パッチワークとハートの私   作:月日は花客

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【異動届】
SCP-2295をSCP-2259と誤記していた件により、作者はDクラス職員へと異動処分になりました。
誤字報告してくださった方、ありがとうございます。






報告7:乗員

 

「通達通り、本日からお客様としてこの船に乗船します、カイロス様です」

「──!」

 

 村のある島もだいぶ遠くなったところで、船の皆さんに自己紹介です。私の隣にはパインさん、そして目の前には船員の皆さんが並んでいます。どうやら、紫の衣装が制服のようです。

 私は、お辞儀をして挨拶します。スカートのパニエがふわりと揺れました。

 

「カイロス様は筆談で話されますから、十分な配慮を。では、それぞれ簡単に自己紹介をお願いします」

 

 船員さんは15人。パインさんと同じくスーツを着ている人もいれば、動きやすいシャツ姿の人、作業服を着ている人もいます。

 服のタイプは違えど、紫色がどこかしらにあるので、統一感がありますね。

 どちらかといえば緑の色が目立つ私はとても浮いています。

 

 順番にお名前を聞いて、私もしっかり覚えていきます。

 そして、最後の方。その姿に、私は驚きました。

 なんと、クマさんなのです!

 私のようにクマ耳だけだとか、着ぐるみではありません。本物の、毛皮を持ったクマさんが二足歩行で喋っています。紫のタンクトップが男らしいです。

 

 つい見つめていると、パインさんから補足が入りました。

 

「彼はミンク族です。熊のミンクですね、うちの護衛を担当してもらっています」

「……ハニカムだ」

「無口ですが、怖い人ではありませんよ」

 

 お名前はハニカムさんと言うそうです。

 ハチミツがお好きなんでしょうか? 風船で蜂の巣まで飛ぼうとするより、木を叩き折って獲る方が似合いそうです。

 お顔は強面というやつですし、身長も3メートルはありますが、私は全く怖くありません。

 なぜなら、クマだからです!

 

 私はハニカムさんの近くへ走り寄り、カバンのクマ型金具と、テディベアのシンボルが付いた裁ち鋏を見せました。

 私はパッチワークのぬいぐるみです。クマです。お揃いです!!

 キラキラした瞳で見つめれば、ハニカムさんは少し困惑したように、「クマが好きなのか」と話してくれました。

 私はそれに、コクコクと頷きます。

 あ、Keterのクマは好きじゃないです。

 

「カイロス様はハニカムが気に入られたようですね。船内の案内は彼に任せましょうか」

「……女子供の扱いはわからん」

「力加減を誤って怪我……なんてことがなければ、十分です。カイロス様も、おそらくお喋りの相手を求めているわけでは無いでしょう?」

 

 はい、私はこの世界でクマ仲間を見つけて嬉しいのです。

 私自身も筆談ですし、なかなか、テンポの良い会話というのが難しいですから。

 それにたぶん、ハニカムさんでも私には傷一つ付けられないかと。私は耐久実験などはされませんでしたが、超常存在としてある程度の強度があると自認しています。

 布があれば自己再生も可能ですし。

 

 挨拶のために右手を差し出せば、ハニカムさんも恐る恐るですが握手に応じてくれました。そんなに優しく触らなくても、私は怪我しませんよ。

 私とハニカムさんのやりとりを微笑ましげに見つめる船員の皆さんも、きっと皆良い人です。パインさんのように、肉体に疾患を抱えている人は居ませんでした。

 健康が一番ですね。

 

「カイロス様、この船は商船であり輸送船ですので、お客様には入室をご遠慮している部屋も多数ございます。ハニカムが案内する部屋以外には、近づかないよう、お願いします」

「……迷ったら、おれに言え」

 

 当然ですが、私は外部の者なので完全自由に歩き回れるわけでは無いと理解しています。

 了解の頷きを返せば、早速ハニカムさんが船を案内してくれるようでした。のっしのっしと足音がしますが、なんとなく、普段よりゆっくりと歩いてくれていると察せられます。

 やはり、お優しいクマさんです!

 

「ここが、客室」

 

 まず最初に、船の奥の方にある客室に通されました。

 ふかふかのベッドや、一目で丁寧に作られたとわかる調度品が、なんだかお高いホテルみたいです。

 

「海賊なんかと交戦になった時は、ここから出るな。危ない」

 

 船の奥の方に置かれているのは、外敵から守るためだそう。私は戦えませんから、大人しくここで波が去るのを待つことになりそうですね。

 もし、戦いで深手を負ったり欠損したら、私に任せてくださると嬉しいですが。

 荷物置き場のウォークインクローゼットも備え付けられていましたが、私の荷物はカバンとバスケットのみなので、使うことはないでしょう。バスケットはずっと一緒です。

 

 他にも、食堂や医務室、お手洗いなど案内してもらいました。言葉は確かに少ないですが、大事なことはちゃんと伝えてくれるので、注意事項もちゃんと理解できました。

 波で少し船が揺れた時も、咄嗟に支えてくれたあたり、子ども嫌い……というわけでは無いのでしょう。

 体躯から怖がられたりしたことがあるのでしょうか。なんだか態度の節々から、怖がらない私に対する驚き? 困惑? が伝わってくるんですよね。

 ただの優しいクマさんに怖がっていたら、財団でやっていけませんよ。いやまぁ、無害を装っている奴とかいますけど。

 

 一通り案内も終わったところで、お昼ご飯になりました。案内されたばかりの食堂へ行けば、美味しそうなトマトの匂いが漂ってきます。

 トマトスープでしょうか?

 

「おかえりハニカム。しっかり案内はできたかい?」

「努力はした」

「カイロスちゃん、このコ無愛想だけど、わざとやってるんじゃないからね」

 

 船員の人たちも集まっています。

 笑顔で頷けば、「かわいい〜」と女性陣から声が上がりました。

 男性の方が人数としては多いですが、船員は男女や種族関係無いようです。幅広い採用対象、良いですね。

 

 お昼ご飯はトマトソースのパスタでした。具材にはにんじんやブロッコリーがゴロゴロ。シーフード系なのか貝やエビ系の具も入っています。

 この世界は前世では存在しない生物が多々存在しているので、正式名称を知らない具材が多いです。でも、美味しいのでオーケーです。

 女性の船員さんが、ソースが跳ねないよう紙エプロンを着けてくれました。至れり尽くせり。

 具沢山のパスタはトマトの酸味と甘味のバランスがちょうど良く、ソースが絡まった柔らかい野菜は絶品でした。

 

 隣を見れば、大盛りのパスタを食べ終わったハニカムさんが、紅茶にたくさんのハチミツを入れていました。やっぱり、好物なんでしょうか。

 とろーりと垂れていく黄金をじっと見ていたら、私の紅茶にも垂らしてくれました。流石に、ハニカムさんのと同じ量は入れませんでしたが。

 紅茶の量の半分くらいハチミツを入れたら、それはもう元の紅茶の味が消え去るのでは?

 

「お口に合ったかな」

「タンポポさんの料理は絶品だろ?」

 

 食後の紅茶を楽しんでいると、調理場の方から白衣を着たお姉さんが出てきました。

 調理場で白衣? と思いましたが、なんとタンポポさんは船医兼コックだそうです。兼業とは思えないほど美味しいパスタでした。

 素直に味の感想を伝えると、「それはよかった」とにっこり笑います。ご飯を美味しく作れる人は、良い人と相場が決まっています。

 

「この船はパインさんの意向で少数精鋭でね。わたしみたいに兼業が多いのさ」

「パインさんも、商人兼航海士兼鑑定士ですから、人手不足ってわけじゃないんですけどね」

 

 パインさん、三つも兼業してるんですか?

 それも専門性が高そうなものを、それぞれ海で通用するレベルでマスターしている?

 ヤバいですね。

 

「それに比べたら、医者とコックは類似点が多いから楽だよ。医学は科学、料理も科学だ」

「それをどっちも極めているのが、タンポポさんのやべぇところじゃないんですかね……」

 

 本来、商船というものは少なくても30人、大きいと3桁の船員が基本だそうです。貴重品や資材を運び、取引のためのベリーを沢山積んでいる分、海賊に襲われる確率が恐ろしく高いのだとか。

 戦闘員や予備の人員に予備の予備の人員を乗せると、自然とその数に膨れ上がってしまうそうで。

 今私が乗っているこの船は、通常だと40人は乗せる必要があるとか。

 

「マリンフォードの件で世間が荒れてるからね、物価も高くなってきてるし、削れるものは削るのがパインさんの船のモットー」

「人件費……食費……居住区に割く船のスペース。人が多ければ多いほど良いわけでもありませんからね」

「結果、優秀で根性ある奴しか残らないのがこの船」

「でもパインさんが一番働いてるから、誰も文句は言えないし、言わないんだよなぁ」

 

 パインさんは優秀、とは聞いていましたが、これ程とは。そしてそれについて来れる船員の皆さんも、きっと同じくらいの優秀なのでしょう。

 そんな船に乗せていただけるとは、パッチワークの肺一つと比べると、要求が重すぎたでしょうか……。

 

「……子どもの前で、金の話はどうなんだ」

「いやいや、そういうつもりじゃなくて……パインさんの凄さを知って欲しかっただけだよ。なんだか、パインさんがカイロス嬢に恩があるって言ってたからさ」

「恩?」

「パインさん、肺が悪かったでしょ? それを治してくれたんだってよ」

 

 恩の答えに、食堂の皆さん……特にタンポポさんが、驚愕の叫びを上げました。

 パインさんの肺に関することは、船員の皆さんには共有されていたようですね、仕事仲間の健康事情はきちんと把握しないとですもんね。

 にわかに食堂が騒がしくなります。ハニカムさんは変わらず2杯目の紅茶にハチミツを注いでいます。糖とか大丈夫なんでしょうか。

 

「あれって、不治じゃなかったの?」

「医学の心得が?」

「でもタンポポさんも無理だって……」

 

 ざわざわと波紋が広がっていきます。

 どうしたものでしょう、船員の皆さんどこも悪くないので、実演とか、できませんし。

 治したことは嘘ではありませんが、別に恩を売るとかそういうつもりでやったんじゃ無いですし。

 タンポポさんが興味津々とこちらを見てきますが、特性について説明した方が良いのでしょうか?

 

「はいはい、お客様の深入りは禁止事項ですよ〜」

「うおっ、パインさん」

 

 そこに、手を叩きながらパインさんが入室しました。さっきまでは進路に問題が無いか海を見ていたそうです。

 私の周りを囲っていた船員たちが、その言葉で自分の席へ戻っていきます。

 

「私の肺を治してくれたのは真実ですが、そう言った情報も一つの宝物、商品ですから。変に聴き出そうとしないように」

「はい、申し訳ありません。この話は、今後はしないようにしますか」

「マ、パインさんが客としてこの船に乗せた時点で、只者じゃないんだしな。ごめんなカイロス嬢」

 

 おお、流石商人の一団。情報管理もしっかりしています。

 パインさんの一言で、全員が素直に従ったのも、統制が取れていますね。

 情報管理は大切です。ミーム汚染は下手な物理的Keterよりタチが悪いです。

 ねこですよろしくおねがいします。ね。

 

「明日の昼には次の島に着きますから、出荷商品と帳簿の用意は今晩までに終わらせてください。カイロス様は、それまでご自由に過ごしていただけると」

「医務室には本もあるし、甲板で海を眺めるのも良いかもね。船旅が初めてなら、調子が悪くなったらいつでも言って」

「海賊が来ても、おれらとハニカムが追っ払ってやるから、安心しろよ!」

 

 頼もしい限りです。

 突然の要求でしたし、見た目は小娘ですから、船員の方にご迷惑に思われないか心配だったのですけど……快く受け入れていただいて。何かお礼に、皿洗いでも手伝えませんかね?

 

 紅茶を飲みながら、パインさんの方を見れば、アルカイックスマイルが少し、自分の仲間を自慢するようなものになりました。

 健全な信頼関係とは美しいものです。

 

「次の島は、春島。“白未満の町(グレイッシュ)”です」








◇クマさん大好きっ子
めちゃ優秀なエリート商人軍団に感嘆。
パインさんもかっこいいけど、クマさんのハニカムさんが気になって仕方がない。
ちなみにハニカムは戦闘員兼清掃員。綺麗好き。
トマトソースパスタが出てきた時、誰かジョークを言わないかちょっと警戒した。

他SCPの擬人化について。※擬人化した場合仲間になります。

  • 主人公だけでいい。
  • 他のSCPも一部擬人化する。
  • 危険度の高いやつを擬人化する。
  • 危険度の低いやつを擬人化する。
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