「古代兵器──ポセイドン」
ロビンさんを探していると、どうやら会場の隅で王様と何かを話しているようです。
周りはどんちゃん騒ぎで気づいていないですが、なにやら神妙な顔つき……。兵器と聞こえたのも相まって、不穏な空気を感じます。
私は少し離れた場所で、クマ耳をそばだてて聞いていました。
……しらほし姫の海王類を操る力は、どうやら真実のようです。ふむ……確かに、兵器と言って申し分ない力ですが、彼女はその力を理不尽なことに使う人ではないです。
今回のノアの様に、誰かを守るために、その力を使うでしょう。
大きな力でも、間違えなければ人の助けになります。しらほし姫は優しい人ですから、兵器という名は、似合わないでしょう。
盗み聞きの形になってしまって悪いですが、私もまた王様に用があるんでした。
こっそりと柱の影に隠れている状況ですが、お話がひと段落したなら行こうかしら。
「お嬢、こんなところで何してんだ?」
「探しましたよー?」
「――っ!」
背後から肩に手を置かれてビックリしてしまいました。
ミスターとダイウェイさんが探しに来てくれましたが、うーん……まぁ、我々SCP関連の話ですから、このままご一緒してもらいましょう。
「ぬ? 裁縫娘ら……どうしたんじゃもん?」
[今までまともなご挨拶ができていなかったので。今回はこの宴にご招待いただきありがとうございます]
「おお、律儀な。おぬしらはこの国の恩人。気にせず楽しんで欲しいんじゃもん」
[はい。……ですが、本題は別にあります]
そう伝えると、何かとネプチューン王が首を傾げます。ロビンさんとの会話で、もう酒の酔いは醒めているようで、酒気を帯びてはいませんでした。
[硬殻塔に、入らせて欲しいのです]
「ふむ、しらほしの部屋か?
[そのご提案も魅力的ですが、そちらではありません。私が入りたいのは、この会場の壁の向こう――隠された、硬殻塔です]
私は、ホーディさんと相手をすると決めた時、強いアノマリーの気配を感じました。
そうして、ダイウェイさんや昼飯銃、浮かばれないアヒルが見つかったわけですが……その時から、魚人街とは別の場所に、アノマリーの反応を確認していたのです。
そここそが、この竜宮城内部でした。
近づいたからか、よりハッキリと位置を感じることができます。
そして、衛兵さんに見せてもらった竜宮城内の簡易的な地図から、宴会場の裏手に不自然な空間があったのです。
しらほし姫の入っていた硬殻塔も、地図には書き記されていませんでした。要所である塔は、一般人に見せられる地図には書いていないのでしょう。
ですが、私のアノマリーへの感知能力はあの時から少し精度が上がっています。
何故かはわかりませんが、分厚い壁と硬い扉に守られているのが、ぼんやりとわかるのです。そして、宴会場の裏にあることも。
なので、私はその不自然な空間に硬殻塔が存在すると当たりをつけました。
ネプチューン王の表情から、それが正解だったことは、一目でわかります。
王は、動揺しつつも、どこか罪悪感を滲ませ眉を顰めました。
「なぜ、それを……?」
[あの硬殻塔に、『どれ』があるかは、私もまだわかりません。ですが、私と同じ……少し意味合いは違いますが、“同郷”の気配を感じるのです]
「……隠し通せはしない、か……。言い訳になるようじゃが、わしも“あやつ”の扱いはこのままではいかんと思っておった」
ふむ、生物に使われる表現をしたということは、中にいるのは生物系SCP。扱いに対して罪悪感を抱いているなら、知能が高いものの可能性が高いでしょうか。
流石に、精度が上がったとはいえあくまでも場所の感知だけ。目にするまで、どんなアノマリーかはわかりません。
ですが、わかっている以上、財団に報告するためにも確認しなければ。
[私は、中のものを害そうとは考えていません。ただ、どうして硬殻塔という場所に置かれているのか……その目で見て、理解したいのです]
「姫さんを悪人から守るために使ってた塔だ。んな場所に“知り合い”が閉じ込められてたら、気になるだろ?」
「……わかった、案内しよう。じゃが、くれぐれも気をつけて欲しいんじゃもん。あやつは、魚人島の運命すら左右できる存在じゃ……」
ミスターの援護もあり、ネプチューン王は確認を了承してくれました。ロビンさんは、あくまでも外部の人なので、今回は同行はお断りしました。
ものによっては、SCPでないと危険な場合もありますから。ネプチューン王らが無事に硬殻塔に収容できているあたり、ミーム汚染系では無さそうですが……?
一体なにが収められているのでしょう。
宴会場のすぐ裏だというのに、まるで玉手箱の紐をゆっくりと解いていくような焦ったさのある長い通路を、私たちは進みます。
冷えた緊張感と、圧のある巨大な扉が、ゆっくりと低音を響かせながら開きました。
「――!」
「ん? ただのヒト……じゃね?」
「問題があるような人には見えないですね」
人の生活用に整えられた内部、安全面が考慮された椅子に座っていたのは、ごく一般的な日本人男性でした。
どこか虚な目で、手に持っている本のページを、読んでいるのか読んでいないのか。
あまり良い精神状態ではない事はハッキリとわかります。
「この者は……“海”じゃ」
「はぁ? 海ィ?」
「名前ってことっすか?」
「いいや……“海”そのもの。流れる血が、命が……全て海と同調しておるのじゃ」
ここまで言われたら、流石にわかります。
硬殻塔、竜宮城の奥の奥、隠された空間にいたのは……SCP-094-JP“海洋人間”でした。
「なんですか……? まだ、夕食には早いはずですが」
「うむ……おぬしに会いたいという者がおってな。この者たちじゃ、知り合いか?」
「はぁ、心当たりは、ありませんけどね」
無気力的に、SCP-094-JPは本をテーブルに置き、背もたれに深く体を沈めました。
かなり危うい……というか、本人にはどうしようもできない問題ですから、こうもなるでしょう。
SCP-094-JP“海洋人間”は、現実の海と、その体内がリンクしている人間です。
海が汚染されると彼は体調を崩し、彼が負傷すると海が大きく荒れる。
海そのものと一心同体……そして、彼の血液には極小の海洋生物が無数に存在し、生態系を構築しています。
そして、それら一切に本人は干渉できないのです。
私は彼を害さない事をもう一度ネプチューン王に伝え、ゆっくりと彼の元へ歩きます。
私のことを、彼は黙って眺めていました。
[こんにちは。私は喋ることができないので、紙面上で失礼します。ああ、耳は聞こえますので、普通に話していただければ]
最初に喋ることができないと伝えると、彼は何かを探すように視線を部屋に向けました。
私の場合はただ発声器官が存在しないからですが、聴覚障害由来のものかと思ったのかもしれません。
耳は聞こえることを追記すれば、浮かした腰をまた椅子に預けました。
「こんにちは……君は、僕を知ってるみたいですけど」
[ええ、私は貴方を知っています。SCP-094-JP]
「ッ!?」
ガタ、とSCP-094-JP……いちいち番号で言うのも不便ですね。“海洋人間”だとなんだか無機質ですし……ここは「海さん」としておきましょう。
海さんが体勢を崩しました。それにネプチューン王が反応しますが、ミスターが対応してくれているようです。
「その名前を知ってるって事は、君たちは財団の……」
[はい、私はSCP-2295“パッチワークのハートがあるクマ”です。あちらの二人も、同様に番号を持つSCPです。ああ、危険性はありませんので、ご安心を]
「まさか、こんな所で会うなんて思わなかったな……。もうずっと、ここで過ごすものだと思っていたから」
海さんはさっきまでの無気力さを少し変え、どこか安心感を感じてくれているみたいです。私も、ジョーシーと会った時はとても嬉しかったですから、気持ちはよくわかります。
異世界と言って正しいこの世界で、同じ境遇の誰かと出会える事は、これ以上無い安心材料でしょう。
[私たちが存在するように、この世界にも財団は存在します。そして、私は財団が未発見のアノマリーを見つけ、報告する業務を一時的に任されている者です]
「成程、よくこんな場所まで来れましたね。僕としては、財団がいたとしても流石に見つけられないかと」
[そこは、様々な事が外であったことによる幸運のようなものですが……一先ず、出会えて良かった]
久しぶりの他者との交流なのか、それとも財団を知る者と話せて嬉しいのか、海さんの精神は少し回復しているみたいです。
硬殻塔の中に一人というのは、不安ですし寂しかったはず。こうして会う事ができて本当に良かった。
海さん曰く、やはり気がついたら魚人島に居たらしく、収容室との違いにパニックになったそう。
そして、その拍子に怪我を負ってしまい、それにより魚人島近くの海溝が崩れたり、火山が噴火したりしたそう。
そして一時期は体が鉛のように重くなったりと体調を崩す過程でネプチューン王家にその異常性が確認され、王家は魚人島を守るためにも海さんを硬殻塔に「保護」した。
海に生きる魚人たちにとって、海さんの負傷や体調不良はそのまま魚人島の危機へ繋がる可能性も高いですから、この措置もやむなしだったのでしょうね。
少し擦り傷を作っただけでも、どこかの海で影響が出るわけですし。
より酷い怪我や不調を負えば、それこそ魚人島が大きな被害を受ける。
ですが、本人はごく普通の感性を持った人間なのですから、閉じ込めることに罪悪感もあったのでしょう。
財団ですら、彼を危険から遠ざけるくらいの事しかできてないわけですから……彼の今の待遇は、あまり情報が無い中での仕方の無いものなのかも。
[財団の話を、ネプチューン王家にはしましたか?]
「いや、一応機密性のある組織とは理解していたし……通じるかもわからなかったから、していない。この世界に存在するかも知らなかったですからね」
[それは正しい判断かと。現在財団は存在を隠しつつ裏で活動しています。我々もまた、財団の情報を軽々しく流布する事は禁止されています]
その後、現在の財団の状況や許可されていることを共有し、私のでっち上げた“故郷”の話を合わせます。
正直、SCPの形が多様過ぎてよくわからない魔境になっていますね。カバーストーリーとはいえないガバガバさです。
[貴方のことも、財団に報告します。ですが、今の状況からすぐ収容室に移れるかはわかりません。もしかしたら、このまま硬殻塔に留まるよう言われるかも知れません……]
「そっか……。いや、別にここの人を嫌ってるわけではないんです。ただ、ストレスを感じるなってのも、難しくて」
これに関しては、私もどうすればいいか……。
とりあえず私と海さんとの情報共有が終わったため、ミスターやダイウェイさんも紹介することにしましょう。
王の相手をしてくれていたお二人を手招きして呼びます。
[こちらは“ミスター・おさかな”と“受験鮫”ことダイウェイさんです。そして、この方はSCP-094-JP“海洋人間”。都合上『海さん』と呼んでも宜しいでしょうか?]
「はい、構わないです」
「おー、何つーか……苦労してたみたいだな。同じ“関係者”同士、仲良くしようぜ」
「俺も、良ければ交流して欲しいっす!」
「どうぞよろしく。なんというか、自分以外の“関係者”と話すのは新鮮だなぁ……」
硬殻塔では人との交流も制限されていたでしょうし、他者と話すこと自体が今の海さんにとっては、良い心の栄養になっているのかも。
私としては、悪人でもない、本当に一般人だった彼がここまで行動を制限されているのは、心苦しいですが……。
どうにか、できないでしょうか。
「……なぁ、お嬢。報告をしたとして、財団の奴らがここに来るかはわからないんだろ?」
[はい、海さんの特性上、収容施設では安全を確保しなければいけません。そもそも魚人島までの道のりがかなり危険ですから、どうなるか……]
「んー、わかった。別に逃げようってわけじゃないんだが、ちょっと思うところがあってな」
[と、言うと?]
海さんと数回会話をし、彼の今と環境を知ったミスターは、何やら考え込む仕草をして、ネプチューン王に体を向けました。
「なぁ、王サマ。俺とダイウェイをよ、ここに住まわせてくれねぇか?」
◇魚人島ラストSCP登場!
はい、ということでマシュマロでもリクエスト多かったSCP-094-JPこと“海洋人間”さんです。
記事でも彼個人の本名がわからなかったので「海さん」と仮決定させました。
ワンピ世界の海とリンクしているので、負傷箇所によっては普通に魚人島が滅ぶ可能性があります。何気にやばい。
体が鉛のように重くなった日は、頂上戦争の日と重なっています。
日本支部の中でも一つの象徴的な作品である彼を出せて嬉しい。