魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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13 欠けた配置

 次元航行が解除される。

 

「次元転移、完了。現在位置──地球圏外縁、衛星軌道付近」

 

 艦内に張りつめていた空気が、わずかに緩む。

 だが、それは状況が好転したことを意味しない。

 

 警告音が鳴った。

 短く、鋭く、即応を促す音。

 

「次元歪曲反応、再検知!」

「座標、地表付近! 一度目と同系統……ですが、より不安定です!」

 

 リンディ・ハラオウンは表示された波形を確認し、静かに頷いた。

 

「……やはり、兆候でしたね」

 

 一度目の異変は偶発ではない。

 条件が揃えば、再び起こる──その予測は、裏切られていなかった。

 

「臨界到達予測、短縮」

「戦闘が継続した場合、二度目の発生確率が上昇します」

 

「任務優先度を引き上げます」

 

 リンディの声に迷いはなかった。

 

「ロストギアの回収は二次。

 最優先は、次元振を起こさせないことです」

 

 クロノ・ハラオウンは、戦闘データへ視線を落とす。

 

 二名の魔導師。

 拮抗した魔力量の数値。

 その推移。

 

 戦闘中にも関わらず、極端な乱れは見られない。

 

「……想定以上ですね」

 

 一瞬、言葉を選ぶような間。

 

「管理局基準で見ても……」

 

 言い切らず、そこで止める。

 それだけで、危険性は十分に共有されていた。

 

 リンディは、小さく息を吐く。

 

「ええ……。

 このまま戦えば、力の問題では済まなくなりますね」

 

 視線を表示に戻す。

 

「高い魔力同士が衝突すれば、

 結果は当人たちだけのものではなくなる」

 

 一拍。

 

「それを、ここで止めます」

 

「クロノ。現地への即時介入をお願いします」

「了解しました」

 

 それは命令というより、

 役割の確認だった。

 

 アースラは、

 壊れる前の世界へ手を伸ばしていた。

 

 ◆

 

 戦闘は、唐突に中断された。

 

 空間が歪み、転移光が走る。

 現れた少年は、声を荒らげることなく場を見渡した。

 

「次元歪曲反応を確認した。

 このままでは、影響が広がる」

 

 それは警告というより、

 現状の共有だった。

 

 空気が張りつめたまま、

 だが剣呑さは増さない。

 

 戦闘は継続されなかった。

 相手は距離を取り、そのまま撤退を選ぶ。

 

 その進路に、なのはが立つ。

 

 強く遮ったわけではない。

 踏み込んだのも、ほんの半歩。

 

 だが、結果として前に出た形になる。

 

 一瞬、空気が止まる。

 

 少年はなのはを見る。

 評価も断定も含まれない、短い視線。

 

「……保護対象が増えたな」

 

 淡々とした言葉だった。

 それだけで、場の扱いが切り替わる。

 

 戦闘は終わり、

 事態は引き受けられた。

 

 ◆

 

 翌日、高町なのはは登校していなかった。

 

 燐音がそれを直接確認したわけではない。

 廊下の人の流れ、

 教師の動き、

 断片的な会話。

 

 それらを繋げれば、結論は一つになる。

 

(不在)

 

 理由を特定する必要はない。

 

 秩序組織との接触後、

 一時的に日常から切り離される確率は高い。

 

(想定の範囲内)

 

 管理局本隊が動いた以上、

 局地的な破綻は回避されている。

 

(即時介入が行われた場合、

 最悪の分岐は選択されない)

 

 情報は増やさず、

 結論だけを保持する。

 

 昼休み前、廊下で呼び止められた。

 

 アリサ・バニングスだった。

 

「燐音。なのはのこと、何か知ってる?」

 

「知らない」

 

 即答だった。

 

「昨日から来てないって聞いて……」

 

「不在であることは、知っている」

 

「……え」

 

 アリサが一瞬、言葉を詰まらせる。

 

「秩序組織と接触した可能性がある。

 それ以上の詳細は不明」

 

 推測は含まれているが、断定ではない。

 

 アリサは何か言いかけ、やめた。

 

(情報の非対称性は解消されない)

 

 ◆

 

 翌々日、高町なのはは登校した。

 

 外見上の変化はない。

 行動パターンも、以前と大きく変わらない。

 

(観測可能な範囲では、安定)

 

 昼休み。

 

「あのね……もう少しだけ、協力することにしたんだ」

 

 その言葉を、燐音は一度だけ処理する。

 

(危険度評価、再照合)

 

 高魔力事象に継続的に関与した場合、

 事故発生率は上昇する。

 

 それでも、なのはは関与を選択した。

 

(合理性を見出せない)

 

 だが、この判断は初出ではない。

 

(同一傾向、再観測)

 

 削除条件、未達。

 

 燐音は結論を出さない。

 

(理解不能事象。再登録)

 

 評価は保留。

 解析対象から外さない。

 

 燐音は視線を落とす。

 

 管理局の探索範囲。

 結界魔法の展開密度。

 検知間隔。

 

 取得可能なデータは十分にある。

 

(直接介入は不要)

 

(距離を取ったまま、解析を継続)

 

 燐音は、元の位置へ戻った。

 

 観測者としての位置から、

 一歩も踏み出さないまま。

 

 

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