魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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25 破綻

 空気が、裂けた。

 

 結界の外縁で、魔力の流れが一瞬だけ乱れる。

 収束しかけていた層が、同時に軋んだ。

 

 次の瞬間──

 紫に染まった光が、一直線に走る。

 

 それは雷ではない。

 圧縮された魔力が、刃の形を取って引き延ばされている。

 

 振り抜かれた一撃が、結界に触れた。

 

 破壊ではない。

 解除でもない。

 

 層構造の一部が、瞬間的に押し広げられる。

 

 裂け目は刹那。

 結界はすぐに閉じた。

 

 だが、その内側には──

 本来、存在しないはずの魔力反応が残っていた。

 

 重い気配が、空間に降り立つ。

 

 赤い外套を翻し、

 剣を携えた女が、静かに立っていた。

 

 衝突は、瞬間だった。

 

 互いの一撃がぶつかり、弾け、空間が歪む。

 だが──それで終わらない。

 

 弾けた魔力の余波の中、なのはは即座に距離を取る。

 両脇に光が生まれ、次々と形を結ぶ。

 

 数が多い。

 いつもより、明らかに。

 

「……っ」

 

 だが、制御がわずかに遅れる。

 

 軌道が揃わない。

 狙いを定める前に、いくつかが先に走る。

 

 放たれた光弾は鋭い。

 だが、散る。

 

 ヴィータは鼻で笑った。

 

「なんだそれ。

 数だけ増やして、振り回してんのかよ」

 

 避ける動きは最小限。

 当たるはずの軌道だけを、正確に外す。

 

 踏み込んでこない。

 殴り合う気はない。

 

 なのはは歯を食いしばり、次を構える。

 だが、同じズレが続く。

 

 追いつかない。

 手応えが、噛み合わない。

 

「ほらよ」

 

 重い一撃。

 防御は間に合うが、衝撃がそのまま身体を揺らす。

 

 弾かれ、距離が開く。

 

 それでも──

 なのはは下がらなかった。

 

 一度、深く息を吸う。

 光の数を減らし、動きを絞る。

 

 次に放たれた一撃は、速かった。

 

 無駄がない。

 迷いもない。

 

「……チッ」

 

 ヴィータの動きが、わずかに遅れる。

 直撃は避けたが、衝撃が腕を掠めた。

 

 一瞬。

 空気が、張り詰める。

 

「……やるじゃねぇか」

 

 距離を取ったのは、ヴィータの方だった。

 

 決着にはならない。

 だが──押し切れない理由が、

 単純な差ではないことだけは、そこに残っていた。

 

 視線を横に振る。

 

 少し離れた空域では、別の衝突が続いていた。

 

 フェイトの動きは速い。

 直線ではない。加速と変位を織り交ぜ、軌道そのものを読ませない。

 

 紫電が空を裂き、何度も間合いが入れ替わる。

 

 だが、シグナムは退かない。

 踏み込みは重く、剣は確実に届く位置へ振るわれている。

 

 翻弄されているようで、崩れてはいない。

 応戦は、成立していた。

 

 ──前線は、維持されている。

 

 クロノは一瞬だけ、戦場全体を見渡した。

 

(なら、今動けるのは……)

 

 判断を切り替え、戦線を離れる。

 

 ◆

 

 結界の流れを読む。

 シャマルは、歯を食いしばった。

 

 だが、次の瞬間には書き換えられる。

 管理局側の制御が、先に回る。

 

 思案。

 だが、時間そのものが削られていく。

 

 転移に必要な“定点”が、どこにも作れない。

 

 その隙に、クロノは踏み込んだ。

 

 速い。

 無駄がない。

 

 

 魔力拘束が重なり、固定される。

 

 ──捕縛、完了。

 

 シャマルの動きが止まる。

 逃走も、転移も許されない。

 

 クロノは即座に次の判断へ移ろうとした。

 

 ◆

 

 その瞬間だった。

 

 視界の死角から、魔力が叩きつけられる。

 

「──ッ!」

 

 警戒はしていた。

 だが、それは“敵”として向けられたものではなかった。

 

 信頼の裏を突く一撃。

 不意打ちだった。

 

 クロノの身体が強制的に固定される。

 高密度の拘束が、四肢と魔力の流れを同時に縛り上げた。

 

 同時に──

 シャマルを拘束していた魔力が、途切れる。

 

「……っ」

 

 足元の拘束が消えたことを、シャマルは即座に理解した。

 

 目の前には、仮面の大男。

 

「使え」

 

 短い言葉。

 だが、意味は明確だった。

 

「魔力は、また集めればいい」

 

 一瞬の迷い。

 だが、時間はない。

 

 仲間は包囲され、結界は維持されている。

 このままでは、全てを失う。

 

 シャマルは歯を食いしばり、決断した。

 

 闇の書を開く。

 詠唱を開始。

 

 ◆

 

 クロノは歯を噛み締め、拘束を破る。

 

 力で、ねじ伏せる。

 

「やめろ……!」

 

 詠唱を止めるため踏み込もうとした瞬間──

 仮面の大男が、進路を塞いだ。

 

 倒すためではない。

 止めるため。

 

 重い衝撃。

 魔力と魔力が正面からぶつかる。

 

 ほんの一瞬。

 だが、それで十分だった。

 

 詠唱が、完了する。

 

 空間が、震えた。

 

 次の瞬間──

 外側から、紫色の雷が落ちる。

 

 一直線。

 圧倒的な魔力が、結界へと叩きつけられた。

 

 多層構造が耐え切れず、悲鳴を上げる。

 

 ──破壊。

 

 結界が、崩れ落ちた。

 

 包囲は消え、空間が解放される。

 

「撤退!」

 

 短い号令。

 

 ヴォルケンリッターは迷わない。

 次の瞬間には、その姿は霧散していた。

 

 静寂が戻る。

 

 クロノは、崩れた結界の向こうを睨み続ける。

 

 作戦は、間違っていなかった。

 判断も、遅れてはいない。

 

 それでも──

 

 想定通りには、終わらなかった。

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