事後処理は、淡々と進められていた。
探索魔法の展開ログは整理され、
異常値として記録されていた反応も、すでに収束している。
管理外世界において、
探索魔法展開中に断続的な魔力反応を確認。
ただし、継続性なし。
周辺事象との明確な因果関係は認められず、
環境要因による揺らぎの可能性が高いと判断される。
魔力反応は単発的で、
再現性を示す兆候は確認されなかった。
探索網の再展開による追跡は不要。
追加調査も行われない。
対象は、経過観察の範囲外。
危険性なし。
管理局基準に照らし、
介入の必要は認められない。
記録は保存され、
それ以上の注記を与えられることはなかった。
報告書は閉じられ、
案件番号には「完了」の処理が付与される。
世界は、一区切りをつけた。
◆
その頃、地上では。
学校はいつも通りで、
特別な変化は、もう見当たらなかった。
授業の進行も、
廊下のざわめきも、
昼休みの喧騒も、
以前と同じ周期で繰り返されている。
ユーノくんは、以前ほど忙しそうではなく、
管理局の人たちも、
目立って慌ただしく動いてはいない。
念話が突然割り込むこともなく、
空気が張りつめる瞬間も訪れない。
──終わったんだ。
なのはは、そう思っていた。
フェイトのことも、
あの騒ぎも、
すべてが片付いたとは言えないかもしれない。
まだ分からないことは残っているし、
言葉に出来ない引っかかりも、
完全に消えたわけではない。
それでも、
少なくとも「今すぐ何かが起こる」気配はない。
それだけで、
呼吸は少し楽になった。
燐音の姿を見かけると、
なのはは、ほんの少しだけ安心する。
教室の外。
廊下の向こう。
校門付近。
距離はある。
声をかけるほど近くはない。
それでも、
そこにいると分かるだけで、
大丈夫だと思えた。
きっと、分かっていたのだと思う。
あの時も、今も。
理由は分からない。
確かめるつもりもなかった。
ただ、
「大丈夫なんだ」と思えた。
それで、十分だった。
◆
朝は静かだった。
孤児院の廊下に差し込む光と、
食堂に並ぶコップの触れ合う音。
朝食の準備で漂う、牛乳の匂い。
足音は少なく、
人の動きはゆっくりとしている。
掃除を終え、
燐音は、いつもの位置に戻った。
机の配置。
視線の高さ。
動線の確保。
すべてが、前日と同じだ。
管理人夫妻が、
何気ない調子で言った。
「安心しました」
何についてかは、分からない。
説明もされなかった。
燐音は、その言葉を否定しない。
事後処理が完了したことは事実だ。
環境の不安定要素は除去され、
日常は継続している。
最近、
柔らかくなったとか、
笑っているみたいだとか、
そんな評価を受けることがある。
(評価基準が不明)
音声の変化か、
表情筋の動作か、
それとも行動頻度の問題か。
変化があったかどうかは判断できない。
そもそも、比較対象が存在しない。
(未確定)
記録を確認する。
解析結果は整理され、
不要になった項目は閉じられている。
探索魔法。
結晶体反応。
次元振兆候。
いずれも、現時点では非活性。
(観測、終了)
だが、削除はしない。
同様の条件が再び揃った場合に備え、
記録として保持する。
燐音は、
いつもと同じ距離を保ったまま、
日常へ戻った。
判断は、
まだ保留されたままだった。