【完結】ぬ〜べ〜ご立派様   作:烏何故なくの

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1話 普段はふにゃふにゃモード(#7 はたもんばの呪い)

 

 四時間目の後の給食。

 生徒の健康を守るために考え抜かれたメニューは、元気いっぱいの童守小学校の生徒たちにも広く愛されている。

 

「そんな給食が配膳車のトラブルで無いとなると……」

「ぬ〜べ〜、死んじまうんじゃないか……?」 

 

 時刻は昼休み。

 広と郷子は、顔を合わせながら職員室へ向かっていた。

 二人の担任である鵺野 鳴介、通称ぬ〜べ〜は、命懸けで悪霊と戦う唯一の霊能力教師。

 いざとなれば頼りになるが、ドジで貧乏なのもぬ〜べ〜の切り離せない側面だ。

 いくら貧乏とはいえ一食ないだけでは死にはしないだろうが、普段の様子を見ていると二人は不安だった。

 

「わたしのお弁当のコロッケあげようかしら……」

「俺もシューマイの……端っこの端っこくらいあげよう。普段世話になってるしな……うわっ?!」

 

 職員室の扉を開けた時、緑色の小さい物体が広の足元をくぐり抜けていった。

 

 大きさは40cmくらい。

 体はスライムのように粘性があり、地面を這って素早く進んでいる。

 

 緑色の物体はぬ〜べ〜の机にたどり着き、背負っていた弁当袋をぬ〜べ〜に渡した。

 

「ほい、今日の弁当じゃ。内容は牛丼の肉と牛丼の米」

「それはもう一言牛丼でいいんじゃないか……? うむ、美味い」

 

 ぬ〜べ〜は手渡された弁当を開け、箸を取り出して食べ始める。

 それをポカンとした表情で見ていた広だったが、我に返るとぬ〜べ〜の元に詰め寄る。

 

「ぬ、ぬ〜べ〜?! 妖怪にご飯奢ってもらってんのか?! 妖怪だからって料理タカっていいのか?!」

「い、いやいや、灰耶(はいや)にはお互いの合意の上で食事を作ってもらっているんだ」

「どういう関係なんだ? 妖怪にご飯作ってもらうなんて。信用できるのかよ……?」

 

 そこまで話をきいていた郷子が、「あ」と声を上げる。

 

「もしかして、美樹の噂で聞いた『悪魔になっちゃった男子生徒』……? 元ぬ〜べ〜クラスの生徒だったんだけど、悪魔に取り憑かれて人間じゃなくなってしまったって………」 

 

 郷子の言葉に、緑色のスライムが「まだ噂があったか」と返事をする。

 

「ワシは悉慕(しつぼ) 灰耶(はいや)。年齢は13になる。【喰奴】と呼ばれる霊能を持っておったが、制御ができずにこの姿じゃ。……普段は隠形をしておるが、ぬ〜べ〜の生徒には見つけられやすいらしい」

 

 郷子に肘でつつかれ、広が「妖怪扱いして悪かった」と謝罪の言葉を漏らす。

 それを見ながら、ぬ〜べ〜は顔に米粒がついたまま笑った。

 

「人間に戻れるようになるまで俺の家で暮らしてもらってるんだ。……困った時は灰耶を頼れ。灰耶が化身したのは【マーラ】という魔王だからな。そのうち俺より強くなると思うぞ」

「ま、魔王……?」

 

 改めて郷子は灰耶の姿を見る。

 目も耳もないスライム状の灰耶は、どんな攻撃にも負けそうな脆さを感じる。鬼の手を持つぬ〜べ〜より強くなるなど想像ができなかった。

 

 

 

 (#7)

 

 

 

「どーか怒りを鎮めて下さい……」

 

 夕日を浴びながら、克也、愛美、広、郷子は3丁目のはたもん場跡に賽銭を投げていた。

 克也は妹の愛美にスーハミソフトを買って上げるために、はたもん場跡から賽銭泥棒をしてしまったのだ。

 その日から克也も愛美も、刃物のように変化した学校の備品に殺されそうになっていた。 

 

 克也は愛美を悲しませないように、賽銭泥棒をしたことは愛美には秘密なままで、はたもん場跡に謝りにきていた。

 

 しかし……。

 

『……罪人は……首を切る!!』

 

 はたもん場は処刑場の跡。

 そこに祀られていた、何百人もの罪人の首を切って処刑した妖刀は、すでに妖怪化していた。

 ただ罪人と認定した人間を楽しんで殺すだけの妖怪、はたもんば。

 はたもんばは克也を許すことはなく、円形の刀をタイヤのように回転させ襲いかかってきた。

 

「うっわわわっ………!!」

 

 克也たちは自転車に乗り込み、童守小学校にへと向かう。

 はたもんばに太刀打ちできるのは、地獄先生ぬ〜べ〜しかいない。

 

「……本当に、そうか?」

 

 広の脳裏に、不定形の緑色が過ぎる。

 はたもんばが狙っているのは克也だし、今なら学校に行くよりぬ〜べ〜のアパートに行く方が速いだろう。

 

「克也! 俺は助けを呼んでくる! みんなはそのまま学校に行ってくれ!!」

「広!?」

 

 克也の声を背にして、広は一人で左の道へ。

 はたもんばは予想通り追ってこない。

 信号機も2、3箇所無視し、転がるように自転車から降りて、ぬ〜べ〜の部屋のチャイムを連打する。

 

「でっ、出てくれっ、頼む………!!」

 

「……また妖怪か? この街は本当に多いのぅ。どこにいけばええ?」

「がっ、学校………!!」

 

 2秒と経たずドアから顔を出した灰耶が、その体から触手を伸ばして広を掴む。

 

「ちょっと飛ばすぞ。口を閉じておれ。舌を噛む」

 

 灰耶のふにゃふにゃの体が、あっという間に大樹のように固く太くいきりたつ。

 流動的だった体は一本の槍のように天を貫き、先端は鐘状に広がっていった。

 槍の中程には四本の腕が。

 槍の根本には無数の触手が溢れ、さらにその下から黄金のチャリオットが出現する。

 

 その姿はまさしく……。

 

「ち、ちん……」

「緊急事態じゃ! 質問は後から受け付けるからの!」

 

 灰耶は広をしっかり握り、童守小へと車以上の速度で走りだした。

 広は強風を浴びながら周りを見渡す。

 高速で町を駆ける灰耶は道行く人の目には映っていないらしく、アレすぎる悪魔が走りまわっていても一瞥もくれない。

 

 灰耶は地面に触手を叩きつけ、反動で空を飛んだ。

 減速せずに童守小の壁を飛び越えて着地し、広を校庭に降ろす。

 

 校舎に向かって、張られた結界を破ろうと突進を繰り返すはたもんば。

 灰耶ははたもんばに真横から、全力のぶちかましを見舞った。

 

「【地獄突き】ぃ!」

 

『ぎぇえええっ?! 首を切るのだ邪魔をするなぁァァッ!』

 

 大きく吹き飛ばされたはたもんばであったが、すぐに体勢を立て直す。

 円形の刀を灰耶に向け、珍客を切り裂こうと殺意を高める。

 

 

「みんなーっ! 大丈夫か?!」

 

 広は校舎の中へ駆け込み、克也たちを守っていたぬ~べ~と合流する。

 しかし克也も郷子も困惑を隠せない。

 

「ひ、広! なんだよあの……ち、ちん……」

「わたしたちはぬ~べ~が学校にいたから大丈夫だったけど……あの、ち、ちん……は……」

 

「落ち着け! あのちんこは味方だ! 事情は後で話す」

 

 発言を躊躇う生徒たちに構わず、デリカシー0の地獄先生は直球の発言をしながらグラウンドに出る。

 

「鬼よ、その力を……示せ!」

 

 ぬ〜べ〜は鬼の左手を解放しながらはたもんばに飛びかかるが、はたもんばは素早くグラウンドを駆け巡り鬼の手の直撃を避け続ける。

 

『首を切るゥゥッ………!』

 

 はたもんばが唸る。

 それと共にグラウンドの木の葉が、灰耶とぬ〜べ〜に殺到する。

 はたもんばの呪力で研ぎ澄まされた、人体を容易く切り裂くナイフと化した葉だ。

 

「くっ、グラウンドで戦うのは失敗だったか……?!」

「ぬ〜べ〜、しゃがんでおれ! 【性火魔法(マララギダイン)】!!」

 

 ぬ〜べ〜がしゃがむのに合わせて、灰耶の反り返った体から緑色のねばつっこい炎が放たれる。

 炎は刃の葉を飲み込み、全てを灰の塊に変えてしまう。

 

『首を切るのだァ〜〜ッ』

「く……決定打がない! 手数が多すぎる!」

 

 しかしはたもんばの一声で、グラウンドのタイヤや窓ガラスまでが刃物と化して襲い掛かってくる。

 防戦一方な状況にぬ〜べ〜が呻いた。

 

 その時、灰耶の背中にドンと重量がかかる。

 灰耶の背中に克也が乗り込んだのだ。

 

「お主、ワシに触ってばっちくないのか!?」

「えっ?! ばっちいのか!?」

「いっいやシャワーは毎日浴びておるけど。お主がええならええんじゃ」

 

 気を取り直して、灰耶は克也と言葉を交わす。

 

「お、俺も……俺も戦う! はたもんばは俺を狙ってるんだろ! だったら俺がいれば、突っ込んでくるんじゃないか?!」

「その可能性は高そうじゃな。どれ、試してみよう」

 

 

 灰耶が克也を乗せたまま、ふりっふりっと頭部を揺らす。

 淫猥であった。

 

『切るっ切る首を切るのだぁ〜〜っ!!』

 

 目の前の餌を追いかける馬のように、はたもんばが一直線に突っ込んでくる。

 

「つっこんできおったな!!」

 

 灰耶が緑の触手を繰り出す。

 しかしそれらははたもんばを止めるには至らなかった。触手は瞬きの間に細切れになる。

 円形の刀が、灰耶の胴体を斜めに切り裂いた。

 

 灰耶の体から緑の体液が噴水のように溢れ出す。

 

 はたもんばは灰耶の背中の克也を殺すために、灰耶の体を完全に両断してしまおうと腕に力を込めた。

 そして気づく。

 刀が前に進まない。灰耶の芯を切断できない。

 

「ぐぉおおぉっ……ワシは【物理耐性】があるもんでな。そう簡単にイかんのよ」

 

 自分が誘いこまれたことに気付いたはたもんばはその場を離脱しようとするが、ビッキビキに固くなった灰耶の肉に刀が挟まれて動けない。

 さらに切り落とした灰耶の触手が動き、はたもんばの首筋に突き刺さった。

 

「【魅了魔法(マリンカリン)】」

『首をっ……切るのだぁっ……??』

 

 煩悩の象徴である魔王マーラによる魅了魔法。

 それは一瞬、はたもんばの存在意義ともいえる殺戮衝動よりも強い快楽を流し込む。

 酩酊したようにふらつくはたもんばに、背後に迫った鬼の手を防ぐ力は無かった。

 

「砕!!」

 

 ぬ~べ~の拳の直撃をもらい、はたもんばの頭部が粉砕される。

 倒れたはたもんばは日本刀の姿に戻り、沈黙した。

 

 

 

 

 

 

悉慕(しつぼ) 灰耶(はいや)。2年前にぬ~べ~の生徒だったものじゃ。喰奴と呼ばれる、【己の本質を体現する悪魔になる霊能】を持っておった。まあ見ての通り、スケベ野郎だったので……でっかいちんこの悪魔になっちまった」

 

 学校のグラウンドで、灰耶は改めて自己紹介をする。

 広も郷子も克也も微妙な顔だ。克也は愛美の目を塞ごうか悩んでいる。

 広は悩んだ末に、一言呟いた。

 

「………それ笑っていいやつか?」

「喋る男根はまあ面白存在じゃろ。笑ってええとも。うひょひょひょ……」

 

 灰耶の笑い声だけがグラウンドに響く。

 

「まあ見てたならわかる通り、灰耶は頼もしいやつさ。暇だったら声を掛けて遊んでやってくれ」

 

 ぬ〜べ〜は明るく言うが、ちんこはちんこである。

 返事を返せるものはおらず、ぎこちない空気がその場に漂っていた。

 

 

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