魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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24 包囲

 艦内は、静かだった。

 

 緊張がないわけではない。

 むしろ逆だ。すべての準備が整いつつあり、あとは手順通りに進めるだけ──

 その段階に入ったがゆえの静けさだった。

 

 警報は鳴っていない。

 緊急出動を示す表示も出ていない。

 

 だが、各コンソールに映る数値は、

 すでに平常運用の域を越えている。

 

「対象、指定空域に侵入」

 

 オペレーターの報告が、淡々と響く。

 声色に変化はない。

 それでも、艦橋の空気がわずかに引き締まった。

 

「補足確認。第二結界、第三結界、同時展開──可能と思われます」

 

 クロノ・ハラオウンはモニターから目を離さず、短く頷いた。

 

「予定通りだ。包囲を優先」

 

 対象の戦闘能力については、

 すでに十分なデータが揃っている。

 

 単独での撃破は難しい。

 だが、押さえ込むことは可能。

 

 だからこそ、無理をする必要はなかった。

 

 地球上空。

 不可視の魔法陣が次々と展開され、

 空間そのものが区切られていく。

 

 固定ではない。

 だが、流動のまま逃げ場を減らす設計だ。

 

「逃走経路、遮断開始」

 

 その瞬間、別回線が割り込んだ。

 

「リンディ提督より、指示です」

 

 艦橋の空気が、さらに一段引き締まる。

 

『相手は強敵です』

 

 リンディ・ハラオウンの声は穏やかだった。

 だが、その言葉に迷いはない。

 

『正面から叩く必要はありません。攻撃は抑制してください』

 

 一拍置いて、続く。

 

『足止めを主体に。

 逃走経路を完全に遮断すること』

 

 それだけだった。

 

 回線が切れる。

 だが、指示としては十分だった。

 

 結論は明確だ。

 勝つ必要はない。

 逃がさなければいい。

 

「了解しました」

 

 クロノは即答し、部下へと命令を流す。

 

「突破はさせない。拘束を優先。殲滅は考えなくていい」

 

 管理局の魔導師たちが、それぞれの配置へ散っていく。

 誰一人、異を唱えない。

 

 ──これは戦闘ではない。

 時間はかかるが、捕獲だ。

 

 ◆

 

 最初に異変を感じ取ったのは、ヴィータだった。

 

「……チッ、なんだよ」

 

 違和感。

 風でも、魔力の衝突でもない。

 

 だが確実に、空間そのものが“おかしい”。

 

 前へ進もうとする。

 魔力が返ってきた。

 

 反発ではない。

 拒絶とも違う。

 

 まるで、同じ位置に押し戻される感覚。

 

 上へ跳ぶ。

 結果は同じだった。

 

「ちっ……!」

 

 苛立ちをそのままぶつけるように、

 ヴィータは魔力を叩きつける。

 

 爆発的な衝撃が広がる。

 だが、それは何かに吸われるように霧散した。

 

 破壊できない。

 いや──壊させてもらえない。

 

 敵の姿は、遠い。

 距離を詰めてこない。

 

 代わりに、周囲がじわじわと狭くなっていく。

 視界は変わらないのに、逃げ場だけが減っていく。

 

 その一歩前に、ザフィーラが出た。

 

 言葉はない。

 結界を展開し、魔力の流れを読む。

 

 層が多い。

 構造は単純だが、無駄がなく、しつこい。

 

 一枚壊しても、次がある。

 力で押せば、その分だけ削られる。

 

 ヴィータも、それを感覚で理解する。

 

「逃がす気、ねーってかよ」

 

 吐き捨てるように言う。

 

 戦うための布陣じゃない。

 これは、閉じ込めるための配置だ。

 

 ◆

 

「対象、結界内での行動を確認」

 

 艦内で報告が続く。

 

「反撃あり。ただし、突破の兆候は確認されていません」

 

 クロノは即座に判断する。

 

「第三段階相当へ移行。拘束を強化」

 

 魔法陣が再構築され、

 包囲はさらに密度を増していく。

 

 網は閉じていない。

 だが、確実に重くなっている。

 

 その中心へ──

 クロノ自身が魔力を集束させた。

 

 詠唱は短い。

 複雑な工程は必要ない。

 

 この一撃は、倒すためのものではない。

 押さえつけるための一手だ。

 

「──行く」

 

 放たれた魔力が、

 一直線に空間を切り裂く。

 

 ◆

 

 反応したのは、ザフィーラだった。

 

 一歩前へ。

 

 結界を重ねる。

 防御は即応。迷いはない。

 

 衝撃が正面から叩きつけられる。

 

 爆音。

 空間が震え、音が歪む。

 

 ヴィータの視界が、一瞬白く染まった。

 

「ッ……!」

 

 だが、倒れない。

 

 ザフィーラは一歩も退かず、

 結界を維持している。

 

 爆風が収まり、視界が戻る。

 

 包囲は、崩れていなかった。

 

 それどころか──

 さらに密になっている。

 

 ◆

 

「防御確認。対象、健在」

 

 報告が上がる。

 

 クロノは表情を変えない。

 

「構わない。想定内だ」

 

 現時点で、

 この結果を覆す要因は確認されていない。

 

 敵は強い。

 だからこそ、時間を奪う。

 

「拘束を維持。包囲を狭め続けろ」

 

 命令が、冷静に飛ぶ。

 

 ◆

 

 ヴィータは歯を食いしばる。

 

「ちっ……ほんっと、ムカつくぜ」

 

 真正面から殴り合ってくれない。

 逃げ道を奪い、削ってくる。

 

 ザフィーラは答えない。

 ただ、視線をわずかに遠方へ向けた。

 

 別の魔力が、

 まだ見えない場所で立ち上がりつつある。

 

 包囲は、確かに機能している。

 

 そして──

 

 ──包囲は、成立したと判断されていた。

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