石に輸血できないと人型SCPがハードモード過ぎるというのもあります。
ただし、輸血パックの保存などはカイロス個人では難しいラインとするので、引き続きカイロスのみでは失血をどうにかする手段はありません。
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