魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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18 となりの場所

 動画が始まるまでの、ほんの数秒。

 

 なのはは、その間が少しだけ長く感じられて、

 無意識のうちに背筋を伸ばしていた。

 待っているだけなのに、

「呼ばれている」ような気分になる。

 

「……来たよ」

 

 アリサがそう言って、画面を指で軽く叩く。

 

 小さな電子音のあと、

 画面の向こうに、見慣れた金色が映った。

 

『こんにちは。フェイトです』

 

 淡々とした声。

 いつもと同じ調子なのに、

 画面越しになると、少し遠く感じる。

 距離ではなく、層が違うような──そんな感覚。

 

『えっと……急に送ってごめんなさい。

 元気にしてるかな、って思って』

 

 背景は、白い壁。

 管理局の居室だと、なのははすぐに分かった。

 余計なものが映らない、整えられた空間。

 

(……そっか)

 

 一緒に戦っていた時とは、違う場所。

 違う時間。

 違う「日常」。

 

『こっちは、変わりなく過ごしています。

 大きな問題は……今のところ、ないです』

 

 言葉を選びながら話しているのが分かる。

 一拍置く癖も、語尾の揺れも、

 全部フェイトらしくて、なのはは少しだけ息を緩めた。

 

『なのはも、無理はしてないかなって。

 ……それだけ、伝えたくて』

 

 短い沈黙。

 言い足りないことがあるのに、

 敢えて言わない間。

 

『それじゃ。

 また、話せたら』

 

 動画はそこで終わった。

 

 部屋に、しばらく音が戻らない。

 再生終了を知らせる表示だけが、静かに点灯している。

 

「……真面目だよね」

 

 最初に口を開いたのは、アリサだった。

 

「手紙でもいい内容じゃない?」

 

 すずかが、くすっと笑う。

 

「でも、フェイトちゃんらしいと思う」

 

 なのはは、画面を見つめたまま、頷いた。

 

「うん……」

 

 それ以上、言葉は出てこなかった。

 胸の奥に残ったものを、

 どう言葉にしていいか分からない。

 

 すぐ隣で、燐音が静かに立っている。

 視線は画面に向いているが、

 特に表情を変えた様子はない。

 

(……いつも通りだ)

 

 その距離感が、少しだけ心強かった。

 

「じゃ、返信撮ろっか」

 

 アリサが言う。

 

「せっかくだし、みんなで」

 

 なのはは一瞬迷ってから、頷いた。

 

「……うん」

 

 カメラの位置を調整して、

 画面の中心に立つ。

 フレームの中に収まる自分を見て、

 ほんの少しだけ緊張する。

 

 レンズの向こうに、フェイトがいると思うと、

 息が浅くなる。

 

「えっと……」

 

 一度、息を吸う。

 

「フェイト、ビデオレターありがとう」

 

 言葉は、思ったより自然に出てきた。

 

「元気だよ。

 今は……友達と一緒に見てるんだ」

 

 なのはは、少し横を向く。

 

「紹介するね」

 

 アリサが、腕を組んだまま前に出る。

 

「アリサ・バニングス。

 ……よろしく、でいいのかしら」

 

 ぶっきらぼしさはあるが、

 声に棘はない。

 

 すずかが、隣で軽く会釈する。

 

「月村すずかです。

 なのはと、同じクラスだよ」

 

 最後に、燐音が一歩前に出る。

 

 一瞬だけ、言葉を探すように間を置いてから。

 

「……燐音」

 

 それだけ。

 

 余計な説明はない。

 自己主張もしない。

 

 なのはは、少し笑って続ける。

 

「みんな、いい人だよ」

 

 それはフェイトに向けた言葉で、

 同時に、自分自身に向けた言葉でもあった。

 

「また、話そうね」

 

 軽く手を振って、動画を止める。

 

 撮影が終わると、

 なのはは一気に力が抜けた。

 

「……疲れた」

 

「当たり前でしょ」

 

 アリサが肩をすくめる。

 

「でも、悪くなかったと思うわ」

 

 すずかも頷いた。

 

「きっと、伝わるよ」

 

 燐音は、少し離れた位置からそれを見ていた。

 

(……共有完了)

 

 それ以上の判断は、しない。

 評価もしない。

 介入も、不要。

 

 ◆

 

 フェイトは、部屋に戻ると、

 すぐに返信のビデオレターを再生した。

 

 椅子に腰掛け、

 一人で、静かに。

 

 画面の中のなのはは、

 思っていたよりもずっと、普通だった。

 

 笑っていて、

 少し照れていて。

 

 そして、

 知らない子たちと並んでいた。

 

(……友達)

 

 胸の奥が、わずかに揺れる。

 

 羨ましい、とは思わない。

 遠い、とも言い切れない。

 

 ただ──

 

(……安心、した)

 

 それだけだった。

 

 動画を止めて、

 フェイトは深く息を吐く。

 

 ──―

 

 少しして、廊下に出ると、

 ユーノが資料を抱えて歩いてきた。

 

「あ……フェイト」

 

「ユーノ」

 

 少しだけ、間を置いて。

 

「……なのはの友達って、どんな子たちなの?」

 

 ユーノは、すぐには答えなかった。

 

 考えるように、視線を上に向けてから。

 

「アリサは……強い、かな」

 

「強い?」

 

「うん。

 なのはが引っ張られる事も多い気がする」

 

 フェイトは、想像する。

 画面の中の、腕を組んだ少女を。

 

「すずかは?」

 

「優しいと思う。

 そばにいるだけで、落ち着く感じ」

 

「……燐音は?」

 

 ユーノは、少しだけ言葉を選んだ。

 

「変わってるけど……

 なのはは、あの子を信頼してる」

 

 フェイトは、小さく頷いた。

 

「そっか」

 

 それ以上、聞かなかった。

 

 夜。

 

 フェイトは、簡単な文章を打ち込む。

 

 長くならないように。

 重くならないように。

 

 ビデオレター、見たよ。

 元気そうで、少し安心した。

 友達も……いい人たちだと思う。

 また、話そう。

 

 送信ボタンを押して、

 画面を閉じる。

 

 約束は、しない。

 未来の話もしない。

 

 それでいい。

 

 なのはの部屋では、

 そのメッセージを受け取って、

 なのはが静かに笑った。

 

(……よかった)

 

 それ以上、考えなかった。

 

 今は、

 それで十分だった。

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