パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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報告5:商人

 

 モモンガさんは、一週間ほど村で静養した後、迎えにきた軍艦に乗って帰って行きました。

 

 謝礼にと、袋いっぱいのお金を置いて。

 この世界の貨幣は「ベリー」というらしく、コインと紙幣で流通しているそうです。世界共通通貨とは、楽で良いですね。

 物価はわかりませんが、これが大金ということはわかります。村の人たちも驚いていました。

 

 丁度、もう半月したら商業船の定期便が島にやって来るそうなので、そこで不足した日用品などを買うそうです。島の中で自給自足するにも、限界がありますもんね。

 そして、なんと札束の幾つかは、私が持つことになりました。

 

 慌てて返そうとしたのですが、海軍の重傷者を治したのは私だし、本来はほぼ全てが私に渡るのが正しいとまで言われてしまいました。

 私は別に、お金が欲しくて人を助けたわけではありません。大金も、過ぎたものです。

 補修用の布を買う分は、必要かもしれませんが……それでも、札束が複数なんて明らかに過剰ですから。

 

 そう言っても、行動に対する正当な対価を貰うことは大切だと、諭されてしまいました。

 なにより、お礼を受け取ることはその人の想いを受け取ることでもあると。

 そう言われてしまうと、突っぱねるのも申し訳ないです。ですが、流石に全額は貰えないので、残った分は村の方で使って欲しいとお願いしました。

 相当の金額、どうしようかと思いましたが、先ずは海兵さんたちを治した時に消費した分の布類を補充することにしました。

 

 仕立て屋さんで何枚か布や毛糸を見繕い、購入。

 この世界で初めてのお買い物です。

 今までも仕立て屋さんで働いた分お金はもらっていましたが、全て貯金していました。なので、貯金箱にもそこそこ貯えがあります。

 流石に現ナマを手で持ち歩くのはやめた方がいいと、ごもっともな事を言われたので、雑貨屋さんでお財布とカバンを買うことにしました。

 

 お財布は、今の札束が入る大きいものを。

 カバンは、バスケットを両手で持つためにショルダーの斜め掛けのものを選びました。革製で、丈夫です。真鍮の金具が、クマさんを模しているのもかわいいです。

 裁縫関係のものは全てバスケットに入れているので、カバンはお財布と、小物が入る程度の大きさにしました。お店のサービスで、革製品は名入れをしてもらえるそうなので、バスケットと同じく名前の一つを彫んでもらいました。

 

 歩けば、パニエの膨らみに合わせてぽんぽん揺れるカバンは、名入れしてもらったのも相まって私のお気に入りの一つになりました。

 村の人たちも、似合っていると褒めてくれます。

 キャラメル色のカバンは、私のエプロンドレスとよく似合っていて、私のためにあるようなデザインです。

 大切に、使うことにしましょう。

 

 *

 

 商業船は大きくて派手でした。

 商業組合のマークが帆に描かれていて、甲板からは綺麗な刺繍がされた、大きな織物が何枚も垂れています。船首には、宝箱を持った魚の木彫りが付けられていました。

 グランドラインのあちこちへ廻る、有名な組合だそうです。外と関わりにくい島の村は、大抵お世話になっているんだとか。

 

「どーもどーも、お久しぶりです。本日も、良い商品揃えてますよ」

「毎度助かる。そろそろ新しい本が欲しかったんだ」

 

 村の人は広げられた商品を前に、あれこれと選び始めました。

 商品は、本や食品、布や武器など、多種多様。目利きはできませんが、良いものなのではないでしょうか。

 ですが、私としては商品よりも、船から降りてきた商人さんの方が気になります。

 

「おや、見慣れないお嬢さんですね。新入りさんですか?」

「ああ、カイロスちゃんってんだ。うちの村の恩人だよ」

「へぇ! こんな若い娘がですか、それはまぁご立派で」

「声が出せないから、筆談なんだ。配慮してやってほしい」

 

 キッノさんが、口元を人差し指でとんとんと叩きました。

 商人さんも、了解したようで、私に顔を向けます。商人さんは、紫のスーツにオレンジの髪をした、糸目のお兄さんでした。

 ニコニコ笑う姿は、どこかデフォルメされたキツネさんのように思えます。

 

「素敵なお嬢さん。何か気になる商品はございましたか?」

 

 膝を折って、私の目線に合わせてくれるのは、子どもの対応に慣れている気がします。商人のスキルなのでしょうか。

 私は、メモに今の自分の感情を素直に書くことにしました。レスポンスが遅くなってしまうのは、筆談の歯痒い所です。

 

[商品も、素晴らしいですけれど、私が気になるのは、貴方]

「……わたし、ですか?」

[もしかしたら、気を悪くさせてしまうかもしれないのですけど]

 

 なにぶんデリケートな話ですから、人の多い、外の人のそういう話は、本人の了承を得た方が良いと考えたのです。これは、私が……SCP-2295が人の意識を得て良かったことかもしれません。

 身体的瑕疵の話は、人によっては不快になる話でしょう。初対面の相手からされたら、尚更。

 そのため、こういって事前に確認を取ることができるのは、ひとつ成長ではないでしょうか。

 人の意識が無かったら、問答無用で補修を始めていたかもしれません。

 

 商人さんは、数秒黙って考えた後、商品を並べてある場所から少し離れた場所へ移動しました。

 キッノさんも、やり取りで察したようで、不思議がる他の村人たちをやんわり止めてくれます。

 私は木陰の方で、ペンを走らせました。

 

[肺の、病気……ありますね?]

「っ、ええ……よくおわかりで」

[私、それを治せます。もし、良ければ、治させてください]

「……えっ」

 

 商人さんは、肺の病……おそらく先天的な疾患を持っていると、私は見てわかりました。

 命に関わるレベルのものではないのかもしれませんが、健常者より苦労は多いでしょう。呼吸は、生命だけでなく精神にも関わる重要な動作です。

 そしてそれは、私の力でパッチワークと交換してしまえば、治る。

 

 ですが、緊急時だった村人たちや海兵さんとは違い、商人さんは私が突然看破した形です。それを突然治せると言われても、怪しむでしょう。

 ですが、治せるからには、治してあげたいと思うのが、私の本能なのです。

 商人さんは、笑顔を初めて崩しました。

 

「この病は、生まれつきで……医者も治せないと」

[私は、特殊な力を持っています。なので、治せます。ですが、信用できないのも、またわかります]

「どうやって、治すつもりですか」

 

 その問いに、私は持っていたバスケットを開きました。布や手芸用品が詰まったそれに、商人さんは首を傾げます。

 

「安心しなよ、パインの旦那」

「り、リューンさん」

「カイロスちゃんの力は本物だ。ほら」

 

 リューンさんは、私が腸と膵臓を置換し、お腹を塞いだ青年です。遠目に私たちのやり取りを見て、内容を察したのでしょう。

 彼が見せたお腹は、変わらず傷口を塞ぐようにパッチワークが貼られていました。

 商人さんの細い目が、見開かれます。確かに、普通の人はびっくりする見た目でしょうね。

 

「少し前に、山岳狼にやられてな……腸と膵臓がダメになったんだが、カイロスちゃんが治してくれたのさ」

「これ、で……治ってるんですか」

「ああ、内臓はちゃんと機能してる。腹のこれも、感覚がちゃんとあるんだ。見た目こそかわいいが、完全な完治だぜ、これ」

「……悪魔の実?」

「本人曰く、違うらしい」

 

 やはり、こういった不思議な力はまず悪魔の実が疑われるようです。私はキッノさんの能力しか見たことありませんから、なんだか便利な能力としかわからないのですが。

 悪魔の実の中には、私と似たようなことができるものもあるのでしょうか?

 

「わたしの、肺は先天的に取り込める酸素の量が少ないのです。手術をしても、むしろ悪化させるだけだろうと言われていて……それでも、治せるのですか」

[はい、確実に。貴方が、いいと言ってくれるなら]

「もしそれが本当なら、わたしは貴女に何を返せば良いんでしょう」

 

 商人らしく、対価には敏感なようです。

 しかしこれは商売ではありません。なにか、見返りを求めるものではありません。

 私は、癒す存在。だから、治す。それだけなのですから。

 

[対価なんて、必要ありません。私は、人を治す力を持っている。だから、人を治す。そこに、見返りや返事など、求めていないのです]

「それは……あまりにも、奉仕精神が過ぎませんか」

「カイロスちゃんは、こういう子なんだ。あのなー、前にも言ったけど、お礼はちゃんと受け取るもんだぞ。自分の安売りはよくない」

[私はそういう存在ですから……]

「そーゆーのがよくないっての、おらー!」

 

 リューンさんにワシワシと頭を撫でられましたが、私から、対価を求めることはこれからもしないでしょう。

 癒すことこそが、私の存在意義であり存在理由なのですから。

 商人さんは、そんな私たちを見て、ほんのちょっとだけ噴き出しました。なんだか、あれが本当の笑顔な気がします。営業スマイルとは、違うやつです。

 

「よろしければ、お願いできますか。対価……ではなく、お礼はしっかりとさせていただきます」

「お、良かったな。コイツ商人だから金持ってるぞ」

「ちょっと、そういう事を子どもに聞かせるのどうなんですか」

 

 なんだか商人さんとリューンさんは親しげです。もしかして、お友達なのでしょうか?

 それは置いておいて、商人さんの了承は得られましたので、早速取り掛かります。

 そういえば、SCP-2295は報告書の実験記録でも肺を治療していましたね。あれは喫煙によるものでしたが。

 なんとなく報告書に倣って、同じ色のパッチワークを作りました。原作再現、というやつなのでしょうか。

 できたら、すぐ置換します。

 

「! これは……」

「いつ見ても不思議だなぁ。どーよ」

「今までの……息苦しさが、消え去りました……! 正しく、呼吸ができています!」

 

 商人さんは、感動したのか大きく息を吸っては吐くを繰り返します。酸素もよく取り込めているでしょう。

 うまく治せたことは喜ばしいことです。裁縫によって出た糸くずなんかを片付けて、私も嬉しそうな商人さんを見て笑います。

 治した人の嬉しそうな顔は、私にとっても嬉しいものですから。

 ひとしきり感動した後、商人さんは私に深く頭を下げました。

 

「ありがとうございますっ……! このお礼は、必ず、必ず……!!」

「良かったな、パイン。で、カイロスちゃんはなんかコイツにして欲しいこととか、無いの? 商人だから、欲しいもんあったら取り寄せてくれると思うぜ」

[と、言われましても……]

 

 困りました。

 私は物欲が薄いです。本来睡眠も食事も必要ありませんから、豪華なベッドとか、美味しい食べ物にはあまり魅力を感じません。

 布は、この前買い足したばかりです。

 宝石や貴重な本も、さして興味がありません。これといって、欲しいものが出てこないのです。

 

 どうしましょう、となんとなく小さな港に留まる商業船を見て、ふと閃きました。

 もしかしたら反対されるかもしれませんが、ダメ元で、聞いてみてもバチは当たらないでしょう。

 では……

 

[外に、出てみたいです。もっと、世界を見たい]

 

 青い海は、赤色を見慣れてしまった私には、随分魅力的に映るようになっていたのです。







◇外が気になる娘
持病だろうが不治の病だろうがなんのその。
元がクマのぬいぐるみなのでクマが好き。正しキチクマ、テメーはダメだ。
人を助けられたら満足なので、あんま物欲無し。手芸用品も助けるための大切な道具なので個人的な趣味としては認識してない。
狭い村から、広い海に出てみたくなってしまった。

他SCPの擬人化について。※擬人化した場合仲間になります。

  • 主人公だけでいい。
  • 他のSCPも一部擬人化する。
  • 危険度の高いやつを擬人化する。
  • 危険度の低いやつを擬人化する。
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