魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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12 判断の保留

 戦闘の観測を終えた後、燐音は一人で状況を整理していた。

 

 今回発生した現象は、偶発とは考えにくい。

 少なくとも、条件の組み合わせには再現性がある。

 

(再発の可能性が高い)

 

 問題の結晶体は、当初想定していたよりも影響範囲が広い。 単なるエネルギー源、あるいは補助装置として扱うには危険が過ぎる。

 

 次元振を引き起こしたという事実が、その評価を一段引き上げた。

 

(管理局の分類に照らすなら、高危険度遺産に該当する可能性が高い)

 

 現時点では仮定に過ぎない。 だが、仮定のまま放置できる規模ではなかった。

 

 次に同様の事象が発生した場合、 影響は戦闘者だけに留まらない。 周囲の環境、無関係な生命圏まで巻き込む。

 

(生命の危機に直結する)

 

 その判断について、アグレも同意を示した。

 

『観測された現象は、局地的制御の範囲を逸脱しています』 『再現条件が成立した場合、被害拡大は不可避です』

 

 結論は出さない。 情報が不足している。

 

 ただし、準備は必要だ。

 

(姿を隠し続ける前提は、修正する)

 

 燐音は判断を保留したまま、休息に入った。

 

 ──―

 

 数日後。

 

 放課後の校舎は、人の気配が薄れ始めていた。 燐音は廊下を歩き、足を止める。

 

 少し先に、なのはがいた。 視線は落ち、動きも鈍い。

 

(魔力負荷は許容範囲内。致命的ではない)

 

 観測はそこで終わるはずだった。

 

「いい加減にしなさい!」

 

 鋭い声が廊下に響いた。 アリサだった。

 

「何を隠してるか分からないけど……  つらいなら言いなさいよ。友達でしょ!」

 

 なのはは言葉に詰まり、視線を彷徨わせる。 説明できない理由がある。

 

(秘匿事項)

 

 アリサは歯噛みし、踵を返した。

 

「もう知らない!」

 

 すずかが慌てて後を追う。 二人の足音が、次第に遠ざかる。

 

 廊下に残ったのは、なのはと燐音だけだった。

 

 沈黙。

 

 しばらくして、背後から声が投げられる。

 

「……なのはのこと、心配じゃないの?」

 

 振り返ると、曲がり角の向こうにアリサがいた。 完全には、立ち去れていなかったらしい。

 

 燐音は即答した。

 

「心配していない」

 

 感情は込めない。 事実を述べただけだ。

 

「怪我もしてないし、動けている。

 現時点で、危機的状況ではない」

 

 アリサは一瞬だけ目を見開き、 それから小さく息を吐いた。

 

「……そう。あんたは、そういう子だったわね」

 

 今度こそ背を向け、歩き去る。

 

 燐音はそれを見送り、視線を戻した。

 

(選択は、なのは自身が行う)

 

 背後から、縋るような視線を感じた。 だが、振り返らなかった。

 

 それからしばらくの間、 なのはが燐音を誘うことはなくなった。

 

 昼休みも、放課後も、 燐音は一人で過ごす時間が増えた。

 

 静かになった。 それだけのことだ。

 

(環境変化は軽微)

 

 観測対象との距離が変化しただけで、 判断を修正する理由にはならない。

 

 ──―

 

 夕方、燐音は反応を検知した。

 

 結晶体由来のエネルギー反応。 位置は市街地から外れた区域。 前回と同系統だが、出力は高い。

 

(再現性を確認する)

 

 万が一に備え、燐音は現場を直接観測できる位置へ移動した。 干渉は行わない。 あくまで観測に徹する。

 

 視界に入ったのは、なのはと、対峙する少女だった。

 

 前回と同一個体。 それ以上の情報はない。

 

 戦闘は既に始まっていた。

 

 なのはは距離を取り、攻撃を最小限に抑えている。 その合間に、言葉を投げかけていた。

 

(対話を継続している)

 

 初戦では敗北。 二戦目は、相手の善性を仮定した上での選択。 そこまでは、理解できる。

 

 しかし今回は条件が違う。

 

 結晶体が次元振を引き起こすことを、 なのはは既に体験している。 取り扱いを誤れば、 自身の生命だけでなく、周囲を巻き込む。

 

(認識しているはずだ)

 

 それでも、なのはは対話を止めなかった。

 

(合理性を見出せない)

 

 想定していた行動モデルが成立しない。 危険度評価が更新される。

 

 燐音は、結晶体の反応に意識を集中させた。

 

 出力が上昇している。 前回と同様の兆候。

 

(同一現象)

 

 再現性が確定した。

 

 その瞬間、燐音は決断する。

 

『アグレ。準備』

 

『了解。干渉レベル最小で待機します』

 

 現象の拡大を止めることを最優先とする。

 

「……セッ」

 

 展開しかけた魔法陣が、途中で停止した。

 

『警告。広域探索反応を検知』

 

 想定外の反応。

 

 上空。 視認できない位置で、転送系の魔力が集中している。

 

(精度が高すぎる)

 

 個人規模ではない。 限定された一点への、ピンポイント展開。

 

『次元跳躍兆候。カウント開始』

 

「中断」

 

 即座に魔力を霧散させ、物陰に身を隠す。 距離の関係で詳細は視認できないが、 感知される魔力量は大規模だった。

 

(組織行動)

 

 規模、精度、展開速度。 照合結果は一つしかない。

 

(時空管理局本隊)

 

 次元振は停止している。 誰かが介入した。

 

 燐音は、介入を中止する。

 

 現象の危険度を一段引き下げ、 状況を再評価する。

 

(管理局が動いた以上、即時の破局は回避された)

 

 だが、問題の結晶体そのものが 無力化されたわけではない。

 

 燐音は、誰にも悟られないようその場を離れた。

 

 介入はしない。 代わりに、解析を行う。

 

 燐音は解析を開始した。

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