管理局によるジュエルシードの回収は、本格化していた。
燐音は、それを距離を取ったまま観測していた。
直接関与はしない。
探索魔法の感知範囲に触れない位置を保ちつつ、不自然にならない頻度で移動する。
(探索魔法の精度は高い)
感知に引っ掛かるか否かは、距離だけで決まらない。
行動の連続性、移動の規則性、魔力の揺らぎ。
それらが一定の範囲に収まっていれば、異常として処理されない。
(完全な隠蔽は不要)
管理局が動いたことで、回収速度は明らかに上がっていた。
その一方で、燐音の知らないところで、金髪の魔導師による回収は停滞し始めていた。
日々は、静かに経過していく。
──
五月中旬。
海の方角で、大きな魔力反応を感知した。
一瞬だけ強く、すぐに消える。
規模は大きいが、継続性がない。
海中に落下したジュエルシードを回収するため、管理局が大規模な魔法処理を行ったと推測できる。
(興味はある)
──だが、まだ早い。
探索魔法の解析は最終段階に入っていたが、
未完了の状態で不用意に動く理由はない。
──
五月二十五日。
管理局が使用している探索魔法の解析が完了した。
検知アルゴリズム。
魔力の照合方式。
探索範囲の展開パターン。
それらを把握した上で、
干渉されず、かつ異常として検出されない形での行動指針を構築する。
(完了)
これで、探索魔法の内部に入り込んでも、
燐音が捕捉されることはない。
(解析対象、終了)
──
翌日。
アリサから連絡が入った。
「ねえ、庭で大きな犬を保護したんだけど」
大型。
淡い毛色。
負傷している。
言葉を並べられる前に、条件は揃った。
(特徴が一致する)
フェイトと呼ばれる魔導師が連れていた使い魔と、ほぼ同一。
偶然と処理するには一致点が多い。
「見に来なさいよ。放っておけないでしょ」
断る理由はなかった。
燐音は同行する。
アリサの家の庭で、
件の“犬”を確認した。
外見は犬に近いが、
魔力反応は通常の動物とは異なる。
(使い魔)
損傷は深刻だが、致命的ではない。
応急的な処置は既に行われている。
燐音は手を出さない。
介入の必要はない。
──
その頃、なのはの様子にも変化があった。
学校の休み時間、
短時間だが、誰かと念話を交わしている。
(管理局、もしくはユーノ)
会話の内容までは分からない。
だが、断片的な情報から、
フェイトと呼ばれる魔導師の身に、差し迫った危険があると判断できた。
(救援要請)
──
五月二十七日。
この日、なのはと当該魔導師の決闘が行われた。
燐音がそれを直接見たわけではない。
念話の断片、魔力反応の推移、
そして周囲の異常な静けさ。
それらを総合した結果だった。
儀式魔法。
大規模魔法。
自身の魔力量では再現不可能な領域の魔法を、
観測対象として捉えることができた。
(有意義)
戦闘の終盤、
次元を越えたと推測される転移反応が発生する。
だが、燐音はそれを追わない。
(観測不能)
自身は次元を越える手段を持たない。
観測手段も存在しない。
(観測の意味なし)
燐音は、その場を離れた。
──
それから、幾日も経たないうちに、
明確な変化が現れた。
管理局の活動が沈静化し、
探索魔法の展開頻度が下がる。
学校は通常通り再開され、
なのはも、以前と変わらず登校するようになった。
ジュエルシードに端を発した一連の事象は、
収束したと判断できる。
次元振を引き起こす要因は減少し、
日常は、表向きには元に戻った。
(少なくとも、観測できる範囲では)
燐音は、解析結果を整理し、
不要になった項目を閉じる。
(観測、終了)
だが、削除はしない。
次に同様の条件が揃った場合に備え、
記録として残す。
燐音は、変わらない距離を保ったまま、
日常へと戻った。