パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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報告34:同士

 

「住まわせて欲しい……じゃと?」

 

 ネプチューン王は、まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのか、困惑の声を上げます。

 私も、ミスターの考えは読めませんでした。

 不思議に首を傾げると、ミスターは軽く腕を組み、わかりにくい表情で口を開きました。

 

「お嬢は、きっと魚人島を出ていくんだろ? お前の目的は魚人島に留まっていたら果たせないからな」

 

 それに、頷きます。

 海さんを見つけたことで、この国のアノマリーの反応はもう感じませんでした。ならば、別の場所に移動し、またアノマリーを探す旅に出るだけです。

 ジョーシーも、私について行くでしょう。

 ミスターとダイウェイさんは、ここに留まるつもりなのでしょうか。

 

「俺はここで“関係者”を待つ。海の上で移動しながら待つより、ここに留まった方が発見しやすいだろうからな。ダイウェイは、海の中の方が過ごしやすい……っていうか、陸じゃ身体が乾くだろ」

「そうっすね、シャボンの助けがあるとはいえ、水中から完全に出るのは厳しいっす」

「でも、どうしてここに住みたいんです?」

 

 海さんも首を捻っています。硬殻塔は、人ひとりが暮らす分には十分過ぎる……というか、広過ぎるほどですが、ある意味軟禁状態ですから、良い印象は無いでしょう。

 

「王サマ、あんたも悪いと思ってるんだろ? こいつをこの塔の中に一人で閉じ込めておくってのはさ。姫さんは元凶が居なくなったから、もう塔に仕舞い込む理由は無い。けど、こっちはどうしても閉じ込め続けないといけない」

「…………」

「なら、“同郷”である俺らも一緒に入れてくれれば、多少は孤独感とか、疎外感も薄れるんじゃねーのって提案だ」

「え、そんな、ミスターさん達に悪いですよ」

 

 海さんは、ミスターが自身のためにこの案を出したことを知ると、慌てて席を立ちました。海さんとしては、ここで他人を巻き込むことを良しとしないようで。

 ですが、私たちが来るまでの彼はとても健康な精神状態には見えませんでしたし、同居人という存在は名案に思えます。

 独り、という状態は、社会的な生物である人間にとって想像以上のストレスになりますから。

 

「硬殻塔は広い。おぬしら二人分の生活スペースも余裕があるじゃろう。しかし……本当に良いのか?」

「そうですよ、僕のためだけにここに閉じこもるっていうのは、余りにも……」

「なぁ海サンよ、お前、最終学歴とかあるか?」

「え?」

 

 ミスターが、拒絶する海さんに徐に質問を投げかけました。

 突然の関係の無さそうな問いに、海さんが固まります。

 ダイウェイさんは、何か気づいたように尾びれを揺らしました。私も、ミスターの考えがようやくわかった気がします。

 

「えっ……一応、大卒、だけど」

「お、そりゃ良いや。このダイウェイってヤツな、大学目指して勉強中なんだってよ。俺は英語は教えられるだろうが、それ以外の科目は完璧とは自信がねぇんだ」

「つ、つまり……ダイウェイさんに勉強を教えることが、対価ってことですか?」

「そんな大袈裟な! 同居人の夢を、ちょっと応援して欲しいだけっすよ!!」

 

 ふむふむ、海さんは一般的な日本人成人男性であり、大卒ならある程度知識はあるはず。ダイウェイさんの受験の力になるでしょうね。

 勉強という動機で関わることもできますし、なによりwin-winという関係性は、海さんの心を軽くしてくれるのではないでしょうか。

 ミスター、流石です。なんだかとっても大団円に見えます!

 

「もちろんだが、俺もダイウェイも海の奴を傷つけないぜ? というか、自分が住んでるところが崩壊するかもしれないのに不味いことできるかっての」

「うぬ……国としては、断る理由は無いんじゃもん。このままおぬしが精神を疲労させるのも、避けたい事じゃ。……海くん、どうか了承してくれんかのう」

「ええ……ほんとに良いんですか? 広いとはいえ、密室ですよ?」

「え、別に。俺たちも“関係者”だから収容室には慣れてるし。なぁ?」

「自分も水槽で暮らしてましたからね!」

 

 財団の収容室と比べたら、三人まとめてとはいえ広いものですからね、硬殻塔。だてにしらほし姫でも余裕のある規模じゃありませんよ。

 海さんは、それでも多少逡巡していましたが……私やミスターらを交互に見て、やがてその提案を受け入れました。

 

「決まりだな」

[ネプチューン王、ここまでの頼みを了承してくださりありがとうございます。彼らの生活を、おまかせしてしまいますが……]

「元々、ここにあやつを閉じ込めたのは王の判断じゃもん。恩人の頼みもある、責任もって硬殻塔での安全な暮らしを保証するんじゃもん」

 

 海さんの件は、これで一件落着ですね。

 財団が魚人島から収容室を移すかどうかは、あちらの判断に任せましょう。私は、あくまでも発見メインですから。ミスターの行動も、咎められないことを祈るばかりですが……そこはどうにもなりません。

 私の気持ちを思っての行動でしたし、私からも話を通しておきたいですが……。

 

「王! こちらにおりましたか!!」

「んん? なんじゃ右大臣よ」

 

 宴会もそろそろたけなわだろうかという時でした。なにやら、慌ただしく右大臣がこちらに泳いできたのです。

 ほぼ何も言わずにここに移動してきましたから、心配をおかけしたのかも。

 

「どうしたんじゃもん」

「姫様が、またも……!」

「何ぃ!? しらほしに何が!!」

 

 姫様の名を出され、私たちにも動揺が走りました。

 ネプチューン王はすぐに右大臣と共に硬殻塔を急いで出て行きます。ホーディの残党でも居たんでしょうか。

 王が余りにも慌てたばかりに取り残された私は、宴会場に戻ることにしますが……ミスター達は、ここに残るようです。

 

「言って早々ここを出ちゃ悪いだろ。……というか、俺は財団が来るまで自由に動かない方が良いだろ?」

「それに、何かあったら海さんを守る人が必要っすからね」

「……まぁ、お嬢はもう、ここを出たら戻ってこないかもな」

 

 ミスターは、遠くから聞こえるざわめきが段々と消えていくのを頭をしゃくって示しました。

 

「魚人島を出ていくんだろ? なら、別れは早めに済ませとこうぜ。俺は、財団が来るまでもうここを出る気も無いしな」

[ミスター……]

「お前は俺にとっても恩人だ。肩、ありがとな。次の旅先では無茶すんなよ」

 

 ミスターは、ホーディさんに貫かれた肩の部分を軽く押さえます。私の治療痕が、そこにはあるでしょう。

 

「俺も、財団の事を知れて良かったです。なんか、家庭教師もできたし。硬殻塔の暮らしも、結構楽しそうっすよ!」

[ダイウェイさん……]

「きっと、世界にはまだ俺みたいに困ってるサメやクジラもたくさん居ますから、財団によろしくっすよ!」

 

 ダイウェイさんが、ひらひらと手びれを振りました。

 理知的な瞳が、キラキラ輝いていて、この先の生活に絶望した様子は微塵もありません。

 

「僕からも、まだ会ったばかりだけど、ありがとう。たぶん、この二人をここまで連れてきてくれたのは、君なんだろう? ……正直、寂しかったのは本当だから、一緒に住んでくれるっていうのは、すごく嬉しいんです」

[海さん……財団は、この世界でも理念のため全力を尽くしています。どうか、あまり世界に絶望しないで]

「うん……少なくとも、今日より前ほど最悪な事にはならなそうだ。外に出るなら、気をつけて。財団には君の支援を頼んでおくよ」

 

 海さんは、初めましての時よりも幾分か顔色が良くなって、瞳も生き生きとした感情を取り戻していました。

 ミスターたちとの生活が、良いものでありますように。

 私は眠っているジョーシーの頭をひとなでして、丁寧にお辞儀します。

 

[私も、ありがとうございました。魚人島からは出て行きますが、二度と会えないわけでは無いでしょう。財団には、しっかりと報告します。案外、次に会うのはサイトの収容室かもしれませんね]

「ありそうだな、それ」

[ふふ、では、またお会いしましょう。良い新生活を祈っています]

 

 私は、そう伝え、ここまできた道を引き返します。

 薄暗い硬殻塔周辺は、水の影がはっきりとわかって、感情が自然と落ち着いていきました。一人では寂しい場所でしょうが、もう、あの塔は冷たくないでしょう。

 

「良い旅を。こっちも祈ってる」

 

 そう、背に暖かい言葉が触れていました。

 

 *

 

 …………。

 

 そうして、なんだか清々しい別れをしたところだというのに、格好つかず私は城内で迷子になっていました。

 どこか曲がり角を間違えたのか、なんだか知らない場所に出てしまったのです。

 辺りに衛兵さんも見当たりません。うーん、どうしましょう。

 

「……ニャーオ」

 

 おや、ジョーシー起きましたか?

 海さん達との話し合いが長く、退屈で眠っていましたが……すいません、もう別れは済ませてしまったのです。

 今は、ちょっと迷ってしまって……どうしましょう? 闇雲に動いても、もっと迷うだけですよね……?

 

「ニャオ」

「――?」

 

 ジョーシーが私のポケットから降り、歩き始めました。

 ジョーシー? どこへ行くのです?

 

「ニャアー……」

 

 な、なんだか「困った主人だ」なんて言われてる気がします……。

 広場の戦いでもジョーシーの制止を無視して飛び込んでしまいましたし、呆れられて嫌われてしまったのでしょうか……。

 もしかして、自分も硬殻塔に残りたかったですか?

 

「……ンナ」

 

 鼻で笑われてしまいました。

 なんだか、ジョーシーが私を見る目がまるで産まれたての子猫を見ているみたいに……。

 私、おてんばな子どもに思われてるのかしら、なんだか不甲斐ないです。

 

 ジョーシーが進む道をついていくと、だんだん見慣れた景色になってきて、ついには宴会場に戻ってこれました!

 動物の勘なんでしょうか? 私よりも道を覚えるのが上手いのでしょうか?

 とにかく、戻ってこれました。

 宴会としては、もう片付けられてしまっているようですが……王やルフィさん達は居ますし、合流しましょう。

 そうして、集まっている皆さんに駆け寄ろうとして、

 

「財宝全部……ビッグ・マムにあげたァ!?!?」

 

 その叫びに、驚いて飛び上がったのでした。








◇魚人島、一件落着……?
ミスター達のその後はtaleで書きます。
とりあえず魚人島編からパンクハザード編に行くぞー!
ホールケーキアイランド編まではある程度ストーリーは完成してます。でもたぶんどこかでSCP追加してややこしくなる。
財団の科学レベルは、記事によって様々ですが、取り敢えず魚人島に来れるくらいはある、と考えてくだされば……。
ジョーシーはレギュラーなので離脱しません。ネコチャン。
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