魔法少女リリカルなのは  隣を歩く人   作:維伶@供養中

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6 交わらない視線

 三年生への進級は、制度上の更新に過ぎない。

 

 教室が変わり、名簿が変わり、座席が再配置される。

 それだけのことだ。

 

 燐音は、そう判断していた。

 

 判断としては、妥当だ。

 これまでの経験と照らし合わせても、誤差は少ない。

 

 感情を考慮しなければ、だが。

 

 ──ー

 

 始業式の朝。

 

 校舎の一階、掲示板の前には人だかりができていた。

 新しいクラス分けの表。

 

 声の高さ。

 動線の乱れ。

 期待と不安が混ざった独特のざわめき。

 

 燐音はその中心に入らず、少し距離を取った位置から確認する。

 

 人の肩越しでも、文字は十分に読めた。

 

 自分の名前は、すぐに見つかる。

 

【三年二組 星見里 燐音】

 

 それだけだ。

 

 視線を横に滑らせる。

 

 高町なのは。

 アリサ・バニングス。

 月村すずか。

 

 三人の名前は、同じ列に並んでいた。

 

(二組ではない)

 

 配置が異なる。

 ただそれだけの事実だ。

 

 燐音は、それ以上の評価を行わなかった。

 

 ──ー

 

 教室に入る。

 

 新しい机。

 新しい周囲。

 

 木材の匂い。

 床のきしみ。

 視線の向き。

 

 見知った顔は、少ない。

 

 騒がしさは、以前よりも控えめだった。

 

(二年時より、落ち着いている)

 

 それは評価ではない。

 状態の確認に過ぎない。

 

 燐音は自分の席に座り、鞄を机の横にかけた。

 

 それ以上、することはない。

 

 ──ー

 

 廊下の向こうが、少しだけ賑やかだった。

 

 聞き覚えのある声が、混じっている。

 

 なのはの声。

 弾んだ調子。

 

「一緒だね!」

 

 続いて、アリサの声。

 

「当然でしょ。離れるわけないじゃない」

 

 すずかの、控えめな笑い声。

 

 三人が、同じクラスになったことを喜んでいる。

 言葉のやり取りだけで、それは十分に伝わってきた。

 

 燐音は、その様子を見に行かない。

 

 必要はない。

 

 観測対象は、既に確定している。

 

 ──ー

 

 休み時間。

 

 廊下で、なのはと目が合った。

 

 人の流れの中で、視線が交差する。

 

 一瞬、なのはの手が上がりかける。

 

「燐音ちゃん」

 

 呼ばれた。

 

 以前とは、少し違う呼び方。

 

 燐音は立ち止まる。

 

「……高町」

 

 なのはは一瞬だけ首を傾げ、すぐに笑った。

 

 修正はしない。

 

「別のクラスだね」

 

「そうだ」

 

 短い応答。

 

 それで十分なはずだった。

 

 だが、後ろから声が重なる。

 

「燐音」

 

 アリサ・バニングスだった。

 

 距離は近いが、踏み込みすぎてはいない。

 

「同じクラスじゃなくて、ちょっと残念だけど」

 

 言い切りで、飾りはない。

 

 事実を、そのまま言葉にした声。

 

 続いて、月村すずかが小さく頷く。

 

「うん……でも、また話そうね。燐音ちゃん」

 

 燐音は、それぞれの呼びかけを内部に記録する。

 

 呼称の揺れ。

 距離感の差。

 

「……承知した」

 

 それ以上の言葉は交わさない。

 

 なのはの視線は、すぐに後ろへ向いた。

 

 アリサとすずかが、そこにいる。

 

「行くわよ」

 

 アリサが言う。

 

 三人は、迷いなく歩き出した。

 

 燐音は、その背中を見送る。

 

 追わない。

 呼び止めない。

 

 それが、今の距離だ。

 

 ──ー

 

 昼休み。

 

 机に向かい、配布されたプリントに目を通す。

 内容は理解できる。

 

 計算も、文章題も、処理速度に問題はない。

 

(問題なし)

 

 周囲の雑音は、遠い。

 

 教室の外から、時折、笑い声が届く。

 聞き覚えのある声だが、特定はしない。

 

 特定する必要がない。

 

 ──ー

 

 放課後。

 

 校門へ向かう途中、三人の姿が見えた。

 

 アリサ・バニングスが先頭に立ち、

 高町なのはと月村すずかが並ぶ。

 

 歩調。

 間隔。

 配置。

 

 二年時と、変わっていない。

 

 燐音は、進路を変える。

 

 自然な判断だった。

 

 ──ー

 

 帰り道。

 

 空は、春らしく澄んでいる。

 

 雲は少なく、視界は開けている。

 

 燐音は歩きながら、内部の整理を行う。

 

 三人は同じクラスになった。

 自分は、別のクラスになった。

 

 それだけの事実だ。

 

(未分類)

 

 評価は、保留する。

 

 不快ではない。

 排除反応も、確認されない。

 

 だが、以前よりも、

 

 静かになった。

 

 それは、環境の変化か。

 関係性の変化か。

 

 今は、判断できない。

 

 燐音は、その静けさを否定しなかった。

 

 観測は続く。

 

 距離は、保たれたまま。

 

 ──呼び方だけが、

 少しだけ、変わった。

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