魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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5 同じ空の下

 教室の配置が変わったわけではない。

 

 机の位置。

 座席表。

 人員構成。

 

 いずれも、昨日と同一だ。

 

 それでも、燐音には分かる。

 

 前方と後方。

 左右の距離。

 声の通り方。

 

 わずかながら、人の並び方が変化していた。

 

 誰が誰の近くに立つか。

 どの位置に空白が生まれるか。

 

 無意識の選択が、空間に反映されている。

 

(緊張の分布が、再編成されている)

 

 対立ではない。

 隔離でもない。

 

 衝突を避けるための、自然な再配置。

 

 燐音はそれを、異常とは判断しなかった。

 

 ◆

 

 昼休み。

 

 燐音は自分の席に座り、周囲を観測していた。

 

 騒がしさは平均値。

 移動量も、想定の範囲内。

 

 高町なのはは、落ち着いた様子で席に座っている。

 姿勢は安定し、視線の揺れも少ない。

 声の調子も一定だった。

 

(以前の衝突は解消済みと判断できる)

 

 少なくとも、表層に関しては。

 

 隣のクラスにいるアリサ・バニングス。

 そして月村すずか。

 

 二人との関係は、既に安定段階に入っている。

 

 衝突の兆候はなく、

 修復の痕跡も見られない。

 

 燐音は、その変化を特別な事象として扱わなかった。

 

 修復が完了した関係は、

 それ以上の観測価値を持たない。

 

 ◆

 

 放課後。

 

 なのはは燐音の前で足を止めた。

 

 動きに迷いはない。

 呼びかけのタイミングも自然だった。

 

「ねえ、燐音ちゃん」

 

 呼ばれて、燐音は顔を上げる。

 

「紹介したい人がいるんだ」

 

 声の揺れはなく、

 判断は固まっている。

 

「アリサ・バニングスさんと、月村すずかさん」

 

 フルネームで告げられた二人は、なのはの背後に立っていた。

 

 配置は、意図的だ。

 

 中央に高町。

 左右に、それぞれ。

 

 関係性を示す、分かりやすい陣形。

 

 一拍置いて、なのはは燐音の方を見る。

 

「こっちが、星見里 燐音ちゃん」

 

 少しだけ言い淀み、付け足す。

 

「……友達、かな?」

 

 燐音は、その曖昧さを否定しない。

 

 定義を確定させる必要はなかった。

 今は、分類途中の状態だ。

 

 アリサ・バニングスは、燐音を上から下まで一度だけ見てから、率直に言った。

 

「……この子、変じゃない?」

 

 即断で、迷いがない。

 

 感情ではなく、直感。

 

 燐音は気にしない。

 

「そう呼ばれることは多い」

 

 事実を述べるだけだ。

 

 月村すずかが、慌てて笑顔を作る。

 

「え、えっと……よろしくね、星見里ちゃん」

 

「……星見里燐音」

 

 名だけを告げる。

 

 それ以上の情報は、必要とされていない。

 

 ◆

 

 校門の外。

 

 アリサ・バニングスが先頭に立ち、歩き始める。

 

 歩調を決め、進路を選び、

 会話の流れを自然に掌握する。

 

「ほら、行くわよ」

 

 命令口調だが、反発はない。

 

 なのはと月村すずかは、それに自然についていく。

 

 足並みは揃い、距離も一定。

 

 三人の間に、迷いはなかった。

 

 燐音は、半歩ほど距離を取って同行した。

 

 並んで歩いてはいるが、

 関与はしていない。

 

(観測対象外)

 

 干渉の必要は、見当たらなかった。

 

 ◆

 

 会話は、断片的だった。

 

「今日の算数さ」

「また間違えたでしょ」

「だって難しかったんだもん」

 

 軽い口調。

 応酬は早く、間が詰まっている。

 

 だが、言葉の奥に、昨日までの名残がある。

 

 アリサの声は強く、主導的。

 なのははそれを正面から受け止め、

 すずかは緩衝材として間に立つ。

 

 役割分担が、意識せず形成されていた。

 

 衝突を経た関係特有の、安定構造。

 

 ◆

 

 会話は続くが、燐音はそれに加わらない。

 

 三人は互いの言葉を補い合い、

 冗談に笑い、

 途切れることなく次の話題へ移っていく。

 

 沈黙が、不安を生まない。

 

 結束は既に形成されていた。

 

 燐音は、その過程を追わない。

 

 結果が確定している事象は、

 観測対象としての優先度が低い。

 

 ◆

 

 別れ道。

 

 アリサ・バニングスが進路を示し、

 高町なのはと月村すずかが並ぶ。

 

 三人は親友として、

 過不足のない距離で歩いていった。

 

 燐音は、そこで足を止める。

 

 それ以上、同行する理由はない。

 

 関係性の深化は、観測の対象外だ。

 

 燐音は踵を返す。

 

 観測は続く。

 

 距離は、保たれたまま。

 

 ──それで問題はなかった。

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