魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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26 観測者と網を張る者

 戦闘が終わった空域には、静けさが戻っていた。

 

 結界の残滓はすでに霧散し、

 乱れていた魔力の流れも均されつつある。

 

 そこに残っているのは、

 数値化された痕跡だけだった。

 

 破壊は、外側から。

 

 制御喪失ではない。

 内部崩壊でもない。

 

 高出力の魔力が、

 結界の外部から干渉した結果だ。

 

 撤退は早く、無駄がない。

 散開もせず、追撃の隙を与えない。

 

 偶発的な離脱とは言い難い。

 

 だが、それ以上のことは分からない。

 

 戦闘の全貌は、

 すでに霧の向こうにあった。

 

 アースラ艦内では、

 戦闘後の分析会議が開かれていた。

 

 沈黙は、長く続かなかった。

 

「一点、確認したい」

 

 技術担当の局員が口を開く。

 

「今回の介入ですが――

 結界を破壊せず、干渉もせずに侵入しています」

 

 室内の空気が、わずかに張り詰めた。

 

「正確には、侵入時点で

 結界側に反応がありません」

 

 あり得ない。

 

 多層結界は、

 魔力・位相・質量のいずれかに

 必ず反応を示す。

 

「事前に解除情報を得ていた可能性は?」

 

「否定できません。

 ただし、解除キーは外部に

 漏洩していないはずです」

 

 クロノ・ハラオウンが静かに言った。

 

「“はず”だな」

 

 その一言で、

 議論の向きが変わる。

 

「内部情報を前提にした侵入、

 という仮説が浮上します」

 

「管理局内に、

 情報を流した者がいる可能性です」

 

 一瞬、静寂。

 

 だが、すぐに別の声が返った。

 

「……待て」

 

「仮に内通者がいるとして、

 闇の書は破壊しかもたらさない」

 

 視線が集まる。

 

「完成に手を貸して、

 何の利益がある?」

 

 理屈として、成立しない。

 

 リンディ・ハラオウンが、

 ゆっくりと頷いた。

 

「その通りね」

 

 内通者説は否定できない。

 だが、合理性が著しく低い。

 

「だからこそ――

 闇の書について、

 私たち自身が把握している前提を

 疑う必要があるわ」

 

 誰も遮らなかった。

 

「既存資料だけでは足りない」

 

 リンディは静かに告げる。

 

「無限書庫に照会をかけます。

 闇の書が何者なのか。

 “知っているつもりになっているもの”も含めて」

 

 会議は、結論を急がなかった。

 

 断定しない。

 だが、前提は固定しない。

 

 それが、管理局の選んだ態度だった。

 

 

 管理局は動いた。

 

 地球周辺を中心に、

 監視網は再編される。

 

 重点を置く領域。

 あえて薄くする領域。

 

 万が一を想定した、

 実務的な判断だった。

 

 戦闘の残滓は、断片的だった。

 

 魔力の流れ。

 結界破壊の痕跡。

 そして、撤退の速さ。

 

 燐音は、それらを繋ぎ合わせていく。

 

 全ては見えない。

 だが、判断に足る輪郭は浮かび上がる。

 

 ヴォルケンリッターは、

 少なくとも地球圏においては、

 同規模の戦闘を繰り返さないだろう。

 

 今回の介入は、

 抑止として機能した。

 

 そう判断するだけの材料は、揃っていた。

 

 その後、

 地球圏を中心とした戦闘は発生していない。

 

 管理局の網は、

 目立った異常を捉えることなく、

 静かに機能し続けた。

 

 この時点では――

 燐音の推測も、

 管理局の判断も、

 どちらも間違ってはいなかった。

 

 ただ一つ、

 共有されていない前提があった。

 

 ヴォルケンリッターは、

 活動を縮小したのではない。

 

 舞台を、

 別の次元世界へ移しただけだった。

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