街中はキラキラと装飾で輝き、
楽しい音楽や声が聞こえてくる。
季節はクリスマス、でもいつもの暗くて寒い海じゃない。
ここはニンゲン達が行き交う陸地の街。
そしてここはクリスマスマーケットという、お菓子や雑貨の屋台が並ぶイベントをしている場所らしい。
そんなところを私は周りを見ながら歩き回る。
海ではみたことのない道具、布、そして嗅ぐことのないニオイ。
何もかもが新しい、本当に生まれ変わったかのよう。
初めて陸地で過ごすクリスマスに心を躍らせていた。
かつてはお姫様が陸地に上がるのを反対された、なんてこともあるらしいけど。
今はこうして行こうと思えばニンゲンの街へ自由に行くことができるようになっている。
もちろん高校生になってからじゃないといけないし、陸地に上がるために魔法の薬を使って"アシ"を手に入れて歩く練習はいっぱいしたけど。
「あのキラキラしたもの、なんだろう……」
「貝殻じゃないし……」
「あっちの丸い輪っかは……」
「サンゴでもイソギンチャクでもないし……」
うーん……わからない。
なんて独り言を呟きながらぽつりと歩いている。
本当は誰かと来たかったけど、クリスマスはみんな家にいるらしい。
残念だな。
歩くのに慣れていないのもあって、ベンチで少し休む。
「楽しいはず、なんだけどな」
そう言いながら周りをみて、ため息をつきながら俯く。
「私も家にいるべきだったのかな……」
ぽんぽんっ
「ねぇ、そこのあなた」
突然肩を叩かれる。
「え? 私?」
声の先を見ると同い年くらいの女の子がいた。
「そんな格好で寒くないの?」
寒い?
そう言われて、自分の服装を見直してみる。
楽に着られるよ、と先輩に勧められたふわふわな白いワンピース。
軽く歩ける軽めのショートブーツを合わせてきた。
冷たい海の出身なのもあって、これが寒いとも思わないし、これ以上服を着るのも肌に違和感があってこれで良いかと思っていた。
しかし、ニンゲンからみると随分薄着になってしまっているようだ。
「あ、私はこれで大丈夫」
「あら、そうだったの」
「何か思い詰めたような顔してたけど、大丈夫そ?」
私の顔を心配そうに見つめてくる。
「大丈夫かどうかで言うと、大丈夫かな?」
「ふーん、それなら良いけど」
「ま、色々と気をつけてね」
そう言って女の子は立ち去ろうとする。
咄嗟に彼女の手を取る。
「えっ?」
「お願いがあるんだけど、このマーケットを案内して欲しいの!!」
「私、田舎暮らしでこういう場所にあんまりきたことがなくて、知らないことだらけで」
ヒトリでいても何もわからないし、なるようになれっと思いながら必死にお願いする。
「ふーん」
「まっ、私も暇だからいいよ」
「代わりにさ、後で美味しいもの奢ってよ」
女の子は笑っている。
「ふぇ? いいよ」
「でも、高すぎるのは買えないからね?」
「案内をお願いします」
女の子を先導に街を歩く。
女の子がする話はどれも面白くて、街の案内
だけでなくいろんなニンゲンの話をしてくれた。
知らない食べ物、知らないお店、なんでも知っている。
女の子とおしゃべりをしながら歩く街は先程より明るく感じた。
ひゅーっと冷たい風が吹いて、女の子はふと「さむっ」と呟いた。
女の子をよくよく見てみると、もこもこな上着に、マフラーに手袋、完璧な防寒対策がなされている。
これがこちらの世界なのか……。
そう思いながら女の子をじっと見つめる。
「あれ、もしかして、やっぱり寒い?」
なんて女の子がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「あ、いや、そんなことは……」
話を遮るように女の子は自分のマフラーを外し、私の首元にマフラーを巻いてきた。
「ひやっ」
慣れない感覚に体を震わせる。
「どう? あったかいでしょ」
確かに暖かい。
でも首元に何かがある感覚は慣れない……
まるでワカメが巻き付いているかのような。
「でもあなたは寒くないの?」
「んー」
「寒いからさ、あそこの紅茶奢ってよ」
そこに目をやると煌びやかな飾りにたくさんのかわいいデザインの紙コップ、華やかな香りが漂うお店が見える。
「喫茶店?」
「えー、この店も知らないの!?」
「悪かったね。世間知らずなんですー」
よくわからないので女の子と同じものを頼む。
受けっとった飲み物からほくほくとでる蒸気に顔を当てたり、手を振って遮ってみたりする。
チラリと女の子をみる。
ふーふーと蒸気で遊びながら飲みはじめていた。
私もそれに続き口をつける。
「あっつい」
なんだこの熱さは……。
そんな私をみて女の子は笑う。
私もつられて笑う。
「ごめん、そろそろ行かなきゃ」
「マフラーはこの紅茶とあんたの面白さに免じてあげるわ」
「大切にしてよね」
面白さってなによ、なんて顔を膨れさせてつつ
「あなたのおかげでこの街のことが知れて助かった」
「ありがとね」
またいつかー、なんて言いながら女の子はスタスタと行ってしまった。
楽しかったなあ、なんて思いながら街を見渡す。
街の灯りに周りの雑音、そしてヒトリの私。
すっと寒さを感じ、マフラーをにぎる。
「あったかい……」
これも悪くない、かな。