魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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15 保たれた距離

 事後処理は、淡々と進められていた。

 

 探索魔法の展開ログは整理され、

 異常値として記録されていた反応も、すでに収束している。

 

 管理外世界において、

 探索魔法展開中に断続的な魔力反応を確認。

 ただし、継続性なし。

 

 周辺事象との明確な因果関係は認められず、

 環境要因による揺らぎの可能性が高いと判断される。

 

 魔力反応は単発的で、

 再現性を示す兆候は確認されなかった。

 

 探索網の再展開による追跡は不要。

 追加調査も行われない。

 

 対象は、経過観察の範囲外。

 

 危険性なし。

 管理局基準に照らし、

 介入の必要は認められない。

 

 記録は保存され、

 それ以上の注記を与えられることはなかった。

 

 報告書は閉じられ、

 案件番号には「完了」の処理が付与される。

 

 世界は、一区切りをつけた。

 

 ◆

 

 その頃、地上では。

 

 学校はいつも通りで、

 特別な変化は、もう見当たらなかった。

 

 授業の進行も、

 廊下のざわめきも、

 昼休みの喧騒も、

 以前と同じ周期で繰り返されている。

 

 ユーノくんは、以前ほど忙しそうではなく、

 管理局の人たちも、

 目立って慌ただしく動いてはいない。

 

 念話が突然割り込むこともなく、

 空気が張りつめる瞬間も訪れない。

 

 ──終わったんだ。

 

 なのはは、そう思っていた。

 

 フェイトのことも、

 あの騒ぎも、

 すべてが片付いたとは言えないかもしれない。

 

 まだ分からないことは残っているし、

 言葉に出来ない引っかかりも、

 完全に消えたわけではない。

 

 それでも、

 少なくとも「今すぐ何かが起こる」気配はない。

 

 それだけで、

 呼吸は少し楽になった。

 

 燐音の姿を見かけると、

 なのはは、ほんの少しだけ安心する。

 

 教室の外。

 廊下の向こう。

 校門付近。

 

 距離はある。

 声をかけるほど近くはない。

 

 それでも、

 そこにいると分かるだけで、

 大丈夫だと思えた。

 

 きっと、分かっていたのだと思う。

 あの時も、今も。

 

 理由は分からない。

 確かめるつもりもなかった。

 

 ただ、

「大丈夫なんだ」と思えた。

 

 それで、十分だった。

 

 ◆

 

 朝は静かだった。

 

 孤児院の廊下に差し込む光と、

 食堂に並ぶコップの触れ合う音。

 朝食の準備で漂う、牛乳の匂い。

 

 足音は少なく、

 人の動きはゆっくりとしている。

 

 掃除を終え、

 燐音は、いつもの位置に戻った。

 

 机の配置。

 視線の高さ。

 動線の確保。

 

 すべてが、前日と同じだ。

 

 管理人夫妻が、

 何気ない調子で言った。

 

「安心しました」

 

 何についてかは、分からない。

 説明もされなかった。

 

 燐音は、その言葉を否定しない。

 

 事後処理が完了したことは事実だ。

 環境の不安定要素は除去され、

 日常は継続している。

 

 最近、

 柔らかくなったとか、

 笑っているみたいだとか、

 そんな評価を受けることがある。

 

(評価基準が不明)

 

 音声の変化か、

 表情筋の動作か、

 それとも行動頻度の問題か。

 

 変化があったかどうかは判断できない。

 そもそも、比較対象が存在しない。

 

(未確定)

 

 記録を確認する。

 

 解析結果は整理され、

 不要になった項目は閉じられている。

 

 探索魔法。

 結晶体反応。

 次元振兆候。

 

 いずれも、現時点では非活性。

 

(観測、終了)

 

 だが、削除はしない。

 

 同様の条件が再び揃った場合に備え、

 記録として保持する。

 

 燐音は、

 いつもと同じ距離を保ったまま、

 日常へ戻った。

 

 判断は、

 まだ保留されたままだった。

 

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