【完結】ぬ〜べ〜ご立派様   作:烏何故なくの

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10話 自分の本質(#119 女郎蜘蛛&#147ケラケラ女)

 

「やっぱりヒエロニムス=マシンで妖怪に命令したり悪魔を召喚したりするのは合理的だとおもうんだよ。この技術を使えれば、もっと心霊関連の被害を減らせると思うんだ」

 

 童守小の校庭で、晶が灰耶に語りかける。

 

「悪魔は契約で縛ることで人間の身でも使役が可能じゃから、ヒエロニムスの力と契約で二重に縛ればかなり人への危険度も減らせると思うんじゃよな。……プログラムで悪魔召喚までやれたら手っ取り早いんじゃけど」

「! なるほど……! 素晴らしい発想だよ。きみとならいろんな実験ができそうだ。これを渡しておこう」

 

 晶は一枚の紙を灰耶に手渡した。

 アンプなどのパーツを全部図形で代用した、紙のヒエロニムス=マシンだ。

 危ない兵器だが、強い妖怪相手には武器になるだろう。灰耶は懐にしまいこむ。

 

「ぬ〜べ〜より妖怪を倒したら、ぼくの名前は学校中に轟くぞ……ふふ、ふふふ……はにゃ??」

 

 今後の展望を考え、マットサイエンティストのような笑みを浮かべる晶だったが、笑みが突然崩れた。

 頬が染まり、グラウンドへと走っていく。その先にはマッシュルームカットの女の子が。

 

「ぼ、ぼくも入れて!」

 

 図鑑を放り投げて走り出す晶の頭部には、赤い糸がついていた。

 赤い糸は、マッシュルームカットの女の子の頭に繋がっている。

 灰耶は素早くいきり立ち、戦闘体制になって少女に近づいた。

 

「あ、妖怪さん。あなたも遊ぶ?」

「魅了の力で無理矢理とは、なかなか感心せんものじゃな。ワシがいうのもアレじゃが」

「み、魅了ってなんのこと? 私そんなことしてないわ……」

 

 怯えたように体を縮こませる少女に、灰耶は虚をつかれる。

 

「気づいとらんのか? この赤い糸に。この糸がついたら、相手はお前さんを好きになってしまうんじゃ」

「私にそんな素敵な力が……? きっといっぱい友達を作れるようにって、神様の思し召しね」

「いや、友達じゃないじゃろ」

「え?」

 

 困惑する糸美に、灰耶は躊躇いなく言う。

 

「相手にお主と友達にならん選択がないなら、それは友達になったって言えんじゃろ。対等じゃない」

「え、そ、そうかな……」

「ワシがいうのもなんじゃけど、感情を操られるって大変じゃぞ。自分の感情が、感性が信用できなくなる。怖いことじゃぞ」

 

 ゆきめの恋心が流れ込んできたことを振り返りながら、灰耶は断言する。

 少女はしばらく顔を俯かせたと思うと、髪の毛を触り出した。

 

「妖怪さん、あなたのいう通りかも。友達って、罠にかけて捕まえるような存在じゃないわ! ……うーん、どうやったら外れるのかしら?」

「……お主もしかして、生まれたばかりなのか?」

「そうよ、昨日生まれたばかりの蜘蛛の化身なの。糸美よ。よろしくね」

 

 朗らかに話す糸美に、灰耶は気が抜けてきた。

 しかし、まだ糸美が危険でないと判断していい段階にはない、と自分を戒める。

 同じ魅了の力を使う存在として、糸美の力からは怪しい念を感じるのだ。

 

「……うちの霊能力教師、ぬ〜べ〜なら力になれるかもしれん。今日は宿直室にでも泊まったらどうじゃ?」

 

 

 

「はぁ……! はぁ……! キャアアアア!!」

 

 深夜の学校で、糸美の腹が裂けた。

 服が飛び散り、中から蜘蛛の手足が顔を覗かせる。

 

 変化は止まらない。

 糸美の顎から触肢が生え、体が巨大化していく。

 そして糸美の頭部に繋がれた赤い糸が、チカチカと発光した。

 昼のうちにつけた男子生徒に、魅了の信号を送っているのだ。

 

「白衣霊壁呪!!」

 

 ぬ〜べ〜の手から放たれた経文が、赤い糸を切断する。

 そして灰耶が、糸美の体を多数の手で押さえ込んだ。

 

 ぬ〜べ〜と灰耶は糸美の危険性を確かめるため、宿直室で糸美と一緒に過ごしていた。

 そして一日があと少しで終わると言ったところで、糸美の本性が明らかになる。

 

「魅了の力は人間を効率よく捕食するための力じゃったか」

「う、うう……ぐすっ」

 

 灰耶は無感動に、泣いている糸美にかぎ爪を振り下ろそうとする。

 人を食う妖怪だとわかった以上、生かしておくメリットはない。

 

「は、灰耶くん……私のこと嫌いになったでしょう……?」

 

 糸美の言葉を聞いて、灰耶の手が止まる。

 

 いまにも殺されそうなときに、怒るのでも恨むのでもなく、嫌われることを嘆くのか。

 命を奪う側として、自分は糸美に恨まれたかったのだ、と灰耶は自分の気持ちを察した。

 

「……嫌いにはなってないぞい。ワシは妖怪を喰らわねばいけんし、お主は人を喰らわねば生きていけん。立ち位置が違うだけじゃ。好き嫌いはない」

「ほんと……?」

 

 糸美は人間の姿に戻りながら、ぬ~べ~に近づいていく。

 

「先生、私みんなを食べてまでこの世にいたくないわ。……成仏させて」

「ああ……」

 

 ぬ~べ~が経文を唱え、糸美の体が淡い光に包まれる。魂が天へと昇っていく。

 糸美は振り返って、灰耶を見る。

 

「ね、私と友達になってくれない? 一瞬だけでいいから……」

「……ワシらは、友達じゃよ」

「うふふ、やったわ。こんな恐ろしい力に頼らないで、本物の友達ができた……」

 

 淡い光が収まっていく。

 ぬ~べ~の足元には、年老いた蜘蛛の死骸が落ちていた。

 

「ぬ~べ~。……この蜘蛛、ちょっと齧っていいか?」

「……わかった。好きにしろ」

 

 灰耶は蜘蛛の死骸をつまみ上げ、足を二本ほど噛み切る。

 女郎蜘蛛の力が灰耶の腹の中に満ちていく。

 

「ワシはそうそう死なんから。生まれ変わったらまた会おうぞ」

 

 ぬ~べ~と灰耶は、童守小の校庭に蜘蛛の死骸を埋めた。

 一輪の花を添えて。

 

 

 

 (#147)

 

 

 

 まことは最近調子がよかった。

 落ち込むことがある度に、通学路の塀に現れる妖怪ケラケラ女に元気をもらっていたからだ。

 

 ケラケラ女は顔が肥大化した女の妖怪で、顔のパーツを自由自在に動かし数十通りの変顔を使いこなす。

 まことは心から笑わせられ、次第に苦手な出来事に直面しても、笑いながらリラックスして挑戦できるようになった。

 

「ふぅむ。人を笑わせられる妖怪か……」

「灰耶くんもケラケラ女に興味があるのだ?」

「うむ。お笑いは好きじゃ。ぬ〜べ〜の家にテレビはないしな」

 

 灰耶は下校途中のまことに頼み、ケラケラ女を見物することにした。

 最近は見ないが、両親と暮らしている時にはかなり漫才を見ていたな、と灰耶は回想する。

 

「あ、ここなのだ」

 

 まことが古めかしいお屋敷の堀を指さすと、サンバの格好をしながらケラケラ女が飛び出してきた。

 

「ケラケラ」

 

 顔のパーツが縦横無尽に動き回り、怒り顔の次は笑い顔、泣き顔、お爺さんのようなしわくちゃな顔へと変わっていく。

 

「ケラケラケラケラ」

 

 ケラケラ女の姿も変わっていく。ゴシックロリータから歌舞伎役者、トップハムハット卿のスーツにまで。

 

「あ〜はっはっはっはっは!!」

「ぷ、ククク………かっかっかっか!!」

 

 まことも灰耶も笑いを堪えられず、腹を抑えて転げ回った。

 もしマレーナの姿だったら涙が出ていただろうなと思いながら、灰耶はケラケラ女に話しかける。

 

「はぁ……はぁ……。お主はいったい、どうしてそんなに人を笑わせるんじゃ?」

「ケラケラ。私は江戸の町一番の「笑顔美人」の使っていた、このお屋敷にある古鏡の妖怪ケラ。彼女の念から生まれた私は、笑うことの大切さを人に教えるケラケラ」

「……なっる、ほ……ど……スゥ……ソウデスカ」

 

 ケラケラ女の回答を聞いた灰耶は、歯切れ悪く返事をし、突如眩しいものに照らされたようにオドオドしだした。

 挙動不審な灰耶に、まことがヒソヒソ声で話しかける。

 

「ど、どうしたのだ? お腹でも痛いのだ?」

「いや……あまりにも、ケラケラ女さんが美しすぎて………妖怪のように生まれに縛られていないワシは、何になれるんじゃろ……」

 

 己の本質に従い、恥じることなく生きているケラケラ女は灰耶には眩しすぎる。

 本質に従い生きることは、糸美にもできなかったことだ。

 

「と、とりあえずケラケラ女さんの鏡の場所を教えてほしいぞい。投げ銭代わりと言ってはなんだが手入れでもさせてくれ」

 

 灰耶は己の中に生まれた羞恥心を誤魔化すように、ケラケラ女のケアを申し出る。

 

 このことがきっかけで、ケラケラ女の鏡は、お屋敷が工事で取り壊される寸前、まことが外へ連れ出すことができた。

 

 

 

 

 

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