ゆきめは憤慨していた。
(もうっ……! 鵺野先生ったら、私をおいていくなんて……)
ゆきめは学校行事でスキーに行ったぬ~べ~を追って、バスに乗っていた。
「律子先生と何かあったらどうしてくれるのよ、ね! 灰耶くん!!」
『ワシもう寝ていい?』
ぬ~べ~の同僚である律子先生は、ぬ~べ~のことを明確に好いている。
これはピンチだといきり立つゆきめ。
ゆきめと魂を一部共有していることで、夜中にゆきめの視界情報を送り付けられた灰耶は、今にも寝たそうにあくびをして、ゆきめにテレパシーを送る。
『んま~考えすぎなんじゃないかのう。ぬ~べ~もお主と付き合ってそれなりに長いじゃろ? よっぽどのことがないと、ぬ~べ~もいまさら律子先生に手ぇださんじゃろ』
「ホントかしら? ……あの人、優柔不断なんだから」
灰耶の言葉を聞いても、ゆきめの不安は晴れなかった。
「鵺野くん! 私が好きと言っているのですよ、観念しなさい」
『ゆきめの勘ってマジであたるんじゃな……』
律子先生に抱きしめられてるぬ~べ~を見ながら、灰耶は心から震えた。
ゆきめはツカツカと律子先生に歩みより、腕を組んで威圧する。
「いーかげんにしてくれませんか? 先生は私と付き合ってるんですからね」
「私は鵺野先生を13年も愛し続けていたのよ」
いつもとは違い、自信たっぷりに言い返す律子先生に、ゆきめはおもわずたじろぐ。
律子先生を見ていた灰耶は、違和感に気付いた。
『魂の感じが違う。お主、律子先生じゃないのか……?』
「惜しいわね。私は律奈子先生よ」
ゆきめの口を通してテレパシーで話しかける灰耶に、律奈子先生は語る。
洞窟においてあった御鬼輪をぬ~べ~が取り、御鬼輪で鬼の手を制御したことで、鬼の手の中にいた美奈子先生が外に出てこられたこと。
しかし御鬼輪が外れたことで、封印されていた妖怪が解放されてしまったこと。
妖怪に致命傷を負わされた律子先生を助けるために、律子先生と美奈子先生が融合したこと。
「恋愛感情は律子のままなの。あなたの入る隙はないわ」
『待て待て待て!! ようは美奈子先生に惹かれとるだけじゃないか!?
「律子は同僚よ」
しれっという律奈子先生の灰耶の言葉に、灰耶はいらだったように唸った。
数秒ののち、低い声で呟く。
『教師と生徒でそういうことやっていいんなら、ワシがぬ~べ~で性欲解消していいみたいなことになるじゃろ……』
ぬ~べ~、律奈子先生、ゆきめの間に深い沈黙が流れた。
震える声で、ゆきめが尋ねる。
「は、灰耶くん? 何を言って……」
『言ってなかったかの。ワシの守備範囲は全人類じゃから、欲望解消するんだったら身近にいる人間でダすのが一番手っ取り早くて。ぬ~べ~は生徒にそういう目で見られるの嫌だと思ってしてこんかったけど……』
唖然とするメンバーの前で、灰耶は続ける。
『ぬ~べ~がそういう態度なら、封印されていた妖怪倒した後ワシを相手にすることになるぞ。こないだ絶鬼の肉を食ったからなァ~。また何かになれそうじゃ。人妻に手を出すタイプの女体化【インドラ】にでもなろうかな』
宣言する灰耶の前で、律奈子先生が口惜しそうに唇を歪ませる。
「流石に……鵺野くんの生徒をそんな道に進ませるわけには……いかないわ。妖怪を倒したら、律奈子は律子にもどります」
『ゆきめ、共有してるワシの魔力どれだけ使ってもええから、速く妖怪倒すんじゃぞ』
それだけ言って、灰耶はゆきめとのラインを切った。
灰耶は部屋の床に転がって「あぁーっ」と奇声を上げる。
「い、いらんことまで言うてもうた。なんであそこまでぶっちゃけたんじゃろ」
条件が整えば私はお前をエッチな目で見ます。
同居人に決して言ってはいけない一言すぎるだろうと灰耶は頭を抱える。
「……やっぱ、ぬ~べ~にムカついてたんかなぁ」
ゆきめに不誠実な、ぬ~べ~へのイラつきが今の言葉を引き出したのだと、灰耶は自分の感情を内観する。
灰耶は、自分の輪郭のカケラを1つ得た。